軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第148話 交渉

―――朱の大峡谷・剛黒の城塞

城塞の地下に創造した牢獄からは物音ひとつしない。牢の中にはリオンの電撃によって動くことができない者、『血染』の効力でセラの支配下にある者しかいないから、まあ当然か。見張りのゴーレムも俺たちに頭を下げるくらいで後は全く動かないし。生産ペース重視で生成したから基本動作がちょっと単純になってしまってるかな。操られた兵と竜は虚ろな表情で俯きながらでその場で座り込んでいる。なんだろうな、少し悪役チックなことをしているような…… 感傷的な気分になってしまう。

「セラ、能力の効力は後どれくらい持つ?」

「んー…… 2時間、いえ3時間はいけるわね!」

今更ながら凶悪なスキルだよな…… 接近戦でも十分に応用できる分、敵に回したらクライヴの『魅了眼』よりもたちが悪い。スキルを使わなくとも、セラが進化してからは訓練試合で俺は連戦連敗を喫している。そろそろ敗北数が二桁に届きそうなほどだ。過去の魔王がどの程度の強さなのかは知らないが、マジで今のセラは魔王として君臨できる実力なのではないだろうか。そうだな、コレットの結界をマスターしたら思う存分、何でもありの全力で手合わせ願おう。うん、そうしよう。

「あの男も支配すればいいの? 情報を引き出すのなら 儚い夢(ヒュプノーシス) より確実よ?」

「それは最後の手段だな」

さて、唯一意識のあるアズグラッドとロザリアは最奥の特別房に捕らえてある。城塞と同様の頑強さを誇る重い扉を開ければ、中に見えるは3つの牢と簡素な椅子。椅子はつい先程まで見張り役のジェラールが座っていたものだ。もちろんゴーレムも数機控えているが、それだけではこの面子相手には不安だったからな。パーティで交代交代に見張ろうと順番決めのじゃんけんをし、最初に敗北したのがジェラールだった。エフィルは料理番の為例外である。

牢の中を見ると、アズグラッドがあぐらをかいた体勢でこちらを見詰めていた。瞳にはまだ諦めの色は見えず、闘志を今だ燃やしているようにも見受けられた。言葉を発する様子はない。金属化したクロトの拘束で口を塞いでいるからなんだけどね。

「………」

「クロト、口の拘束を解除していいぞ」

俺の命令通りクロトはアズグラッドの口を拘束した金属化を解除する。ズルズルと液状化されたクロトの体にアズグラッドは幾分か不快そうであった。

「……なぜ、俺を生かす? さっさと殺しやがれ」

「そんなに敵意むき出しになるなよ。俺らはお前と交渉しに来たんだからさ」

「交渉、だと?」

「本題はそうだが、まずは世間話でもしようか。クライヴ君は元気にやってるか?」

「ふざけるな! クライヴはてめぇが殺したんじゃねぇか!」

アズグラッドは激昂する。屑だのカスだのと言ってはいたが、ある程度の信頼はしていたのかもしれない。だけど、それじゃあおかしいんだよな。

「殺してないぞ。俺の手落ちで逃げられた」

「……ああ?」

「後少しってところまでは追い詰めたんだけどさ。トリスタンって奴に邪魔されたんだ。確か、混成魔獣団の将軍だったか?」

「嘘を付け。トリスタンはお前がクライヴを返り討ちにしたと言っていたぞ。お前がクライヴを殺したんだろうが」

……結構、素直に話してくれるのね。これは上手く説得できるかもしれない。

「クライヴ君は俺の女に手を出そうとしたからな。そうであれば俺としてもスッキリする展開なんだけど、実際は足をぶった斬ったところでトリスタンの配下モンスターの力、そしてトリスタンの召喚術との合わせ技に逃げられたよ」

まあ何となくネタは割れているから、その辺の対策は今回はできた。あの召喚術はここでは使えない。

「だからさ、王子にはクライヴ君の居場所を教えて欲しかったんだ。だけど一緒に帰還したはずのトリスタンはクライヴ君は死んだと明言している。そうだな?」

「………」

「肯定したと取るぞ」

背後でダハクが「兄貴の女って誰ッスか?」とボソボソと小声でエフィルに聞いているのが聞こえた。止めて、エフィルが赤くなってるでしょ。それに今とってもシリアスなの。

「クライヴ君の足からの出血は酷かったからな。途中で力尽きてしまった可能性もある。だが、そうだとしても仮にも部隊の将軍なんだろ? 死体くらいは持ち帰ったんじゃないか?」

「……死体はなかった。ただ、お前が殺したって報告だけだ」

「なら証拠はないな。であれば、クライヴ君は、もしくはその死体はどこに行ったんだろうな?」

「待ってください。アズグラッド、そこの彼が言っていることもまた、証拠はありません」

アズグラッドの向かいの牢からの声。おっと、ロザリアも拘束を解いたんだったな。ロザリアは古竜であるが、大きさは成竜とそう変わらなかったのでギリギリ特別房に入れることができた。

「トリスタン将軍が駆けつけた際、クライヴは既に彼に殺されていた。それを見届けて彼と接触しないように戻ってきたという話でも筋は通ります。単に罪をトリスタン将軍に着せるつもりかもしれません」

これで納得してもらうつもりはなかったが、アズグラッドよりもロザリアの方が頭がきれるようだ。

「普通そう考えるよな。騙されなかったか」

「お前っ―――」

「なら、魔法騎士団の兵士達の魅了は解除されたんだな?」

「「………!」」

ロザリアの表情からはよく分からないが、アズグラッドは目を見開いている。やはり解除されていないか。クライヴ君の性格からして、騎士団の女性全てに魅了眼を使っているだろうと考えていた。スキルの使用者が死ねば、その能力は解除される。これはこの世界全てに共通することだ。つまり、クライヴ君は生きている。トライセンの将軍も知らぬどこかで。

「次の話に移ろうか。今の反応を見る限り、君らは術者が死ねばその効力がなくなることを知っている。だと言うのに、何で今までそんな簡単なことに気が付かなかった?」

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一度話を整理しよう。まず、クライヴの洗脳が解除されていないことにアズグラッド達が疑問に思わなかった点。これは彼らも似たような能力によって操られていた可能性がある。ただ、彼らには各々しっかりとした自我がある。クライヴの魅了のような支配ではなく、無意識のうちにある一定の事柄を妨げるような力。そんな印象か。

更に聞くに、彼らは魔王の存在や他国に攻め込む行為についても何の疑問も抱いていなかった。急激な軍備の増強をしていたとは言え、大国である他三国と冒険者ギルドへの同時宣戦布告。俺と同じS級冒険者である獣王が治めるガウン、水竜王が守護するトラージ、メルフィーナの加護を受けるデラミス。いずれも強国、無謀もいいところだ。洗脳の解除の件と同様、問いただすことで彼らは初めて不審に思う。これも先程の力によるものか。アズグラッドに関してはただ強い者を求めていただけ、って気もするけどな。どちらにせよ、対クライヴ君用にメルフィーナが製作した指輪の耐性が役に立ちそうではあるな。

術者と思われる者で怪しい奴筆頭と言えばトリスタンだろう。クライヴの行方を眩まし、代行とは言え魔法騎士団の後釜に着任している。背後では謎の商人との関わりもあるそうだ。ちなみにダハクの首輪はトリスタン経由でこの商人から仕入れたものらしい。この商人も何者だよって話だ。うーむ、クライヴを推薦したのもトリスタンだと言うし、こいつ真っ黒じゃないか。トライセン王じゃなくて、こっちが魔王ではないのか? しかし、魔王の証である『天魔波旬』のスキルはなかったしなぁ。

次点で王であるゼル・トライセンか。前々から魔王疑惑が上がっていたが、先述の通りトリスタンに操られていた可能性もあるからな。それでもゼルはゼルで怪しい点がいくつもある。エルフの里で情報を吸い上げたときに知ったことだが、以前と比べ性格や嗜好が変化し、時折異様なプレッシャーを放つことがあると言うのだ。やはりゼルも怪しい。

「俺らが、操られていた……?」

目に見えてアズグラッドは動揺している。そろそろ、かな。

「で、これからどうしたい?」

「どうって…… 私達は捕虜です」

「どうしたい、ねえ。強いて言えば俺らを、トライセンを嵌めた奴を叩きのめしてぇが……」

「アズグラッド……」

「一応、俺もS級冒険者だからな。三国同盟とギルドから相応の現場権限は持たされているんだ。その気になれば制限付きではあるが俺の下に監視の名目で置くこともできる。古竜なんて並大抵なところじゃ手に余るしな。でなければ、通常通り引渡して終わりだ。それから先は知らん」

俺は懐から首輪を取り出し、王子らの前にチラつかせた。