軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第149話 首輪

―――朱の大峡谷・剛黒の城塞

「その首輪は…… 俺が燃やしたはずだぞ!」

取り出した首輪にアズグラッドが反応する。どうやらダハクが装備していたものと勘違いしているようだ。確かに見た目は酷似しているが、この首輪の機能は全くの別物である。

「違う違う。こいつはエルフの里で巨人から押収したもんだ」

最も、王子が持っていたものもトリスタンからの貰い物らしいけどな。

「エルフの里? ……混成魔獣団の 巨人の王(ギガントロード) か!」

「そうだとしても、首輪の機能は変わらないのでは…… まさか監視下に置く代わりの制限と言うのは、その首輪を付けることだと?」

「大方その通りだが、首輪の機能部分はちょいと弄らせてもらった。メル、説明してやってくれ」

「はい」

一歩前に進み出たメルフィーナに首輪を手渡す。

「……その女もやべぇな。力の底が読めねぇ」

メルフィーナから何かを感じ取ったのだろうか。アズグラッドの勇ましい顔付が険しくなる。

「失礼な、乙女の秘密を勝手に詮索しないでください!」

「メル、解説解説」

「ああ、そうでした。コホン…… この首輪、大元は奴隷に身に付けさせる『従属の首輪』ですね。装備させた瞬間に効力を発揮できるよう出力を上げ、S級モンスターまでも従属化できるように魔改造されています。初めて目にしたときは感服致しました。これほどの品を作成する技量を磨くのにどれ程の年月を費やしたのか―――」

メルフィーナが称賛するこの首輪、装着さえさせてしまえば装備者からは外すことができず、破壊するような行動も抑制されてしまう。どのような相手でも問答無用で支配下に置いてしまう効力も破格のもの。その数は全部で3つ。混成魔獣団の 巨人の王(ギガントロード) の首輪、アズグラッドが持っていたダハクの首輪、そしてトリスタン配下である異形のモンスターの首輪だ。

「―――装備者は言葉を話すことができなくなり、能力も弱体化してしまいます。そして強制的に取り付けた者の支配下に置かれる。これがこの首輪の効果でした」

「……でした?」

「ええ。これでは何かと不便でしたので、私の『装飾細工』と『錬金術』で一部効果を書き換えさせて頂きました。装備者は普通に話すことができますし、能力に制限がかけられるようなことも一切ありません。生活する分には煩わしく思うこともないでしょう。その代わり、私たちや同盟国への攻撃、裏切りを働くような行為は禁止されます。このあたりは『従属の首輪』の仕組みと同じようなものだとお考えください」

本当はダハクの首輪も頂戴したかったんだが。まあ燃やしてしまったものは仕方がない。

「俺の監視下に入ればある程度の自由は許してやるし、危害も絶対に加えない。洗脳を施した黒幕をぶっ飛ばす協力をすることも約束しよう。何なら鍛錬の相手もしてやる。俺より強い奴だってここにはいるぞ?」

「なにっ…… いや、何でもない」

面白いくらい反応してくれるな、王子。

「だが残念ながら同盟とトライセンは戦火の最中、敵国の君らをそう簡単に信用することはできない。 ……分かるよな?」

「代償がこれ、か…… 確かにこいつなら反抗なんてできねぇだろうよ。だが、なぜそこまでする? 仮にも俺は王子だぜ。そんなまどろっこしいことをしなくとも、利用手段は他にいくらでもあるだろうが」

情報を引き出すだけであれば、セラの手で簡単に事は済むだろう。しかし、それでは目的は達成されない。

「最初に言っただろ。俺は交渉しに来たんだ。この首輪はあくまで王子を抑止する為のもの。俺の本命はこっちだよ」

俺はその本命に視線を向けた。

「私、ですか?」

「てめぇ、ロザリアをどうする気だ!?」

「そうよケルヴィン、私というものがありながら! 本命ってそっちの気もあったの!?」

アズグラッドの反応は予測できたが、セラにまで非難されてしまった。そっちでどっちですか。

「なるほど。セラ姐さんが兄貴の女か」

「あ、あのっ、私も……」

おずおずと手を上げるエフィルが可愛い。後ろのダハクはもう気にしない方向で。

「落ち着け。たぶんお前らが思ってるのと意味合いが違う。この首輪はひとつしかないんだ。必然的に片方しか装備できない。となれば俺の監視下に置けるのも、黒幕を倒す協力をするのもこのままでは一人だけ。この意味、分かるか?」

「どちらかは同盟国に引き渡される、と?」

「この場合、引き渡すのはロザリアだ。生憎、首輪のサイズを人間のものに仕立て直してしまったからな。竜の首には装備できない。だがロザリアも連れて行く方法はある」

契約の念をロザリアに送る。届いたであろうメッセージを読み解いたロザリアは、瞳を閉じ静かに口を開いた。

「……配下の契約、ですか。貴方は召喚士だったのですね」

「召喚士だと?」

「そう、俺は召喚士だ。トリスタンと同じくな。俺の配下に加わるのなら危害が及ぶ心配もない。俺には心強い仲間が増え、君らはトライセンを操る黒幕を潰せる可能性が生まれる。双方に利益のある良い話だろ? 古竜組のボガとムドファラクは既にこちらに下った。知っての通り、このダハクもな」

「この戦争が終わり次第、 王子の首輪(・・・・・) は解除致します。場合によっては将として、また一国の王子としての責を負われる可能性もありますが、洗脳されていたことを踏まえ最大限の計らいも致しましょう。如何でしょうか?」

首輪を軽く翳し、メルフィーナがアズグラッドに問う。そこには何も疑心暗鬼になる余地などないのだと、人々を安心させるような聖女の笑顔を浮かべながら。

「……お前と契約したロザリアはどうなる?」

「契約の解除はしない。ロザリアは俺の配下のままだ」

俺の言葉の後、アズグラッドは深く溜息を吐いた。そして、勢い良く顔を上げる。

「考えるまでもねぇな。仲間は売れねぇ。人型になったロザリアに首輪をはめてやってくれ。それなら首輪のサイズも問題ないだろ。俺が同盟に引き渡されて問題解決だ」

「アズグラッド、何を言っているのです!?」

「どうせ生き残った部下達も一緒なんだ。部隊の指揮官がいなきゃあいつらも不安だろうさ。ロザリア、お前はケルヴィンと共に裏切り者を討て」

「貴方の身がどうなるか分からないのですよ!? 私が彼と契約すれば良い話です!」

「馬鹿が! それなら俺がケルヴィンと契約すらぁ! お前は絶対に契約するな!」

アズグラッドとロザリアの言い争いが始まった。どちらも譲る気配はない。そして俺も王子と契約する気は流石にない。王族を配下にしたら後々面倒この上ないぞ。

俺が頭でそんなことを考えていると、二人の牢から死角の位置にあるもうひとつの牢から声が響いた。

「あ、あのう! 私が将軍たちの代わりになります! 二人をここに置いて頂けないでしょうか!?」

「この声、フーバーか?」

この特別房に残った最後の牢にはエフィルと戦った副官フーバー・ロックウェイを捕らえている。アズグラッド達と同じように拘束していたのだが、途中で口の拘束を解くようにクロトに念話を送っていたのだ。 彼女(・・) も期待通りの行動を取ってくれたな。

「はいっ、フーバーです! 負けた上に勝手なことをしてしまい、申し訳ありません! 将軍!」

「そんなことはどうでもいいっ! 何てことを言いやがんんっ―――」

今度はクロトにアズグラッドの口を再度塞いでもらう。

「んーんー!(これをどかせっ!)」

「副官さん、悪いけどこの二人と君とでは釣り合わないな」

「お願いします! 私にできることなら何でもしますから!」

「ほう」

フーバーを捕らえる牢の前に踏み出る。

「ならその男装した姿じゃなく、俺を喜ばせるような姿で部屋にでも来てくれるのか?」

「そ、それでお許し頂けるのならっ」

「んんっ、んんん?(男装? 喜ばせる姿?)」

「フーバー! 止しなさい!」

ロザリアが叫ぶ中、フーバーの瞳をじっと見る。ショートカットの髪型、そして中性的な面体で男性用の身形をしてる為、一見分かり辛いが彼女は女の子だ。ステータスにもしっかり女と記されている。涙目になってはいるが、決して視線を逸らそうとはしない。覚悟は本物のようだ。

「おっけー! 合格っ!」

「……は、はい?」

「クロト、拘束を全部解除していいぞ」

クロトによる拘束が解かれ、3人は体の自由を取り戻す。クロトの分身体自体はそのまま各々の肩に留まっている。

「……どういうことだ?」

「試すようなことをして悪いな。ま、信用に値するか確認する為だったんだ。許してくれ」

3人にこの茶番の申し開きをする。要するに、これは交渉というよりはアズグラッド達が信用できるかテストしていたのだ。アズグラッドがロザリアを俺に売った時点でアウトだったのだが、戦闘狂の甘い誘いをきっぱりと振り切り、その事態を無事に回避してくれた。ロザリアと副官のフーバーも合格である。これまでのトライセンの連中とは異なり仲間意識も大切にしているようだし、彼らは信用できると俺は判断した。

しかし予めこれから話すことは演技だと意思疎通を回していて正解だったな。台詞が悪役そのものだったし、下手をすれば完全武装のセラの拳が飛んできていた。そうなれば間違いなく一撃KOだ。

「私たちを試していたのですか。何と大胆不敵な……」

「で、ですが、これで私たちはここに置いてもらえるんですよね?」

「名目上、制限はかけさせてもらうけどな。王子には話した通りこの首輪はしてもらうから」

それにプラスしてクロトの監視付だ。意思疎通を一方通行で施し、常に状態をチェックできる態勢を敷いておく。これくらいは必要だろう。

「え? でも首輪はひとつしかないのでは?」

首輪はな。

「エフィル、例のものを」

「承知致しました」

エフィルがクロトから取り出したもの。それは―――

「首輪の特性をトレースしたメイド服です」