作品タイトル不明
第399話 シスター・エレン
―――魔王城・議場
義父さん所有の転移門からシルヴィア達を迎え、以前ベルと話した城の議場を借りてそこに集まる事に。話す内容が内容なだけに、向こうの面子はシルヴィア、エマ、刹那だけにしてもらった。なぜかナグアが猛抗議していたんだが、そんなに気にしていたのかな? まあ、自分達が旅をする目的についてでもあるし、当然と言えば当然か。こちら側は俺と、フォロー役のシュトラにコレットである。
「ケルヴィンさん、一応私達のリーダーは刀哉になっているのですが、なぜ私が……?」
「俺が弟子4人の中で一番信頼しているのは刹那だからだよ。刀哉は幾分マシになったがまだアレだし、雅は嫌そうだし、奈々はほんわかし過ぎだ」
刹那が4人の中で最も戦闘に素質があるという、俺の独断と偏見もあるけどな。リオンと戦った時の刹那は何かを開花させたようで、目を見張るものがあった。いつも刀哉を警戒しているせいか頭も回るし、現段階において一押しの弟子は刹那なのだ。
「いいのかなぁ……」
「それよりも、まずツッコミたい点があるのですが、ここって魔王城なのでは……? グレルバレルカと言っていましたよね?」
早速エマが痛いところを突いてきた。気分が落ち着いたのか、いつも通りの調子に戻っている。
「今更隠しても仕方ないしな。エマの指摘は合ってるよ」
「あの、私の学んだ知識が正しければ、グレルバレルカといえば旧魔王軍の本拠地だった場所ですよね? 見たところ城に在中する悪魔が沢山いましたし、大昔に亡んだというのは偽りの話だったのですか?」
「いやー、確かに亡びかけたよ? ただそれがな、色々あって魔王グスタフと悪魔四天王の皆さんが蘇ってしまいまして―――」
「大事件じゃないですか!?」
「お兄ちゃん、話を割愛し過ぎよ……」
膝の上に乗せたシュトラに呆れられてしまった。説明すべき話が多過ぎて、お兄ちゃんは上手く話せるか自信ないです。コレットさん、シュトラさん、出番ですよ! とさり気なくアイコンタクトする。
「この件は我らデラミスが深く関わる事柄です。僭越ながら、私から説明致しましょう」
「分からない事があったら、私からも解説するわ。気軽に質問してね」
頼もしい金の賢女、銀の聖女の2人による説明会が開始された。
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「セラさんが魔王の娘で、メルさんが女神様で、母さんがデラミスの巫女で使徒で―――」
如何にシュトラ達が話したといえど、重大な情報が多過ぎた為か、エマはぶつぶつと呟き続けながら自分の世界に入ってしまった。これは整理するまで時間掛かりそうだ。
「……ん」
一方でシルヴィアの反応は薄い。大丈夫か、これ?
「まあ、そういう訳で俺達の目的はエレアリスの使徒、代行者――― シスター・エレンを打倒して、エレアリスの復活を阻止する事なんだ。もちろん、代行者の正体がエレンさんだとは決まっていない」
「でも、その可能性が1番高いんだよね?」
「……ああ」
「そう、分かった」
シルヴィアはそう口にすると、トランス状態のエマを軽く揺すりながら現実世界に戻す作業に移ってしまった。エマに比べてやけに理解が早いな?
『シュトラ、『報復説伏』の固有スキル使ってないよな?』
『友達に使う訳ないよ! 仮に使ったとしても、ルノアやアシュリー相手じゃ殆ど効果ないもん!』
怒られてしまった……
シュトラは賢人に進化して、新たな固有スキル『報復説伏』を会得している。このスキルは交渉時に使用するもので、理詰めによる説得で相手を説き伏せ、例え不利な条件だと分かっていたとしても首を頷かせてしまうという恐ろしいものだ。友好的な者には効果が薄く、反抗的な者には絶大な効果を発揮する事から、敵対する相手に使うべきスキルだといえるだろう。相手はシュトラの言葉に含まれる理が適っていれば、自ら利を失ってしまうのだ。
報復説伏の注目すべきは意思に反してそうさせるのではなく、相手を心から納得させる点に尽きる。かつて魔王ゼルが『王の命』で民衆を洗脳していたが、強制的な行動は不自然さを生む。対してシュトラの力は対象や使いどころは限定されるも、より自然な形で相手の心をコントロールする強化版だ。他国との外交においては最強のチートスキルじゃなかろうか。悪魔四天王のベガルゼルドにも効いたっていうし。
「……シルヴィア、ありがとう。何とか飲み込めたわ」
「ん、平常心が大事」
そうこうしているうちに、エマが復帰したようだ。まだ頭を押さえているが、シルヴィアに頭を撫でられて何とか理性を保っている。
「なあ、シスター・エレンってどういう人だったんだ? こんな時に聞く話じゃないかもしれないが、できれば聞いておきたい」
「どんな人、ですか。なかなか言葉にするのは難しいですね…… 私達の母であり、師であり、恩人であり――― 誰よりも尊敬する、人生において目標となる人でしょうか。身寄りのない孤児だった私達を拾って、愛情をたっぷりと注いで育ててくれました。まあ、病弱だと公言している割には元気で、腕っぷしが強くて逞しいところもありましたけど」
「剣術や魔法、生きていくのに必要な知識は全部お母さんから習った」
「懐かしいですね。あの頃は2人掛りでも全く歯が立たなくって、よく泣かされていましたっけ……」
「ブービートラップに引っ掛かったのは良い思い出」
「そうそう、やたらと深い落とし穴から1日掛かりで脱出したり――― そんな茶目っ気に溢れた人です」
……あれ? 何か俺の想像と違うような。少なくともシスターっぽくはなく、孤児の子供に教える事でもないような。アンジェやベルから聞いていた今の代行者とも印象が異なる。
「そ、そうか。シルヴィアとエマの強さの根源はエレンさんなんだな」
「ええ、母さんの教育あっての私達です。他の子達には難しい勉強を教えたり、才能を開花させるのが上手でしたね。リフリル孤児院から先に巣立った兄貴分のエドワードなんて、今ではリゼア帝国で政治家をしているそうですし」
「リゼアのエドワード氏、ですか? その方ならデラミスでも有名ですよ。それまで好戦的だった国内の情勢を治め、相利共生を謳い手段を模索する平和主義者。エドワード氏が就任してからというもの、デラミスとリゼアの険悪だった関係も大分軟化しましたから」
コレットも知っているのか。また大層な人物が出てきたな。S級冒険者、トライセンの将軍にまでなったシルヴィアといい、まるで孤児院が教育機関のようにも思えてしまう。しかし、これから浄化しようとしている世界にそんな人材を輩出する意味があるのか? それとも、浄化の意味を履き違えている?
「エレンさんが凄いのは分かった。だが、俺達の方針に変わりはない。生還者を追わせているムドとボガから連絡があり次第、俺達は奴らの本拠地である邪神の心臓に向かうが、お前達はどうする? 刹那は?」
「……私達はケルヴィンさん、女神様の助けになりたいと思っています。どの程度の力添えができるか分かりませんが、できれば連れて行ってもらいたいです」
大方予想通りの反応だ。だが、刹那達の力はまだまだ発展途上、熟れる前の甘い果実。これは悪魔式デスマーチの時かもしれないな。
「うん、なるほどな。シルヴィアとエマは?」
「一緒に行って、この目で確かめたい」
「いいのか?」
「ん、時には残酷な判断をしなければならない時がくる。でも、立ち止まらない。考えて、考え続ける。それもお母さんの教えだから」
シルヴィアの瞳に迷いはない。エマは若干の狼狽えはあるものの、考えは一致しているようだ。しかし、仮に母親が世界に仇を成す悪だとすれば、彼女達は本当に剣を振るえるのか。俺には判断しかねる。最悪、あちら側に付いて敵対してしまう可能性だってある。
「……了解した。それじゃあ、決行について詳しく話そう」
それはそれで美味し、いや、その時は全力で説得しよう。