軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第400話 あの時のドレスを

―――魔王城・議場

シルヴィア達との話し合いを終えた俺は、弟子4人の強さを測る為にその足で修練場を訪れる予定だ。シュトラはこの後にベガルゼルドから医学を学ぶ約束をしているらしく、一旦離脱。コレットはいつものように結界を張りたがっていたので、そのまま 聖堂神域(タバーナクル) と 生還神域(アルカディア) を使ってもらう為に連れて行く事に。ここ最近、巫女の秘術を私物化しているような気がしないでもないが、コレットが幸せならそれで良いんじゃないかと割り切るようにしている。如何に自由に生きる俺とて、聖女様の幸せを奪ってはならないのだ。

『ですが、それも都合の良い解釈なのではないでしょうか?』

おっと、久方ぶりのメルフィーナ先生の読心術だ。念話を送ってきている事から分かると思うが、目の前にはいない。というか、メルは魔都でグルメツアーに興じている筈なんだけどな。どうやって俺の心を読んでいるのかと小一時間問い質したい。正妻だから心が繋がっているとでも言うのだろうか?

『ええ、酢豚にパイナップルは好みが分かれますからね。事前に確認しておく事も大切です。仕方ありませんね。勿体ないので、これも私が頂くとしましょう』

あ、ごめん通じ合ってなかった。何か念話を俺にだけ誤送信しているっぽい。それにしても、やけに熱がこもった言葉だな。少し感情的に――― あー。

「ケルヴィンさん、どうかしましたか?」

「いや…… 刹那、メルフィーナと一緒に食事する時、唐揚げに勝手にレモン掛けたら駄目だぞ」

「え、唐突に何の話ですか?」

女神様と上手に付き合っていく為の話です。あいつ、好き嫌いはないけど食事は自由に食べたい派だからな。自分の唐揚げにレモンを掛けられれば、それを食べた上で同じ量を追加注文しやがるんだ。

「分かります。その御心、痛いほど分かりますともケルヴィン様! メルフィーナ様がお食事されるお姿は正に名画の如く美に溢れ、愛しくこの身を捧げてお世話したくなるものです。ですが、矮小たる私如きがするその行いはメルフィーナ様の自由の妨げになり得、罰を与えられてしまうかもしれません。己の欲求を御し、戒める事で信仰心は更に浄化されるのです! ああ、ですが罰は罰で受けてみたいという穢れた欲求が―――」

「さ、時間だな。先に修練場に行ってるから、刹那は刀哉達を連れて来てくれ」

「は、はい…… あの、コレットはどうします? 私が連れて行きましょうか?」

「俺が背負っていくから気にするな。そのうち治るから」

「……ケルヴィンさん。何か、私よりもコレットの扱いに慣れていません?」

「気のせいだ、気のせい」

常軌を逸した行動も、昼夜を共にすれば嫌でも慣れるというもの。ただ唯一心配なのは、俺の背中によだれや鼻血を垂らさないかという事だ。今の状態のコレットは、口や鼻が非常に弛んでいる。

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―――魔王城・客室

その日の夜。自分に割り当てられた客室(セラとの同室はなぜか義父さんのお許しが出ない)にて、俺はベッドに横たわりながら、その日に得た情報と睨めっこしながら悩んでいた。

弟子4人衆の総評。結果として、使徒相手に戦わせるには少々無理がある。 奈落の地(アビスランド) で野良悪魔を相手に戦った成果なのか、以前よりかはレベルが上がっている。戦い方や技術も順調に成長している。しかしながら、それでも足りないだろうというのが正直な感想だった。あのパーティではシルヴィアがモンスターへの止めをもっていきやすいだろうし、俺達のように経験値は共有されない。この成長速度のままでは連れて行けそうにないんだ。

これは本当に短期集中型のレベリングを視野に入れないといけないか。悪魔四天王を見事に育て上げたベル教官に、明日お願いしてみるべきか。セラ? あいつは教える事に関しては駄目だ。天才肌の感覚派だし。

「ナグアとアリエルにも参加してもらうかな。ナグアは俺から言っても聞かないだろうし、仲の良いジェラールあたりから言ってもらって―――」

―――ギィ。

「あなた様、何か考え事ですか?」

俺の言葉が扉を空ける音に遮られると、厚い羽織りものを着たメルフィーナが部屋に入ってきた。珍しい恰好をしているな?

「刀哉達をどうやって育てようかと思ってさ。そろそろ、ムドとボガが邪神の心臓に到着しそうな時期だし、時間もそんなにないだろ?」

「毎日、この時間になると配下ネットワークに別々の戦果報告を送ってきますからね。確か、夜の間はそれ以上進まない代わりに攻撃はしないと、生還者と交渉したとか。よくオーケーを出しましたね?」

「到着が遅れるほど時間が生まれるからな。この交渉自体は生還者のおっさんの方から持ち掛けたらしい。でもあいつら、如何に上手く狩れるかの連絡しか最近寄越さないんだよな。現在地くらい送れと毎回返信しているよ」

まあ、裏を返せばそれだけ熱中しているって意味だ。ボガなんて竜化が続いているせいか、いつもよりアグレッシブに炎を使っている。かと思えば狙いが荒い訳でもなく、しっかりとムドの 息吹(ブレス) に合わせた行動も取れていて面白い。それでも逃げ切る生還者のしぶとさが異常なのであって、やり方は間違っていないのだ。

「ところでメル、こんな夜遅くにどうした?」

「ふふ、妻が深夜に夫の部屋を訪ねる。敏いあなた様なら、この意味が分かりますね?」

「せめて、来る前に教えてほしんだが……」

女神とは思えぬ発言は無視するとして、ここがセラの実家だという事実を忘れてはいないだろうか? セラが許そうとも、義父さんの耳に及んだらそりゃもう切腹ものだ。

「あら? 今夜お邪魔しますと念話した筈ですが、届いていませんでしたか?」

「料理の感想なら届いたけど……」

「………」

「………」

「……あ」

メルがやってしまった、みたいな表情を作り始めた。こいつ、念話で送ろうとした事と実際に話した事、逆に言ったんじゃないだろうな? おい、その台詞誰に向かって話した?

「す、済んだ事を嘆いても仕方ありません。今日はあなた様に見て頂きたいものがあるのです!」

「見てもらいたいもの?」

「うふふ、こちらです」

ハラリ。メルが厚手の羽織を脱ぎ去ると、その下には―――

「―――それ、昇格式の時のドレスか?」

羽織の下にあったのは、大海を思わせる色合いの清楚なドレス。爽やかな印象が白く美しい肌を持つメルとマッチして、目を離さずにはいられない。なぜ? と思う前に、まず見惚れてしまった。

「そうです。あの時は私だけ着れませんでしたからね。あれ以降なかなかそういった機会もありませんでしたし…… あ、獣王祭の終わりにチラリと着ましたっけ? と、兎も角、今夜はあなた様だけにお披露目会をしようかと。どうです?」

その場でクルクルと回って見せるメル。可愛、ググ……!

「まずまず、好みではある」

「おかしいですね。その台詞にはデジャヴを感じますが?」

「……男の精一杯の抵抗なんだから、良い女は黙って受け入れてくれ」

「はい、分かりました♪」

ベッドから立ち上がり、メルフィーナを抱きしめてやる。何となく、そうしたかった。

「あら? 踊ってくださるのではないのですか?」

「踊り方が分からないって。教養のない俺にあまり無茶な注文をしないでくれ」

「そうですか。なら、もう少しこのままでいさせてください」

「ああ…… それと、メル」

「はい?」

「あんまり、1人で抱え込むなよ?」

「……ええ、大丈夫です。あなた様が近くにいてくれますから」

抱きしめて分かった事だが、メルの心臓の鼓動も大分激しかった。