作品タイトル不明
第440話 守護者
―――最後の聖域・揺り籠
両手に聖剣ウィル、それどころか空中にまで幾本もの聖剣ウィルを浮かばせ、それらをクロメルへと放出し続けるセルジュがエレアリスの前に着地する。そして手に持っていた剣を地面に突き刺し、エレアリスの胸に突き刺さる聖槍イクリプスを握り締める。もう片方の手は血が滲む傷口に添えられる。
「痛いだろうけど、我慢しなよ」
俺とのステータスの差だろうか? どうも彼女の力は俺を軽く上回るらしい。セルジュはグッと力を込め、エレアリスから聖槍を引き抜いた。その瞬間にゴポリと血が溢れ出しそうになるが、同時に白魔法を施して治癒する。正に俺がメルにしようとしていた事を、同時にクロメルへ攻撃を加えながらやってのけてしまったのだ。
「―――ぐ、う…… はぁ……」
「気が付いたみたいだね。大分弱ってるみたいだけど、生きていてくれて良かったよ」
「セ、ルジュ…… わた、し、は……」
「はい、喋らない。今は回復に集中集中」
意識は疎らのようだが、エレアリスは生きていた。彼女はセルジュに抱き抱えられるも、今も苦しそうに呼吸している。しかしそうしている間にも、セルジュが用意していた聖剣大群による一斉放射攻撃が終わろうとしていた。全ての聖剣を薙ぎ払ったクロメルが、散っていく聖剣、その光の粒子の中から現れる。
「貴女も存外にしぶといですね、エレアリス。いえ、この場合、流石は神の魂を転生させた肉体と言うべきでしょうか。まあ、巫女としての力、神としての神格の殆どを失い、もう普通の人間とそう変わりません。素直に死んでいれば、楽になれたものを……」
エレアリスの胸から抜け落ち、聖槍が地面に転がる。クロメルが詰まらなそうに指を弾くと、聖槍は一直線に奴の下へと飛び去って行った。
「セラ、アンジェ。これはどういう流れなんだ? 何で敵側のセルジュと一緒に?」
「んー、何て説明したらいいかしらね…… 敵の敵は味方、みたいな?」
「は?」
「あはは、実のところ私達も状況を把握し切ってないんだよねー。半ば強制的に、守護者に連れて来られたというか……」
どうも2人とも回答に歯切れが悪い。クロメルは戻って来た2本の聖槍を両手に構え、感触を確かめるように素振りをしている。奴に注意を払いつつ、セルジュにどういう事だと視線で促す。
「君らの中で暇をしていて、尚且つ実力がある応援を厳選して連れて来ただけだよ。私、使徒の中で唯一この空間に入る事ができたし、必要だと思ったから連れて来ただけ。それじゃ駄目かな?」
「駄目だろ。理由になってない」
「「それに暇はしてない!」」
「……私達の目的は、あくまでエレアリスの復活だった。あんな悪神が生まれるなんて、そもそも望んでなかったんだよ。あー、いや、ちょっと違うかな。私の望みはアイリスを護る事、ただそれだけ。喩えアイリスを演じていたエレアリスだったとしても、私にとっては親友と変わりないんだ。どうやらアレを倒すには、私の全力をぶつけても厄介な相手みたいでさ。だからケルヴィンに協力する。アイリスをこの場から助け出すには、それが1番効率的でしょ? ほら、私の勘と感性と好みで頼りになる仲間の分も道を開けたんだ。文句は言わないでほしいなあ」
喋り出したセルジュの言葉は留まる事を知らない。ああ、そうだ。こいつはお喋りだったんだ。ここぞとばかりに言葉を並べてきやがる。
「うん。ま、そんな感じね。私達への説明は、もっと端的なものだったけど」
「嘘はついていないみたいだったし、守護者はそんな回りくどい事しない子だったからさ。ケルヴィンの話を聞いてついつい。あと、見せたい資料もあったし……」
……まあ、嘘を見抜く二大巨頭がそう感じたのであれば、俺から文句は言えないな。実際、この援軍はかなり助かった。1対1じゃ、 クロメル(あいつ) には絶対に勝てなかった。それほどまでに地力の差がある。そういうシチュエーションも嫌いじゃないが、勝てる可能性が限りなく0に近く、今回はもしかすればその可能性すら微塵もない。
「それで、あの子供は一体何なのよ? メルの妹?」
「配下ネットワークにデータ上げるから、それを読んでくれ。そっちの方が手っ取り早い」
「了解――― って、ええっ! そんな展開あり!?」
「う、ううん? えっと、詰まりどういう事?」
そう反応するのも仕方がない。メルは瀕死の重傷、アイリスは実はエレアリスで、メルフィーナの悪の心? によって生み出されたクロメル。俺だって未だに理解が追い付かない。魔力体となったメルからは返事がなく、エレアリスもあの状態だ。真実を知るのならば、クロメルを叩きのめして聞き出すしかないだろう。
「……あら、もうお喋りの時間は終わりですか?」
「律儀に待っていてくれたのか。お優しいこった」
「フフッ。そもそも、あなた様とここで事を構えるつもりは毛頭ありませんから」
「あ?」
漆黒の翼を広げ、揺り籠から降り浮遊するクロメル。それから改めてここにいる全員を見回し、おかしそうに笑みをこぼした。
「折角守護者が身の内を明かしてくれたのです。私も、私の目的を嘘偽りなく申し上げましょう。私の目的は、あなた様の最大最後の敵となる事。その為に長きの渡る時間を費やし、その為に神を欺き、その為だけに生きてきました」
「最大最後の、敵……?」
「そうです。今のこの姿でも、守護者を含めたあなた方を滅するのは容易いでしょう。ですが、それでは全く足りない。それでは到底相応しくない。あなた様を屠る私は、その程度であってはならないのです。私が完全なる神に至ったその時、私達の理想が完成するのです!」
完全なる神に、俺にとって相応しい最後の敵になる? 要するにそれは、この世界でセルジュをも超えた最強の存在になるという事。どうしようもなく、手の付けられない存在になるという事。 戦闘狂(おれ) の為に……?
「私の最優先事項はアイリスを助ける事だから、ここで退いてくれるのは助かるかな~。ただ、ケルヴィンが納得しないでしょ? 私の時もそうだったし」
「……ああ。逃げるんなら、俺らの追撃を振り払え。これだけやっておいて、タダで返す訳がないだろ」
大鎌の先をクロメルに向け、魔力を集中させる。セルジュが攻撃を仕掛けた時から、周囲に結界と罠の魔法を仕掛けていた。そうやすやすとは逃がさない。
「いいえ、私はここから逃げませんし、動きません。退かなければならないのは、あなた方です」
クロメルの言葉の直後、この大聖堂を含む空間を覆っていた青空に亀裂が走った。比喩でも何でもなく、本当に空や壁に裂け目が出来ている。
「守護者、この空間を訪れる事ができると言っていましたが、貴女は聖域の外がどうなっているか、ご存知でしたか?」
「……知らない」
「クスクス。そうでしょうね。だって、一部の使徒にしか知り得ない事ですから。選定者に創造者――― ああ、創造者はもう死んでいましたね。最後の最後に及ばないとは、何と哀れな事か。まあ、これは創造者の置き土産、その1つだとお考えください」
亀裂は既に全面にまで渡っている。1枚、また1枚と青空が剥がれ、その向こう側にあったものが正体をあらわにする。
「何、これ……?」
「巨大な船? いや、戦艦……?」
現代日本では目にする事がないであろう、巨大な白の要塞。ここからでは、どんなサイズなのか把握する事ができないほどに巨大。俺達が立っていたこの場所は、この巨大な戦艦の甲板部分だった。
「戦艦は戦艦でも、これは飛行戦艦。空を飛ぶ神の方舟とでも呼びましょうか。これより我々は地獄の天井を破壊し、天使が住まう神裁の島を目指します」