作品タイトル不明
第296話 招待
―――英霊の地下墓地・第10層
それを例えるとするならば、蒼き溶岩の大噴火。宙に飛び上がったうちの片割れ、エフィルが業火を灯す 火神の魔弓(ペナンブラ) より放った矢は、過去に朱の大渓谷で見せた 飛矢爆雨(フルミネーションレイン) であった。しかし、以前とは異なる点が2つある。
1つは、竜騎兵団を相手にしていた際に放った矢は1本であったことだ。山なりに飛ぶ紅蓮の矢より舞い落ちた火の粉。それが爆発してトライセンの竜や兵を苦しめたのに対し、直打ちは基軸となる紅蓮の矢自体をスコールの如く放ちまくる荒技中の荒技なのだ。当然ながらその爆発は火の粉の比ではなく、破壊に次ぐ破壊を容赦なくもたらす。そして爆撃音も連射仕様なので近くにいる仲間も注意が必要だ。
2つ目は、固有スキル『蒼炎』によってその全ての威力が更に向上している点。ただの 飛矢爆雨(フルミネーションレイン) ・直打ちでさえ地形を変え、一片の塵も残さぬ威力を秘めている。 飛矢極蒼爆雨(メルトフルミネーションレイン) の直打ちともなれば、相手にとっては悪夢でしかない。火に対する耐性スキルを持っていようが、そんなものは全く意味を成さないだろう。この場は溶岩に住むモンスターも裸足で逃げ出す危険地帯と化している。
『ご主人様!』
『ああ、手を止める必要はない! 今日は入れ食いだな!』
蒼炎の地獄に追い打ちをかけるは、同じく宙にて魔法を解き放つケルヴィンである。 Ⅱ(デュアル) の更に上をいく 重風圧(エアプレッシャー) ・ Ⅲ(トリプル) は、最早重力による拘束用魔法ではなく圧殺目的の攻撃魔法へと転じていた。一面に拡がる超重力の檻に死角などなく、その場に存在するものに等しく死を与えるのだ。
―――ちなみに、シスター・アトラはその最中にいたりする。
『おいおい、アンジェの話を聞いてやって来てみれば、まだ古の勇者様が残っていたんじゃないか。メルフィーナ、嘘を付くなんてらしくないじゃないか!』
喜びを隠しきれないようで、つい語尾が上がってしまうケルヴィン。本気で嬉しいのだろう。
『あなた様、私がお知らせしていたのは…… いえ、これは私からのサプライズです! あなた様が喜ばれると思いまして!』
『マジか!』
それにメルフィーナはちゃっかりと乗っかった。女神様もなかなか逞しい。そんな漫才をしている間にも爆撃と圧死魔法は暫く継続され、エフィルのMPが切れるに差し掛かることで漸く中断されるのであった。人という者は不思議なもので羽目を外し過ぎた場面に出会うと、ふと冷静になるもの。 完膚なきまでのド派手な攻撃を見詰めるリオンやアンジェらは、そういえばシスター・アトラがあの中にいたような…… と、冷や汗をかき始めていた。
「ちょっとちょっと! 私は兎も角、こっちにはシスターさんがいるんだよ!? 正気!?」
思ったよりも常識人な台詞と共に黒煙の中から飛び出したのは、アトラを脇に抱えたセルジュだった。最強の勇者も死の雨嵐の中を無傷で進むのは無理だったようで、純白の外装がところどころに焦げている。その程度で済んでいること自体が脅威ではあるのだが、抱えられたアトラも無事であることを確認したリオンらは、こっそりと安堵した。
『ご主人様、爆炎の中で幾つかの盾のようなものが展開されるのが見えました。おそらく、その盾に防がれたのかと』
『あの勇者様の別の能力かもな。シスター・アトラを指して聖槍イクリプスの回収とか言ってたから、護りに移行するとは思っていたが…… 予想よりもダメージないなぁ!』
今だとばかりにコクリとMP回復薬を飲むエフィルと、口の端を更に吊り上げるケルヴィン。光竜王との戦いの熱がまだ冷めていない為か、少しばかりテンションがおかしな方向に向かっている。
「はじめましてだな、セルジュ・フロア。人質なんて置いて俺と戦え」
「えっと、人の話を聞かないタイプなのかな? 暗殺者、彼氏は慎重に選んだ方が良いと思うよ。純真な私が言うのも何だけど」
「いや、普段はもっと冷静な筈で……!」
世界最強という言葉がケルヴィンを微妙に惑わせている。とまでは口が裂けても言えないアンジェ。流石に使徒であった時も、ケルヴィンがここまで戦闘馬鹿だったと報告はしていなかった。
「あ、やっぱりこの人なんだ? 祝福したいのは山々なんだけどなぁ……」
「そんな顔しないでよ!」
墓穴を掘ると同時に哀れまれ、アンジェは取り乱してしまう。
「それと君、このシスターさんが人質って言ったけど、違うから。この子はれっきとした私の目的の1つ。置けと言われても素直に置けないな」
「じゃあ、そのままでいいや。俺と戦え」
「暗殺者……」
「だからそんな顔で私を見ないでって!」
アンジェの顔は真っ赤である。
「……戦う、戦うか。悪くはないけど、今ではないかな。最初に言ったよね? 私は戦いに来たんじゃないんだ。暗殺者に会いに、この子を回収しに、ただそれだけ――― あ、もう1つあったっけ。死神、ケルヴィン・セルシウス」
「何だ? やっとその気になったか?」
「違う違う。君達を私たちの根城に招待するよ。まあ招待状とかはないし、場所も自力で見つけてもらう条件付きだけどね。無事に見つけられたら私自ら相手してあげる。勿論、満足いくまで。ヒントは悪魔の地、 奈落の地(アビスランド) のどこか。そこに代行者の聖域があるんだ。ふふっ、神の使徒が集う根城が悪魔の地にあるなんて、皮肉なものだよね。ま、いいや。それでね、特に転生神メルフィーナ。貴女には是非とも来てもらいたいな」
「……私に?」
「そ、これが代行者からの伝言だよ。詳しいことは反魂者に聞いてね。よし、3つ目も完了!」
うんうんと頷き、次いで彼女は倒れ伏しているエストリアに視線を向けた。
「反魂者、流石の私もこの状況で2人背負って逃げるのは骨が折れるんだ。できなくもないけど、この子は絶対連れて行かなくちゃだから――― だから、置いて行くね」
「……構わない、わぁ。あとは、勝手に生きる、からぁ」
「うん、好き勝手に生きなよ。ただ、代行者が転生の際に与えたギフト『反逆の徒』は返してもらうよ」
「……残念ねぇ」
その瞬間、エストリアの体が僅かに光ったように見えた。
「じゃ! 私はこれで!」
見届けるや否や、話は済んだとばかりにアトラを抱え直すセルジュ。しかし、階段への道はケルヴィン一行に塞がれている。
「おい、上層に繋がる階段は俺らの後ろにあるってのに、どうやって帰るつもりだ?」
「本当にやる気満々だねー。でもさ、道はそこだけじゃないよね」
「何?」
刹那、一行の全員が一斉に 上(・) を向き、エフィルに至っては矢を放った。しかし、跳躍したセルジュには不幸にも当たらない。
「そこの黒騎士さんが作った道が、さ! 全力で逃げる私は手強いよ!」
セルジュが上って行くのはジェラールの 天壊(テンガイ) によって開けられた大穴である。貫通に貫通を重ねたそれは、上層の階にも繋がっている訳で。そして大穴はノーマークだった訳で。この瞬間に行われる念話。
『王よ、ワシのせいっぽい?』
逃走したセルジュの姿に、見る見るうちに口角を下げていくケルヴィン。明らかに盛り下がっている。
『……いや、お蔭で冷静になれた。セラに連絡後、俺らも追うぞ。あと、そこの使徒は―――』