軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第160話 狂乱の会食

―――トライセン城・パーティー会場

トリスタンが戻った先はトライセン切っての貴族や富豪が集まるパーティー会場であった。必要以上に華美に豪華にと目が焼けてしまいそうな会場に内心溜息をつきたくなるトリスタンだが、趣味趣向が合わなくとも相手は莫大な影響力を持つ大切な客人、そうも言っていられない。

ゼルを絶対的な頂点とするトライセンであるが、各地に傭兵団を囲い国内の奴隷商を牛耳る有力者達の力も侮れるものではない。彼らは言わば、裏社会に通じる影の王なのだ。トリスタンは彼らを利用し、煽て、逆手にとることで連合国にぶつけようとしていた。その為の宴、その為に耐え忍んだ。全ては竜騎兵団の代用品として。

「おお、トリスタン将軍。今までどちらに?」

「唐突に会場から出て行かれましたので驚きましたわよ。オホホ……」

「トリスタン殿、先程の縁談の件、どうですかな?」

パーティー会場に戻るなり、小太りの富豪とその婦人が話し掛けてくる。それだけではない。我先にと次々に醜い人の波がトリスタンに押し寄せて来ていた。表向きの顔は皆笑顔であるが、誰も彼もが少しでも立場を良くし、この戦争で発生する甘い汁を吸おうと群がっているのだ。トリスタンからすれば虫けら程度にしか見えない。

「皆様方、大変失礼致しました。たった今、鉄鋼騎士団将軍のダン・ダルバ殿が帰還しまして、そちらの出迎えに向かっておりました。無事ガウンに勝利し、敵を殲滅したとのことです」

トリスタンの言葉に会場は色めき立つ。

「なんと、ダン将軍も!?」

「素晴らしい! 我が国は無敵ではないですか!」

「あ、あなた、それではジン副官も戻っているのではなくて? そちらにも娘の―――」

「うむ。それが良い!」

国民と同じく、誰一人としてトリスタンの言葉を疑う者はいない。仮に勝利したとしても、軍の中核人物であるダンが最前線であるガウンを離れ、トライセンに帰還することなどありえないと言うのに。それどころか欲を曝け出し、中には会場を抜け出し自らダンを迎えようとする者もいた。

「落ち着いてください。ダン将軍は国王との謁見がございます。まずは報告をせねばなりませんので」

「ゼ、ゼル国王との? そ、それは仕方ありませんな……」

「ええ、公務を優先すべきですからね。オホホ……」

ゼルの名を出した途端、重鎮らは人が変わったかのように静かになる。国王への不敬は死。そのトライセンの慣わしが魂に恐怖を刻むのか、それとも―――

「まさか、国王様がここ数日姿を見せなかったのも?」

「はい、ダン将軍の勝利を確信して待たれていたのです。真っ先に騎士団を迎え、勝利を称える為に。シュトラ様も同様ですよ」

「さ、流石は王族の方々ですな、ハッハッハ……」

「ああ、それと皆様に良い知らせと悪い知らせがございます」

「知らせ、ですかな? それは一体?」

「マダム、どちらからお伝え致しましょうか?」

「ホホ、私ですか? ええと、では良い方から……」

「畏まりました」

パーティー会場の壇上に移動したトリスタンに注目が集まる。

「此度は皆様にビッグニュースがございます。先の遠征で不幸の死を遂げた美顔の騎士、クライヴ・テラーゼ将軍が一命を取り留め、長き休養を経て戦線に復帰することになりました!」

ざわめきはこれまで以上となり、客人達は互いに顔を見合わせる。馬鹿な、奇跡だ、まさか。大半は口を揃えてにわかには信じられないと言った感じだ。

「信じられないのも仕方のないことでしょう。これまで我々は最重要機密として秘密裏に動いていたのですから。ですが、それも今日までのこと。日々トライセンを支え、最も信頼に置ける皆様へまず最初にご報告しようと思いまして…… 言わば私からのサプライズでございます! この後にクライヴ将軍との食事会を御用意しておりますので、是非とも参加して頂くようお願い致します」

「ほ、本当にあのクライヴ様ですの!?」

「ええ、あのクライヴ将軍ですよ、マダム」

婦人は軽く立ちくらんだのか、フラッと半歩蹌踉けてしまった。夫である富豪が咄嗟に支えるも、次に発せられた言葉は謝辞ではなかった。

「あ、ああ……! あのクライヴ様が、生きてる! しかも、食事をご一緒に!?」

「そうだな、これもまたとない機会。是非とも娘とお近づきに―――」

「何を馬鹿なことを言っているのよ! そんな勿体ないことできないわ!」

「お、お前、何を言っているのだ!?」

夫婦の口論は徐々に白熱していく。どうやら感動のあまりに興奮を抑えられないのはこの婦人だけでないようで、会場の各所で女性の嬉し泣きする声、男女の言い争う声が聞こえてきた。その様を見たトリスタンの表情はにこにことした作り笑いから本心からの笑顔に変化する。

「……さて、次に悪い知らせでございますが」

混乱の最中であるが、トリスタンは気にする素振りなく続ける。

「クライヴ将軍との食事会、実のところ食材が不足しておりまして…… 申し訳ございませんが、ご来賓の皆様にはフルコースのメインとなって頂きます」

「「「……は?」」」

喧騒が静寂に変化し、客人達が固まる。いや、トリスタンにとっては最早客人ではなくなったのだ。彼らが客人であったのはあくまで先程までの話。国王の、延いてはトリスタンの脅威となる存在が城内に侵入してしまった今においては、自身に何の力も持たない影の王は自尊心と欲望と脂肪の塊でしかない。これより、トリスタンの中で彼らの利用方法が入れ替わった。では、これらが何の役に立つと言うのか?

「そ、それは何の冗談ですかな? トリスタン将軍」

「いくら軍のトップとは言え、私たちに失礼ではなくって!?」

「ふふっ。私も冗談は大好物ですが、無意味に肥え悪意を抱え込んだ豚は最高級の食材なのですよ。 彼(・) にとってはね」

そんなことは決まっている。 ―――ただの、上等な餌だ。

ギギッ、という音と共に何者かが会場の扉を開いた。

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―――トライセン城・正門前

ボガが出現した際に轟いた音が、再び正門前に鳴り響く。

「ぐおお……!」

「グゥルルア……!」

爆音の正体はダンが抜いた白金の大剣と突撃するボガとの衝突音。ボガを受け止めた代償に、ダンの足元には数メートルほどの深い2本の軌跡が刻まれている。両者は正門の手前でギリギリと拮抗する。

「くそっ! 攻城兵器が全く効かないぞ!」

「動揺を誘えれば十分だ! 撃ち続けろ!」

後方では鉄鋼騎士団の者達が絶えずバリスタ等を放ち続けている。装甲に傷を付ける様子はないが、ボガは鬱陶しそうに睨みをきかせる。

「舐めるで、ないわぁーーー!」

その隙を突いたダンの大剣がボガの顎を打ち払い、一歩二歩ではあるが引かせることに成功した。

「くそ、ワシも衰えたな……」

ダンは間を置かずボガの頭に駆け上り、装甲のない右目に目掛けて剣先を突き刺そうとする。

「ゴアアァァーーー!!!」

その寸前に起こる音の大砲。ボガから発せられる極大の轟音は地を揺らし、ピシピシと城壁や攻城兵器にひびを入れていく。まるで音だけで人を殺してしまいそうなそれは勿論ダンにも襲い掛かる。発生源の間近にいた為威力は更に高かっただろう。だが、ダンは微動だにせず。

「ボガ、下がっておれ」

「―――!」

ボガの背より何者かが現れ、次の瞬間に空中にて漆黒の大剣と白金の大剣が交差する。

「今度はワシがお相手しよう!」

「貴様は、パーズの昇格式にいた……!」

紅きマントを靡かせ登場したのは剣と同色のフルアーマー、ジェラールであった。ジェラールの声に素直に従い、ボガは羽ばたきながらその巨体を後退させる。

「なぜ貴様がここにいるっ!」

「答える義務は、ないのうっ!」

目まぐるしく鬩ぎ合い、剣で打ち合う二人。竜であるボガとは違い、巨体とは言え人間サイズの枠を超えないジェラールに攻城兵器を当てることはこの状況下では困難。かと言ってこの超越的な戦いに参戦できるレベルに騎士達は達しておらず、ダンの部下は見守ることしかできない。

(打ち合う度に急激に魔力が吸われる……! そして何よりもこやつ、強いっ! くそっ、こうしている間にもシュトラ様は……!)

焦りが募るダンであるが、白と黒の騎士の力量はまさに互角。だがジェラールの魔剣は着実にダンの魔力を吸い取り、その威力を増していた。これほどまでにダンが持ち堪えることができたのは、愛剣である『大聖剣チャリス』によるHP・MP回復効果の後ろ盾があったからだろう。されどジェラールの太刀筋は一刀事に鋭さを増し、ついにはダンの大剣を弾き飛ばした。そしてジェラールは仕舞いとする次の太刀を振り被り―――

「ストップ」

不意に空から男の声が聞こえた。なぜか物凄く不満気な雰囲気を醸し出している。

「おい、やる気あるのか?」