作品タイトル不明
第361話 悪魔四天王ベガルゼルド
―――グレルバレルカ帝国
「はぁー、はるばる地上から無限毒砂を越えてか。やるじゃねぇか!」
シュトラ達は遠方で行われる姉妹喧嘩を肴にして、話に花を咲かせていた。何時の間にやらメルフィーナまで合流して、更に意気投合。エフィル特製の弁当とシートまで広げている。
「私はメルお姉ちゃんにおんぶしてもらっていただけよ。眠っていたからいまいち覚えていないし……」
「謙遜すんな。あの毒塗れな場所で眠れただけでも大したもんだぜ?」
「その通りです。進化の最中にいたのですから、そんな時こそシュトラはもっと甘えるべきなのです。あ、その唐揚げを取って頂いても?」
「おう、ほれ」
「ありがとうございます。んんーっ……! やはりエフィルの料理は格別ですね」
ベガルゼルドから受け取った黄金色の唐揚げを頬張り、喜びの悲鳴を上げるメルフィーナ。その傍らでハァハァと息の荒い変態はさて置き、大方和気あいあいとした雰囲気となっていた。
「まったくだぜ。悪魔は基本料理に無頓着だからな。中には意図せず上達しちまった野郎もいたが、流石にここまでの腕じゃなかった。そのエフィルって奴、うちに仕えてほしいくらいだ」
「エフィルお姉ちゃんはケルヴィンお兄ちゃんにぞっこんだから、100%無理よ。どんな大国のオファーも即断拒否だもの」
「そうか? 残念だな…… 今ならあいつの席が空いているから、悪魔四天王に紅一点が加わるチャンスだったんだが」
「悪魔四天王って悪魔じゃなくても入れるんだ……」
それならただの四天王でも問題ないのではないか? とシュトラは思うが、何分センスとは人それぞれなので安易に否定してはならないと口にはしなかった。
「それにしてもよ、さっき進化とか言っただろ? あー、シュトラだったか。人間が進化する事自体稀と聞くが、その歳で進化ってのはそれ以上に異例なんじゃねぇか?」
「そうかしら? お兄ちゃんもお姉ちゃんもお爺ちゃんも、皆私より強いから意識した事なかったなー。あ、今ならダハクくらいなら勝てるかな?」
「ふむ、いけるかもしれませんね。ダハクが帰ってきたら検証しましょうか」
「―――俺様は勇者のパーティくらいしか進化した人間を見た事がねぇけどよ、その勇者の奴らだって全員がそうだった訳じゃなかった。 ……お前ら、新手の勇者ってオチはねぇよな?」
ベガルゼルドの思い浮かべるは先代の勇者、セルジュ達の事だ。自身を葬った相手が勇者なだけに、苦手意識があるのかもしれない。
「あはは、(友達は勇者だけど私は)勇者じゃないよー」
「うふふ、残念ですが私も(女神であって勇者じゃないから)違います」
「(召喚した発端であるけど)私如きが勇者様である筈がありません」
「そうか、なら安心だな!」
念話越しに妹系二刀流勇者のくしゃみが聞こえたような、3人はそんな気がした。
「自慢じゃねぇが、俺様だって負けてないぜ? 悪魔四天王の中で 上級悪魔(アークデーモン) の壁を超えていたのは筆頭のセバスデルだけだったんだが、復活してからベルお嬢のデスマーチと称された死の特訓を問答無用で受ける事になってよ。文字通り死ぬ気で死の淵を乗り越えていたら、俺様もこの通り立派に進化よ! まあ、元々レベルが高かったってのもあるんだろうがな」
「デスマーチ? ……死の行軍。ああ、やっぱり姉妹なのね」
何かを思い出したのか、1人で納得するシュトラ。彼女の脳裏には刀哉達の苦しむ姿が描かれていた。
「というと、悪魔四天王の皆様は全員進化された。そういう事でしょうか?」
「元から 最上級悪魔(デーモンロード) だったセバスデルを除いてな。ここだけの話、グスタフ様もお嬢の特訓を受けたんだが、娘相手に良いところを見せたいが為に一番成長しちまって…… 正直、魔王だった頃よりも手が付けられなくなった」
「まあ、何という事。お兄ちゃんが喜んじゃうわ」
「娘の為に努力する父…… 家族愛とは素晴らしいものですね!」
「お前らの驚き方、俺様の予想とかなり食い違っているんだが……」
古の魔王が蘇り、更には強化されてしまった。忘れてしまいそうになるが、普通ここは恐怖するべきところである。悪魔随一の成長株、その名は元魔王グスタフ。娘に厳しく鍛えられ、喜びを覚える者っ……! そんな風に脳内変換してはならない。
「あ、そうでした。セラの父であるグスタフがいるのでしたら、あの報告もしなくてはなりませんね」
「アレの事? うーん、セラお姉ちゃんのアレは確かに避けては通れないよねー」
「何だ何だ、報告ってのは? セラのお嬢にめでたい事でもあったのか?」
「ええ、めでたい事よ。何と言ったって、ケルヴィンお兄ちゃんとセラお姉ちゃんの婚約の話だもの。ちゃんと挨拶しなくちゃね」
「ほう、そりゃあめでたいなっ! グスタフ様にセラのお嬢の婚約挨拶…… グベラブッ!」
ベガルゼルド、突如血を吐く。
「お、おじさん!?」
「……ま、待て。お願い、少し待って。今、何と言った?」
「え、えっとぉ、セラお姉ちゃんが婚約―――」
「ダッブラスキャン!?」
ベガルゼルド、血を吐きながらバク転。ショックのあまり行動原理が意味不明になっている。その動揺ぶりはガリア以上であった。
「大丈夫ですか!?」
「ハァ、ハァ…… だ、大丈夫じゃないが、大丈夫だ。それよりも不味い、それは酷く不味い! お前ら、やっぱここから早く立ち去れ。セラのお嬢と付き合うどころか婚約しようとする輩の関係者となりゃ、一族郎党グスタフ様に皆殺しにされるぞ!」
「え、ええっ?」
「グスタフ様はいつも横暴だが、お嬢達の事になるとそれ以上に暴走しちまうんだ! 女子供が相手だろうが、俺様のように容赦は絶対にしねぇ!」
「あ、やはり容赦してくれていたんですね。ありがとうございます、お医者様」
「話の腰を折るな! そして今の言葉は忘れろ! ……いいか、グスタフ様の命令となっちゃあ流石の俺様も従わざるを得ない。まだ発覚していない今なら何とか見逃せるかもしれねぇんだ。このガラクタ共が俺様の命令を聞いているうちは、命令系統の上位にいるグスタフ様にはまだバレていねぇ筈だ。おら、分かったらさっさと行きやがれ! マジで食うぞ!」
立ち上がり、腕を広げて威嚇を始めるベガルゼルド。そこにこれまでの余裕は微塵もなかった。
「……おじさん、お兄ちゃんはもう魔都の中に入ってしまったの。そう言われても、私たちだけ立ち去るなんてできないわ」
「悪りぃが、そのケルヴィンって奴は諦めろ。恐らく、そいつはグスタフ様自らが裁きを下しに行かれる。だから、諦めろ。それしか言えん」
ベガルゼルドは本気だ。この場にいたシュトラ、コレット、そしてメルフィーナ。人の感情を読むに長けた3人であるが、それとは関係なしに必死さが伝わってくるのだ。
「そっか。うん、やっぱり医者のおじさんは優しいね。でも、やっぱりその提案は聞けないよ」
「そうですね。私もシュトラちゃんに同意です。神にも等しいケルヴィン様を見捨てるなど、絶対にあってはならない事です」
同じくして立ち上がる金の賢女と銀の聖女。その手には魔力を帯びた糸が、傍らには獅子の石像ミスティッククーガーが息巻いていた。
「……馬鹿が。こうなったら気絶させてでも止めてやるよ。 悪魔の巨人王(デーモンギガントロード) となった俺様の力、歴代の魔王にも引けを取らねぇと知れ!」
むっしゃむっしゃとメルフィーナが弁当のおかわりをクロトの保管から取り出す中、熾烈な戦いの幕が切って落とされた。