軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第360話 御饒舌

―――グレルバレルカ帝国

溢れ出す闘気、覆い尽くすは殺気。悪魔四天王の1人、ベガルゼルドは笑みを浮かべながら拳を固める。足を土に沈ませ、少しずつすり動かせながら前へと進み出した。

「待った!」

「なぬっ!?」

ゲオルギウスの上に乗ったシュトラが叫び、両手を前に突き出す。唐突な待ったにベガルゼルドは前のめりに傾いてしまう。

「ど、どうした。腹でも痛いのか?」

「違うわ。別に戦う必要もないんじゃないかなと思って。そのゴーレムは話が通じなかったけど、医者のおじさんなら大丈夫そうだもの」

「ああん!? 何が大丈夫そうだって!?」

「あ、確かにそうですね。ベガルゼルド様、見かけによらず良識ありそうですし」

「お、おい、聞けって!」

「私はケルヴィンお兄ちゃんと違って無駄な戦闘はしたくないの。時と場合にもよるけど、上に立つ者として時間と資源と体力の浪費は最小限に抑えないと」

「おーい」

「それは言い得て妙ですね。平和的解決の模索は万国共通。ああ、この愛に満ちた世界を神に感謝しなくては。さあ、貴方も、さあ!」

「悪魔の前で神を説くなよ……」

ベガルゼルドを差し置いて話を進める2人。うち1人は早くもトリップし始めている。

(やべぇ奴に声掛けちまったかもしんねぇ……)

悪魔四天王、少し後悔。

「医者のおじさん、話を戻すわよ。繰り返すけど、私たちに戦闘の意思はないわ。そのゴーレムが襲い掛かって来たから、降りかかった火の粉を払っただけなの」

「さっき経験値稼ぎとか言ってなかったか?」

「ああ、ご安心を。あれは嘘でした」

「お前、地上の徳の高い聖職者っぽい装いをしておいて…… いや、まあいい」

しれっと返答するコレットにベガルゼルドは思わず呆れてしまう。

「で、本当の目的は何だ? 言っておくが、今度ホラ吹きやがったらマジで潰すからなぁ!?」

「ご忠告ありがとう。留意するわ」

「いや、少しは怖がれよ」

「私たちの目的はただ1つ、セラお姉ちゃんの里帰りの達成よ」

「はん、セラお姉ちゃんねぇ。だがな、どんな目的であろうとお前らを通す訳にはって、セラのお嬢だぁ!?」

大音量が周囲に駆け抜ける。シュトラとコレットはある程度予想していたので、耳を塞ぐ事に成功した。

「セラのお姉ちゃんってぇと、あのセラのお嬢か!? ま、待て待て、俺はまだ信じねぇぞ。嘘かどうか、幾つか質問してやる!」

「構わないわよ」

「お嬢の好物は?」

「悪魔風かれーと称した肉じゃが」

「その昔、苦手だった食べ物は?」

「ピーマン」

「お嬢が得意とする戦闘術は?」

「格闘術と黒魔法を融合させた拳術。どう? 合っているかしら?」

「マ、マジか、本当に……? セラのお嬢、よくぞご無事で……!」

ベガルゼルドの問い掛けに対して、シュトラは返答に窮する事なく全て答え切る。『完全記憶』を持つシュトラからすれば、一度見聞きした情報は絶対に忘れる事はない。今回は使用するまでもなかったが、仮に分からない質問が飛んできたとしても、配下ネットワークを通して念話でセラに直接聞けば済む手段も取れる為、確認される段階でシュトラは内心で勝ちを確信していた。

(お姉ちゃんのスリーサイズでも聞かれたら答えるべきか迷うところだったけど、無事に信用してくれたみたいね。そんな意地悪な質問はしなさそうな印象だったから、あまり心配はしていなかったけれど)

尤もその質問に対しても、シュトラは風呂場にて自身の目で確認している。セラに聞くまでもなく、実際に言うかどうかは別にして、正解を答えるは造作もない事であった。

(それにしても、医者のおじさんはセラお姉ちゃんが生きている事を知らなかったみたい。お姉ちゃんの妹と仮定しているベル・バアルから情報を渡されていないようね。このおじさんは先代勇者によって大昔に討伐された魔王グスタフの側近である悪魔四天王。経緯は不明だけど、エストリアさんに蘇生されたのは間違いない。私たちを迎撃する為に? とすれば、他の悪魔四天王も―――)

思考を巡らせながらも、シュトラはベガルゼルドの様子を不審に思われない程度に観察していた。巨体に合わせて作られたと思われる逞しい甲冑を着込んだまま、彼は目元を手で押さえている。僅かな震え、喉元の動き、その他細かな観点から演技ではないと彼女の観察眼は判断した。

「すまねぇな。しっかし、あの人見知りなところがあったお嬢をよく知ってやがる。仲良くしてくれているようで安心したぜ。セラのお嬢と一緒だったってアンタらなら、この領土のお家事情についてもよく知ってんだろ? ああ、いや…… 俺様がここにいるってのが、逆によく分からねぇ状況にしちまってんのか? あー、セラのお嬢の場合、ベルのお嬢の存在も知らないんだったか」

「ええ。お姉ちゃんからは色々聞いているけれど、率直に言えば不明な点もまだあるわ。推測がつく事ではあるけど、可能であれば情報のすり合わせをしたいの。過去に死んだ筈のおじさんが、この時代についてどれだけ把握しているのかを含めて、ね」

「……ったく、幼女の癖によく頭の回る嬢ちゃんだ。こんななりをした俺様を恐れねぇし、将来が末恐ろしいねぇ。そっちの白銀も何か底知れねぇし…… おっしゃ、知識人らしく知的な会話と洒落込もうじゃねぇか」

シュトラ達はベガルゼルドと情報を統合する。ベガルゼルドの話によれば、シュトラの予想通り悪魔四天王(ビクトールを除く)と魔王グスタフはここ最近に復活していた。しかし蘇生を施したエストリアについては知らないようで、気が付いたら生きていた、という認識らしい。

「そんで目の前にベルのお嬢がいたから更に驚いたぜ」

「ええと、そのベル様はやはりセラ様の妹さんなのでしょうか?」

「あー、お嬢達についてはグレルバレルカの機密に当たるんだが…… まあ、セラのお嬢の借りもある。お前らには教えてもいいか。妹っちゃあ妹なんだが、お嬢達は双子だぜ。一応、セラのお嬢が姉君でベルのお嬢が妹君だ」

「「……え?」」

「言いたい事は痛いほど分かるが、ベルのお嬢の前でやらんでくれよ。胸とかかなり気にしているからよ」

ベガルゼルドは語る。セラとベルは双子であり、瓜二つの容姿を持つ姫君だったそうだ。 ―――成長の途中までは。2人の容姿に差が生じ始めたのは10を越えた辺りである。悪魔はある程度年齢を重ねると、とある段階で容姿が固定化される特性を持つ。何歳でそこに至るかは個人差があり、ベルの容姿がそれ以上成長しなくなくなったのは、セラよりもかなり早かったのだという。

「お嬢らはグスタフ様の意向で、城の地下深くに作られた別々の屋敷に隠れ住む事になったんだ。当時は戦が真っ盛りな時期でよ、悪魔らしくよからぬ事を考える輩も多かった。ここだけの話、グスタフ様は愛娘に溺愛しててな。少しでも安全な場所で、情報が洩れないよう細心の注意を払っての処置だったんだ。何せ、定期的に目を血走らせながら単身で城に突撃してくる吸血鬼とかいたからな。いくらグスタフ様が撃退しても馬鹿みたいな回復力で復活するし、かなり目が狂気染みていたぜ? ……今考えれば、もしやあれが原因か? いや、まさかな!」

「世の中にはそのようなお方がいらっしゃるのですか」

「怖いねー」

妄言だったと笑い飛ばすベガルゼルドであるが、2人はその可能性も十分にあるのではないかと考察する。セラの話すお父さん像からいけば、そんなものを見せては教育に悪いとか普通に言いそうなのだ。

「さて、次に俺様がどの程度この時代について知ってるかって話だが、ぶっちゃけ殆ど知らねぇ。グレルバレルカの領土を出る事はベルのお嬢から禁じられているし、それらしい情報は何も言わねぇ。グスタフ様も相変わらず甘くてベルお嬢の好きにさせておけの一辺倒だからな。珍しく出撃命令が出たと思えば、お前らがいたって寸法よ」

「ふんふん。今の実質的なグレルバレルカの王は、ベルさんって事でいいのかな?」

「ん? ああ、そうともいえるかもな。基本的にグスタフ様はお嬢のお願いには逆らえねぇ。本当ならセラのお嬢を探しに行きたいって気持ちもあるんだろうが、それがセラのお嬢から来てくれるとはねぇ。おっと、そういやセラのお嬢の話を聞いていなかったな。この城が勇者に攻め入れられたのは俺様が他の場所で死んだ後だったからよ、正直その経緯もよく分かってねぇんだ」

「私が直接その場にいた訳じゃないけど、大まかな内容なら話せるわよ」

地上に逃れたセラとケルヴィン達との出会い、ビクトールとの約束、故郷への墓参り――― 全てケルヴィンやセラから随分前に聞いた話ではあるが、シュトラは要領よく、かつケルヴィンの好感度が上がるよう所々都合よく装飾して語る。

「うおお…… ケルヴィン、良い奴じゃねぇか……!」

結果、シュトラの策は大成功を収めた。

「なぜか生き返っちまったから墓参りはできねぇが、その代わりに盛大に出迎えはしてやれる。おっしゃ、ここは1つ俺様がベルのお嬢に掛け合ってやるよ!」

「それは大丈夫かな。今頃セラお姉ちゃんが会っているだろうし」

「む、そうか? そもそもお嬢達は自分に姉妹がいる事も知らない筈なんだが、どこでそれを?」

「つい最近に偶然知り合ったの。ほら、今じゃ―――」

―――ドガァーン!

シュトラが魔王城の先端を指差すと、その刹那に指差した箇所が盛大に粉砕された。

「あんなに仲良く遊んでいるわ。折角の姉妹水入らずなのだから、邪魔しては駄目よ」

「おおう、流石はグスタフ様の愛娘。行動までよく似ていらっしゃるぜ!」

なぜかベガルゼルドは納得してしまった。