作品タイトル不明
第156話 茶会
―――ケルヴィン邸・客間
「失礼致します」
「し、失礼します」
配膳台車に茶と菓子を載せ、部屋に現れたのはメイド姿のロザリアとフーバーだ。長椅子に腰掛ける俺の背後には指導官のエフィルがいつもの様子ながらも目を光らせている。パーズに帰ってきてから数日が経ち、この二人の仕事ぶりもかなり板についてきた。どこかの3人娘のように壊滅的な料理下手ってこともなく、順調にメイドとしての成長を果たしている。その上達ぶりを是非見て貰おうと、今日はアズグラッドを我が家に迎えているのだ。いつもは俺の仲間と戦う為に地下の鍛錬場に直行するからな、この戦闘狂。一先ず戦闘力順に戦わせてみたが、今のところボガやムドファラクには勝利を収めるものの、ダハクに全敗中のようだ。未だ身内の枠から抜け出せていない。リオンとアレックスの出番はまだまだ先である。
「……マジでメイドやってんのな、お前ら」
アズグラッドは感動のあまり溜息を漏らしているようだ。決して呆れている訳ではない。たぶん。
「長年竜として生きてきましたが、こんなことをさせる人は初めてですよ」
「部隊にいた頃よりも忙しい気がします……」
カップに茶を注ぎながら苦笑いするロザリアと、少し涙目なフーバー。
「こう見えてフーバーは俺が見てないところでよくサボる癖があったからな。教えるにも大変だったんじゃねぇか?」
「安心しろ、エフィルが指導しているんだ。一人前の立派なメイドにすることを約束する」
「そ、そうか。趣旨が変わっている気がするが、まあ頑張れよ……」
「うう、賄いが美味しいのが悔しいです……」
茶が行き届いたところでクッキーを一口。リュカが作ったものにはまだまだ及ばないが、普通に美味しい。数日でここまでのものを作れれば上出来だ。
「それで、ここでの生活には慣れたか? 王族には宿住まいは窮屈だろ?」
ロザリアらは住み込みで働いているが、アズグラッドには名前を伏せてもらい、クレアさんの『精霊歌亭』にて寝泊りしてもらっている。服装も流れの冒険者の出立ちとなり、首輪もスカーフで隠しているので目には付かない。
「そんなことはねぇ。軍じゃ野営が当たり前、屋根があるだけ幸せってもんだ。オマケに飯も美味い。文句の付け所がねぇよ」
「そいつは良かった。あの宿は俺の一押しなんだ。新米の頃よく世話になったもんだ」
「ったく、とてもじゃないが敗軍の将の扱いじゃない。トライセンで培った感覚が逆におかしいのかと疑っちまうぜ」
トライセン本国に攻め入るまでの間、アズグラッドには冒険者紛いのことをしてもらっている。信頼できる部下をアズグラッドとフーバーに選別、説得してもらい、傭兵として戦列に加えることにしたのだ。ちなみに選別した上でセラに色々自白させているので裏切ることはまずない。数十人とその相棒竜による新生『竜騎傭兵団』の結成である。
「傭兵の評判は良いじゃないか。リオが討伐依頼をどんどんこなしてくれるって褒めていたぞ」
「それもお前んとこのパーティの出涸らしばっかじゃねぇか…… まあ準備運動には丁度いいが」
「あ、あのう、私もたまには出撃したいのですが……」
「メイドとして独り立ちしたらな」
「うう……」
フーバーまで出てしまってはわざわざメイドに変装している意味がないではないか。アズグラッドについては分かる奴には直ぐ分かってしまうので、いっその事部隊を率いさせて戦力になってもらっているだけなのだ。大人しく目の保養になってもらいます。
「そういえば最近コレットを見掛けないな」
パーズに帰って来たばかりの頃はうざい位に屋敷を訪ねて来たものだが、最近はめっきりだ。メルフィーナなどは逆に不安になってしまっている。気がかりにより食も進まないようで、昨日なんておかわりを5回しかしていなかった。
「デラミスの巫女か? デラミスから軍が到着したから忙しいんだろうよ。何せ後数日もすれば三国の準備が整うんだからよ」
「だといいんだけどな……」
「……前にシュトラから聞いた話なんだが、ケルヴィンと巫女は恋仲なのか?」
いいえ、彼女は狂信者です。
「断じて違う」
「どっちでもいいんだけどよ、シュトラがお前のことを巫女をも落とす好色男だと言っていたぞ。それでデラミスとの繋がりを作った疑いがあるだの何だの。あとハレンチだの」
「………」
「おい、否定しろよ」
かなり的を外してはいるが、方向性は間違っていない。こいつの妹の情報網やばいな。
「まあいい、俺はそろそろ行くとするぜ。ロザリア、フーバー。なかなか美味い茶と菓子だった。またご馳走してくれ」
「ええ、喜んで」
「行くって、またダハクに挑戦するのか? あいつ、今日は屋敷にいないぞ」
「ああ? 来れば畑作業か庭の剪定ばかりしてる黒竜がか?」
あまり言ってくれるな。あれでも『建築』スキルを持っていたりと有能なんだから。
「プリティアに会いに行ったみたいでね。今日の試合はお預けだ」
「マジか。ッチ、なら日を改めるか」
アズグラッドが席を立つ。
「ああ、ちょっと待ってくれ。時間があるなら頼まれ事をしてくれないか? こいつを冒険者ギルドのリオに届けてほしいんだ」
「手紙か? こんなの、自分で届ければいいじゃねぇか? 直ぐそこだろ」
「俺もこれから急ぎの用があってさ。悪いが頼むよ」
俺は手紙をアズグラッドに差し出す。
「まあ、これからギルドに依頼を取りに行くとこだからいいけどよ。ギルド長にだな?」
アズグラッドは俺の手紙を受け取り、屋敷を後にした。俺とエフィルは互いに頷き合う。さて、俺の方も例の作戦に移りますか。おっと、その前に―――
「ロザリア、フーバー。俺とエフィルはこれから少し出掛けて来る。先輩メイドであるエリィとリュカの言うことを よく聞く(・・・・) んだぞ」
「承知致しました」
「……またデートですか?」
俺とエフィルが何とも言えぬ顔をする中、ロザリアがぽかりとフーバーの頭を叩くのであった。
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―――パーズ冒険者ギルド・ギルド長の部屋
「ってことだ。確かに渡したぜ」
アズグラッドはケルヴィンとの約束通り、受け取っていた手紙をリオに渡す。さて、用件は済んだ。依頼でも探すかとアズグラッドは部屋を出ようとする。
「すまない、ケルヴィン君と会ったのは何時頃だい?」
不意に手紙の中身を読んでいるリオに呼び止められた。その表情はなぜか厳しい。
「ほんの30分前だ。それがどうした?」
「30分、もう間に合いそうにないな…… まさか、彼女らもこれに合わせて……」
呟きながら頭を抱えて考え込むリオに、アズグラッドは何のことなのか理解できないでいた。
「……これを見たまえ」
「さっきの手紙か? これが何だという―――」
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―――ギルド長へ
思ったよりも時間がかかっているようなので、先にトライセン本国に向かいます。そちらも三国の侵攻準備が完了次第、こちらに来てくださいね。敵はあの魔王です、ゆっくりでいいですよ! お互い全力を尽くして頑張りましょうね! ではでは。
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「………」
「あと数日も我慢できなかったらしいな。いや、文面からして初めからこれが目的だったのかな? どちらにせよ、全くもってケルヴィン君は手に負えない」
その日、ギルド長の部屋より地を揺らす程の奇声が鳴り響いたと受付嬢アンジェは後に話す。