軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

299話 黒幕対みーちゃんなんだぞっと

『ヘルヘイム』とは何者か? それは北欧神話における死の神のことである。『ギュルヴィ誑かし』によると、死者の住む死の国『ニヴルヘイム』を支配する神であり、その国は世界樹『ユグドラシル』の地下にあるとされている。

地下に自分の世界があったために、『終末の日』の滅びを逃れた唯一の神であるとも言われているが……。その神様を名乗る女性がみーちゃんの前に現れた。

『ニーズヘッグ』の教主スカジと名乗っていた女性の正体でもある。原作ではスゥアチと名乗ってダミーのスカジを操っていたが、本当の名はヘルヘイムだったのね。

「そんなに驚いてはいないようですね?」

「うん、たぶんそうじゃないかなぁと思ってた」

「な、な、ななな、ヘルヘイムだって! この女、生きていたのか! 僕たちはしんむぎゅ」

「みーちゃんの代わりに驚く必要ないから」

リアクション芸人ばりに驚愕するヘイムダルを叩いて、静かな瞳でヘルヘイムを見る。君も気づいてたでしょ。灰の国にあったあの女神像、バリバリ怪しかったもんね。

まぁ、灰の国に、不死者がぞろぞろと現れればヘルヘイムが黒幕だと勘づくよね。そう思っていたよ。

ヘルヘイム。死者の神である彼女の顔はケロイド状に溶けており、頬骨が覗き目玉も白く濁り腐ってもいた。

唇はなく歯は剥き出しでゾンビのようだ。ローブから覗く手も骨と皮だけで作られているように見える。

倒したスカジは人形だったんだね。

「その歳でなかなか頭が良い方です。神に近いその力を手に入れたのも見事というほかありません」

その不気味な容貌と違い、落ち着きのある穏やかな声でヘルヘイムは言う。

「それはどーも」

撫で肩を竦めて答える。レベル100になるのは大変だったよ。次は目指せレベルカンストかな。

「『生贄の法』を作り上げた意味がありました。そこまでの力を得ることができるとは想像を超えています」

「それはどーも?」

んん? なんか意味ありげな笑みをしているぞ? なんだろ?

疑問に思うみーちゃんに、クックと含み笑いをするヘルヘイム。

「そこまでの力を得るために、何回ループしましたか? 百回? 千回?」

え? 一回もしていないよ? ループするための綿飴は全部食べたからね。……と言ってはいけない空気だ。なのでお口チャック。

「『生贄の法』はループを繰り返すたびに貴女を強化していきます。中心とした貴女に少しずつ力は集まっていき、遂には『生贄の法』を打ち破る事ができたのです」

ドヤ顔でとうとうと語るヘルヘイム。

「………くっ、そうだったんだ! でも、なんでそんなことを?」

もっと空気を読むことにするサーファーみーちゃん。なんか話の流れがわかってきたぞ。

要はみーちゃんを綿飴の棒にして、散らばっている綿飴を集めようというわけだね。みーちゃんはどんどん綿飴を集めて強くなると。

そして、大きくなったら、ヘルヘイムが奪い取るんでしょ。わかるわかる。だいたいそんなことじゃないかなぁと思ってました。

食べちゃったけど。甘いのは大好きだから食べちゃったけど。ナイショにしておこう。

なので、とりあえず驚いた顔をしておく。わなわなと身体を震わせて、かっこいい鷹の真似をしてパタパタ手を振る。

みーちゃんの迫真の演技に、ヘイムダルが唖然とした顔になり、玉藻たちが口をパクパクさせているけど、そんなに演技上手いかな。えへへ。

でんぐり返しも追加したら、もっと迫真の演技に見えるかも。名女優さんになれるかも。

「フルングニルに殺されるたびに、貴女はループした。そしてフルングニルを殺すことにより脱出できたのです! 雷の力を得たフルングニルを破ることができるほどに貴女はパワーアップしました」

「フルングニルがキーだったんだね!」

知ってたけど。みーちゃんをループさせる鍵となっていたのは秘密の知識で知っていたけどね。フルングニルは本当に鍵になったけど、それは言わないで良いだろう。

というか、裏口から入ったせいか、バグって玉藻ちゃんが対象になっていたみたいだけど。バグ技を使うとストーリー進行がバグるのはあるあるだよね。

いや、玉藻ちゃんと共に殺されるモブ役だったのか……。

「でも、みーちゃんは数億回世界をループしてパワーアップしたよ! ヘルヘイム、貴女を倒しちゃうからね!」

ちょっぴり盛ってもおきます。みーちゃんはサービス心豊富なんだよ。数兆回の方が良かったかも。

「ふふふ、私を倒すことができるでしょうか? 貴女では倒せない。力が強くなればなるほど、その絶望は強くなる。さぁ、収穫の時です! 育った貴女の力を収穫させてもらいます!」

きたきた。主人公っぽいイベントだよ。遂に待ち望んでいた主人公イベントだよ。

ふんすふんすと鼻息荒く気合を入れて、台詞を言う。

「私の力は正義のちゃめにありゅ!」

噛んじゃった……。

せっかく主人公っぽいイベントなのに決め台詞を口にできなかったよ。しょんぼり。

涙目になっちゃうみーちゃんだった。くっ、モブの呪いがここで発動しちゃったよ。

幸い、ヘルヘイムは自分に酔っているようで気にしないで、クックと嗤う。良かった。テイクツーをしない?

「それではさようなら鷹野美羽。貴女の役目はここで終わりです。私の勝ちでこの話は終わります。あの者の悔しがる姿が目に浮かびますよ」

「それはどうかわからないよ! 玉藻ちゃん、急いで会場に戻って、みーちゃんは無事だよって、パパたちに伝えて!」

スゥと息を吸い込むと、今度こそ気合をいれちゃう。

「ここはあたちにまかせて、先に行っちゅえ!」

なるほど、呪いは解消されないのが判明しました。ここぞという時にプレッシャーに弱いわけではないもん。

「真面目にこいつは強いから、玉藻ちゃんたちは逃げて!」

「う、うん、わかったよ! 後で修行の仕方を教えてね、エンちゃん!」

「すぐに助けを呼んでくる!」

ヘルヘイムを迎え撃つべく身構える。『フレースヴェルグの風』を受けても無傷だったからな。

素直に玉藻たちは駆け出して離れていく。明らかに隔絶した力の差を感じたからだ。良かった、小説とかでよくいる邪魔しかしない人たちじゃなくて。

現実的な判断をした玉藻たちが離れていくが、ヘルヘイムは追いかけることも、邪魔をすることもなく、見逃した。

「余裕だね?」

「えぇ、もはや人間たちの営みに関わる必要もありませんので」

どうやらみーちゃんを手に入れれば、願いが叶うらしい。

「そううまく行くか、試してみろっ!」

カチリと意識を切り替えて、戦闘モードへと変える。

「偽神では私に敵わないことを教えてさしあげましょう!」

余裕のヘルヘイム。偽神とは言ってくれたものだ。

鷹野美羽の力を見せてやるぜ。

「フッ」

鋭い呼気でタンと足を踏み込むと、美羽の姿はかき消える。

「むっ?」

「ファーストアタックだ!」

『絶歩』

瞬時にヘルヘイムの懐に美羽は姿を現す。ヘルヘイムが僅かに驚くのを視界に入れながら、閃光のような速さで拳を繰り出す。

もはや距離は無意味だ。空間を飛び越えて、美羽は間合いを詰めることができるのだ。

「はっ!」

しなやかな動きで、美羽はヘルヘイムの腹に拳を命中させた。

「ゴフゥッ」

ヘルヘイムはくの字に身体を折り、驚愕で目を剥く。くるりと体を回転させて、美羽はちょうどよい位置に降りていたヘルヘイムの頭へとソバットを叩き込む。

「ガッ」

神となった美羽の攻撃は無駄のない完全なものであり、ヘルヘイムの体内に全ての衝撃を与えて吹き飛ぶことも許さない。

ぎゅうっと拳を握り、猛禽のような鋭き眼光を見せて、構え直す美羽。

「ていていていてい」

『 幻影鏡面拳(ミラージュアタック) 』

ガトリング砲のように、美羽の拳が連続で繰り出される。合わせ鏡に映し出されるように、無数の美羽が残像として現れて、ヘルヘイムは弾けるように体を撃ち抜かれる。

「ガガッ、クッ」

『短距離転移』

ヘルヘイムの姿がかき消えて、少し離れたところに現れる。

美羽がピタリと拳を止めて、逃げたヘルヘイムへと言う。

「敵わないと言う割には、ファーストアタックはみーちゃんが優勢のようだね?」

「グッ………。な、なぜ? 神体へと私の身体は既に戻っています。不完全とはいえ、人間には触れることも叶わないはず」

痛そうに体をさすりながら、信じられない様子のヘルヘイム。なるほどね、余裕の態度はそこにあったのか。

「シンならば攻撃は当たるでしょうが、貴女はただ力をつけただけのはずなのに、なぜ?」

「万能以外は無効なんでしょ。みーちゃんと同じだね」

神たる美羽はもはや万能以外はすべての攻撃を吸収できる。見たところヘルヘイムはそこまでではない。無効かな?

「同じ? 馬鹿なっ、偽神にそこまでの力があるとは……いえ、まさか『転生者の魂』とはそこまで階位を上げられるというのですか?」

ヘルヘイムはわなわなと身体を震わせるが、すぐに震えを止めて、落ち着いた様子を取り戻す。

「素晴らしい。私の予想を遥かに超えています。これならば、最初から『転生者の魂』を使っていれば良かった」

「それは残念だったね。でも、もうリトライはできないよ」

「ふふふ、貴女という完成体がいるのです。問題はありません。そして、貴女がいくら力をつけても、やはり私の勝ちは揺るがない」

『レーヴァテイン』

ヘルヘイムが深き渓谷となっている地面へと手を伸ばすと、ヒュンと風切り音を立ててレーヴァテインが飛んできて、ヘルヘイムの手におさまる。

「『アシュタロト』を封印せし玩具たち。その中でこの剣だけは本物です」

ゴウッとレーヴァテインから激しい炎が生み出されて、ヘルヘイムの身体を覆う。

「死者たる者は全て我が手にある。この私の力をお見せしよう」

嗤うヘルヘイムの身体が真っ赤な溶岩のように変わり、溶けた顔も骨と皮だけの手足も赤熱の鎧に覆われていき、5メートルぐらいの身体へと巨大化した。

ヘルヘイムの周囲は高熱の余波で燃えていき、灰へと変わっていき、風が灰を散らしていく。

「クハハハ! これこそ、世界を燃やし尽くした巨人『スルト』! 燃やし尽くしたあとは死骸となり、世界へと散っていった最強の神!」

「ス、スルトだって! まずいよレディ。そうだ、ギャラルホルンを吹こう」

ヘルヘイムは哄笑し、美羽を睥睨する。その存在がいるだけで、周囲の空間は蜃気楼のように歪み、温度は急上昇していく。

ヘイムダルは混乱してハーモニカをパプゥと鳴らす。うるさいんだけど。何回終末の日が来るわけ?

「そしてぇぇぇ、私の世界に貴女を放り込めば、力は制限され勝ちは揺るがなぁぁい! 私の策は完璧! 完全!」

『次元門展開』

瞬時に魔法陣が描かれると、空間に神々しい光を宿す大扉が現れる。世界が震え、膨大なエネルギーが発せられて、青空は黒雲に覆われて、不吉なる冷たい空気が吹き荒れ始めた。

そして扉がギギィと開き始める。

扉が開く。

扉の先は炎が逆巻いていた。なんかボロボロでヒビだらけの空間が垣間見えた。

限界だったのだろう。炎が吹き出すと同時に世界は壊れて闇の彼方へと消えていく。そして、ガタンと扉は傾いて壊れて落ちていった。

「……はぁ?」

スルトに変身したヘルヘイムはぽかんとアホみたいに口を開けて呆然とする。

きっと美羽を吸い込み、自身の領域で戦うイベントだったに違いない。

「みーちゃん、しーらない」

やばい、あの世界はボスの領域だったらしい。イベント会場燃やしちゃったよ。

みーちゃんは知りませーん。きっとスルトのせいだよね?

そっぽを向いて、フーフーと口笛を吹くみーちゃんでした。