軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第271話 獣王の教え

―――ケルヴィン邸・地下修練場

私たちに向かって剛速球の如く飛来する奈々。正面から受け止めては私や刀哉は大怪我を免れない。なら、躱す? 確かに回避は可能。しかしその選択肢を取った場合、あの勢いのまま奈々は地面に衝突してしまう。コレットの秘術を施された奈々であれば、試合からリタイアすることはあっても死ぬことはないだろう。気絶してるし、痛みを感じることもないと思う。 ……でも、例えそうだとしても、そんな選択はしたくない。

「刀哉、奈々を迂回して先に行って!」

「おい、そんなこと―――」

「奈々は何とかするから!」

「……っ! 分かった!」

私を信頼してくれたのか、刀哉は奈々が飛んでくるであろう範囲から逸れた。雅はリオンちゃんが奈々を投げ飛ばすのを確認するや否や、鬼で攻撃を仕掛けたみたい。鬼の拳を剣で受け止める剣戟が聞こえてくる。

「雅っ! 奈々を受け止める使い魔を作って!」

「今、戦闘中。人使い荒い」

愚痴を言っているみたいだけど、頼めばやってくれるのが雅だ。現に―――

「 骸骨旅団(スカルブリゲイド) 」

戦いながらも魔法を唱えてくれた。雅の詠唱後に現れたのは武器を持たぬ骸骨の大軍。確かこの魔法は依り代を必要とせずに骸骨兵士を生成する魔法だ。量は多いが質が悪い。逆に捉えよう、質より量と。ただ、このままでは奈々を受け止めることはできない。

「 茱萸変化(スライムトランス) 」

次に雅は大量の骸骨の1グループをスライムの姿へ変化させた。プニプニと弾力に富んだスライム集団が密集していく。仲間にしか使えないネタ魔法とばかり思っていたけれど、これで受け止めるクッションの準備は整った。後は私が―――

「―――奈々を、放してもらうわっ!」

奈々との衝突の間際、紙一重の間隔で躱して雷の線を注視する。触れるのは一瞬、雷電が刀に伝わる前に事を済ませば、或いは。

―――キン。

鞘に納めた刀が心地良い音を奏でる。抜刀、終了。不安定な体勢からの居合いだったけど、私が思い描いた通り上手くいった。『斬鉄権』の行使で雷を完全に奈々から断ち斬り、スライムが密集した緩衝材で奈々が受ける衝撃を吸収。気絶はしたままだけど、奈々を助け出すことに成功した。

「雅、待たせたなっ!」

「遅い」

戦線に復帰した刀哉に雅が文句を言っているけど、あれは内心嬉しい時の表情かな。ずっと一緒にいたから何となく分かる。

刀哉は直ぐにリオンちゃんとの接近戦に参戦。雅が操る鬼との連携で猛攻を仕掛け、押して押して押しまくる。が、恐ろしいことにリオンちゃんは刀哉の2振りの聖剣を、鬼の凶悪な拳を、隙を見て放たれる雅の黒魔法を全て捌いて見せた。笑顔のまま表情を崩すことすらしない。黒剣の強度も尋常ではないようで、真正面から鬼の拳を受けてもビクともしない。えっと、私たちが攻め手となった筈なんだけどな……

「奈々は無事よ! 私も今から行く!」

「おう!」

あれから刀哉は一度も後ろを振り向くことはなかった。せめて安心させてあげないと。戦力的には微妙かもだけど、骸骨の使い魔も大量にいる。私より戦線へ到着するのは遅れるだろうけど、戦争は数って言うし大いに役立ってもらおう。

「ごめんね。そこ、もう仕掛け終わってるんだ」

「何がだっ!?」

「 罠(トラップ) 」

―――ガガガガガガッ!

直後に、私の背後で凄まじい金属音がした。嫌な予感がしながらも、『天歩』を使って方向転換しながら後方を確認する。

「……嘘」

一言で表せば、全てが粉々になっていた。 骸骨旅団(スカルブリゲイド) で呼び出した骸骨の集団も、 茱萸変化(スライムトランス) で変化させたスライムも。そして、あの血だまりは―――

「本気めの 斬牢(ざんろう) 。使うかどうか分からなかったけど、仕掛けておいて良かったよ」

罠…… 奈々が着地したあの場所は、確かリオンちゃんが最初に陣取っていた場所。詰まり、予め攻撃をもたらす何かを仕掛けていたってこと? あの短時間で? どんな能力?

奈々がリタイアし、結界の外へと飛ばされる。観客席に座らされるように到着した奈々は、目をパチクリさせて何が起こったのか分からない様子、それが救いだった。

「その鬼さんもそろそろ限界みたいだね? 何回も僕と打ち合っちゃったし……」

「要らぬ心配。私の 大黒屍復讐鬼(グレイブデスオーガ・リベンジャー) は無敵」

「ぐ、ぐれいでり……?」

「違う。 大黒屍復讐鬼(グレイブデスオーガ・リベンジャー) 」

「……鬼さーんこーちらー」

「誤魔化すなー!」

「お、おい!」

お気に入りのフルネームで呼んでくれないことに腹を立てた雅は、迅雷のようなバックステップで後退するリオンちゃんを追撃し深追いしてしまう。刀哉も急いで追いかけるが出遅れる。また、嫌な予感がする。気のせいかもしれないけど、鬼の動きも鈍くなっているような…… 疲れなんて知らない筈なのに。

「雅、深追いは駄目よ!」

「分かってる。適切な距離で追い駆けている」

意外にも雅の声は冷静だった。見た目ほど頭に血が上っていなかったらしく、雅は鬼に着かず離れずの位置取りで追い駆けさせていた。これであれば、リオンちゃんが何かしようとした際に対応できる。なら、この感じは?

「逃げるのなら、 罪人の重し(フェレニークラッシュ) で動きを―――」

事が起きたのは雅が魔法を詠唱しようとしたその時だった。雅の操る鬼、 大黒屍復讐鬼(グレイブデスオーガ・リベンジャー) の両腕が落ちたんだ。刃物で斬られたかのように、すっぱりと。

「なっ!?」

雅が驚こうとも、突如起こったこの事態には鬼も流石に対応できなかった。両腕を行き成り失ってしまった鬼はバランスを崩して転倒してしまう。

「雅っ!」

「不用意に近づかない! 何か来る!」

雅のもとへ駆け寄ろうとする刀哉を無理矢理に引き止める。あれだ。私がさっきから感じていた、嫌な予感の元凶。剣の軌跡のような線が2つ、空中に留まっている。私の察知スキルが危険な箇所を具現化させ、そのように見せている。可視化し、そのように見せる程に危険だと。

「飛べ、 空顎(アギト) 」

「……! 全力で横に跳ぶっ!」

停止していたそれが動き出す。両脇に向かって二手に分かれるように、私と刀哉が跳躍する。凄まじい威力を誇った飛ぶ斬撃が、地を深く抉りながら放たれた。あと少しでも回避するのが遅れていたら…… 考えたくもない。

そうしている間にも、リオンちゃんは雅の眼前に迫っていた。地に降りた雅はそのまま鬼を迎撃に向かわせたようだけど、既にその胴は2つに分かれてしまっている。代わりに、鬼の亡骸は魔力で溢れていた。

「鬼さん、僕とはちょっと相性が悪かったかな。打ち合う度に弱体化してたし」

「 終焉無き責め苦(デッドエンドクラッシュ) !」

雅のA級黒魔法が炸裂し、黒きエネルギーの放出が一帯に広がる。鬼の亡骸に残る魔力を爆発させる、言わば自爆技。アンデッドだから時間をかければ復活させることが可能だけど、あの鬼ともなれば本当に長い時間が必要となる。跡形もなくすこの魔法の触媒に使ったら尚更そうなる。でも、雅は迷わずそうした。たぶん、そうしないと勝てないと思ったんだ。

「やったか!?」

「刀哉、わざとっ!?」

私でも分かるようなフラグを立てる刀哉に思わずツッコミを入れてしまった。それがいけなかった。ほんの数秒、視線を逸らしてしまったんだ。

「残念だけど、フラグがなくとも回避してたかなー。発動前の分かりやす過ぎる魔力の動きがなければ、掠りはしたかも」

「……無傷、かよ」

雅が、リタイアしたみたいだ。視線を戻した瞬間と、雅が結界の外へ飛ばされるタイミングが一緒だった。そして、リオンちゃんの黒衣にはダメージの痕がひとつもない。この様ではぐうの音も出ない。おまけにリオンちゃんの周囲には、先ほどの停止した斬撃が1、2、3――― 数えるのを止めよう、10以上ある……

「刀哉、私が道を作るから、後に続いて」

「無理するな、って言っても無駄だよな。分かった、最善を尽くす」

風の妖精の補助によって、私の素早さに僅かな補正がかかる。幾分かましな程度、それでも私にとっては心強い。ふう、私の仕事は刀哉の道を作ること。『斬鉄権』でなら、あの斬撃もいける。いけるんだ。いかないでどうする!

「 霹靂の轟剣(ジェネレイトエッジ) 」

リオンちゃんの黒剣が轟き出した。どうしよう……