軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第109話 血染

―――新ダンジョン・祭壇跡

「―――ッ!?」

白狼が声にならない叫びをあげる。アレックスの銜える劇剣リーサルは白狼の右目に深く突き刺さり、白狼が悶える度に奥へ奥へと沈んでいく。

だが、調子に乗って長居はできない。白狼は何時でも放電を行うことができるのだ。頃合いを見計らってアレックスはセラの影へと潜っていった。

『よし、まずは味覚を奪ったよ!』

『むしろ視力を半分奪った功績の方が大きいわ! ナイスよ、アレックス!』

『クゥーン』

皆でアレックスを褒め称える。白狼に対しての初めての深手、今までアレックスの存在を隠してきた甲斐があると言うものだ。

「苦しんでいる暇はないわよぉ!」

「その通りじゃ!」

攻撃の手を緩めた白狼に対し、防御から一転してゴルディアーナとジェラールが追撃に向かう。何だかんだでこの二人は気が合うのかもしれない。

「 熊手掌打(くまさんのて) えぇぇ!」

視界に映らないであろう右足側、独特の構えから繰り出されるゴルディアーナの掌打が白狼の右前足に直撃する。右前足の支えをなくした白狼はバランスを崩し、巨体が大きく傾く。

「―――ダーインスレイヴ、魔力解放っ!」

一方でジェラールは魔剣ダーインスレイヴがこれまで吸い込んだ魔力を解放し、攻撃力を最大限まで爆発させる。黒き刀身は更に長く肥大化し、巨漢であるジェラールの何倍もの長さまで伸びていた。そうなれば必然的に剣の重量も大きくなる。とてもではないが人間が持てる、ましてや振り回せる代物ではない。

「ふうぅーーーん!」

だが、ジェラールは雄叫びを上げながら猛々しく魔剣を振るう。黒き巨剣は白狼の左前足を斬り裂き、腹部を通過する。宙へと浮いた左前足は彼方へと舞い、白狼の悲鳴が響き渡った。

「グルゥアアァーーー!」

堪らず白狼が後退、しかしこれまでセラ達を翻弄していたスピードは明白に落ちている。

『セラねえ!』

『リオン!』

セラとリオンが同時に互いを呼び合う。二人は理解していたのかもしれない。現パーティで1・2の敏捷力を持つ二人が、片前足を失った白狼の速度に追いついていたことに。

「グルルルルッ!」

後退する白狼がバチバチと電流を轟かせ、先頭を走るリオンに向かって一直線に伸びた稲妻を放つ。おそらくは今までで最大威力の電撃。掠りでもすれば死の危険性もある。

しかし、それでもリオンは迷わず白狼に向かって突き進んでいった。

「ハアッ!」

稲妻とリオンの振るった魔剣カラドボルグが衝突した。

「―――ッ!?」

「電撃を吸収できるのは、お前だけじゃないっ!」

白狼が驚愕する。リオンはカラドボルグを武器としてでなく、雷に対しての盾として使用したのだ。カラドボルグは白狼が放つ電撃を全て吸収し、その刀身が分かれた狭間でうねる稲妻は更に強まっていった。

リオンが電撃を受けている間にも、刻々と二人は白狼の間近へと迫る。次の手を打つ為にも、白狼は電撃を一度止めた。

(電撃が止まった! ――― 稲妻反応(ライトニングエンハンス) ・ 重ね掛け(ダブル) !)

電撃が止んだ瞬間にリオンは 稲妻反応(ライトニングエンハンス) を重ね掛けする。身体への負担が大き過ぎる為に十秒後には全く動けなくなるリオンのワイルドカード。リオンはここで全てを決するつもりだ。

超強化されたリオンの速度を片目片前足となった白狼は捉え切れない。リオンは天歩で宙を舞い、軽業スキルと併せて縦横無尽に白き身体を斬り刻みながら白狼を突っ切る。その速度は声さえも置き去りにしていた。

白狼を通り過ぎ、リオンが地面に着地する。その手に持つのは偽聖剣ウィルと魔剣カラドボルグ――― ではなく、劇剣リーサルであった。リオンは 稲妻反応(ライトニングエンハンス) を唱えた後、自らの影からアレックスを呼び出し互いの剣を交換していたのだ。今においては魔剣カラドボルグをアレックスが、劇剣リーサルはリオンの手中にある。

「ッ!? グラッ!?」

混乱する白狼。見えていた左目も機能を失い、あらゆる物を嗅ぎ分け判別できていた嗅覚も封じられたのだ。冷静でいる方がおかしい。

『後は頼んだよ、セラねえ……』

着地からそのまま倒れ込んだリオンはセラに全てを託す。

『任せなさい!』

味覚、嗅覚、視覚、聴覚、触覚――― 五感の全てを奪われた白狼にセラが対峙する。セラは 魔人闘諍(ジンスクリミッジ) を纏った翼で飛翔し、移動しながらも空中で構えを取った。

「グウォーーーン!」

最後の意地か、察知スキルを持っていたのか、聞こえもしないはずのその身体で白狼は叫びを上げる。残った右足のその鋭利な爪を、セラを引き裂かんと放ったのだ。黒き装甲で包まれた左腕でセラはそれを受け流す。しかし白狼の攻撃は精密にセラを狙っていた為に、 魔人闘諍(ジンスクリミッジ) ごと爪はセラの左腕を引き裂き、その背後では衝撃波による爆音が鳴った。

「だからって、何だって言うのよっ!」

衝撃波に、血で染まる左腕の痛みに耐えながら、セラは右手を白狼の喉元に放つ。 腐食する鎧(アーマーケロウド) を篭めたのは貫手。白狼と同様に鋭利な爪を備えた 魔人闘諍(ジンスクリミッジ) で、セラは目標の喉を貫いた。

「………ッ」

最早、白狼は声も出せない。ならば、と暗闇の中で右足を動かそうとするも―――

「―――私の血を、浴びたわね?」

白狼の意思に反し右足が全く、ピクリとも動かない。それどころか後退しようとする妨げをしているようにも思えた。

セラの固有スキル『血染』はセラの血に触れたモノを支配する能力。対象が生物であれば接触した部位を、武具や魔法による生成物であってもその支配権を奪い、意のままに操ってしまう恐るべきスキルだ。父である魔王グスタフから受け継いだ、正に悪魔の王に相応しい力と言えるだろう。

セラとジェラールの模擬試合の際、ジェラールがセラに斬撃を放つことなく、執拗に剣の峰で吹き飛ばしていたのは斬ったことによる『血染』を防ぐ為だった。それを知らぬ白狼の右足は、セラの支配の下にある。

(メルフィーナのときは魔法を分解して魔力を吸うだけだったけど、血染が本当に活かせるのは―――)

白狼の右足に付着したセラの赤き血が魔力を抽出、その無限とも思える白狼の魔力がセラの右拳へと転送されていく。更に右足は地に根を張ったかのように動かない。後退もできない。できるとすれば、再び周囲に雷を放つことだけ。ビリビリと白狼の体毛に雷が帯び始める。だが、それも遅過ぎた。

(―――敵に触れさせたときっ!)

「 血鮮逆十字砲(クルーセフィクション) !」

セラの拳の軌道に描かれる、メルフィーナとの模擬試合時以上の規模の逆十字。紅色のそれは白狼の脳天に叩き込まれ、純白の体毛全体を赤く染めていった。

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「S級お肉……」

「ゲットよー!」

「レベルアップもしたー!」

洞窟内に響くリオンとセラの勝利の雄叫び。壮絶な戦闘とは打って変わって、どうにも締まらなかった。

「お肉って…… まあいいわぁ、お疲れ様ん。まさか、ここまでのモンスターがいるとは思わなかったわん」

ゴルディアーナが少々呆れながらも労いの言葉を投げてくる。S級冒険者である彼も、白狼の力は予想外だったようだ。

「この狼、私が今まで戦ったモンスターの中でも1・2を争う強さだったわよぉ。うん、セラちゃん達はS級でも立派にやっていけそうね!」

「しかし、骨の折れる戦いじゃったわい。帰って酒を煽るとするかのう」

「あら、お酌するわよん」

「やっぱり疲れたから素直に寝るとするわい」

腕にゴルディアーナが抱き付こうとするも、心眼を発揮しジェラールは紙一重で避けた。

「でも、この狼をどうやって持ち帰るのん? セラちゃん達は皆、アイテムボックス系のマジックアイテムを持ってるみたいだけどぉ、流石にこのサイズは無理でしょ?」

「え、余裕よ?」

ズルズルと白狼の亡骸がセラの極小クロトに吸い込まれていく。傍から見れば、マジックアイテムに収納しているように見える。

「……驚いたわねぇ。セラちゃん達の装備もそうだけど、あの大きさの狼を保管できるようなマジックアイテムは伝説級のものよ? 一体どこから仕入れているの?」

「仕入れてるって言うか……」

「……うちの自前、かしら?」

流れる微妙な空気。

「……おっそろしい新人が出てきたわねぇ。益々ケルヴィンちゃんに興味が沸いてきたわん!」

「だからそれは駄目、なん…… だってば……」

突然、セラが膝をついた。

「セ、セラねえ!?」

「何、どうしたのん!? 傷が痛むのかしら?」

「違う、けど…… 何か、変……」

セラの呼吸が荒い。左腕の傷は回復アイテムで処置し、HP的には問題ない。状態異常になっている訳でもなかった。

「一先ず、王に連絡を!」

「う、うんっ!」