軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

379話 人生は続くんだぞっと

待機していた車に乗って、ふむんと腕を組む。最近少し思うところがあるのだ。

「なんか覚醒モードを使うと、思考が幼くなるみたい。私は頭脳明晰、名探偵も裸足で逃げ出す知性の塊だと思うのに」

「可愛らしいから良いと思いますよ?」

「玉藻の狐っ娘モードと一緒だよ〜。コンちゃんと合体すると人を化かしたくなるし」

「そのカミングアウトは問題じゃない? 初めて知ったんだけど!」

闇夜は気にせずに、玉藻は意外な副作用をカミングアウトしてきた。狐っ娘モードにはそんな秘密があったのか。

というか、そろそろ闇夜はお膝から下ろしてくれないかな? 白金モードが解けないんだけど。ずっとお膝に乗せて頭を撫でてくるんだけど?

「高校に到着したら、下ろしますね」

ご満悦で顔を幸せそうに緩ませているので、移動中は無理みたい。

超巨大な車に皆で乗って移動中。テレビ、冷蔵庫完備で、ふかふか椅子の特注品だ。移動中の振動すら感じられない優れものである。

『え〜、本日は今売出し中のカミガミンのお二人に来てもらいました!』

テレビに映るニュースには売出し中のバンドが出演している。

『皆、おはよう! まずは朝の爽やかな空気を音で表そう!』

『妾の音を聞けーなのじゃ!』

バンドの男性がハーモニカをパプゥと鳴らし、隣に立つ少女が木魚をポクポク叩く。ノリノリで二人は踊りながら、音楽を奏でていた。

「最近流行りのシュール系のバンドだね!」

ホクちゃんはしっかりとテレビをチェックしているらしい。ナンちゃんは備え付けの菓子パンをもぐもぐ齧ってる。朝食食べてきたんじゃないの? さっきも食べていたよね?

「あの木魚なんか変じゃないかなぁ? パンのおかわり貰って良い?」

「………この椅子はベッドに最適」

セイちゃんはリクライニングを最大にして寝ており、気持ち良さそうだ。ふかふかの椅子を撫でて、ふにゃんと口元を緩めている。

最近流行りのシュール系バンド……。まぁ、楽しそうだし良いけどさ。

「とりあえず煩いから、チャンネル変えるね」

爽やかな空気を音にすると、まったく爽やかではなくなることが判明したよ。

しばらく移動すると第三魔導学院が見えてくる。最新の建築学の技術を元に建設された建物だ。なにしろ、ガス爆発で一度きれいさっぱりに消えちゃったからね。

車通いが多いが、歩いて通学する人たちも多い。通学路には制服姿の人たちが段々と増えてきているのが、外を見るとわかる。

今日は入学式だから、新入生ばかりなのだろう。歩く人たちの顔は、これからの学生生活への期待に満ちている。

角から飛び出てきたパンを咥えた女の子が、男の子にぶつかったりとかするイベントも……。あ、男の子はさっと躱した。見事に受け止めると、後ろで歩いていた男の子に女の子を渡して去っていく。

女の子を手渡された男の子は、え? え? と戸惑っているけど振り向きもせずに、手渡した方は学校へと歩いていった。

「まぁ、イベントはもうお腹いっぱいなんだろうね」

その様子が目に入り、思わず笑みが溢れる。

「なにかありましたか、みー様?」

「ううん、なんでもないよ」

さてと、そろそろ学校に到着するかな。

本当は学校には入学するつもりはなく、冒険者として月に2回働いて、王様として月に1回会議に出席する予定だった。

とっても忙しい日々を過ごす予定だったから、学生生活は無理だったんだけどなぁ。

それでも、魔導学院は楽しそうだ。空に浮くホログラム。空を移動する魔法使い。そして、眼前で睨んでくるオーディーンのおじいちゃん。

車から降りると、なぜかおじいちゃんがいました。

あれ、なんでおじいちゃんがいるのかな?

「阿呆。お嬢が挨拶をしてくれと連絡してきたんだろうが」

「そういえばそうだった」

「ち、ちょっと前から待ってたんですよぅ」

おじいちゃんの後ろから、ちょこんと顔を覗かせるのは、フレイヤだ。

「お孫さんの入学式でもあるのですから、やはり大魔道士様が式典に出るのがよろしいかと。お孫さんも喜びますし、これからの学生生活が平和になりますよ」

「儂は忙しいのだ。こんなくだらないことには付き合ってはおれぬのだがな」

隣に立つのは、聖奈だ。パンと手を打って、隣に立つおじいちゃんへと愛らしい笑みで言う。おじいちゃんはみーちゃんをジロリと見てくるが、そっぽを向いておこう。

「あたしは学院に入学なんかしなくて良かったんだけど、まぁ、楽しそうだしいっか。あはは!」

その聖奈の肩を遠慮なくバンバン叩くのは魅音だ。その笑顔には陰は一切なく、本当に楽しそうだと期待しているのだ。ポジティブシンキングな女の子だね。みーちゃんもその笑顔を見ると、笑顔になっちゃうよ。

「これからは貴族としての礼法や色々な勉強もしていかないといけませんからね。これからは一緒に頑張りましょう」

肩を叩かれても嫌な顔一つせずに、聖奈は魅音と顔を見合わせてニコリと微笑む。同じく陰一つなく、その顔は未知の未来に期待をしている。

ループが終わり、聖奈は決められた運命から脱した。原作とは違う高校生活が待っているのだ。

「ところで勝利君は?」

聖奈と魅音がいるのならば、あの男もいないといけないのに、影も形もないよ?

「あぁ、ここにいますよ?」

ネックレスのように首から下げていた紅い鍵を、胸元から取り出して見せてくる聖奈。なぜか鍵はジタバタと……いや、嬉しそうにくねくねと動いているな。胸に仕舞ってあったからだな。硬そうな鍵がくねくねと動くのは気持ち悪いんだけど。

「なんで『鍵モード』になっているのでしょうか?」

闇夜が鍵を見て尋ねると、ニコニコと微笑みを絶やさずに聖奈は答えてくれる。

「それが入学式のかなり前に行こうとしていたんです。正門の前でウロウロしたり、迷子の女の子を探す予定だったみたいで、うへへと気持ち悪い笑みで呟いていたので、『鍵モード』に封印しておきました。入学式が始まるまではこのままです」

再び鍵を胸の中に仕舞う聖奈。その笑顔には陰一つない。

魅音はそっぽを向いて、たらりと汗をかいているけど干渉はしないようだ。

4つ目の選択。聖奈が願ったことはというと……。

なにか余計なことをしそうになったら、聖奈の意思で鍵に変化する便利な身体と勝利はなりました。

色々とやらかす男だから、別に良いだろうとそういう形で復活させました。大丈夫、生まれてくる子供には遺伝しないから。

ヤンデレ……と玉藻たちがドン引きしているけど、燕楽のおっさんはそれを聞いて、大笑いもしていたから別に良いだろう。良いよね?

ぞろぞろと皆で式典会場に向かう。日本魔導帝国の最高学院は、多くの高位貴族や財界人が出席している。

出席者の中に、真白がいたので軽く手を振っておく。真白が手を振り返してくれて、一緒にいたニニーがみーちゃんたちと合流してくる。

大人数になっちゃったことにより、皆の注目が嫌でも集まってきて、少し緊張しちゃう。

「聖女の聖奈ちゃんがいると注目が凄いよね!」

「女王陛下には負けますからね!」

「みーちゃんは一番ちっこくて目立たないよ!」

「存在感は巨人なみですからね、みーちゃん」

二人の相乗効果だねと、お喋りしながら会場に入る。

「これは鷹野女王。良いところで会ったね。入学式が終わったら、少し良いかな?」

みーちゃんたちに負けずに、大勢の人々を連れてきた人が片手をあげて挨拶をしてくる。

信長皇帝だ。後藤隊長も後ろにいる。なぜか弱々しい笑顔だけど疲れてるのかな? 皇帝は激務っぽいから大変だよね。後で回復魔法をかけてあげよう。

「おはようございます、こーてーへーか。今日はこーてーへーかも式に出てくれるんですね!」

「うん、少し用事もあったからね。テレポートポータルのことや、空中戦艦のことや、その他諸々のこととかね」

「パパは後から来るので、よろしくお願いします!」

働き者だなぁ。みーちゃんは子供だから難しいことはパパにお任せだよ。

「いや、直接話さないと、さっぱり話が進まないじゃないか! 頼むよ、鷹野女王」

「高校生活を満喫した後でお願いします!」

「そうですよ、お兄様。それにみーちゃんは政治に関わらない契約でしょう?」

聖奈がみーちゃんを庇うように前に出てくれる。皇帝はため息を吐いて、コソコソと小声で告げてきた。

「……もう限界なんだっ! 無理だから! 契約書は書き直そう。貴族たちの突き上げが酷くて、毎日針のむしろなんだ! もうとっくに僕のキャパを超えているっ!」

「わかりました。根回しが必要なんですね? それでは親友の私がみーちゃんに裏で話を通すという体裁で……」

「くっ。仕方ないな、それじゃこの件は……」

二人は狡猾な表情となりひそひそ話になる。実に楽しそうで良かった。二人は放置しておこう。

しばらくお喋りをしていると、ようやく式典が始まる。ずらりと学生が整列して緊張気味に壇上を注視する。

にゃんこな生徒会長の鈴が尻尾をふりふり壇上に立つと、穏やかなのんびりとした表情で話し始める。ちらりとみーちゃんと視線が合って、くすりと笑ってくるので、笑い返す。

原作とは違う。原作では厳しい軍人のようなキャラだった。針のような性格でピリピリしていたものだ。

でも、今は違う。鈴は原作とは違いのんびり屋さん。闇夜は怪しい鬱な性格ではないし、玉藻は生きている。真白だってそうだ。

聖奈は馬鹿な茶番劇に巻き込まれるヒロインではないし、エリザベートは婚約者がいないので、新しい婚約者を探している。ようやく人間に戻してもらった勝利はぐったりとしている。

原作とは程遠い世界となった。もはや運命はない。自由なる未来に皆は旅立つ。

「それでは女王として聖女として名前を響かせる方に新入生代表のご挨拶をしてもらいましょう〜」

今までのことを考えていたら、なぜか肩を押される。んん? なにかな? え、新入生代表?

テストも受けてないんだけど?

「みー様、呼んでますよ」

「ここでも 女帝(エンプレス) を支えちゃうからね!」

「頑張って!」

「お腹が空いても、お菓子があるから大丈夫だよ〜」

「……眠い時は背負ってあげる」

皆が笑顔でみーちゃんを見てくる。その顔で言われると、拒否することはできないね。

それじゃ、みーちゃんの挨拶を見せてあげよう。

「とうっ! 変身!」

壇上へと駆け上がると、ポーズをとって白金の光で輝く。

「皆、こんにちは! 新入生代表の鷹野美羽です!」

白金の髪を靡かせて、キラリと白金の瞳を煌めかせ、ちょっと小さくなった身体でポーズをとる。

「私がこの学生生活でやりたいことは」

「大変だ! 実験用に仕舞ってあった宝石が全て盗まれている!」

先生が目を剥いて、式典の中に慌てて入ってきた。

「まずは学生探偵をやりたいと思います!」

学生生活も楽しくなりそうだと、私は笑顔で壇上から飛び降りるのであった。

〜 おしまい 〜