軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談 喫茶店の日常

住宅街にぽつりとある喫茶店。瀟洒なレンガ風の外壁。中に入ってみると、穏やかな音楽がレコードから流れており、シックな内装で高級感を漂わせる。

カウンターに数席。テーブルが4卓ある小さなお店。水出しコーヒーがぽたりぽたりと少しずつコーヒーを作り出し、コーヒー豆の匂いが店内には仄かに薫る。

カウンターの横には綺麗な木が生えている小さな植木鉢が置いてあり、エアコンが部屋の空調をちょうど過ごしやすい室温にしている。

店内には穏やかな時間が流れていた。この店だけは別の時間が流れているように静かだ。

お客は数人。カウンターに男一人とテーブル席に女性二人。どちらもこの雰囲気を守り、静かに食事をしている。

店内の店員はマスターが一人。シワ一つない白いシャツと黒いスボン。中肉中背のダンディでかっこよいおっさんだ。

このお店にぴったりの雰囲気のおっさんは、穏やかな表情でガラスのグラスを磨いている。

「なぁなぁ、どう思う? 次はどうアプローチした方が良いと思う?」

カウンターに座っているお客。どことなく狂暴さを思わせる男の子が悔しそうにバンバンとカウンターを叩く。

10代半ばの年頃の男子は、このお店の空気を守る様子は無い模様。

ムスッとした顔で頬杖をつくと、口を尖らせて話を続ける。

「この間は気の弱い男子のふりをして、おずおずと誘ってみたんだよ」

椅子から立ち上がると、片手をあげて跪くとなにやら演技を始めた。

「おぉ〜、麗しの白金の君よ。その輝く鱗につぶらな瞳。小さな体の蛇の中の蛇。世界で一番可愛らしい者よ。どうか俺と昼食をしてください、と言ったんだ。もちろん踊り付き」

マスターたる俺はため息混じりに、グラスを磨く手を止めて男子へと顔を向ける。踊り付き?

「このロリコンめとか、女の子を蛇に例えるなんてサイテーと、周りの女子に袋叩きにされた。特に黒髪の女が恐ろしくてな。あの女は刀を抜いてきたんだ!」

「お前、バカだろ。いや、聞かなくてもわかる。馬と鹿でも食べてろよ」

半眼となって、ムスッとしている男子を見る。自分の行動にまったく疑問を持っていないのが、質が悪いよな。

「この間は、花束をプレゼントしたんだっけか? その前はラブレターを渡したって言ってたよな。お前ってオーソドックスだよな」

「花束は教室に飾られて、ラブレターはその場で切り刻まれたんだ。俺は黒髪の悪魔がこの世界にはいると知ったね」

「それじゃ諦めろよ。そんなに酷い目にあったんなら、もう止めておけば良いだろ? ヨル」

俺ならもう近づかねーよ。あの娘は殺るときはやるしな。

「馬鹿を言え! 俺はなぁ、あの戦闘時に見たあの麗しの姿に雷に打たれたんだ!」

だが、バンバンとカウンターを叩き、諦めない様子。まったく懲りていないようだな。

「あぁ、あの白金の可愛らしい姿。俺の運命の番だ! だからこそ、こんなひ弱な人の姿になってまで学院に入ったのに……。近づくこともできやしねえ」

「オーディーンに家賃代を払ってまでよくやるよな」

悔しいとバンバンカウンターを叩いているので、そろそろ壊れるかもしれない。

それは少し困るな。

「落ち着けよ。そして諦めろ」

人差し指を振るい、変わり果てたヨルの身体をフワリと浮かせて椅子に無理矢理座らせる。面倒くさいやつだな、まったく。

「それよりも、この水出しコーヒーって、いつ飲めるだけの量ができるんだ? 振ればもっと絞り出せるのか? 店で売れるほどの量って無理じゃないか?」

さっきからぽたりぽたりとしか落ちてこないのだ。全然溜まらないんだけど?

「客が来たときはどうしてるんだよ?」

「完成品を創造している」

「それって水出しコーヒーって言うのか?」

「それは禅問答ってやつだな」

この話題にはかなり深いものがあるなと頷く。最初から水出しコーヒーとして創られた物は本当に水出しコーヒーといえるのか?

「どことなく詐欺っぽいぞ、それ………」

「水出しコーヒーはこの店の一番人気なんだから仕方ないだろ。それよりも注文しろよ。売り上げがさっぱりなんだ」

「はぁ………それじゃ、水出しコーヒー一つ」

なぜかため息混じりに言ってくるヨルムンガンド。詐欺じゃないんだから良いんだよ。

「ナポリタンとナポリピッツァとナポレオンと水出しコーヒーな、了解」

「俺、あまり金ねーんだけど……」

「気にするな。オーディーンに言っておくから。知り合いだから安めにしておいてやるよ」

これで一ヶ月の売り上げは稼げたねと、ふんふんと鼻歌混じりに料理に取り掛かる。お酒は高く売れるんだよな。

ナポリタンは、予め茹でておいた麺を炒めて作るのだ。ケチャップ、ケチャップ………。ケチャップ無いな。豆板醤でいっか。

ジュワッとフライパンで炒める。この音が良いんだよな。玉ねぎにピーマン………玉ねぎないな。長ネギにしておこう。ピーマンも無いぞ。なんでこんなにないんだ?

そういや、今日は買い出ししていないや。唐辛子にしておこう。ベーコンはあるから大丈夫。

塩に胡椒を入れてと、ササッと手際よく炒めていっちょあがり。

「へい、中華風スパゲッティできあがり!」

「………ナポリタンって言ってなかったか? なんか真っ赤なんだけど?」

「次はナポリピッツァか……。生地ってどうやって作るんだ?」

飲食店は創作料理こそが決め手なんだよ。さて、生地は……生地は………うどん粉で良いかな?

「とりあえず作ってみるか」

「とりあえずで作るなよな……。もう喫茶店辞めたら?」

「皆の憩いの場は閉めることはできない。泣いて悲しむ子も出てくるだろ」

「泣いて閉めてくれと頼む客がいるかもな?」

そんなお客はいねーよ。いないよな?

ナポリピッツァはどのように代替材料で作成できるかをヨルと話し合う。あーでもないこーでもないと、スマフォで検索した内容を見ながら、料理の研究に余念がない俺である。

「あのすみません、少しよろしいでしょうか?」

「は、はい。ご注文でしょうか?」

テーブルに座っていた女性が声をかけてくるので、少し焦ってしまう。やば、もう一組お客がいたっけか。

コホンと咳払いをして、真面目に対応をすることにする。ここらへんでは見ない女性だ。

子供の面影も見えるので、まだ10代前半かな? 金髪ツインテールがよく似合っている可愛らしい少女だ。ニコリと微笑むその笑顔に思わず見惚れてしまうな。

「あの植木鉢は売っているのかなと思いまして」

ほっそりとした指が向ける先は、カウンターの隅に置かれている植木鉢だった。半透明のガラス細工の木は植物ではなく、作りものに見える。

「あれは非売品なんですよ。初期の検証用だから売っても良いんだけど……すぐに枯れますよ?」

あれを維持するには、かなりの苦労がいるんだよ。すぐに枯れたらショックを受けるだろう。

「大丈夫です。これは贈答用ですので」

いつの間にかもう一人がカウンターに移動しており、置かれている植木鉢を持ち上げて、口元を笑みにする。銀髪は聖奈以外では初めて見たなぁ。

「それじゃ、ますます売ることはできませんよ。すぐに枯れる植木なんて、相手にも悪い」

「行き詰まっているので、試してみたいのです。お願いいたします」

小柄な少女が深く頭を下げてくる。必死な様子が……必死ではなさそうだけど、それでも必要としているようだ。

どうしようか………。まぁ、いっか。枯れるよとは伝えたしな。

「ん〜、良いですよ。お代は……まぁ、いらないです。枯れる可能性が高いですし」

流石に欠陥品にお金を取ることはできないよな。

「ありがとうございます。枯らすことがなかったら……いつかお礼に来ますね」

料理代を支払って、花咲くように可憐な笑みになる少女。本当に嬉しそうなので、こちらも嬉しくなってしまう。

「毎度あり。よかったらまた来てください」

「はい、また機会がありましたら」

植木鉢を手にすると、ペコリと頭を下げて少女たちは店を出ていく。

「では、ご馳走さまでした可愛らしいお嬢様」

ドアを開けると、くるりと振り向いてくすりと悪戯そうに微笑み、チリンとドアベルを鳴らして二人は逆光の中で姿を消す。

「なんだろうね、あの娘たち」

黒い風を身体から吹き出して、黒髪黒目の少女へと戻ると俺は肩をすくめる。なんか不思議な少女たちだったなぁ。

俺の偽装を見破るなんて、なかなか強い力を持つ放浪者だよな。

「この世界にこっそりと入り込むなんて、めんどくせー奴に決まってら。あ、お前、その姿の方が客が入るぞ?」

「何言ってんだよ。わかってねーな。こういう秘密の隠れ家っぽい喫茶店には、落ち着いた怪しげなマスターがいるべきなの! 美少女がオーナーだと、一気に隠れ家っぽい喫茶店じゃなくなるだろ」

口を尖らせて反論する。浪漫というものを知らないよな、ヨルは。

「売り上げは、俺が完成させたロトくじパーフェクト勝負法で稼げるから大丈夫だ」

「喫茶店やる意味あるのか?」

「悠々自適のスローライフをしたかったんだよ。だから月に4回もこのお店を開いてるんだ」

分離して働く俺って働き者だよな。感心しちゃうよね?

「なんでもいいや。それよりも次のアプローチを……やはり偽装結婚をお願いしてみるか?」

「ヨルの参考書は少女マンガから?」

むむむと考え込むヨルに苦笑すると、チリンとドアベルが鳴る。

「たのも〜! 今日こそは超ウルトラファイナルパフェを食べきります!」

元気よく入ってきた少女が、ふんふんと気合いを入れた声をあげる。

「みー様、ちょっとこのお店のゴミを片付けてからで良いですか? 粗大ゴミが残っているので」

「燃やすゴミかもしれないよ〜。燃やしちゃうよ〜」

物騒な台詞を口にしながらその友だちたちも入ってきた。なぜかヨルに殺気を見せているけど、俺には関係ないから良いかな。

学校帰りなのだろう。皆、制服姿だ。

「へい、それじゃパフェいっちょー! 他の方々は?」

「私は店長を」

「玉藻も店長を〜」

「店長は非売品でーす」

さて、今日も二人では食べ切れないパフェを作るかな。

3人の力を合わせないと食べられないパフェをね!