軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第110話 看病

―――ケルヴィン邸・地下修練場扉前

「そろそろ、でしょうか?」

夕食の準備を終え、ご主人様が鍛錬を終えるのを扉の前で待ちます。セラさんの申し出の通り、今夜の夕食は気合を入れてお作りしました。リュカやエリィにも手伝ってもらい、いつも通り愛情もたっぷり――― コホン、真心を込めて調理致しました。

「あれ、これじゃあいつもと変わらない…… かな?」

でも、ご主人様なら普段通り、美味しそうに食べてくれそうです。顔を綻ばせて料理を召し上がる姿は見ているだけで飽きません。出来ることなら昔のように食べさせて差し上げたいのですが、最近は皆で食事することが多く、なかなか機会がありません。非常に残念です。よし、今度お夜食をお持ちすることに致しましょう!

……それにしてもセラさん、今日はどうしたんでしょうか? ご主人様のお力で大よその位置は分かりますが、念話を送ろうとしても拒否されてしまいます。夕食までに戻ってくればいいのですが。

―――ギィ。

あっ、いけません。ご主人様が戻られたようです。

「し、信じられん。メルの奴、隙あらばサブミッションで骨を折りにきたり、本気で魔法を叩き込んできやがった…… いくら白魔法があると言っても、限度があるだろ……」

余程激しい鍛錬をされていたのでしょう。ご主人様のローブは所々凍り付き、血に濡れてボロボロです。黒杖を支えに歩くほど酷くお疲れのようですが、回復魔法を使用されたのか幸い体に外傷はなさそうです。いつになっても向上心を忘れない壮士凌雲のその姿勢、感服致します。何かおっしゃっているようですが、残念ながら呟き程度の小さな声だったので私の耳では聞き取れませんでした。

「ああ、エフィル…… 出迎え、いつもありが、ととっ!?」

「―――!」

言い終える前に、ご主人様はフラフラと倒れそうになってしまいました。そうなる前に持ち前の俊敏力でご主人様をキャッチです。ふう、間に合いました。

「柔らか……」

「……? ご主人様、お疲れ様でした。湯を沸かしておりますが、お夕食の前に入浴されますか?」

「……ああ、そうだな。このままじゃ流石にアレか。頼むよ」

「承知致しました」

「あら、お風呂ですか? 私も一緒に入ろうかしら」

地下修練場の扉を見ると、メルフィーナ様が来られたところでした。確か、ご主人様が立ち入り禁止にしていたはずなのですが…… むう、だから私もここで待っていたのに。

「エフィル、言いたいことは分かりますが、顔に出ていますよ」

「えっ?」

わ、私としたことが…… まだまだメイドとしての修練が足りないようです……

「心配しなくても大丈夫ですよ。S級魔法を扱う為のアドバイスを丁寧にしていただけですから」

「あれが、丁寧なアドバイス……? ほぼ肉体言語による荒行じゃ……」

「うふふ。あなた様、もうワンセット逝きましょうか?」

「さ、風呂に入ってサッパリしてくるかな!」

足元がおぼつかなかった先程までの様子が嘘のように、ご主人様が浴場に向かって全力疾走していきました。ホッ、どうやら心配はなさそうです。

「あっ、ご主人様! タオルと着替えはもう脱衣室に用意しておりますので!」

「サンキュ!」

ああ、もう見えなくなってしまいました。クロちゃんの『暴食』スキルは順調にその効果を発揮しているようです。

「ごめんなさいね、エフィル。約束を破ってひとりで修練場に入ってしまって」

「いいえ。メル様がそうなさったということは、きっとそれが必要なことだったのでしょう」

メルフィーナ様はご主人様を想って行動されていました。感情的になってしまった自分が恥ずかしいです……

「ううん、エフィルがいたら安全圏からの射撃でもっと多彩な助言が出来たことでしょう。ああ、己の早計さが嫌になります」

「そ、そうでしょうか?」

何のお話でしょうか? メルフィーナ様のおっしゃることは極稀に難しいです。

「まあ過ぎたことを悔いても仕方ありません。エフィル、浴場に行って背中でも流してあげてください。ああ見えても、疲労は蓄積しているでしょうから」

「承知しました。メル様は如何します?」

「私は小腹が空きましたので、先に何か摘んでからにします。さ、いってらっしゃい」

……調理場に準備した料理、持つかなぁ。

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―――ケルヴィン邸・リビングルーム

リオンからの緊急の念話を受け取ったのは、エフィルと共に風呂からあがり、連続したレベルアップのファンファーレを聴いた後のことだった。

リビングにて状況を聞くに、強敵との戦闘を終えた直後にセラが倒れてしまったらしい。ステータス上のHP・状態異常と共に問題はなく、何が原因なのか分からないとのことだ。更に、リオンの影に潜っていたアレックスも調子が悪いときた。容態としてはセラの方が悪いようだが。

『うーん、まあ、アレだろうな』

『アレって、ケルにいもう分かったの!?』

分かったも何も、その場にそれを経験したジェラールがいるだろうに…… 連続したレベルアップ後に体調不良、ステータスに異常がないとすれば、それはもう『進化』しかない。

『心配はいらないが、その状態でまた戦闘になるのもな。先にセラとアレックスを召喚解除して屋敷に戻そうと思うが、残ったメンバーでリオン達は大丈夫か?』

『僕らは心配いらないよ! 早く戻してあげて!』

『分かったから泣きそうになるなって。エフィルが気合を入れた料理を作ってる。リオン達も早く帰ってこいよ』

『うん、5分で帰るよ!』

『いや、もう少しゆっくりでも……』

―――念話が切れてしまった。我が妹ながら、仲間想いのいい子になったものだ。さて、セラとアレックスを帰還させるとしよう。召喚を解除し、ソファの上に寝かせるようにしてセラを、リオンの部屋から持ってきたアレックス専用クッションにアレックスを召喚する。

「セラさん、息が荒いですね」

「ああ、ジェラールの時よりも辛そうだな……」

アレックスは少々気ダルそうな感じだが、ハッキリと意識がある。こちらは問題ないだろう。対してセラは呼吸が荒く、目を覚ます気配がない。気持ち程度ではあるが、気を落ち着かせる白魔法『 爽快(リリーフ) 』を唱える。

「かなり大規模な肉体の改変を行おうとしているようですね。これはまた、化けるかもしれません」

「セラ……」

実際にセラの容態を目にしてしまうと、進化だと分かっていても心配してしまう。

「これ以上私達にできることはありませんね。後は待つだけ、ですが―――」

メルフィーナが俺の肩をポンと叩く。

「あなた様、今日は一日セラと一緒にいてください。それがセラの一番の支えになりますから」

「……ああ、そうさせてもらうよ。一先ず、セラの部屋に寝かすとしよう」

セラを両手で慎重に抱き上げる。所謂、お姫様抱っこの形だ。思った以上にセラは軽かった。だが、油断するとセラの頭の見えない角が俺を突っついてくる。気をつけねば。

「食事は後でお持ちしますね」

「頼む」

無事に釣り道具やエフィル特製の現代風衣装が散乱する部屋まで連れて行き、ベッドにセラを寝かせる。時折白魔法をかけてやると、気のせいかもしれないが顔色が良くなったように思える。まったく、俺を心配させるなんてしょうがない奴だ。目を覚ましたらこっぴどく叱ってやらないとな。

「……白魔法、頑張るか」

今夜は徹夜になりそうだ。

―――と、意思を固くするまでは良かった。が、この辺りで金髪ロールの全身筋肉オカマが屋敷に襲来。屋敷中のゴーレムが敵と識別し応戦、ついにはエフィルとメルフィーナが出動する事態になるのだが、それはまた別の話となる。事後処理を考えると頭が痛い。