軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

321話 神無公爵の切り札

お互いの強大なマナがぶつかり合い、空間がその威力に耐えきれずに歪んでいく。放電が起こり、空気が震え砂埃がパチパチと弾けていった。

「ぬぅぉぉぉ!」

「はぁぁぁぁ!」

刀弥の刀と神無公爵の剣が交差して、激しい打ち合いが発生する。お互いに一歩も引かず攻撃を繰り出しながら落下していく。

打ち合うたびに衝撃波が発生し、瓦礫が吹き飛び轟音が響き渡る。

「皇帝陛下、助太刀致します!」

王牙たちが事態に気づいて、フロアに入ってくる。神無公爵は王牙たちをちらりと見ると、人差し指を軽く振る。

魔法陣が宙空に描かれると、その中から戦士たちが姿を現した。バイキングのような鉄の胸当てと毛皮を羽織り、無骨な斧と丸盾を装備している男たちだ。大柄ではちきれんばかりの筋肉の身体で、身体全体に霜がおりており、冷気を生み出している。

その数はあっという間に膨れ上がり、30人近くの人数が召喚されてしまう。全員が空中に浮いており、落下することがない。

「貴方たちには、こいつらの相手をしてもらいましょう。やれ『 霜戦士(フロストソルジャー) 』たち!」

神無公爵の言葉に、『 霜戦士(フロストソルジャー) 』たちは斧を構えて王牙たちに襲いかかる。

「邪魔だっ!」

『一閃』

王牙は召喚された戦士たちへと、必殺の一撃を放つ。空間に光の軌跡が奔り、見たことのない戦士たちを分断させるかと思われたが、戦士たちは無言で丸盾を構える。

『 城壁盾(パレスシールド) 』

魔法陣が描かれて、障壁となると光の軌跡を受け止めてしまう。

「…………」

『 霜斧(フロストアックス) 』

「ぬぅっ!」

王牙の武技を受けとめると、すぐに斧に冷気を纏わせて反撃してくる。王牙は刀で受け止めるが、ズシリと加重を受ける。その攻撃は単純であるが、速くそして重かった。

無言で連撃を繰り出す戦士に、王牙も刀を振るい対抗するが、丸盾で防がれて隙をじっと狙う戦法を使ってきて、攻撃が当たらない。しかも、他の戦士たちも囲んできて、息のあった攻撃をしてきて、隙が全くなかった。

「お父様! この戦士たち、強いです!」

「くっ、こんな隠し玉を持っていたとは……」

一対一ならば倒せただろう。強いとはいっても王牙レベルではない。しかし、敵は複数であり、守りながらのカウンター狙いのために、倒すことはできなかった。

しかも接近して戦うと、戦士が体に纏う冷気により魔法障壁が削られていき、刀で冷気が付与された斧を防ぐと凍りついていく。

その強さは全員が近衛隊長レベルの者たちだ。苦戦を強いられて、王牙は歯噛みする。

闇夜たちも苦戦をしており、部下の何人かは傷つけられて、押されていた。

「時間稼ぎには充分でしょう。その間に皇帝陛下、貴方の命を頂きます」

「おっさんの命を狙うなんて悪趣味だねぇ」

「貴方が思うよりも、その命は高価なのです」

神無公爵は戦士たちの活躍を見て薄笑いをすると、刀弥に向き直り攻撃を再開する。軽口を叩きながらも刀弥はこの状況に対して焦りを覚える。

「戦況を打破しないといけないか」

『光輪剣』

刀弥の得意技を使用する。刀がかき消えて光の輪が神無公爵へと放たれる。

「その技への対抗策はできております」

『 鏡霧(ミラージュフォッグ) 』

ガラスのパウダーのように煌めく霧が神無公爵の周囲に生み出される。必殺であるはずの光輪は煌めく霧に触れるとあっさりと消えてしまった。

「貴方の光の剣は、光速の速さで剣を振るっているわけではない。たしかに高速の速さではあるが、その速さは光速には届かない。剣からレーザーを魔法で生み出しているだけの手品だ」

「人の手品のネタバレはしてほしくないなぁ」

「ゆえに、この『 鏡霧(ミラージュフォッグ) 』ならば、貴方のレーザー魔法の威力を減衰できる」

「完全に余への対抗策はできているわけか、困ったね、これは」

『光剣乱舞』

軽薄そうに答えるが、内心では舌打ちしつつ刀弥はもう一度武技を使う。無数の光条が刀から放たれて、神無公爵へと向かう。

だが、先程と同様に光の剣は霧に阻まれて消えてしまった。やはり光剣は通用しないらしい。

「光剣を防ぐ程の霧などありえないはずなんだけどねぇ。だいぶ練習したようだ」

光剣に込められたマナは尋常ではない。普通の霧でも、いや同様に鏡の霧を使っても、込められたマナの力で強引に切り裂くことができる。

それができないということは、光剣を防ぐためだけに、この魔法を神無公爵はかなり練習したに違いない。光剣を防ぐことしかできない魔法のためだけに。

「素晴らしい執念だ。褒めてつかわそう」

『 暴風(テンペストストーム) 』

「有難きことです、皇帝陛下。風の魔法でも消えないようにするのは苦労しました」

暴風にて霧を一掃しようとしても、霧は吹き飛ぶこともなく空中を漂う。どうやら、生半可な魔法では打ち消せないようだ。

「なぜ、そこまで皇帝の地位に固執するのかな? この席はあまり座り心地は良くないと体験談から忠告するよ」

「私に決められた運命ゆえに。強き意志を持っているのですよ」

「それはロマンチックなことで!」

激しい打ち合いをしながら空中を飛ぶ。金属音が終わることなく奏でられて、マナの衝突により空気が波紋のように震え続ける。

「私には力もある。皇帝に相応しい力が」

『魔剣召喚』

間合いが離れた瞬間に、神無公爵が手を振る。魔法陣がいくつも空中に生み出されると、今度は黒き騎士剣が何本も召喚された。

「踊れ、我が魔剣たちよ」

それぞれ強力なマナを宿している魔剣たちが、神無公爵の指示により、刀弥へと高速で接近してくる。

『 騎士舞踏(ナイツダンス) 』

魔剣からマナが噴出すると半透明の体を持つ騎士たちが形成されて、斬りかかってきた。一人一人の攻撃が刀弥の力を以ってしても、視認も難しい速さの剣撃だ。

「くっ、やるね!」

『疾風剣』

光剣が封じられた今、次に速い武技を使用して受けとめていく。最初の騎士が突撃してきて、それをなんとか躱すと、左右から同時に斬りかかってくる二体の騎士たちへと風の魔剣で横薙ぎに振るう。

後ろから騎士が身体を回転させて、その遠心力をエネルギーにして繰り出してくる剣に肩を浅く切られてしまい、四方から迫る残りの騎士たちの攻撃を捌くが、防ぎきれない。

「オートの攻撃のはずなのに、なんつー威力だよ。困ったねぇ、これは」

鮮血が空中に舞い、苦しげに刀弥は神無公爵を睨む。神無公爵は騎士たちの後ろで攻撃をしてくることもなく、こちらをジッと観察していた。

余裕を見せての高みの見物であれば、隙を狙って攻撃を繰り出せたのだがと、苦々しい表情になってしまう。

だが、刀弥も味方ももはや余裕はないようだ。この騎士たちは凄腕であり、味方も押されており、倒されるのも時間の問題だった。

敵の隙を狙って撃つべきだと、心が警告してくるが、もはや選択肢はなかった。

始祖から続く皇帝の秘奥義を使うしかない。

身体が血塗れとなり、出血が止まらなくなる中で、刀弥は決心をした。自らの血を空中に流していき、神無公爵の周囲を包むように密かに展開させる。

神無公爵が違和感に気づく前に、自らのマナを空中を漂う血へと送り込んだ。

「さらばだ、神無公爵」

『 血炎(ブラッドフレイム) 』

始祖が本能寺にて脱出した時に使った魔法。血を炎に変える単純な魔法。

しかして必殺の魔法だ。

血風が渦を巻き津波のように神無公爵へと襲いかかる。刀弥のほとんどのマナを注ぎ込まれて、膨大なエネルギーの塊となった炎が、空間を埋めていく。

「これは!?」

驚く神無公爵だが、もはや時既に遅い。

皇帝に伝わる秘奥魔法。自らの血を生贄にして、血を炎と化す。触れた相手の血をも炎に変えて、内部から焼却する。

始祖はこの魔法にて、包囲してきた明智軍の全てを燃え盛る薪へと変えてしまった。恐ろしき威力のために、皇帝のみに伝わる魔法であった。

血の一滴一滴が積層の魔法となり、どのような多重結界を張っても、全てを破壊して敵を焼き尽くす悍しい魔法。

だが、焦ることなく神無公爵は余裕の笑みを浮かべる。

「素晴らしい。やはり皇帝陛下はこのような魔法を持っていたのですね。初めて貴方の本気を見ることができました」

『 静寂領域(サイレンスフィールド) 』

楽しげに告げる神無公爵が手を振ると、『 血炎(ブラッドフレイム) 』はあっさりと消えてしまった。防ぐことも相殺することもできないはずの魔法が、最初から存在しなかったかのように一瞬でかき消えてしまった。

「なにっ!」

ありえない結果に驚愕で目を剥く。どうやって防いだのか見当がつかない。マナの流れは一瞬であり、瞬くように消えてしまったのだ。

「だが運命は変わらない。そして、今回の私も少し違うのですよ」

神無公爵の装備する黄金の装甲の肩当てが、胸当てが、パージするように大きく開き展開する。

皮膚に黄金の回路が毛細血管のように奔っていき、その髪が黄金に変わってゆく。

爆発的な量のマナが神無公爵から発生し、その力だけで突風が巻き起こり、黄金の粒子に世界が埋め尽くされた。

「意志と力、そして、好機が私を皇帝という高みに登らせる! さらばです、前皇帝陛下!」

神無公爵は哄笑すると、前面に黄金の魔法陣を生み出す。芸術的な程に美しい積層の魔法陣が描かれると、極大の閃光が辺りを照らす。

「終末は来たれり!」

『ギャラルホルン』

魔法陣から、角笛を吹くかのような音が響く。空中は音波により震えて、世界は大きく歪む。

「ここまでの力を持っていたか……」

全てが音の暴力により砕け散る。崩壊する。空間自体が消え去り真空が発生する。

そして、弦神刀弥の身体は終末を知らせる音により粉々になり、その存在は跡形もなく消えてゆくのであった。

直線状にあらゆるものが崩壊し、ホテルの壁も消えてなくなり、風が流れ込んできて神無公爵の髪の毛を靡かせる。

展開させていた装甲を元に戻し、神無公爵は満足げに微笑む。

「さらばだ、皇帝陛下。次代の皇帝は君よりもマシだろうさ。そして君が死ぬことも、もはやないだろう」

ポツリと呟くと周囲へと向き直り拳を胸の前で、握りしめる。

「悪逆の皇帝は神無大和は討伐した。おとなしく降伏せよ!」

「反逆者め! この王牙、たとえ最後の一人となっても貴様を殺す!」

王牙たちが降伏する様子がないことに、肩をすくめてみせる。

「それでは仕方ない。残党を」

殲滅せよと命じる前に、目を険しくさせて、大きく後ろに下がる。

少女の雄叫びが響いてくる。

「うぉぉぉ!」

開いた壁の穴から、半透明の車体のライトバンが飛び込んできた。床へと落ちるとドリフトをしながらブレーキ音を響かせて停止する。

「とおっ!」

そしてライトバンから少女が飛び出してくると、でんぐり返しをして立ち上がった。

「鷹野美羽、ただいま参上!」

見覚えのある灰色髪の少女がポーズをとって、名乗りをあげてくる。

「ふっ、ちょうど良かった。これにて運命の糸は紡がれる」

神無公爵は最後のピースが飛び込んできたことに、嬉しげな微笑みを見せるのであった。