軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第438話 神堕とし

―――最後の聖域・揺り籠

不壊の結界が剥がれた。それは良い。だが、このままでは極大ビームの直撃を受けてしまう。俺の周囲にはぐるりと重ねに重ね、圧縮させた 粘風反護壁(リヴェカウンターガム) が展開されている。こいつを魔王城でベルが使った時は、エフィルの 破爆白矢(エクスプロードアロー) とムドの 竜咆超圧縮弾(サジタリア) を受け切り、いなし切った。しかしながら、それはベルの対象の力を削ぐ能力と併用して使った事で為せた芸当だ。俺にそんな力はなく、今回はアイリスが放ったこの光の束を、耐久性のみで耐え抜かねばならない。仮にこいつをメルの全力 聖滅する星の光(ルミナリィバースト) と同等の威力とする。これまでのメルとの模擬戦を思いだせ。護りに徹する事で危機を脱せるかを振り返ってみよう。

『―――無理だな』

メルの 聖滅する星の光(あれ) は巫女の秘術を使った不壊の結界を使うか、セルジュのような出鱈目な幸運にでも恵まれない限り、とてもではないが正面からやり合えるものじゃない。そのどちらも持ち合わせていない俺がゴム風で耐えようなんて、土台無理な話だ。何よりも、防御に徹するのは俺らしくない。どちらの選択肢もカードにない、防御もできない。なら、前に出るしかないだろ。

「 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) !」

大鎌から嵐の刃を巻き起こし、ぶっ飛ばす。 粘風反護壁(リヴェカウンターガム) をも食い破って、万物を切断する死神の風が、神の光と衝突した。

「神に対し、何と不敬なっ!」

「神だろうが何だろうが、力負けする方が悪いっ!」

大鎌の仕事はいつもと何ら変わりない。歯向かうものを食らい、何であろうと打ち勝つだけ。それはアイリスの神の光であろうと例外ではなく、俺が放出した嵐の刃は極大ビームをど真ん中から引き裂き、ただ前へと進んで行く。俺は道を作り続ける刃の背後を追うように飛行して、聖槍を構えるアイリスへと迫った。

しかし、このまま突っ込んで、また不壊の結界を張られるのも面倒だ。アイリスの注目が俺に集まっている今のうちに、と。

「おいおい、お前の信仰心はこんなもんなのか? これなら、現巫女のコレットの方がよっぽど病んでるぞ? 期待外れも大概にしろ」

「私の信仰心が足りてないと……!? 言うに事欠いて、何と不遜ながぁっ!?」

メルの召喚を再び解除して、攻撃を続けるアイリスの背後へまた召喚。この巫女さんは怒るポイントが丸分かりで挑発しやすいな。お蔭でまた、メルによる不意打ちが成功した。

「メ、ル、フィーナ……!」

背後からメルの聖槍に叩き付けられ、アイリスは俺の方へと落下してくる。

「あなた様っ!」

「おう!」

1日にこう何度も聖女様が降ってくる日なんて、そうそうないだろうな。1度目は圧殺なんて生温い受け止め方をしようとしたが、次はない。輝く翼を羽ばたかせて、何とか落下速度をコントロールしようとするアイリス。それも、遅い。

「が、あッ……!」

死神の大鎌がアイリスの腹をすり抜け、返し刃で更に縦に天使の輪ごと振り下ろす。臓物を撒き散らせ、決定的な死を与えてやる。

『まあ、そりゃ巻き戻すわな』

綺麗に四等分にカットされたアイリスの体が再現するは、最早見慣れた光景だった。噴き出した鮮血と臓物を体内へと内包し、切断された部位を繋ぎ直す。何という事はない。アイリスは自らの体に、致命傷をなかった事にする秘術を施していたのだ。結界や大聖堂に時戻しの再生能力を付与しておいて、自分に付与しない筈がないしな。

「っ、無駄ですっ! 神と私を繋ぎ止める信心がある限り、私は無制限に―――」

「――― 救済の罰光(セルベイションレイ) 」

アイリスの叫びを掻き消すは、あまねく降り注ぐ破壊の光。かつての使徒、エストリアが使っていた光の雨霰である。大鎌で斬り裂いた後に、間髪入れずに放たれたその光にアイリスは呑み込まれる。しかし、救済を謳う者が救済の光に討たれるとは、何とも皮肉っぽい。

聖女様が再生する可能性は当然考えていたからな。これはあくまで確認だ。予めそれが分かっていれば、次の手は自ずと出てくるもの。つうか、こんなものはニトおじさんの焼き直しみたいなもんだからな。今更使われても、その時の対策がそのまま適用できてしまう。

「ぐうっ……! この、 聖堂(タバーナ) ―――」

「させるかよ」

光の雨に俺1人分が通れる隙間を意図的に作って、そこから強襲。厄介な結界を発動される前に、その口ごと大鎌でたたっ斬る。

「………っ!」

宙にアイリスの顔が吹っ飛ぶものの、やはり再生。その途中で奴で視線が合って、やたらと睨まれてしまった。聖女様がそんな目をしてはいけません。もっと狂信者っぽく、グルグルと狂気をはらまないと。

ま、それもこれで終わりだ。巫女の秘術による致死の回避は、何もノータイムで行われる訳ではない。損壊した箇所を繋ぎ直し、飛び散った中身を巻き戻すまでに若干のタイムラグがあるのだ。こうして立て続けに殺していけば、アイリスは何もできず、ただただ次の死を待つしかない。そうこうしている内に、俺達は長い長い空中浮遊を終え、地上へと戻ってくる。

「さ、懐かしの大聖堂への帰還だ」

「………」

スタート地点だった大聖堂に降り立つ俺達。先にこの場所へ叩き落としたアイリスは、メルの魔法によって全身を氷漬けにされ、口も同様に塞いでしまったので喋る事もできない。後は 栄光の聖域(グローリーサンクチュアリ) などといった封印系の魔法で拘束してしまう。要は殺さずに、無力化してしまえば良いのだ。

聖槍イクリプスと黒の書、今は白の書か。それらも没収。アイリスに魔力を送っていたパイプオルガン式祭壇も、金属パイプ部分を氷で塞いで遮断。祭壇を封じた効果があったのか、アイリスが纏っていた天使の輪や翼は消失した。こうなってしまえば、恨めしげにこちらを睨むしかないアイリスの出来上がりだ。

「これでアイリスの無力化は完了だな。封印の鎖で縛ってるから、魔法や秘術の類も使えないだろう。そもそも詠唱できないだろうし」

「後はアイリスが大切そうに祭壇に安置している、あの揺り籠ですね」

その殆どが氷で覆われてしまったパイプオルガン。この馬鹿でかい祭壇の天辺にあるのが、エレアリスの復活と関連ありそうな揺り籠だ。アンジェやベルが言っていた、いつもアイリスが傍らに置いていたものとは、間違いなくアレの事だろう。

「破壊するのが手っ取り早いけど、それでも良いのか? あの中に神になる予定の赤ん坊でもいたり?」

「先ほど空へ飛んだ際、チラッとあの中を覗きましたが、何もありませんでした。どちらにせよ、破壊すれば使徒達の痛手になる筈です」

「なら話は早い。白の書にオルガンの魔力供給も封じたからな。今の状態じゃ、アイリスの秘術も精々1度発動するかどうかって感じだ。一思いに大鎌で―――」

(―――ザ、ザザッ)

ふと、耳鳴りがした。この状況で聞こえる筈のない、テレビの砂嵐にも似た音だ。

(ザザッ――― 漸く、漸くです。あの日から、ザザザッ――― どれ程の年月が、ザッ―――)

砂嵐の音は徐々に収まり、代わりに女の声となって俺の耳に届き出す。この声は、どこかで―――

(―――楽しまれていますか、あなた様? ええ、ええ、言わなくても分かっております。果てなき戦い、その頂点を極める。今度は絶望させません。神などに邪魔もさせません。心行くまで、どうかお楽しみください)

そうだ。この声は、夢の中で朧げに聞いた彼女のものだ。だが、しかし…… この声は、まるで―――

『―――あなた様?』

急に硬直した俺に、メルが心配そうに顔を覗かせた。ああ、やはり。この声は―――

(―――断罪者が書に残した魔力もそろそろ限界、潮時でしょうね。アイリス、いえ、エレアリス。偽りの身なれど、貴女はよく仕えてくれました。もうお休みなさい。私、いえ、メルフィーナも今に至るまで案内ご苦労様でした。以後、転生神の座は私が引き継ぎます)

何の前振りもなく、魔力の流れも感じさせず、止まった時間の中で動き出すは2本の聖槍、ルミナリィとイクリプス。それらは何の躊躇いもなく、メルフィーナとアイリスの心臓を貫いた。