作品タイトル不明
第332話 父兄の期待
―――火竜王の塒・煉獄炎口
火竜王のお宝を頂戴する真っただ中、奴らは転移門より姿を現した。紫の肌をした、全員が異形である怪物達。転移門の先は 奈落の地(アビスランド) に繋がっている事から、こいつらは地獄の住民であると直感的に分かった。言葉にならぬ呻き声、何を考えているのか不透明である醜悪な顔つき。ジェラールがいつか語っていた悪魔らしい悪魔の、それも大群がそこにいたのだ。
「「「グギャッ、グギャギャ!」」」
悪魔達は俺らを視認するなり、酷い奇声を上げて飛び出した。獲物を前にした飢えた肉食獣のように、理性の枷を外して思いのままに。不意を突かれた形となってしまったが、俺たちは応戦を開始する。まさか、あちらからやって来てくれるとは。夢の国の住民達の歓迎、有難く満喫するとしよう!
「―――なんて思っていたんだけどな」
冒頭の期待は何であったのか。胸を高鳴らせながら真っ先に前線へと飛び出した俺だったんだが、1体2体と悪魔を葬っているうちに段々と関心は薄くなり、やがてどこか彼方へと消え失せてしまっていた。いや、だってさ――― 弱いんだもん。
最初のうちは全員で迎撃していた仲間達も、時間が経つにつれて徐々に戦線を離れていった。どう考えても過剰戦力、それが俺たちが導き出した答えだ。やがて最後に残ったのは、パーティの中で最も幼く戦闘力の低いシュトラ。そして竜王に進化したばかりのムド(青)である。シュトラは単純に経験を積ませる為、ムドは軽く肩慣らしをしてもらう為に残ってもらった。ただ今進化の最中であるボガも可能であれば参戦させたかったが、こちらはまだ休眠状態だ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。また採点よろしくねー」
「あいよー」
転移門から出現した悪魔の一団を殲滅したシュトラが、宝の山の上に腰を下ろす俺たちに声を掛けてきた。運動会で子供を応援する父兄の皆さんと完全に化している俺たちであるが、その間全く仕事がないかといえば、そういう訳ではない。鑑定眼を有する俺は敵のステータスを調べ上げ、未来を見据えるほど勘の鋭いセラが直感で物申し、察知能力全般におけるその道の玄人であるアンジェによる最終審査。あらゆる角度で興味を惹かせる悪魔がいないかのチェックをしているのだ。前線にシュトラを立たせている事だし、一応な。何より過保護なジェラールが煩いし。
「あ、ケルにい。次の悪魔がやって来たみたいだよ」
「マジかー、困ったなー。これ以上強い奴が出てきたら、万事休すだなー」
「あはは、せめて棒読みは止めようよー」
大して期待もしなくなったから演技に熱は入らないが、理性的な俺はフラグを立てる準備も決して怠らない。んー、でもこのまま雑魚しか出なかったら悲しい事この上ないぞ。頑張れ夢の国! 君らの力はその程度かっ!?
―――などと葛藤している間に次が来たようだ。
「「「グギャギャギャ!」」」
「また団体さんだー」
「主、どう?」
悪魔の容姿は変わらず紫一色。鑑定眼、発動。
「……ハズレ」
「ハズレね!」
「うん、ハズレだよ」
うん、何となく分かってた。
「そっか。ムドファラク、行くよ!」
「承った」
ゲオルギウスにぽふんと飛び乗ったシュトラが糸とゴーレムを展開。ムドは両手の人差し指を銃に見立てて、敵集団へ向けて構え始める。
ボードゲームの駒を操るように20騎以上のゴーレムを動かすシュトラは、例えるならば最序盤から詰将棋をする名手である。ゴーレム達の行動は同一のものではなく、それぞれが相違した動きをしている。砲撃による威嚇、盾による防御、槍による突貫。行動は異なれど、そのひとつひとつに敵を如何にして効率的に殲滅するかの布石が篭められており、最短の手数で最大の戦果を挙げる天才なのだ。ゲオルギウスを出撃させるまでもなく、盤面を見ているだけで今回は終わってしまいそうだ。俺も並列思考を持ってはいるが、同じ力であそこまで綺麗に倒し切る事はできないだろう。
一風変わった構えを取るムドはというと、こちらは何に影響されたのかは俺は知らない。膨大なデータが浮かぶ配下ネットワークから何かを探し出したのか、何時からかこの構えで狙撃を練習し始めたのだ。しかし光竜王の名は伊達ではなく、指先からレーザーの如く放たれる水弾や氷弾は対象を射殺し粉砕する。威力はゴーレムの持つガトリング砲を軽く上回り、連射も可能。この程度の距離であれば百発百中の精度と、さながら本物の銃を持っているかのように錯覚してしまう。ムド(赤)が使えば火炎放射器になったり、得意とする属性が銃弾になる感じかな。それでも口から吐く 竜の砲弾(ドラゴンズシェル) の方が威力もあるし正確なのは内緒の話だ。
とまあ、そんな2人が手を結べばこの程度の軍団など敵ではなく、殲滅するのに時間はそう掛からない。倒した敵の山ばかり築かれても邪魔なだけなので、殲滅に一区切り付いたらクロトに解体してもらい、目ぼしいものがなければそのまま吸収。辺りが綺麗になったところで次の敵を待つ、といったサイクルを繰り返している。
「そこじゃー! いけぇー! ワシが付いておるぞぉー!」
「これで何体ほど倒したでしょうね? 待っているだけというのも小腹がすきます」
「100から先は数えてない。数だけはホントにいるんだけどな」
B級モンスターを主体とされても今更感が半端ない。 下級悪魔(レッサーデーモン) が確かB級レベルだったっけ? ビクトールのような 上級悪魔(アークデーモン) は地獄でもそうそういないという事か…… いや、物は考えようだ。こいつらは 奈落の地(アビスランド) の序盤も序盤、それも入口である転移門周辺を放浪する雑魚でしかない。言うなれば最初の街周辺で出現するマスコット的モンスター、頑張れば村人でも倒せる小物でしかないのだと! うん。そう考えればこの大量発生にも説明が付く。
「やっぱり、マスコットではないなぁ……」
「何の妄想をしているのか分からないけど、そんな夢見る君に朗報だよ。ケルヴィン君」
審査官のアンジェが黒ローブの猫耳を揺らしながら笑顔を作っていた。
「次に転移門から現れる敵、今までとはちょっと違うかも」
「本当かっ!?」
「うん、本当だよ」
でかしたアンジェ! 明日は好きなタイミングで首を取りに来ていいぞ! そして、おいでませ!
「―――ここが地上か。思っていたよりも陰気な場所よ。ククク、そして不幸なる地上の民よ。この場に居合わせた事を嘆くのだな。まあ、どこに居ようと早かれ遅かれの違いだ」
「あ、あれ? 先行した我らの部隊は……?」
おお、これまでの悪魔達と比べ明らかに装備の格が高い、偉そうな言葉を並べる悪魔が出て来た。お伴はなぜかポカンとしているが、今はそれどころではない。鑑定眼、発動。
「う、ううーん…… 微妙?」
「スカね!」
「弱くはないけど、コメントに困るかな?」
アンジェ、これじゃ話が違う。そんな瞳でアンジェを見詰める。
「嘘はついてないよ?」
「い、いや、確かにちょっとは違うけれども……」
ミジンコレベルの差じゃないか、これ?
「ククク、見ろ。奴ら、余りの恐ろしさで硬直しておるぞ! しかし先に向かった馬鹿共め、害がないと見て放置しおったな? 悉くを我らの奴隷にするという大命を忘れおって、これは後で絞らんとならんな」
「な、なるほど……! そういう事だったのか!」
何か盛大に勘違いをしている気がする。どうでもいいけど。
「ま、言葉を喋れるようだし、周辺の地理情報くらいは持ってるだろ。選手交代、セラ」
「スカだけど、いいの?」
スカでもいいの。