軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第312話 死神襲来

―――火の国ファーニス

「ここか?」

「ええ。勇者様より頂いた言伝では、我が国の沿岸に到着するとのことでしたので」

大臣が兵に連れられた先はファーニスの東、港に位置する場所だった。周囲を一望できる高台より海を見渡せば、船は邪魔にならぬよう端に寄り、出迎えの為の兵らが既に整列を終えていた。国を挙げてのここ数日の非常訓練の成果が無事発揮されていることに、大臣はホッと胸を撫で下ろす。

「む? 大臣、お前も来たか」

「やや、国王様!? このような前線に来られては危のうございます!」

「『死神』が相手では我が国のどこにいようと同じことよ。ならば、国王たる私が直接出迎えた方が、奴も気分が良かろうよ」

ファーニス王は首を軽く左右に振りながら、一種の諦めにも似た表情を取る。

「で、ですが…… いえ、確かに。ワシも腹を決めますぞ」

王の意思は固い。そのように読み取った大臣もまた、同様に覚悟を決めたようだ。

「それよりも、水平線にぼんやりと見えるアレが?」

「はい。恐らくは、ケルヴィン殿が乗る船かと」

2人の視線を向ける先、遠い遠い空と海の境界線上には小さな黒粒が見えていた。昼夜問わず東を見張らせていた兵は余程優秀だったのだろう。あのような小さなもの、言われて注視しなければ早々気付けるものではない。

「ケルヴィン殿は造船大国であるトラージの姫王から、再三に渡って勧誘を受けていることが分かっています。船の1隻や2隻、願い出て貰えたとしても不思議ではないでしょう」

「……いや、待て。如何に大国といえど、一度ならばまだしも、再三だと? 『死神』を自国に勧誘するとは正気か? 腹の中でいつ爆発するかもしれぬ危険物を飼うようなものだぞ」

「姫王、ツバキ様は人材讃美者ですからなぁ。リスクは承知の上なのかは知りませぬが、流石は大国の1つといえるかと」

たぶん、恐らく、かの姫王は そんなもの(リスク) など考えていないと思われるが、ファーニスの者達に彼女の真意を測る術はなかった。

「肝が据わっているな。 ……して、大臣よ」

「ははっ」

ちょっとした雑談に花を咲かせていた国王が、突然海の向こうに向けて指を差し始めた。

「船、海から浮いてないか?」

「は?」

王の疑問は大臣の目を再び彼方へと注視させるに至る。よくよく目を細めれば先ほどまで水平線上にあった黒粒が、確かにやや上方へと昇ったような、そんな気がした。

「……浮いておりますな」

「やはり私の見間違えではなかったか。あとな、大臣」

「ははっ」

「数、増えてないか?」

王の疑問は大臣の目を再び彼方へと――― 今や黒粒と呼べる大きさでなくなった物陰が、空に1つではなく3つとなって浮かんでいた。気がした、ではなく確実に。

「……トラージより3隻も頂戴したのでしょうか? いやぁ、流石は大国でありますな。最新の船は空をも航海できるとは」

「大臣、現実逃避するのは駄目だ。ここで私ら指導者が気を確かに持たねば、このファーニスに明日はない」

「も、申し訳ありませぬ。あの、国王様」

「何だ?」

「船、大き過ぎではないでしょうか?」

「何だと?」

大臣の疑問は王の目を――― 先ほどまで船影をも感じさせぬ大きさだったそれは、今ではしっかりと認識できるまでに近づいていた。予想よりもかなり速い。否、速過ぎる。大きくとも中型船程度だと思われていたそれらは巨大であり、尚且つ船のフォルムを成していなかった。

「……大きいなぁ」

「でしょう?」

この辺りで警鐘が打ち鳴らされ、兵士達に動揺が走り始める。皆が思い起こすはデラミスの勇者が打ち倒した筈のあるモンスターであった。

「大き過ぎるなぁ。船って感じじゃないよなぁ」

「国王様、現実を直視致しましょう。1分1秒の判断が国の行く先を左右します」

本来、警鐘を鳴らすなどというシナリオはなかったのだ。直ぐにでも止めなければならない愚行であると、そう頭の中では分かっている。だが、その前にやらねばならぬことがあった。

「う、うむ。だがな、大臣。これだけは言わせてくれ」

「奇遇ですな。丁度ワシも同じことを思っていたところです」

2人は大きく息を吸い込み、1秒ほど停止。後に―――

「「―――全部竜じゃねぇか!」」

そう思いの丈を吐き出した。どうも覚悟が足りなかったようである。

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ファーニスの海岸線が大きく揺れ動いた。その発生源はこの地に舞い降りた3体の巨竜によるもので、1体1体が着地する度に地震と錯覚してしまいそうな揺れに見舞われる。

(やっぱり来なかった方が良かったかも……)

どこかの王の心の声である。

さて置き、最初に降下したのは漆黒の竜であった。雄々しい翼を広げて勢いを調整し、まるで自身が王者であるかのように咆哮を上げる。避難をしてはいるが、それでも近場にいた兵などはその声だけで吹き飛ばされそうになってしまう。

次は山のように大きな岩石の巨竜。荒々しく着地した為か、この竜による振動は極めて大きく、人々の心をも揺さ振ったことだろう。その超重量級の見た目で飛ぶ原理は全くもって不明であるが、兎に角岩竜は空よりここに至ったのだ。

そして皆が最も注目したであろう、最後の竜。三つ首に異なる色を伴った堂々たる角、先の漆黒竜よりひと回り大型であるその竜は優美な白菫色を纏い、淡く、また蒼く光るラインが何本も体中に走っていた。静かなる佇まいから他の2竜との格の違いを発しているようである。各竜の背には人影があり、この三つ首の先頭には黒ローブが騎乗しているのが見えた。黒ローブが降りるのを待っているのか、他の人影が竜から降りる様子はない。

「りゅ、竜が、竜がまた攻めに!?」

「落ち着け! 竜の足に結び付けている布に描かれた紋章を見ろよ。あれはセルシウス家を示す紋章だ。この前覚えたばかりだろうが!」

「た、確かに。蒼き荊は一度狙った獲物を逃がさない意を、中心には所有物に手を出そうものなら容赦なく魂を刈り取る死神を――― 表しているんだったか。お、恐ろしい紋章だ……」

「それよりも、あの3体の竜。この前に勇者様が討伐した赤竜よりも、その、強そうに見えるんだが……」

「『死神』は召喚士って話だ。あの竜達はその配下、詰まりそういうことだろ」

「……この前の赤竜って、古竜だったよな?」

「……詰まり、そういうことだろ」

竜の襲来にざわざわと騒めく兵達。丁度その時、三つ首の背に動きがあった。黒ローブに寄り添うようにメイドが現れたのだ。兵らにとっては場違い感が拭えない光景だ。しかし、未だ黒ローブは竜の背に座ったままである。

「ご主人様、ご主人様」

メイドが黒ローブの肩に手をやり、声を掛ける。

「……ん?」

「ファーニスに到着致しました」

「ふぅあ…… ちょっと徹夜したせいで寝ちゃってたか……」

片腕を上げて背を伸ばし、天に向かって大きく欠伸する黒ローブ。

(((ね、寝てたー!?)))

どうやら寝起きのようだ。

「主、私の背で鍛冶作業はしないでほしい」

「いやあ、興が乗ってしまって――― って、あ、マジだ。もう着いてる」

幼い少女のような声が三つ首から聞こえた気がしたが、意識はそちらよりも目に見えぬ速さで竜から降下する黒ローブに注がれた。やはり彼を待っていたのか、後を追う形で続々と仲間の者達も竜より降下し始める。その中には先ほどのメイドの姿もあった。黒ローブは辺りを一度見回し、言葉を発する。

「デラミスの勇者、刀哉達から話は聞いていると思います。はじめまして、ケルヴィン・セルシウスと申します。状況を見るに歓迎して頂いているようですが、責任者の方はいらっしゃいますか?」

黒ローブは好青年のような、爽やかな笑顔を浮かべている。この馬鹿みたいに丁寧な態度、絶対に裏がある。そう兵士らは気を引き締める。

「ファ、ファーニス国へようこそ。ケルヴィン殿、王のもとへお連れ致します」

「ご迷惑をお掛けします。あ、ちなみに火竜王の住む火山ってどっちです?」

『死神』の口端の笑みに、若干の鋭利さが増した。