軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第391話 長い長い帰り道

―――魔王城・宝物庫

元魔王の呪縛から解き放たれた俺はメルフィーナ、ジェラールと共に生還者の刀をしまっていた城の宝物庫へと移動した。悪魔四天王には酔い潰れてしまった義父さんと、まだ万全ではないベルの警護にあたってもらっている。

「うわ、見事にぶった斬られてるな。鋼鉄製の扉がバッサリか」

まず目に付いたのは真っ二つに両断されて、床に倒れ伏してしまった宝物庫の大扉だった。一刀のもとにやられてしまったのか、綺麗に扉だけが斬られている。そして、問題の生還者の刀は宝物庫の中のどこにも見当たらなかった。

「ううむ、斬り口を見るに内側からの刀傷じゃな」

「予め城の宝は別の場所に置き変えていたから、物を取られている心配はなかったが…… やっぱ中からか。メル、俺達の予想も捨てたもんじゃないな」

「ええ、謎の解明にまた一歩前進しましたね」

「前進するのは良いが、当の生還者は今も逃亡中じゃぞ? 王も姫様も何でそんなに余裕なんじゃ……」

「別に余裕こいてはないよ。ただ、何となく能力のからくりは分かったからさ」

それに生還者は瞬間移動する訳じゃないし、俺達やベルを始末しに来た訳でもない。あいつは使徒の根城への案内人として来たんだ。単にここで逃げてしまったら、俺達の前に現れた意味がなくなってしまう。今はどこかに潜伏している事だろう。

「確か、使徒にはそれぞれに課せられたオーダーがあるんだったな。案外、生還者に充てられたその注文はいつまでに連れて来いとか、そういう類かもしれないぞ?」

「逃げる自分をわざと追いかけてさせて、本拠地のある『邪神の心臓』まで誘き寄せる――― そんなところでしょうか。能力の性質上、彼が本気で逃げれば本当にセルジュよりも厄介な可能性もありますし」

場所についてはベルからも聞いた事だし、もう分かっている。ただし生還者から没収した 聖鍵(せいけん) は彼がいなければ効力を発揮しない。鍵がなければ生還者も本拠地に帰れないかもだが、それは知らん。まあ招きたいと言っている事だし、邪神の心臓まで赴けば向こうから入れてくれそうな気はするけど。

『ケルヴィン、見つけたよー』

『こっちも気配を発見したわ!』

おっと、そうこうしているうちに探りを入れていたアンジェとセラからの念話だ。

『結構『隠密』の練度が高くて時間掛かっちゃったけど、このアンジェさんからは逃れられないかなー』

『ええっと、生還者はグレルバレルカの城下町に潜伏しているわね。外から姿が見えないように、屋内を少しずつ移動しているわ!』

『ああ、セラさん! それ私の台詞!』

建物の中を通っているのか。生還者だってアンジェ達の察知網から逃れられるとは思っていないだろう。距離をとる為の時間稼ぎだろうな。

「どうします? 追いますか?」

「んー……」

正直、ただ追うだけってのもなぁ。まだシルヴィアの探し人の調査もしていないし、連絡も、ああ、そうだ。まだ刀哉達に連絡もしていなかった。シュトラのゴーレムも調整に着手できていない。次の戦いまでにすべき事が未だ山積みだ。

『―――ムド、ボガ』

『ん』

『う、うす』

よし、こうしよう。良い方法を思い付いた。

『生還者を逃した罰ではないけど、2人に生還者を捕まえてもらおうと思う。条件は近づかず、遠距離からの攻撃のみで捕らえる事。そうだな、最低でも1kmは離れような。期限は生還者が邪神の心臓に辿り着くまでだ』

『遠距離っ!』

『あ、あの…… ムドは狙撃が得意。だけど、おでは―――』

『ボガがまだその体に慣れていないのは知っているよ。だから、これは修行代わりでもある。最初から捕まえる目的で攻撃しなくていいからさ、その力で色々と試して考えて工夫してみろ。幸いにも相手は瞬間再生持ち、慣れさせるにはもってこいな相手だ。存分に掻き回してやれ』

『しゅ、修行……!』

ボガはステータスに任せた力押しや肉弾戦は得意だが、まだ炎の扱いはお粗末なレベルだ。是非とも逃げる生還者を相手に技術を磨いてほしい。本人もやる気のようだし、ジェラールとの修行は持ち越しだな。

『主、最初から捕まえてしまっても構わないの? ボガの出番、なくなるよ?』

『できるならな』

『承知した。帰ってからの甘味が楽しみ』

ムドはスナイパーを自称するだけあって自信満々か。捕まえて困る事はないし、それはそれで構わない。その場合はクロトの保管から簡易転移門を出させて、それで我が家に連行しようかな。万が一に危なくなっても2人は俺の配下だ。即座に魔力体に戻して召喚を解除できる。これでいこう。

『邪神の心臓は中心地だけあって、ここからかなり遠いらしい。途中の睡眠や食事を相手に合わせるかは任せるよ。もし見失ったら念話を寄越してくれ。その時にまた指示を出すから』

『その必要は皆無。私が直ぐに終わらせる』

『お、おでだって、頑張る』

『ハハ、良い返事だな。その調子で頼んだ』

エフィルのケーキを食ってやる気が出たのかな? 2人とも、妙に士気が高い。これはかなりの成長が期待できるな。

「あなた様、私たちはどうするのです?」

「生還者がグレルバレルカを出た後、まずは祝賀会続行で。義父さんが起きたら、各地に使える転移門がないか聞いてみよう。場所によっては先回りできるかもしれない」

パーティー会場へと足を運びながら、クロトの保管からペンダントを取り出す。シルヴィア達の方も順調だと良いんだが。

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―――グレルバレルカ帝国

「ふう、何とか一息つける――― 訳ないよねぇ……」

自分でもよく分からないが愛刀の傍で目覚めた生還者は魔王城と城下町を抜け出し、グレルバレルカの郊外で身を潜めていた。草原の草々は丈が高く、屈めば生還者の姿を隠すには十分なものだった。だが、油断はできない。いくら隠密スキルをS級にまで上げているとはいえ、それで元暗殺者であるアンジェの察知能力を出し抜けるとは全く考えていなかったからだ。ここまで追手らしい追手がいなかったのが奇跡だと思えるほどだ。

「わざと逃がされてるよねぇ、こりゃあ。陰ながら追ってくれるなら万々歳なんだけど、おじさんの 聖鍵(せいけん) も取られちゃったみたいだいしねぇ。無事に聖域まで辿り着いたとして、代行者は許してくれるかな、っと……!」

刀の柄へと手を伸ばす。注視するは魔王城の屋上付近。そこで変化が起こっていた。

「おっきな竜が1、2…… いやいや、断罪者はよくあんなのと真っ正面からぶつかれたねぇ。おじさん泣きそうだよ」

黒い岩肌を晒す山のような竜と、神々しい三つ首の竜が城の上空に滞空して、口先をこちらを向けている。明らかに 息吹(ブレス) 発射の予備動作、明らかに居場所が知られている。

―――キュイン!

三つ首のうちの1つの首が、生還者の居場所よりも更に先、向こう側にレーザーのような青い光線を放った。地面へと着弾させて、弧を描いていく。みるみるうちに着弾箇所は凍り付いて、氷の壁を形成していった。

「退路を塞ぐ、か。まあ常套手段だよねぇ。まあ斬れると思うけど」

ここまで来れば姿を草むらに隠す意味はない。生還者は立ち上がり、氷の壁ができ上がった方向へと走り出す。その間にも、竜の他の口は生還者を狙っている。

(これ、おじさん休む暇ないんじゃ…)

生還者はそんな事を頭の隅に置きながら、迫り来る弾丸マグマの雨を斬り伏せ、走り続けた。