軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第403話 二大息吹

―――邪神の心臓

ムドファラクとボガは、その声に聞き覚えがあった。古巣である軍国トライセンで最も胡散臭く、最も仕草が芝居掛かり、最も油断してはならない男――― エフィルによって射られ、命を落とした筈の元混成魔獣団将軍、トリスタン・ファーゼ。トレードマークの羽帽子を被った彼は、空に停滞するムドとボガよりも更に上空にて、黄金に輝く竜に乗って2人を見下ろしていたのだ。

「お久しぶり、と挨拶した方が良いでしょうかね? 何やら懐かしい面々がいたようでしたので、思わず出てきてしまいました」

「トリスタンっ! あの野郎、やっぱ生きていやがったか!」

「………」

良からぬ事を考えているような笑みは今も健在のようで、記憶の中そのままの表情のトリスタンがそこにいた。何を企んでいるのかは分からないが、この男が絡んで物事が平穏に終わる事はまずない。生還者を追跡していた時以上に、ムドとボガの警戒値は上昇していた。

「おー! おじさん助かっちゃったよ、後輩君! これで竜王の注意を逸らす事が―――」

予期せぬ同胞の登場に生還者は胸をなで下ろす。仲間の自分でさえ考えていなかった援軍だ。おじさんにとっては嬉しい誤算だが、敵対する竜王にとってはかなりの痛手の筈。ならば、嫌でも本拠地である邪神の心臓から視線を外さなければならない。そう推測したのだ。

「―――ボガ、折角溜めた 息吹(ブレス) がもったいない。邪神の心臓目掛けて撃っちゃおう」

「おっしゃあ! 了解だぁ!」

「なんでぇ!?」

しかし、ムドボガが意識をトリスタンに割いたのは僅かな瞬間だけだった。以降はトリスタンを無視するかの如く、集束させた 息吹(ブレス) を邪神の心臓に照準を合わせ、放出。生還者の悲痛な叫びも空しく、ムドの 竜咆超圧縮弾(サジタリア) とボガの 活火山創造の息(ラーバクレータブレス) が容赦なく大空洞へと舞い落ちる。極彩の弾丸と紅蓮の火球、そのどちらもが現存する地図を古きものにする威力を秘めた災厄。禁忌の地とされるこの場所も、接触すればどうなるかは想像できない。

トリスタンは確かに厄介な相手だ。ちょっとした仕草に、巧みな口舌に惑わされれば泥沼に陥るのは必至。かつて、エフィルと共にトリスタンと戦ったムドファラクはそれを良く理解している。だが、だからこそ、同時にどう相手をすれば良いのかも分かっている。甘言なんて全て聞き流して、事務的にトリスタンを葬ってしまえば良いのだ。あの戦闘の時、敬愛するエフィルが冷徹にそうしたように。

「こ、後輩君、頼んだっ!」

「やれやれ、手の掛かる方々だ――― アンラ、レンゲランゲ、行きなさい」

トリスタンに声に呼応して、 息吹(ブレス) の射線上に出現するのは2つの魔法陣だった。ムドとボガはこの魔法陣をよく知っている。何せ、主人たるケルヴィンが召喚術で扱うものと同様だったのだ。召喚術で配下を呼び出す際に現れるこの魔法陣は、召喚する配下のサイズに応じてその大きさが変化する。トリスタンが今呼び出した魔法陣は、かなり大きなサイズのもの。両方がムドファラクと同等だろうか。

「シュルル……!」

「ギギッ、ギギギギッ」

魔法陣から召喚されたのは、1つの汚れ目もない真っ白な鱗で覆われた大蛇。そして、カブト虫のような巨大な甲虫類の姿をした純白の虫だ。大蛇の体は途轍もなく長く続いており、地表からこの空にまで体を伸ばしてもとぐろを巻くほど余力がある。甲虫は雄々しい角を掲げ、人によっては耳障りな羽音を立てながら宙を舞った。姿は苛烈なれど、2体のモンスターからは不思議と神々しさが感じられる。

「だけど、当たる」

モンスターの正体は不明。だが、既に放出した 息吹(ブレス) は不可避。ムドの予測は必然となって、災厄が2体の白亜に衝突した。極彩が甲虫へ、紅蓮が大蛇へ。 竜咆超圧縮弾(サジタリア) を正面から受けてしまった甲虫はレーザーのように装甲を貫通されてしまう。

「ギギィーーー!」

悲鳴を上げる白き甲虫。しかし、それで終わりではない。甲虫の体内に入った一矢は、直ぐ様に8色の光弾に分散。体内から更に貫き、折り返すように甲虫の下へと舞い戻る。光弾はそれぞれに意思があるように、甲虫をターゲットとして貫き、戻り、貫きを繰り返し、額面通り八つ裂きを執行し続ける。

最高火力がベルの結界に防がれた事実を反省し、ムドファラクが新たに作り出した 竜咆超圧縮弾(サジタリア) の第2段階、 竜星狙撃(フューゼミーティア) 。避けようとも魔力尽きるまで追跡する8属性の光弾は、あたかも全ての属性に対応可能な自動狙撃兵器のようで死角がない。甲虫に狙撃を邪魔され、邪神の心臓への攻撃が困難だと判断したムドファラクは、甲虫の駆除を優先してこちらの形態に切り替えたようだ。

一方で、ボガの 活火山創造の息(ラーバクレータブレス) の対象となった大蛇の有様も悲惨なものだった。自らを盾として火球の進路を塞いだ大蛇、その白き体に火球が触れると、火球はみるみるうちに大蛇の体の中へと埋まっていった。恐らくは強靭な鱗であろう頑強な部位を焼き払い、瞬間的に黒墨にして強引に体内へと捻じ込まれているのだ。火球が大蛇の内部に到達すると、大蛇の長い体に異変が生じ始める。真っ白だった鱗が瞬く間に焼け焦げ、局部が徐々に隆起を引き起こしていくかと思えば、その先端が破裂して紅蓮の炎を噴き始めたのだ。まるで体に火山が形成されたかのように、大蛇は口や目からも炎を出しながらのたうち回った。

「シュ……! ッ……!?」

活火山創造の息(ラーバクレータブレス) の火球は、言わば火山の種火だ。大地に着弾されればその場に火山を作り出し、生物に埋め込まれれば地獄の業火が内部から体を焼き払う。出口を求めて体外へと出ようとする炎が、宿主の体を突き破ろうと火山を模す形となっている訳である。竜の姿となったボガに、非道などという生易しい言葉は通じない。今の彼は、ただただ勝利を求める剛胆なる勇士なのだ。

「―――っ! 治癒天陣(リカバリーインボウク) 」

トリスタンが唱えた大規模な回復魔法が、苦しみの中にいた甲虫と大蛇に癒しを与える。その頃にはムドとボガの 息吹(ブレス) も弱まっており、寸前のところで白のモンスターは息を吹き返したようだ。

「流石は竜王、といったところですかな? いやはや、少々ひやりとしましたよ。私が苦労して捕らえた 神柱(・・) が、こうも簡単に倒されては堪りませんからな」

「……神柱?」

「おっと、言っておりませんでしたか。私が率いるこのモンスター達は、地上にて契約を交わした神柱達、前時代の古き神々なのです! 神竜ザッハーカ、神蟲レンゲランゲ、神蛇アンラ――― 既に貴方達が神獣ディアマンテと神狼ガロンゾルブを倒したお蔭で、なかなかに骨が折れましたよ」

前転生神エレアリスが、世界各地に創造した神柱。劣化しようとも、仮にも神とされる者達をトリスタンは配下に置いた。その出来事に、ムドファラクは何か違和感を感じた。彼女は配下ネットワークで情報を漁る際に、斜め読みで目にした事がある。神の職業持ちは、召喚術による必要魔力が数十倍に膨れ上がる。神柱に職業が設定されているのかは不明だが、普通に考えればまず使役は難しい。あの魔力馬鹿な主、ケルヴィンでさえも、メルフィーナを義体とでしか召喚できないのだ。

「ふむ、漸く私の話に興味を持って頂けたようですね。でしたら、特別にお教えしましょう。私が代行者から授かったギフトは『亜神操意』。私は第十柱『統率者』。下級の神までも統べる事を許された者です」