作品タイトル不明
第155話 束の間の休息
―――ガウン、トライセン国境
夜が明け、山々の間から朝日が顔を出し始める。光を浴び煌くは白金の軍勢。列を乱すことなく歩みを進めるその軍勢は、将軍であるダン・ダルバを先頭に東へと向かっていた。
「信じられない…… 『鉄鋼騎士団』がトライセンへ帰っていく……!」
王子の三男であるキルト・ガウンが驚愕する。士気、戦力共に圧倒的に自軍が不利である筈のこの状況下で、敵軍が自ら去っていくのだから無理もない。ましてや自分達の知らぬところで話が進んでいたのだ。
王子らが砦に篭城し攻城兵器による攻撃を防いでいる最中に、国の君主であるレオンハルトが単身で敵陣に侵入。この辺りで既に王としての行動ではなく、大臣などは頭を抱える事態ではあるのだが、それで成功し更には無傷で帰還してしまっているのだから文句もつけ難い。
「……父上、一体何をされたのですか?」
「何、ダン将軍に可能性の話をしただけだ」
砦の屋上よりトライセンの軍勢を見晴らすはレオンハルト。次兄の王子であるユージール・ガウンの問いに茶を濁した答えを返すが、その背は「自ら考えよ」と言っているようであった。レオンハルトは自分の子であろうと谷に突き落とし、試練を与える。そこで這い上がり、力を示すことで初めてレオンハルトに認められるのだ。3人の王子らは各々の方法で試練をクリアした身であったが、此度の戦いで改めて己の無力さと父の偉大さを痛感した。だが、思うところがない訳ではなかった。
(((女中の格好で言わなければなぁ……)))
敵陣での攻防を知らぬ王子らにとっては仕方がなく、女装もまあ見慣れたものではあったのだが、先のように心を打つ台詞は素面でして欲しかった。
「また細かいことを気にしているな。しかし、此度の戦いは驚くほどにボロ負けであったな。そんなことでは嫁に逃げられるぞ、ジェレオルよ?」
「父上、リサのことは言わんでくれ…… って何でリサに化けてるんだよ!?」
「ふーむ、確か馴初めは……」
レオンハルトの姿が女中から獣人の女性に変化する。情熱的な赤いドレスを着飾った、品のある貴族の御令嬢のようであった。
「ジェレオル様…… 私、弱い男は好きになれないの。ごめんなさいね」
「な、なぜパーティ会場でのあの場面を……!?」
見るからにジェレオルが動揺している。
「ジェレオル兄さん…… 一時期急に修行に目覚めた理由って、まさか……」
「ち、違うのだ! ユージール、キルト!」
焦るジェレオルの背後でレオンハルトがまた変化を始める。今度は先程よりも少し大人めいたリサの姿だ。
「あなた、昔言ったわよね? 私、弱い男は好きになれないって。 ……別れましょ」
「うわぁーーー!」
酷い追い討ちである。痛めている筈の体に鞭打ち、ジェレオルが砦の中へと駆けて行ってしまった。それを見届けたレオンハルトは女中の姿へと戻る。
「うんうん。これで更に鍛錬に励むことだろう。ガウンの名を与えてからと言うもの、鈍っていたようだからな! ところでキルトよ、お前は篭城戦に入ってから随分と奮闘していたようではないか。流石は数少ない獣人の魔導士だ! 昔からお前は頭が良かったからな、ワシも鼻が高いぞ!」
「は、ははい、あり、ありがとうございます……」
褒められている筈なのだが、キルトの声は震えていた。何せ、もう嫌な予感しかしないのだ。
「でもキルト兄さん、お勉強ばかりでは健康に良くないわ。私、最近になってジェレオル兄さんに武術を教えてもらっているの。一緒にやりましょうよ」
瞬きの間にキルトの眼前に幼少の頃のゴマが姿を現す。この時点でキルトの背には滝のような汗が流れていた。
「い、いいいや、僕はそういうのはちょっと遠慮する―――!」
脳裏に蘇るは幼き頃のトラウマ。段々と鮮明になってくる忌まわしき記憶を振り払うように、キルトは必死に辞退しようとする。大好きなゴマからの誘いを断るなど決してしないキルトであるが、この誘いにだけは乗ってはいけない。そう彼の頭脳が告げるのだ。
「え…… キルト兄さん、本気、じゃないよね? 全力……? 男の子なのに、ちょっと幻滅」
「うわぁーーー!」
軽蔑するようなゴマの視線を受け、普段では見られない走力でキルトが砦の中へと駆けて行ってしまった。それを見届けたレオンハルトは女中の姿へと戻る。
「やはり獣人たるもの、肉体も鍛えねばな! しかし、キルトのシスコンぶりもこれで治ってくれればいいのだが」
「ち、父上、私たちも部下を持ち上に立つ身です。どうかお戯れも程々に……」
「うん? ハッハッハ、単なる親子のスキンシップではないか。全く、ユージールも冗談が上手くなったものだな! ところで先程の弓は見事なものだったではないか。射れば百発百中、狙った獲物は逃さないと言ったところかな? ちなみに恋に関しては―――」
その日、ガウンの砦では絶叫が三度鳴り響いたという……
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―――ケルヴィン邸・庭園
「……うん?」
「どうした、セラ」
「いえ、何かトラウマをほじくり返された悲鳴のようなものが北から聞こえたような…… しかも今じゃなくて大分前の?」
「やけに具体的だな。俺は何も聞こえなかったが」
「うーん、きっと気のせいね!」
セラの興味が別のものに移ってしまったのか、どこぞの悲鳴のことはもう頭にないようだ。俺たちがパーズに帰還し、一日が過ぎた。プリティアよりガウンとトラージの戦況を聞いたが、どちらも防衛に成功したとのことだった。トラージの場合は刃を交えることもなかったらしいが、何があったのかは調査中。そして魔法騎士団の将軍がクライヴからトリスタンに変わっていた点も気になる。アズグラッドの言ではクライヴは既に戦死扱いとなっている。やはりトリスタンが鍵を握っていると見るべきか。
「ケルヴィンの兄貴! こっからボガがいるとこまで耕しちまっていいですかい?」
「裏庭は土地が余ってるからな。好きにしていいぞ」
「おっしゃー! やるぜー!」
プリティアに振られ(?)、意気消沈しているかと思われたダハクであったが、屋敷の裏に農園を作る許可を出した途端に活き活きと輝き出した。黒竜に変身したダハクは爪を器用に使い、何もなかった裏庭を猛スピードで耕していく。図体がでかいのもあって農機いらずだな。ちなみにセラが興味を示したのはこの作業だ。
「ゴアァ……」
ボガも見よう見真似で試すが、深い穴を掘ってしまうだけで思うようにはできないようだ。ちなみに裏庭の土は俺の緑魔法で区別に酸性、アルカリ性に組み替え済みである。
一応、街の人々には俺が竜を飼っているという体で伝えている。それなりの時間を説得に要すると思っていたが、意外にも直ぐに納得してくれた。リオの許可が出ていたのもあって「ああ、ケルヴィンさんなら問題ないんじゃない?」と皆二つ返事だ。そこはもう少し危機意識を持つべきだと思うんだが……
「ねえねえハクちゃん。ハクちゃんのスキルを使えば、農園を作らなくても好きなように育てれるんじゃないの? 時間もかからないし」
「お嬢、甘いですぜ。確かに俺の能力で急成長させればお手軽に野菜を食うことができやす。しかーし、それでは鮮度も味も数ランク落ちてしまうんッス! 土が痩せちまうのも早いんで、俺は基本戦闘以外じゃそういう能力の使い方はしないんスよ」
人型に戻り、農作業着姿となったダハクが鍬を持つ。あ、細かいところは人型でやるのね。ああ、そうだ。今回仲間となった竜達のステータスを確認しておこう。
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ダハク 162歳 雄 漆黒竜(古竜)
レベル:88
称号 :闇竜王の息子
HP :1833/1833(+100)
MP :480/480(+100)
筋力 :969(+100)
耐久 :733(+100)
敏捷 :471(+100)
魔力 :737(+100)
幸運 :288(+100)
装備 :鉄の鍬(E級)(人型)
作業服(E級)(人型)
長靴(E級)(人型)
手拭い(F級)(人型)
竜の鞍(B級)(竜型)
スキル:生命の芽生(固有スキル)
黒土鱗(固有スキル)
緑魔法(C級)
黒魔法(F級)
息吹(ブレス) (B級)
飛行(A級)
農業(S級)
園芸(S級)
建築(A級)
補助効果:闇竜王の加護
召喚術/魔力供給(S級)
隠蔽(S級)
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ボガ 103歳 雄 岩竜(古竜)
レベル:81
称号 :黒騎士の愛竜
HP :1987/1987(+100)
MP :197/197(+100)
筋力 :995(+100)
耐久 :1001(+100)
敏捷 :619(+100)
魔力 :183(+100)
幸運 :340(+100)
装備 :竜の鞍(B級)
スキル: 息吹(ブレス) (E級)
装甲(S級)
飛行(D級)
土潜(A級)
大声(C級)
補助効果:召喚術/魔力供給(S級)
隠蔽(S級)
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ムドファラク 63歳 雌 三つ首竜(古竜)
レベル:74
称号 :甘味との出会い
HP :1416/1416(+100)
MP :907/907(+100)
筋力 :520(+100)
耐久 :489(+100)
敏捷 :418(+100)
魔力 :634(+100)
幸運 :631(+100)
装備 :竜の鞍(B級)
スキル:多属性体質(固有スキル)
息吹(ブレス) (A級)
飛行(A級)
魔力吸着(C級)
魔力温存(C級)
補助効果:召喚術/魔力供給(S級)
隠蔽(S級)
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こんな感じである。やはりダハクがステータス、スキルと頭ひとつ抜けているな。竜なだけに皆かなりの年数を生きているが、一番の年長者はロザリアだったりゲフンゲフン。
「へ~、便利なだけじゃ駄目なんだね」
「どれ、ワシも一仕事しようかの」
ジェラールまでもが鍬を片手に参入。鎧姿に麦わら手拭、不思議と馴染んでいる。
「おー、旦那も様になってるッスね!」
「そういえば騎士になる前は農民だったって言ってたな」
「久方ぶりではあるがな。まあこの程度であれば手伝えるわい」
さて、今更ながらなぜ俺らがこんなにものんびりしているのか。防衛に成功したデラミス・ガウン・トラージの軍勢が、トライセンに侵攻する為の部隊を各々再編成及び準備中だからである。俺らのように少数であれば動くのも楽だが、軍隊ともなれば一桁も二桁も人数が異なる。その分移動や兵站を取り揃えるのにも時間がかかり、その期間はどんなに急いでも1週間以上はかかるそうだ。一足先に殴りこみに行こうかとも考えたが、全力でリオに止められてしまった。勇者と同じく異世界人である俺のいるパーティは唯一魔王にダメージを与えることができる戦力、リオも慎重に動きたいのだという。
詰まる所、軍の準備が整うまでポッカリと暇な時間が出来てしまったのだ。最近は朱の大渓谷でずっと気を張っていたからな。久しぶりのマイホームということもあって、この期間を休息に当てることにした。今はエフィル、メルフィーナと共に木陰に敷かれたシートの上で次々と開拓されていく裏庭を眺めている。サボっているのではない、英気を養っているのだ。
「結局、魔王と戦う羽目になってしまうのですね。これは刀哉達の使命の筈だったのですが……」
「いいじゃないか。あいつら西大陸に行ってしまったんだし。それよか魔王って強いんだよな? なあ?」
「ハァ、あなた様が楽しそうなのでいいですけど」
溜息を吐きながら吸い込むようにサンドイッチを食べるとは、腕を上げましたねメルフィーナさん。それより魔王強いんだよね?
「ご主人様、リンゴが剥き終わりました。はい、あーん」
エフィルから差し出されたリンゴは驚くほどに甘かった。うん、ときにはこんな日があるのも良いものだ。