軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第437話 鋼の精神

―――最後の聖域・揺り籠

『メル、背を合わせろ! 俺が何とかする!』

『任せました!』

念話でのやり取りの後に、できるだけ密集して空間を作る。アイリスが言うところの迫る障壁は、威力が高いだけの攻撃では破壊もできず、したとしても時間を巻き戻して再生してしまう。打開策を並列思考で模索――― あ、これ良さげ。

「 粘風反護壁(リヴェカウンターガム) !」

背中合わせの俺とメルの周囲にゴム風を展開。範囲が狭いのでその特性はより強くなり、外部からの圧力に反発しようとする。破壊できない? だが、縮むって事は押せば伸びるんだろ。アイリスの障壁に張り巡らされた紐の締め付けようとする力が強まるほど、俺の 粘風反護壁(リヴェカウンターガム) は力を返す。魔力を惜しみなく使い、内部からゴム風を追加、追加、追加。より密度を高めていく。さっきまですぐそこまで迫っていた障壁は、最早破裂寸前の風船のように膨らみ切っていた。

「それは、断罪者の……!」

「ああ、色々あって学ばせてもらったんだよ。知っての通り、この風は面倒臭いぞ」

「………」

「まあ、それでもお前の障壁は壊れない。確かに、俺の鎌でもないと意味がないみたいだ。だけどさ、これで俺達の圧死はなくなった。後はその聖槍による攻撃を何とかすれば無事解決なんだが…… 未だに撃ってこないって事は、障壁外からの攻撃にも無敵なんだな、これ」

粘風反護壁(リヴェカウンターガム) を挟んで、アイリスの結界に笑いながら指差してやる。対峙するアイリスの様子は変わらず、眩い光を放ちながら回転する神の槍を構えたままだ。

「さて、このままじゃお互いに向かい合ったまま、時間の無駄だ。ここらで結界を消して、分かりやすく殴り合いでもしないか?」

「お断りします。私としては、このまま数日待ってメルフィーナの餓死を狙っても良いのですよ? 保管に幾らかの食料があったとしても、メルフィーナと一緒ならば数日と持たないでしょう。無限に等しい魔力を得ている私と、有限の食料しかない貴方達では状況が異なるのです。ええ、そうです。それが争う事なく、平和的に終わりを齎す唯一の方法。ご安心ください。話し相手くらいは致しましょう。寂しくはありません」

「「………」」

ええっ、そういう趣向で来ちゃうの!? 結構な数の戦闘を経験して来た俺だけれども、戦いの最中に餓死を狙う輩は流石に初めてだぞ。いや、まあ実際クロトの保管にはエフィルが用意している食料は大量にあるが、調理していない生の材料を抜かせば、その数は限られる。ここ最近のメルフィーナのお腹事情に鑑みれば、数日は結構きつい。現にメルもかなり動揺している様子だ。他にもトイレやら心配する事が色々ある――― いやいや、それ以前に俺が許さんよ。

「そんな詰まらない戦い、俺が認めるとでも?」

「認める認めないの話ではないのです。これが定め、これが運命。受け入れなさい」

「運命か…… もしもに備えて、聖槍を構えてる奴の台詞じゃねぇな」

「………」

口八丁で精神を揺さ振るのは基本として、これからどうしたものかね。方法として考えられるのは、そうだな―――

①このまま障壁を力押しで押し続けて外側へと侵食、逆にアイリスの圧死を狙う。俺の魔力が続く限りは可能だと思うが、正直この空間がどれほどの広さなのか確認できていない。圧死まで狙うのは現実的じゃないな。

②他の使徒達を片付けた仲間が助けに駆け付ける。これはあまり期待したくない。だって、俺が詰まらない。全く満喫できていない。アイリスが特に急いでいない様子からして、外からここに来れないようにする何らかの手段を講じているのも明らかだ。却下です。

③俺の秘められし力を使う時が来たり。

『―――うん、やっぱこれが現実的か』

『あなた様?』

『メル、ちょっと耳を貸せ』

ごにょごにょっとメルに伝達。念話で済むから、実際に耳を貸す必要はないけどな。我、③を選択せり。

「おいおい、アイリス。本当にこのまま膠着状態を維持するつもりなのか? お前だって食事はするし、生理現象がない訳じゃないだろ?」

「ご安心を。デラミスの巫女は鋼の意志の下に、神へ信仰を捧げるのです。断食や排泄など、些細な事を心配なさらないでください」

さ、些細ですか…… 何をとは言わないが、そういうのはいけないと思います。鋼メンタルだろうと、物事には限度ってものがあると思います。異常者同士でも、引く時は引くんだぞと…… よし、帰ったらコレットによく言い聞かせよう。

「残念だけど、俺らは付き合ってられないんでね。無理矢理押し通らせてもらう!」

粘風反護壁(リヴェカウンターガム) へ篭める魔力を解放。アイリスの結界を押し出し、着実にその壁を膨張させていく。

「何をするかと思えば。いくら大きくしようと無駄です。 聖裁神域(アルカス・タバーナ) は絶対不壊。まだそれが理解できないのですか?」

「いんや、理解はしてるよ。だけど、的は大きい方が良いだろ?」

「はい?」

召喚解除、再度召喚。召喚軸はもちろん、アイリスの後方。

「ええ、お蔭でとても狙いやすいです。ルミナリィ、聖滅形態へ移行。魔力、装填」

「―――っ!?」

迂闊過ぎるだろ、アイリス。それとも、この聖域を隔離した事で安堵してたのか? この不壊結界には俺の召喚士としての能力を制限する力は働いておらず、俺は兎も角、配下のメルフィーナは召喚し直せば通り抜け放題だ。そして、召喚直後にぶっ放すは、お株を取り戻さんと気合いを入れた聖槍の一撃。

「 聖滅する星の光(ルミナリィバースト) !」

「くうっ! 聖滅する天の光(イクリプスバースト) !」

メルフィーナが放った極大のビームに対し、急遽方向を変えてアイリスもまた極大のビームを放ち出す。奇しくも威力は互角。しかし、先手を打ったメルフィーナが遥かに優勢。メルフィーナの聖槍が放つ星の光は、最大出力でアイリスをビームごと圧迫して、徐々に徐々にとアイリスは後退していった。

「やあ、いらっしゃい」

「ケルヴィン……!」

ジリジリと圧迫されるアイリスの背後にあるのは、俺が丹精込めて膨らませた結界だ。大きくなってもその強度は変わらず、破壊される素振りは一切ない。全く、なんて困った結界なんだ。そんな自らの結界とメルの攻撃に挟まれる形となったアイリス。さあさあ、このままだと行き着く先は圧死だぞ?

「結界、解除した方が良いんじゃないか? 破壊できない結界よりも、俺の破壊できる結界を相手した方がマシだろ? その後にメルの光を何とかすれば、素晴らしき第2ラウンドの幕開けだ」

「ふ、ふふっ…… 正に死神の囁き、ですね……!」

結界もそうだが、メルフィーナを相手に食い物を取り上げようとしたのは不味かったな。お蔭様で我が家一の食いしん坊であるメルは、一気にトップギアまで調子を上げる事ができた。この威力、照れ隠しで放ったあの時と優るとも劣らない一撃だ。

「そう、ですね…… それも、良いかもしれません……!」

「え、マジで?」

メルの攻撃に押され、結界に足が触れるのもカウントダウン寸前となった頃、アイリスがそんな言葉を呟いた。結界と同じく俺の期待も膨らみ―――

「 聖堂神域(タバーナクル) 」

「なっ!?」

―――あろう事か、アイリスは結界をメル側に壁として張り直して、聖槍の光を反転。ビームで周囲を薙ぎ払いながら、俺の方へと向き直った。そして、ちょうどその射線が俺とぶつかった瞬間に不壊の結界を解除。俺はアイリスの攻撃の直撃を受ける事となってしまった。