軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

306話 ヘイムダルの権能なんだぞっと

『フリズスキャールブの王座』。世界のあらゆる物事を見ることができる神器だ。

数多ある神話の中で、北欧神話のオーディーンの話は興味深い。なにせ、ムニンやフギン、ミーミルの首に『フリズスキャールブの王座』と情報収集系統の神器が多いからだ。

単に強いよりも、よっぽど他の神々よりも強いと思う。情報は力なのだ。

「ねぇねぇ、なんでおじいちゃんはあんなに情報収集系統の神器を持っていたのに、わんちゃんに敗れたの?」

だからこそ不思議な話である。みーちゃんが同等の神器を持っていたら、絶対に負けないと断言するよ。フラグじゃなくて本気だよ。

旅館を抜け出して、ポテポテと旅館の側にある森林を歩きながら、隣を歩いているオーディーンのおじいちゃんに尋ねる。

みーちゃんの言葉に、珍しく気まずそうな顔になるオーディーンのおじいちゃん。咳払いをしつつ話し始めた。

「うむ………たしかに今の儂ならば負けぬであろう」

「嘘よ。きっとオーディーンがトップなら同じように負けるはずよ。お嬢様、情報収集系統の神器が優れているからと言って情報に強いというわけではないの」

「で、ですね。この世界は膨大な情報が電子の海にありますけど、全てを認識している人間なんかいないですよね?」

フリッグお姉さんとフレイヤが口を挟んでくる。

「あぁ〜……なるほど。検索しないとわからないのか。んで、おじいちゃんはどうせ魔法のこととか、未知なる知識とか読み漁っていたんでしょ?」

「うむ……。フェンリルたちは捨てたし、英霊たちの軍もいたしな。万全の防衛だと思っていたのだ」

「神の橋は、この僕が守っていたしね!」

「思い浮かべれば、傲慢であった。ヘイムダルの見張りを信用していた時点で敗北は決定づけられていたのだ」

「敵軍が目の前に来たら、ギャラルホルン鳴らしたよ!」

ヘイムダルがショックを受けて、パプゥとハーモニカを鳴らす。もはや一芸になった模様。視認できるまで気づかなかった時点で致命的だろ。

うん、みーちゃんならちゃんと働いているか確認するかな。

「まぁ、ちゃーんと使えば、役に立つだろうし、みーちゃんは上手く使うよ!」

とりあえず世界で一番美味しいパフェを検索してみるつもり。

「どうせ世界で一番美味しいパフェを検索するつもりなんでしょ?」

「フリッグお姉さん、テレパシー能力も手に入れたな!」

「だ、誰でもわかると思いますよぅ」

フリッグお姉さんの言葉に驚いちゃうみーちゃんに、フレイヤが呆れたようにツッコむ。むぅ、そんなにわかりやすいかな。

「まぁ、『フリズスキャールブの王座』を使用して、みーちゃんの今を覗き見されると困るからね。さぁヘイムダル、さっさと『千里眼』を使うんだ」

「了解。僕の素晴らしさを知るが良い!」

ダンスを踊るように、くるりと回転して決め顔になると目をピカピカと光らせる。なにかの玩具みたいな男である。

『千里眼』

目を光らせるヘイムダル。キョロキョロと周りを見渡すようにする。

「『フリズスキャールブの王座』、『フリズスキャールブの王座』、『フリフリルーズの王座』」

本当にわかっているのだろうかと不安に思うが、『千里眼』の能力は伊達ではなかったらしい。

「見つけたよ、『フリズスキャールブの王座』がどこにあるかを!」

「おぉ、どこにあるの? すぐに強襲しようよ! 『ニーズヘッグ』の孤島? 神として復活した皆がいる今なら簡単に手に入るよね!」

もはや『ニーズヘッグ』には教主も幹部も存在しない。皆で訪問すれば、簡単に手に入るよねと、小さなおててを握りしめて、目に期待を宿すみーちゃん。

「んんん? いや……。孤島ではないな」

「孤島じゃない? ならどこにあるの?」

意外な答えに驚いちゃうけど、どこか隠し拠点でもあったのかな?

「どうも使われていないようだよ。いや、本来の使い方をされていない」

「本来の使い方をされていない? どういうことだ、ヘイムダル?」

オーディーンのおじいちゃんが険しい顔になって口を挟んでくる。たしかにおかしいな。あれだけ有用な神器なのに。

「どんな使われ方をされているかというと……。ふむぅ……どうやら神の城の王座として使われているな」

「どういう意味?」

「ほら、オーディーンの城って浮いてたじゃん? その城の王座という定義を利用して、城を浮かせているみたいだよ。でも、もったいない使い方だ。たぶん存在を忘れられているんだろうね、埃をかぶって暗い部屋に置いてあるみたい」

なるほど、神器って裏技的な使用方法もあるのか。………んん? 空に浮かせている城? どこかで聞いたことあるな。

「そうか……昔からヘルヘイムは暗躍していたに違いない。クックックッ、きっと自分を信仰させるために、信長に渡していたのだ」

「織田信長が『フリズスキャールブの王座』を持っていれば、一人だけ戦略シミュレーションゲーム視点で戦えます。……負けようがないです」

楽しそうに笑うオーディーンのおじいちゃん。フレイヤがその事実に顔をしかめるが、たしかに戦略シミュレーションゲーム視点は、あれだけでチートだ。どこに敵軍がいるか、数や装備はどれぐらいかとかわかるしね。

『フリズスキャールブの王座』を使えば、天下統一なんか楽勝だったのは間違いない。

「なるほど。でも信長って神仏大嫌いだよね?」

「まぁ、貰うだけもらって、あとは知らぬ存ぜぬを貫き通したのだろうよ。恐らくは当時はヘルヘイムはこの世界に降臨していなかったか、それほど力を持っていなかったに違いない。ループが始まったのは『魔導の夜』の時代だと思うからな」

信長らしいなぁ。なるほどねぇ。

なるほどねぇ……。もしかしなくても皇帝の空中城のことか。とんでもない力を信長は持っていたと思っていたら、そんな秘密があったと。

「ヘイムダル、『フリズスキャールブの王座』を城から外したらどうなるのかな?」

「もちろん墜落するだろうね」

当たり前だろと平然とした顔でヘイムダルが答える。まぁ、そりゃそうだよな。

空中城は皇帝の証とも言える。あれが墜落したら皇帝の威信は地に落ちて、地下へとめり込んでしまうだろう。

きっと皇帝は困る。ようやく皇帝の勢力が増えてきたのに、ここでの空中城墜落は手痛いダメージだ。

「すぐに墜落? それともゆっくりと?」

「うーん、天空城はどうやら安全対策をとられていたようだよ。『フリズスキャールブの王座』が失われても、他の魔道具で短時間は浮遊できるようになっているね」

「それじゃ、少し沖合いに捨てればいっか」

皇帝が威信を失っても別にいいよね。秒で決断するみーちゃんである。みーちゃんは困らないし、皇帝の日和見はそろそろウザい。

勢力の天秤を上手く操っているムーブはもういらないよ。

鷹野侯爵になって、最大勢力のトップに立ってもいいと思う。

「今なら皇帝たちもこの地にいるし、空中城は誰もいないはず。ヘイムダル、侵入路を見つけておいて。あ、みーちゃんたちだとバレないようにだよ」

「了解だ。それじゃ、オーディーンと話し合うとするよ」

「宝物庫の中身も保護しないといけないわ。『ニーズヘッグ』の残党が攻めてきたという脚本でいきましょうね? そして宝物庫の中身は全て盗まれてしまうの」

「宝物庫が空って、無理があるんじゃないかな……アガガガ、わかった、わかったよ」

ヘイムダルがアイアンクローをフリッグお姉さんから喰らっているけど、気にしないで良いだろう。強腕なフリッグお姉さんは、妖艶なる笑みを浮かべて、ブラーンとヘイムダルを浮かせていた。少し痛そうだ。

なにはともあれ『フリズスキャールブの王座』が見つかってよかったよ。それじゃあ今日は最後にこれをやって、寝ようかな。

アイテムボックスから、カードを取り出す。

「ん? それはなんだ?」

「ヘルヘイムに特殊毒を受けた子供たちだよ。たぶん綿飴を弄られていると思う」

魅音たちを治して、さっさと解放しないと行方不明事件になっちゃうからね。

治す方法も既に理解した。

「待てお嬢。特殊毒だと?」

「あ〜、『黄金の糸』を弄られた子供たちだよ、オーディーン」

余計なことを言うヘイムダル。だめだよ、そういうことを言ったら!

「ほう……少し研究してみたい。2、3枚分けてくれぬか?」

「わけません。それじゃあパパッとな」

知的興味心で爛々と目を輝かすマッドサイエンティストなオーディーンのおじいちゃん。たぶんこうなるだろうとは思っていたよ。

スルーしてカードを空中に放り投げると、神の力を手のひらに集める。

『神意』

『 神癒(ゴッドヒール) 』

手のひらから生まれた白金の粒子がカードに放出されて、その力で正常なる人間へと戻す。

みーちゃんの瞳は、カード化した魅音たちの体にヘドロのような糸が巻き付いているのを見抜いた。

なんか汚くて食べたら不味そう。だけど白金の粒子がヘドロを洗って綺麗な白金色に変えていく。

『孤児たちの構成体を癒やした』

ログが表示されたので、ホッと一安心。すぐにカード化を解除する。

地面に寝ている子供たちが並ぶ。すやすやと気持ち良さそうに寝ているので、大丈夫そうだ。

「ねぇ、この子供たちは完全に元に戻ったのかしら?」

「うん、もう同じ攻撃を受けても『みーちゃんの加護』をかけたから、絶対に影響でないよ!」

「そ、それは元に戻ったというのでしょうか? なにか他の影響が出ませんか?」

「みーちゃんは良い子だから変な影響は出ないはず!」

えっへんと胸を張って、得意げに答えるみーちゃん。『ニーズヘッグの加護』みたいな変な影響はないのだ。

「影響はあるのね?」

フリッグお姉さんが警戒心を露わにするが大丈夫。

「うん、パフェが大好物になります」

たいした影響じゃないよね? たぶん月一ぐらいで食べたくなるかな。

「……平和そうで良かったわ」

「えぇ〜、どう考えてもそれだけに終わらないと思うよ? だってレディが与えた加護なんだよ?」

「しっ! そんなことはわかっているわよ。でも相手が理由を知らなかったら、なにが原因か私たちも知らない事になるの。良いわね?」

なにかフリッグお姉さんとヘイムダルがコソコソ話しているけど、耳が痒くて手で押さえているから、まったく聞こえないや。

「フレイヤ、魅音たちを泊まっているホテルに運んでおいて」

「こ、この数日間、行方不明だったのはどうするんですか?」

「『ニーズヘッグ』に攫われたけど、みーちゃんたちが華麗に助けたって説明でお願い。甘口だったから、なにもされていなかったということで……」

指示を出している間に、力が急速に抜けて膝をついてしまう。あれれ? なんだこれ?

「阿呆が。肉体が限界に達していたのだ。少し寝ているが良い。精神が強すぎだぞ」

どうやら痛さを我慢して行動していたから限界が来ちゃったらしい。

明日には目が覚めると良いなぁ…………。