軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第223話 吹雪と嵐

―――ガウン・総合闘技場試合舞台

円状の舞台が砕破し、真っ二つに割れてその両端が跳ね上がる。空に舞い上がった舞台はやがて重量の影響を受け、落下。ズガァンと凄まじい音が大地を揺らす。飛び散った大小様々な破片が結界に遮られるが、間近にいた客席の観客達は咄嗟に腕で庇う動作を一様に取ってしまう。後はスケールの異なる凄まじさに、ただただ唖然とするばかりである。

「クスクス…… まだこんなものを隠し持っていたのですね」

「保険は常にかけて置くもんだろ。あとその笑い方止めろ。エフィルはもっと可愛らしく笑う」

土煙が晴れると、分断された分厚い舞台の間にて剣と剣とで拮抗するケルヴィンと獣王の姿がそこにはあった。ケルヴィンの持つ長剣を護るように、2本の 剛黒の黒剣(オブシダンエッジ) が左右から獣王のバスタードソードを遮っている。黒剣を動かす出力はケルヴィンの魔力に比例して伸びていく。どうやらこの方法でなら獣王のパワーにも対抗できるようだ。

(舞台の交換前に、表面上に 束縛の毒泥沼(コンタミネートバインド) を施して隠蔽したりもしたんだが、この真っ二つの状態だと使えないなぁ…… 勿体無い)

獣王も獣王だが、 こちら(ケルヴィン) は こちら(ケルヴィン) で十分に汚かった。

「持ち込める装飾品はひとつまでじゃなかったのか? そんな古風な札を持ち込んだ上で変身するなんてさ」

「私はルール違反はしていませんよ」

「ハァ…… やっぱり変身能力は国宝の効果なんかじゃなくて、獣王の固有スキルってオチかよ」

「ご名答っ!」

ギィンと互いの刃を弾き返し、間合いを空ける。いつの間に回収したのか、獣王の手には投擲したバスタードソードが戻っていた。更によくよく見れば、そちらだけではなく両方の刀身に札が貼られている。

「札も2枚あるように見えるけど?」

「2枚ではありません。 ……と言っても納得されないでしょうね。この札は『封刻印の神札』と言いまして、大戦終期の停戦協定の際にトラージより友好の証として頂戴したものです。その特性はお見せした封印効果の他にも、まだありまして―――」

獣王が片方の大剣を掲げると刀身に付着する札がぶれ、ハラリともう一枚の札が舞い落ち、露出した地面へと落下した。

「―――周囲にいる 生命体の数(・・・・・) だけ、その枚数を増やすのです」

「周囲の……!」

その言葉を聞いたケルヴィンは舞台の外側、観客席を横目に見て考察する。

(この闘技場には今、一体何人の人々がいる?)

地面の札が途端にバラバラと増殖し、空中に舞い上がっていく。紙吹雪、その例えが最も適しているだろうか。

「……随分と、この闘技場におあつらえ向きのアイテムじゃないか」

「さて、何のことでしょうか? ちなみにこの札、一枚一枚の効果も強力ですよ。実際に受けた後ですから理解されているでしょうが」

「まあ、そこそこな!」

ケルヴィンは会話の最中に影ながら配置していた黒剣らを解放する。獣王は初弾のみを弾き、後列に位置していた 剛黒の黒剣(オブシダンエッジ) に封刻印の神札の札束をぶちまけた。すると札は剣に吸い寄せられるように付着し、その瞬間に 剛黒の黒剣(オブシダンエッジ) は途端に勢いをなくして墜落してしまった。幾本の黒剣が金属音を鳴らしながら獣王の横に転がる。

「鉛のように動かなくなるでしょう? これがこの札の力―――」

「それだけか? まだ何かあるだろ?」

「っ!?」

風神脚(ソニックアクセラレート) を全開にしたケルヴィンが獣王に迫る。札の吹雪などお構いなしに、正面から。当然、宙に漂う札が立ちはだかる。が、ケルヴィンや長剣に触れようとする札は、ミキサーに掛けられるように粉砕されていった。間合いに入ったところで瞬時に放たれるケルヴィンの長剣。獣王も2本の得物でそれを受け止めるが、ガリガリと削られるような感触が手に伝わってきた。

「ほら、闘技場の武器にしては頑丈過ぎるだろ? 単純に防御力強化もされるんじゃないか、この札」

「クッ、クスクス。本当に目敏いお方……!」

どんなに頑強な名剣であろうと 剛黒の黒剣(オブシダンエッジ) とあれだけ打ち合っては刃こぼれのひとつもする。それは獣王の持つバスタードソードにも同様に言える事柄であり、その上『 狂飆の覇剣(ヴォーテクスエッジ) 』を施したケルヴィンの一撃にも耐えるなど、通常有り得ない事。獣王は確かに嘘は言っていない。だが自身が語り聞かせる言葉の裏にも何かを隠していると、ケルヴィンは始めからそう注視していた。

「そら、追加だ」

ケルヴィンの言葉に呼応し、2人の遥か頭上、天高くから新たな黒剣が数十本と降り落ちる。それもその全てに 狂飆の覇剣(ヴォーテクスエッジ) を施した、事前準備組第2軍の特別仕様。地表と激突した魔剣らは、神札の紙吹雪を咀嚼するように散らしていく。渦巻く嵐の刃を相手にしては、封印の札も取り付く島もない。

「……ご主人様、魔力馬鹿にも程がありませんか?」

「よく言われる、よっ!」

激しい剣戟が続く。試合のステージは荒れ狂う魔剣が点在し、暴風を伴う非常に不安定なものとなっていた。ケルヴィンは獣王の四方から黒剣を放出しつつ己も剣と格闘術を織り交ぜて攻め入り、獣王は暴風を逃れた封刻印の神札を掻き集め、巧みに牽制しつつ大剣を振るう。超スピードで行われる一進一退の攻防は数分にも及び、ロノウェを含めた観客達は声を上げることも忘れ、スクリーンに見入っていた。

「ふっ!」

獣王が跳躍し、バスタードソードを再び投擲する。ケルヴィンは目測よりも大幅に距離を離して退き、展開される封印結界を逃れた。

「ふう……」

呼吸を整え、獣王に集中する。地面に突き刺さったバスタードソードの柄先に猫のように着地する獣王。ふわりと上がったメイド服のスカートは、絶対領域を完璧に死守する仕事振りである。

「解せないな。それだけ強ければ、別にリオンとの試合で汚い手を使わなくても良かっただろうに」

「お喋りですか? まあ、いいですけど。リオン様との試合、ですか…… 私としてはより勝率の高い策を取っただけなんですけどね」

「おいおい…… 自国の民にあれだけブーイング食らっておいて、それはないだろ。戦いの為の祭典なんだろ、獣王祭って。ガウンの王がそんなんじゃ、信用に関わるんじゃないか?」

「と言われましても、これが私の獣王としての振舞い方ですから。そうですねぇ…… 極論を言いますと、子に憎まれようが、民からの信用を落とそうが、評判なんてどうでもいいのです」

「は?」

獣王はあっけらかんとした表情で、そう言い切った。

「幸いなことに、強者たる者が王となるガウン特有の王位継承は私にとって利となるものです。どのような振る舞いをしようとも、王位継承の戦いで負けない限りは王でいられますから。後は闇討ち謀略を阻止すれば何とかなります」

「……王として、それでいいのか?」

「あの子らが何の意味もなく死ぬよりはマシですから。ガウンの民である獣人が、兵が、私の代でより狡猾に、より強くなりさえすればいいのです。ご存知ですか? この東大陸の大戦時代を。国が疲弊し、人が人を欺き、この世の、人の悪意が渦巻いた負の時代を。勇敢であり、愚直でもあった獣人にとっての最悪の時代を」

「何を言っているんだ? それは何百年も昔の話だろ」

「……そうですね。お喋りが過ぎました。互いに有効打を見出せず、疲労も出てきた頃合い。次手で勝負を決めませんか?」

獣王の五体に封刻印の神札が貼り巡らされる。

「……そうだな。うん、それがいい」

ケルヴィンは地面に突き刺さっていた黒剣を左手で持ち上げ、長剣と共に構える。黒衣の左腕、その袖下から、黒々とした光沢のある篭手が見え隠れした。

「そっちの言い分もあるんだろうが、いい加減俺も恩を返したいんだ。リオンの力でさ」