軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第310話 西大陸へ

―――デラミス宮殿

「忘れ物はないか?」

「ないよー」

「ゲオルギウス、おっけー」

「あはは、それを忘れたら一大事だよー」

場所を宮殿のバルコニーへ移し、俺たちは出発の準備を整える。とは言っても、いつものように荷物はクロトが一括で管理しているので時間は掛からない。強いて言うなら、姿の見えないダハクがどこに行ったのか分からないことだ。あいつ、暇さえあれば決まっていなくなるからな。念話じゃ直ぐに来るって話だったし、意思疎通で探すまではしなくていいかな。そのうち現れるだろう。

「メル様、ケルヴィン様、それに皆さまにご武運お祈り申し上げます」

「コレットも元気でな」

「一生分の幸福を頂きましたので、その点は全く心配要りません!」

「慢心はいけませんよ、コレット。定期的な休息、補給があってこその生活です。己の許容量、器を広くする努力をするように。さすれば、再び機会もあることでしょう」

「い、いけません、メル様。鼻血が……」

ああ、逆に心配なパターンだ、これ。

「ちょ、ちょっとケルヴィンさん! 本当に煉獄炎口から行っちゃうんですか!?」

大慌てで後を追ってきたのはエマである。シルヴィアや刹那達も一緒か。シルヴィア達との同行を断って即座に部屋を発ったからな。皆がポカンとする中で俺たちに付いて来れたのは、俺やメルの行動に何の疑いも持たないコレットくらいなものだ。おっと、フィリップ教皇もちゃんと反応してたな。「また遊びに来てねー」、と手を振りながら。友達か。

「ああ、ちょっと訳ありでさ。残念だけど、優先順位で考えればこっちが最優先なんだ」

「そっか。残念だね……」

「シルヴィア、諦めが早いよ! そこを何とかお願いします! この通りです!」

エマが深く深く頭を下げ、繰り返し懇願する。シルヴィア達とはこれからも仲良くしていきたいし、2人との模擬試合は実に魅力的な報酬だ。正直、喉から手が出るほどに。しかし、しかしな、時にはそれ以上に重要なこともあるんだよ。

「ご主人様。私のことでしたら、どうかお気になさらないでください」

「駄目だ。気にする」

いくらエフィルが優しくとも、こればかりは譲れない。だが、このまま出発してしまうのも後味が悪い話になってしまうか。仮にも一度は受けてしまった依頼でもあるし。うーん……

「あの、ケルヴィン師匠。俺たちが師匠の代わりに行くってのはどうでしょうか?」

「刀哉達が?」

「シルヴィアさん達にはかなり迷惑を掛けていまして…… 私もしっかり見張りますので、名誉挽回の機会を頂ければと思いまして」

「うん。今の私たちなら力になれると思います!」

「キャラが被っている。ここで私はひときわ成長、引き離す」

もしここにナグアがいれば悲鳴の1つも上げるだろうが(バルコニーまで追って来なかった)、確かに実力的には問題ない。俺の知らぬ間にセラの特訓を受けて精神面も鍛えられていたようだし、シルヴィア達の足手まといになることはないだろう。刹那には苦労を掛けることになるが、彼女がいれば早々ハプニングも起こらない、か?

「……そうだな。なら、別方面から支援するとしよう」

コレットと戯れているメルフィーナに視線を移す。念話により俺の意図に気付いたのか、メルは微笑みながら勇者達の方へと近づいて行った。

「できるか?」

「ご安心を。あなた様より幸福を頂いた私に、不可能はありません!」

「ごめん、そろそろその話は本気で止めにしよう」

メルは4人の前に立ち、何やらそれぞれに手をかざした。ぼんやりと光る白き輝きが、刹那達の首に付けているペンダントへ染み渡るように消えていく。

「以前、お前らに渡したペンダントがあるだろ? 何かあったら、それに魔力を篭めてみろ。大体だが俺に居場所が分かるようになってるから。俺らは俺らで探すが、もし先にエレンさんが見つかったらそれで知らせてくれ。逆の場合も必ず知らせるからさ」

その他にも、このペンダントには緊急時に簡易的なバリアを張る機能があったりする。まあ、今まで使われることはなかったようだから、危ない橋は渡っていないんだろう。リオンとの模擬戦の時? ああ、こっそり解除しておいたよ。一度発動したら使い切りの機能だし、もったいないだろ。

「それと刹那、これを餞別にやる」

懐のクロトの保管からあるものを取り出し、刹那に向かって放り投げてやる。

「わっと! これは…… 刀、ですか?」

「ああ。気に入ったら使ってみてくれ」

「……凄い、手にした感触に全然違和感がないです。恩に着ます」

刹那にやったのは俺が自作した日本刀だ。名は 涅槃寂静(ねはんじゃくじょう) 。鞘から刀を抜いた瞬間のみ、使用者の力量によって剣速が2倍にも3倍にも加速する効力を持つ。一時期抜刀術に憧れ作ってみたはいいが、どうもしっくりこなかった為に保管の肥やしになっていた不遇の武器である。仲間内で居合を使える者がいないことだし、前回試験のMVPである刹那にプレゼントするのがベストだろう。

「わ、いいなぁ」

「師匠、贔屓はずるい」

「こんな時だけ師匠と呼ぶな、雅。お前がひときわ成長してシルヴィアを引き離したら、まあ考えておく」

「むう」

そう、これは飴と鞭というやつだ。さあ、やる気になれ。そして強くなるのだ勇者よ。フハハハハ。

「ところで師匠、ファーニスに向かうなら俺と一緒に転移門を使った方が早いですよ?」

「いいって、転移門の使用許可は自力で得るからさ。それよりも、急に出向いちゃ向こうが驚くだろ。刀哉、ちょっと転移門でファーニスの国王に顔を出して、お邪魔すると先に知らせてもらえるか?」

「お安い御用ですよ。任せてください」

「コレット、刀哉に転移門を使わせてもらってもいいか?」

確認しようとそちらを見ると、セラとリオンがコレットの隣にいた。

「鼻血、止まらないわね……」

「コレット、首トントンするよー」

「それって意味ないらしいわよ?」

「え、そうなの?」

「ハァ、ハァ……(ぐっ!)」

「そうか。使って良いってさ」

力強くオーケーのハンドサインを出しているから大丈夫だな。うん。

「ケルヴィン」

「ん?」

「グッドラック(ぐっ!)」

「お、おう。シルヴィアもグッドラック」

……やりたかっただけだろうか?

「ご主人様。エリィ達に暫く留守にすると連絡しませんと」

「あー、そうだったな。西大陸に渡って 奈落の地(アビスランド) に行くんだ。屋敷も長い間空けることになるからな…… よし、一度屋敷に戻ろう」

西から東へ方向転換。何、僅かな差だろ。そういやダハクはまだか……?

「てめぇ、ケルヴィンの兄貴とセラ姐さんを馬鹿にするとはふてぇ野郎だ! どこの馬の骨だ!?」

「っは、『凶獣』の二つ名を持つ俺を知らねぇだと? 見た目通りの無知っぷりだなぁ!?」

「2人とも、止めてくださいよ……」

……来たのは良いが、言い争うダハクとナグアを止めるようにアリエルが間に入っている。不良気質で似た者同士な2人であるが、どうも磁石の同じ磁極のように反発してしまうらしい。

「あ、ナグアさん! 俺も一緒にエレンさんを捜すことになりました! これからよろしくお願いします!」

「……は?」

「お、おい、お前大丈夫か? ……おい、おい!?」

ナグアが停止してしまったが、今はそっとしておこう。たぶん、あの不良同士はダチになれる。

「ハァ、先行きが不安だなぁ…… ケルヴィンさん、せめてトラージから船で行ってはどうですか? 流石に大陸間を飛んで行くのは無理がありますよ?」

「心配するなって。エマの気持ちは分からなくもないけど、万が一の時は氷の島でも作って休憩しながら行くからさ。それに、こいつもいる。なあ、新光竜王?」

広々としたバルコニーに出現する巨大な魔法陣。次いで出でるは―――