軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第307話 仲違い

―――神聖騎士団宿舎・訓練場

無事仲直りを果たしたシュトラとシルヴィア、エマ。心温まるこの気持ちを胸に深く刻み付け、少しの間だけ親友水入らずのひと時を作ってあげようと、休憩時間を挟むこととした。コレットも和に加わってはどうかと聞いてみたが、見たこともない笑顔で丁重に断られてしまった。アレは本当にコレットなのかと疑ってしまう程に綺麗な笑みに俺驚愕。昨夜見せた真逆の笑みは何だったのか。

「ですが! ケルヴィン様が私にご命令くださるのならば、喜んで突撃致しますが!?」

「………」

そして次の瞬間に見せたいつもの笑顔に2度目の驚愕。止めろ、ハァハァするな。

しかしなぁ、やはり仲直りするには素直に謝るのが一番だよな。考えようによっては、この流れは正に好機。昨夜の過ちをエフィルに謝罪するには今しかない。祈るような姿勢で懇願するコレットの熱狂的な笑顔を眺めながら、並列思考を働かせた俺は早速これを実行に移したのである。

結果から言えば、エフィルはすんなりと許してくれた。というか、許す許さない以前に全く怒っていなかった。エフィルが悲しそうな表情をしていた理由。それは――― 俺がいつもよりも疲れていたから。言ってしまえば、エフィルは単純に俺の身を案じてくれていたのだ。

「浮気、ですか? ご主人様が幸せになるのでしたら、私にとってこれ以上の幸福はありません。それよりも、もっと活力が湧く料理を食べて頂きませんと……」

エフィルさんや、どれだけ懐が深いんですか? 浮気を許容した上でむしろ後方支援してくれるとか、逆に俺が心配になってしまうよ? いや、浮気なんてする気はないのだが。今回は不慮の事故というか、俺が被害者だったというか、まあ責任は取らねばならないんだよな。

―――で、問題はここからである。そう、本当の試練はここからだったのだ。エフィルに謝罪をしているところを、超が幾つも付く一流の諜報員であるアンジェに聞かれてしまっていた。筒抜けとなった情報はセラへと流れ、こうなる。

「ケールーヴィーンー!」

「……あはっ」

「待て、話せば分かる! 分かる筈だ!」

バキバキと拳を鳴らすセラと、静かにダガーナイフを抜くアンジェ。俺は無心で静かに、流れるように土下座の姿勢へと移行しようとしたのだが、護身が完成に至る前に首根っこをセラに押さえられる。そしてズルズルと連れ去られる俺。行先は神聖騎士団が使用する施設の1つである訓練場。大国が抱える騎士団だけあって、設備も見事なものだ。広さだけなら地下修練場と同じくらいある。お膳立ては終えているようで、人払いも既に済ませてある。これなら多少の無茶も効くかなぁ。などと思案する俺はほぼ諦めモード。そうして始める公開処刑。

「か・ん・ね・ん、しなさいぃ!」

「誰がするかぁー!」

周囲に渾身の 螺旋護風壁(ヒーリックスバリア) ・ Ⅱ(デュアル) を張り巡らせ、セラの拳に対抗する。同時に説得を試みるも、真っ赤に燃え盛るセラの鋭い瞳に後ずさりしそうになってしまう。やべぇ、やべぇよ。セラの奴、本気だ。

セラが纏うは深紅の装甲、 魔人紅闘諍(ブラッドスクリミッジ) 。肥大化した拳に 黒金の魔人(アロンダイト) が適合、黒光りしていたその手甲までもが紅く染まり、まるでセラの感情と連動しているようだ。

そんな物騒な拳に俺は掴まりそうになった訳で、風のバリアで絶賛防衛しているところなのである。なんだろうな、この構図。林檎を握り潰そうとする場面に似ている。無論、林檎役は俺。 螺旋護風壁(ヒーリックスバリア) ・ Ⅱ(デュアル) がセラの掌の表層をガリガリと削り抗うも、尋常ではない圧力が不変的に迫る恐怖が何とも言えない。俺の周囲を風に乗った血飛沫が舞うところなんて、さながら林檎の皮むきだ。実体のない流れ行く風の結界だから良かったものの、これが 絶崖黒城壁(アダマンランパート) だったなら、『血染』の有無を言わさぬ命令で即座に崩壊してしまうところだろう。ええい、林檎の意地を見せてやるよ!

と、粋がってはみたものの、この状況はあまりよろしくない。バリアの外郭から迫るセラの握り締めももちろん脅威だが、真に厄介なのはバリアを展開したことによって、この場に縛り付けられてしまったことだ。なぜかって? そりゃあ―――

「取った!」

「取らせるかっ!」

この激風と血が跋扈する危険地帯だろうと、アンジェは関係なしに突貫してくるからだ。俺の 螺旋護風壁(ヒーリックスバリア) ・ Ⅱ(デュアル) を歯牙にもかけない様子ですり抜け、手に握ったダガーナイフを振るってくる。幸いにもアンジェは俺のパーティメンバー。マップ上に位置が表示されている為、並列思考による咄嗟の判断で如何に素早かろうと奇襲には至らない( 風神脚(ソニックアクセラレート) 付与状態だと至っちゃう)。冷静に、黒剣アクラマでナイフを受ける。思考を分割してセラを注視するのも忘れずに。

「ケルヴィン! 恋人の私よりも先に、違う人に手を出すってどういうこと!?」

「だから、誤解だと言うにっ!」

『遮断不可』のスキル、エストリア戦でも大活躍だったそうじゃないか。分かる、分かってるって。だから執拗に首を狙うのは止めろ。長剣とダガーナイフじゃ剣速の差で捌き切れないんだって。さっきから絶妙に掠ってるから!

「 地表爆裂(クレフトデトネーション) ・ Ⅱ(デュアル) !」

このままではジリ貧。バリアの内部から地面を爆発させ、セラの握り締めによる拘束をほんの一瞬浮かせる。拳が開かれるのはごく僅かの時であったが、これを見逃せば死ぬ。 風神脚(ソニックアクセラレート) 全開でバックステップ。2人から全力で距離をあける。お前ら、本当に人の話を聞かないのな。

「メルねえ、助けなくていいの?」

「そうですね。私が発端な感じもしますし、そうしたいのは山々なのですが…… ほら、あんなに楽しそうにしているところを邪魔してしまっては、ねぇ?」

「やっぱりそう見える? ケルにい、口ではああ言ってるけど、口の端は正直だもんね」

遠くで会話するメルとリオンの声を聞き取る。口の端、口の端…… 指先で自分のそれをなぞれば、確かに口端が上がっていた。うん、分かってる。不謹慎だけど、めっちゃ楽しいんですよ、今!

「セラさん、このままじゃ駄目だよ! ケルヴィン、普通に喜んじゃってるし、これじゃお仕置きになってないよ! むしろご褒美だよ!」

「困ったわね。あんな爽やかな顔を見せられたら、無意識に手加減しちゃいそう」

「そっち!?」

これだけは言っておくが、このお仕置き目的で浮気することは絶対ないからな。俺が求めるは後ろめたい気持ち抜きの純粋な駆け引きなんだ。これはこれでアリとか決して思ってないからな! さ、早く続きをやろうか!

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―――戦闘開始より、10分少々が経過。

「何だかんだでスッキリしたわね!」

「そうだね~。でも最初は内心驚いちゃったよ。セラさん、本当に本気なんだもん。怒る気持ちは分かるけどさ」

そこには晴れやかな笑顔を浮かべるセラとアンジェの姿があった。そしてその足元にはボコボコのズタボロにされた、ケルヴィンこと俺の亡骸が倒れ伏している。流石に1対2じゃ勝負にならなかったよ……

「ううん、別に本気で怒ってる訳じゃないわよ? ただ、こういうのを一度やってみたかったのよ。ほら、本にも書いてあるじゃない? 喧嘩するほど仲が良いって!」

「えっと、詰まり?」

「喧嘩を乗り越えた私たちとケルヴィンの仲は、これでより深まったということよ!」

「ほ、本当に!? やったー!」

セラとアンジェは両手でハイタッチをして、パァンと小気味良い音を鳴らす。要はもっと仲良くなりたいという、可愛らしい本心だったのね。男として悔いはない。悔いはないさ。

「さ、あなた様。次は私の番ですね」

「その次は僕ねー」

「あ、あの、ご主人様。でしたら私も……」

完全武装の3人が入れ替わりで現れた。どうやら、俺はここで倒れる訳にはいかないらしい。平等に愛するとはそういうことだ。俺は白魔法で回復しながら、懸命に立ち上がるのであった。