軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第348話 約束の3日目

―――ドクトリア王国・仮拠点

グレルバレルカにて噂の亡霊を無事撃退し終えた俺とアンジェ。どう考えてもあれ以上進めば 密偵活動(デート) の範疇を越えてしまうので、一端ドクトリア王国の仮拠点に戻る事とした。探索を更に進めたい気持ちは勿論あったが、ちょっとした手土産ができてしまったし、そろそろシュトラ率いる研究班の成果も直に確認したいからな。楽しみは後に取っておく。たまにはこれも乙なものである。

仮拠点に戻ると、談話室代わりにしていた広めの一室でジェラールとリオン、そしてアレックスが寛いでいた。エフィルの姿は見えないが、恐らく買い物か調理場のどちらかだろう。 奈落の地(アビスランド) の食事は正直微妙なところがあるから、何時ものようにどこかへ学びに行った、という事はないと思う。あったとしても、それは既に 奈落の地(アビスランド) の料理ではない。昇華され、全く別のものと化したエフィルの料理だ。

「む、王ではないか」

「おかえり、ケルにい! アンねえもおかえり!」

「ウォン!」

「リオンちゃーん! ただいまー!」

速やかにリオンを抱き締めにかかるアンジェ。亡霊ゴーレムと戦った時よりも数段上のギア、そこまで迅速に抱き付かれては流石のリオンも回避できないぞ。

「ただいま。こっちは変わりないか?」

「うむ。敵襲がある訳でもなく、唐突なもめ事もなく――― むしろ酷く暇を持て余しておったところじゃ」

「街中じゃ気軽に訓練もできないもんね。アンねえ、そろそろ解放してー」

「もう少し、もう少しだけ!」

アンジェ、妹分を堪能中。

「ああ、屋敷の地下修練場のようにはできないからか」

ジェラールやリオンレベルの猛者が行う模擬戦ともなれば、それなりに場所を選ばなければ大惨事となってしまう。周囲の安全を確保する十分な強度と防音性が必要であるし、何より他人に手の内を晒すのは遠慮したい。まあ基本目で追えないだろうけどさ。

「ケルにいも華麗にスルーしないでよー!」

「いや、まあ…… アンジェの気持ちは痛いくらいに分かるからな。3日も会えなかったら尚更だ」

「ええっ!?」

むしろ俺だって順番待ちして次にやろうとしている程だ。俺たちは今、妹分を欲している。

「だよねっ!」

「じゃなっ!」

「だよなっ!」

気持ちが繋がり1つとなった俺たち妹派(孫派)3人は、拳をコツンと合わせるのであった。やや離れたソファの下で横になったアレックスが、微かに溜息をついたような気がしたが、たぶん気がしただけだろう。

「リオン様。賑やかなようですが、何かありましたでしょうか? ……あっ、ご主人様」

「よっ、エフィル。今帰ったぞ」

俺がリオンから妹分を補給していると、騒ぎを聞きつけたエフィルが部屋に入って来た。ボウルと泡立て器を持ってシャカシャカと回していたのだが、俺と目が合うと手を止めてしまった。菓子でも作っていたんだろうか? なぜか見る見るうちに顔を赤くしている。

「も、申し訳ありません! 調理場を離れて、それも歩きながら調理するなど礼節を欠いてしまいまして!」

「ああ、いいっていいって。家の中でそのくらいの事、特に気にしないよ」

むしろ料理をする女の子の姿はグッとくる。調理場はエフィルの聖域だから入りにくいし、是非とも積極的に表に出て来てもらいたい。

「うん、グッとくるな」

「ふぇ?」

「何でもない。それよりもそれ、ケーキか何かのクリームか?」

「あ、はい。メル様とムドちゃんのお口直し用デザートです」

「お口直し?」

エフィルの話を聞くに、我がパーティが誇る爆食の女神と甘党スナイパーは現在街を食べ荒らしに回っているとの事。エフィルが作っていたデザートは、言わば大方を荒らし終えた後の締めに食すものだそうだ。あの2人にとって最後に味わうもので満足できれば、地獄の食事でも空腹感を満たす条件の許容範囲になっているようだ。ちなみに誤解を生まないよう先に言っておくが、ちゃんと金を払っての食事だからな? 荒らすといっても食の需要に乏しく閑古鳥が鳴いていた店が繁盛する一方なので、逆に我が店へ我が店へと引く手あまた。その筋には崇拝される存在となっているらしい。おお、女神よ。悪魔にまで崇拝されてどうする。

「お戻りになっては不満を仰っているのですが、それ以降も毎日食べ歩きに出向いていまして」

「あ、昨日僕も見たよ。街の食事処で人だかりが出来ててさ。何だろうって覗いてみたらメルねえとムドちゃんがご飯食べてるところで…… 不味いです、おかわりっ! この菓子は未完成もいいところ、おかわりっ! って言いながら完食した皿を山にしてた」

それ、俺も知ってるよ。不味い不味いと言いながらも癖になっちゃうアレだろ? ……癖になっちゃってんのか?

「そ、そうか。好き嫌いをしないのは良い事だよな……」

「ええ、素晴らしい心掛けだと思います」

「ところで、シュトラ達の様子はどんなもんだ? 一応、約束の3日に合わせて戻って来たんだけど」

「シュトラ様方ですか? 先ほど食事を運んだ際、あと少し、あと少し…… と、コレット様と一緒になって呟かれていました。三日三晩徹夜で取り掛かっていたようです」

それ、疲労困憊になってないか……?

「ワシはしっかり休むよう勧めたんじゃが、少し仮眠すれば大丈夫と聞かんものでな」

「おいおい、そこは孫相手でも強く出てくれよ。何もそこまで急いでいる訳じゃないんだぞ?」

「じゃってー、シュトラ凄く良い笑顔じゃったしー……」

「セラねえやコレットの気迫も凄かったもんねー。話す内容も理解できなくてついて行けないし、大人しく僕たちは部屋を出るのでした。力になれなくて御免なさい」

「されど、シュトラの健康を疎かにしてしまった自責の念は確かにあった。じゃから、エフィルに3人のケアを頼んだのじゃ。ワシ、ナイスフォロー」

「エフィルにか?」

まあ、確かにエフィルであれば栄養バランスを考えた料理が作れるし、色々と気を回してくれる。人選として最高も最高、最高峰だろう。

「うん、なら安心だな」

「じゃろ?」

「あ、あの、信頼して頂けるのは嬉しいのですが、大した事はしていませんので……」

「謙遜するなって」

「そうよ! 私たち、とっても助かったんだから!」

「そうそう、エフィルはもっと自信を持って良い――― セラ、何時の間に?」

「今っ!」

気が付くと、俺の真横にセラが立っていた。心臓に悪い。

「あと、できるだけ静かにしてね。シュトラが寝てるから」

人差し指を口の前に立て、しーっ! と、セラに注意されてしまった。見ればセラの背中でシュトラが眠っていた。おんぶしていたのか。しかしセラよ、お前の登場時の声が一番大きかったぞ。

「話を戻すけど、エフィルの支援で大分作業が捗ったわ。ナイスよ」

「そ、そんな…… 私にできる事なんて精のつく食事を作ったり、より良く環境を整えて士気を高めて頂くとか、その程度で…… あとはシュトラ様に、仮眠の際に少しでもリラックスして頂けるよう、新作のヌイグルミをお渡ししたくらいです」

「それって、シュトラが今抱いているこれか?」

シュトラはピンク色の熊型ヌイグルミを抱えていた。

「シュトラ様のお身体にフィットする抱き枕兼用ヌイグルミです。 ……少し、効果があり過ぎたでしょうか?」

「すぅ…… すぅ……」

何だ、ただの天使か。

「後半、仮眠からなかなか起きない程度には効果があったわね。鋼の意思で起きてたけど」

「なるほどなぁ。コレットにも何か渡したのか? そういや姿が見ないけど?」

「転移門の前で燃え尽きてるわよ。寝袋に入れておいたわ」

ええー…… 皆どれだけ魂燃やしてたの?

「メル様よりご助言と許可を頂いたのですが、コレット様には、えっと…… メル様に終日携帯して頂いたハンカチを洗わずにお貸ししたら、その、少々心配になるまでに活力が溢れてしまいまして…… 制御し切れませんでした……」

「エフィル、何て恐ろしい事を!」

そりゃメルフィーナの私物を渡したら、コレットは馬鹿みたいに元気になるだろう。嗅覚が刺激され馬車馬のように一途に、燃え尽きるまで働くだろう。 ……本人が幸せならいいのか?

「あれからコレットの働きぶりは凄かったわね。正直、少し寒気を覚えたわ……!」

「その割にセラは元気だな?」

「セラさんは…… 特に何もせずとも元気でしたね」

「ふふ、基礎体力が違うのよ! 基礎が!」

不眠不休で若干深夜テンションっぽいけどな。