作品タイトル不明
第313話 王の苦難
―――火の国ファーニス
兵の案内に導かれたケルヴィン一行は、高台に設けられた臨時の生活宿舎にて国王と対面する。国王側には大臣が、ケルヴィン側にはジャンケンで随伴権利を勝ち取ったエフィルが後ろに控える形だ。
「ケルヴィン殿、ようこそお出で下さった。何もない小さな国だが、ゆっくりしていってくだされ」
「いえいえ。突然の訪問にここまで歓迎して頂けるとは、夢にも思っていませんでした。私のような一冒険者にまで気を掛けてくださる国王様のご厚情、痛み入ります」
好意的な態度を示すファーニス王と、模範的な謁見の姿勢を取るケルヴィン。テーブルを囲い一見和やかに見える会話であるが、その水面下では相手の手の内を読み取ろうとする激しい攻防が繰り広げられていた。
(夢にも、だと? わざわざ勇者を寄越しておいて、この言い様…… やはり、事によっては問題を起こす算段か!? 国王様、油断なさらないでくだされ! 隙を突かれますぞ!)
(うーん。さっさと火山に出向きたいところだけど、海を渡って来たばかりだからな。セラやシュトラにリオンはこの国に興味津々だし、数日は休憩挟んだ方が良いか? メル用の食料も確保するとして―――)
主に、一方通行な攻防ではあるのだが。ケルヴィンは『並列思考』の一角を使い、王との無難な会話をするのみで、特に悪意はないのだ。
「それに何もないなんてとんでもない。ファーニスには素晴らしい 獲物(もの) があるではないですか。国王も謙虚なお人ですね」
「そ、そうか? よく言われるよ。ハッハッハ……」
火山に住み着く火竜王とか、 奈落の地(アビスランド) に繋がる道とか。ケルヴィンはそれらを思い浮かべながら、真っ直ぐな気持ちで褒め称えた。
(す、素晴らしいもの? 我が国でS級冒険者に狙われるほどのものなんて――― ハァッ! そ、そうか! 此奴、我が自慢の娘達を狙っているのか! 確かケルヴィン殿は勇者である刀哉の師であると言っていた。娘達は積極的なアプローチを刀哉にしていた。デラミスに帰った後、そのことをケルヴィン殿に話していたとしたら…… 漁色家として知られるケルヴィン殿がこの国に突如やって来たことに説明が付く! 娘らは妻に似て美人であるし、どこに出しても恥ずかしくないと自負している。が、しかし! 絶対に何かやらかす、やらかしてしまう! どうにかしてこの危機を回避せねば―――)
ファーニス王の明瞭な頭脳は、この短い会話から思考を不明瞭な答えへと導き出した。すかさず、大臣とのアイコンタクト。ハァッ! とする大臣。王の伝えたかった事柄は、余すところなく伝達されたようだ。
「ところでケルヴィン殿、これからの予定は立てているのか? 西大陸に来たということは、何かしらの用件があったのだろう?」
「そうですね。残念ですが、大切な用もあるので直ぐにでも出発したいのですが……」
予想外のケルヴィンの台詞に心の中で「おおっ!」と歓喜の声を上げる王と大臣。もちろん、表情に出してはいない。
「色々と準備をしたいですし…… 3日。そう、3日ほどは街に滞在したいと思います」
「……そうかそうか。かの有名な冒険者であるケルヴィン殿が、我が国に留まって頂けるとは光栄だ」
超大型台風、ファーニスにて3日の滞在決定。王は至極自然な笑顔で応対するが、裂けそうなほどに胃が痛くなっていた。タイムリミットである3日という数字は彼らにとって重過ぎた。
「では、こちらで宿の手配を―――」
「そこまでお手を煩わせることはできませんよ。歓迎して頂いただけでも、私たちのような不相応な者にとっては十分過ぎるほどです。滞在中のことはこちらで何とかしますよ」
「ハッハッハ。ケルヴィン殿は実力だけでなく、礼儀も重んじる方なのですなぁ」
予め手を打っていた宿への先導、失敗。これではケルヴィンがどこに泊まり、どこで仕掛けてくるか把握し難くなってしまう。最悪、城に忍び込み寝込みを襲うのではないか。
((可能性は…… 大いにある!))
大いにあるそうだ。最新版の冒険者名鑑を取り寄せ、勉強した甲斐があった。2人は心の底からそう思った。
「それでは国王様、私たちはこれで」
「うむ。そなたらに女神の加護があらんことを」
「ああ、そうだ。手土産に先日海で獲って来たものを外に置いておきました。友好の印としてどうぞ」
「む、そうなのか? 礼を言おう」
ケルヴィンが去った後、宿舎を出たファーニス王は浜辺に横たわる超巨大ダイオウイカ(エフィルによる〆済み)を目にし腰を抜かすのだが、今は娘達をどう抑えるかを考えるのに頭が一杯であった。
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―――火の国ファーニス・宿の酒場
ファーニス王との謁見後、俺たちは街中にまで移動して宿を取った。ダハクとムドファラクは人型へ変身、ボガはまだできないから召喚を解除して俺の魔力内に戻している。
「それにしても、兵を並べてあそこまで歓迎してくるとはなぁ。ちょっと予想外だった。土産持って来ていて良かったよ」
「俺もサービスで一叫びした甲斐があるってもんスよ! 竜の咆哮なんて、そうそう間近で聞けるもんじゃねぇからな!」
「きっとケルにいの活躍が西大陸にまで伝わってるってことだよ。せっちゃん達が宣伝してくれたのかな?」
国王や兵、街の人々も実に誠実で良い国だな、火の国ファーニス。南国っぽいフルーツも多いし、事が済んだらたまに旅行に来ようかと思えるくらいだ。
「ご主人様。これからの旅路に必要な食糧を計算したのですが、これくらいは必要かと」
エフィルからメモ書きを手渡される。むう、大陸間を飛ぶ前にもかなり買い込んで、途中の休憩でもセラが大量に魚を確保した筈だったんだけどな。我が家が金に困ることはないが、具体的な数字として見てしまうとメルを養う難しさを実感してしまう。一番苦労しているのは調理しているエフィルなんだけど。
「まずは買い出しに行かないとな」
「お兄ちゃん、私行きたい!」
「シュトラ?」
何を思ったのか、いの一番にシュトラが手を上げた。
「食料の買い物に行くんでしょ? 私、買い物って自分でしたことないの。だからしてみたい!」
「まあお姫様は自分自身で買い物しないだろうからな。だけど、買うものかなりあるぞ?」
メモ書きをシュトラに見せてやる。綺麗な字で書かれているが、何列にも及ぶ単位の桁が少々おかしい買い物メモは、どこかの軍隊で使う兵站かと勘違いしそうになってしまう。
「……覚えたよ! 荷物はクロトがいるから大丈夫だし、ね、いいでしょ?」
ああ、そうだった。シュトラにかかればメモ書きすら必要なかったんだ。
「おつかいみたいなもんかな。シュトラの良い経験にもなるだろうし―――」
「待つのじゃ、王よ! シュトラ1人では危険じゃ! ここはワシも!」
やっぱり、というか確定事項な感じでジェラールが立ち上がる。
「ジェラじい、それじゃお使いじゃないよー。それじゃあ、僕が一緒に行くよ。それなら心配ないでしょ?」
「む、リオンが? 確かに、じゃがしかし……」
勇者を打ち負かせられる2人を捕まえて、何を言ってるのお爺ちゃん? どこまで過保護なのか。
「そうだな…… ムド、お前も付いて行ってくれないか? お前の外見なら2人に混じっても自然だ。それならジェラールも納得するだろ」
部屋の隅で静かに読書に興じていたムドファラクに声を掛ける。リオンよりも少し背の高いくらいのややジト目の少女は、面倒臭そうに視線を文字からこちらに移した。今は青髪か。
「主の命令なら従う」
「別途フルーツ買って来てもいいぞ」
「承った」
ムドは勢いよく本を閉じた。