作品タイトル不明
第390話 続々・祝宴 in 魔王城
―――魔王城・パーティー会場
『理由はいらない、兎も角セラ様ベル様を祝う会』と書かれた横断幕が誇らしげに掲げられたパーティー会場。装飾などが髑髏を基調としたものなのが多少なり気になったが、3日も経てば俺の感性は最早何とも思わなくなっていた。うん、魔王城はこうでなくては。
謎の理由から急遽執り行われたこの祝賀会。それでも旧友との再会を喜んだり、互いの無事を祝ったりと今の俺達にはとても効果的なものだった。丁度あっちのテーブルでは、椅子に座ったベルとアンジェが話をしているようだ。
「ねえねえ、ベルって呼んだ方が良い? それともベルっち? ベルちゃん?」
「何よ暗殺者、その呼称……」
「いつまでも断罪者なんて呼び方じゃアレじゃん。折角こんな形で再会できたんだし」
「貴女、勝手に使徒を抜けたものね」
「そ、それは言わない約束だよ! だってあの時に私の願い、達成できたんだし…… ほら、ベルりんだって結果的に使徒を抜けた訳なんだし!」
「どさくさに呼び方のバリエーションを増やさないでよ。私の場合、契約の内容に則ってきちんと体裁を整えた上で抜けたもの。貴女が黙って抜けた責任、状況次第では私が問われるかもしれなかったのよ?」
「それは、その…… ごめんなさい」
アンジェが崩れ落ちるように正座をし出した。
「……まあ、代行者はその可能性も考慮してたみたいだけれどね。だから、この話はこれで終わりよ。アンジェ」
「え、今アンジェって――― いいの?」
「私もこれで不器用だけど、セラ姉様を見ていたら変に抱えるのが馬鹿らしくなちゃったわ。その…… これからは、真っ当な友達になるんでしょ? それとも、友達だと思っていたのは私だけ?」
「ベ、ベルにゃーん!」
「呼び方はベルにしてよ…… 猫はアンジェでしょ。何よ、その猫耳? ……い、意外と手触り良いわね」
ベルはアンジェの黒フードに付いている猫耳をしきり触り続けている。うん、平穏に旧交を温めているな。良きかな良きかな。
一方、そっちのテーブルにはセラとビクトールがいた。何やらビクトールが作った料理をセラが食べているようである。
「……腕が落ちたわね、ビクトール!」
「クフフ、やはりですか。ブランクとは怖いものです」
「それもあるけど、エフィルの料理が美味し過ぎるのが主な原因かしら。すっかり舌が肥えてしまったわ」
「ええ、私も共に調理場に立って実感しましたよ。私の倍の調理速度で倍以上に絶品な料理を調理するあの姿、同じ料理人として畏怖の念を抱いてしまいました。彼女、一体何者ですか? 私の最後の記憶では、確か弓の名手でもあったようですが」
「メイドよ!」
「……それは見れば分かります」
「ケルヴィン専属のメイドよ!」
「ああ、なるほど。詰まり深く考えない方が良いのですね」
それはどういう意味なのか、ちょいと問い質したいです。
「でも、私はビクトールの『かれー』が一番好きよ。思い出がいっぱい詰まってるもの!」
「……クフフ、ありがとうございます。そんな顔を向けられては、これからも精進しなくてはなりませんね」
「うん。だから長生きしなさいよね!」
「クフフ」
セラは再びパクパクと肉じゃがを食べ始めた。どこも良い雰囲気になってお兄さん嬉しいよ。良きかな良きかな。
―――だから、ほんの少しでいいんで、その雰囲気をこちらにもください。
「聞ぃーておるのかぁ、愚息ぅー。我はこんなにぃみょセラとベルぅを愛してぇうるのだ。そのいっきゃくを奪いとぅった貴様はぁ、万死に値するのだぁぞぉー。その辺分かってぇるぅー?」
「分かってます。十二分に分かってます。だから義父さん、そろそろお酒は控えましょう」
俺は宴会になれば酒癖の悪い奴に絡まれる宿命でもあるんだろうか? パーティー開始早々に義父さんに捕まった俺は、こうして延々と酒を注ぎ合っては愚痴を聞き、骨を折られ圧迫されていた。セラと違って役得成分が微塵もなく、パワーも段違いなので残るのは悲しい思いだけだ。くそ、まさかまだ試練が残っているとは思っていなかった。酒癖が悪いと予想はしていたけど、ここまで悲しくなるとは思っていなかった。
「にゃにを言っておるかぁー。『理由はいらない、兎も角愛し過ぎてセラベルを祝う会』は始みゃったばかりではなぁいかぁー!」
呂律が回っていないのに、祝賀会の名前はキチンと言えるのな。しかも、さりげなくアレンジしている。しかしなぁ、そろそろ俺も別の場所に移りたい。俺もさりげなくアイコンタクトを試みるか。た・す・け・て!
「……ふっ」
たまたま視線が合ったベルに冷笑された。おい。
「助けてもいいけど、たぶん逆効果よ? 私もお酒に弱いし。そっちに行ったら空気に漂うアルコールにやられるわ。蹴り癖が酷くなるらしいけど、それでもいいの?」
義父さんは今、ジェラールが愛用する度数増し増しな酒瓶を片手にしている。正直、俺でも避けたい類のものだ。
「いや、いい…… そのままの君でいてくれ」
「賢明ね」
ここにきてベルやセラまで酔ってしまっては、ダメージに対して回復が追い付かない恐れがある。セバスデルともなればそれも本望なんだろうが、俺はそんな死因は嫌だ。
「ケルヴィン、呼んだ?」
「おお、我がぁ愛娘セラよぉ! 呼んだ呼んだぁー」
「セラ、ストップ! ハウス! 待てぇ!」
パーティー会場に義父さんの高笑いが響き渡る。決死の交渉を続けるそんな中、生還者の見張り役を任せているムドから念話が入ってきた。
『主、主っ!』
『くっ、どうしたっ!?』
『大変!』
『俺も大変だっ! このままだと魔王の血筋の酒癖で無駄に加護を使ってしまう!』
『それは割とどうでもいい。それよりも、生還者が牢からいなくなった! ごめんなさい!』
そのごめんなさいは言葉の前半部分に充ててほしい。ん? 生還者がいなくなった?
『いなくなったって、お前…… ムドとメルの封印はどうした?』
『それが、なぜか健在。強化した鉄格子も無事。生還者の存在だけがなくなっていた。私もボガも、あのクロト先輩も気付けなかった。これは異常事態、世界の危機!』
『ふーむ……』
結界がそのままって事は、ムドに教えた 栄光の聖域(グローリーサンクチュアリ) もそのままか。感知できなかったって事は、まあそうだろうな。おまけに牢獄の鉄格子も破られている形跡がない。逃走するには避けて通れぬこのホールにも姿を現す気配がない。本当に消えてなくなったみだいだな。
『……主、なぜそんなに冷静?』
報告を聞いても驚く様子を見せない俺に、ムドは疑問に思ったようだ。
『ああ、まあある程度は予想の範疇ではあるからな』
『え?』
『生還者の能力、『 帰死灰生(きしかいせい) 』だったか? 主(しゅ) がいる限り無限に生き返るっていう。 でもな、それは下っ端が持つにしては強力過ぎる力だろ。何のデメリットもなく、メルフィーナの加護を使い放題だぞ? そんな能力を得たのなら、俺だったらもっと上位に置くな』
『それは、まあ……』
『ギフト、能力を授けた時に代行者が生還者に嘘を教えたとか、色々可能性はあるが――― それはまあいい。メルとも話し合って、あの能力の本質は別にあると睨んでいたんだ。生還者の持っていたあの刀、クロトの保管に入らなかっただろ。保管に入らない条件を辿れば、それが答えになるかな』
『う、うん……?』
『兎も角、今は焦るな。冷静に動け』
そうムドに伝えると、俺は念話による指示を全員に拡散させた。 ……問題は、義父さんをどうやって振りほどくかだな。