軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

222話 決闘

粟国勝利は決闘をすることとなった。勝てるかと問われれば、もはや鉄板確定。パチンコでいえば激熱、競馬であれば、銀行レース。

負けることはない。前世と今の僕は違うのだ。前世の自分は怠惰で愚かで貧乏人であった。

しかし、今は違う。サボったら、死という環境だったとはいえ、後継者としてスパルタ教育を受けてきた。

親父には粟国家の魔法を教えてもらい、本当は弟が受けるはずの『炎の試練』、そしてさらに原作にはなかった『粟国家の秘奥』まで教わった。

ポリポリとポテチを食べながら兄貴ってスゲーと、尊敬の目で見てくる弟に、テメーが本当は受けるはずだったんだよと内心で罵りながら、血反吐を吐いて努力してきたのだ。

粟国勝利の持っているポテンシャルと、素晴らしくも恐ろしい教育環境により、今の自分は自信がある。

かつての前世で持っていた根拠なき自信ではない。今の自分は努力に基づいた自信に満ちていた。

ほとんど出番のなかった太陽などに負けるわけはないと、凛々しく堂々と試合会場に立っていた。

2年前のお披露目会と同じタイプのリングだ。百メートル四方の魔法石床が敷き詰められており、周囲はドームで囲まれている。一つ違うのは、場外負けがないところである。

シンにそっくりな顔と性格の太陽が、にこやかな顔で対面に立つ。さすがは双子の弟だ。まったく見分けがつかないぜ。

僕は腕組みをして、強者特有の余裕の笑みを見せて内心でクククとほくそ笑んでいた。

これからあっさりと太陽を倒して、神無家に潜入。囚われているシンを助けて、原作の流れに戻す。……魔女がどこにいるかはわからないが、外を散歩でもさせれば、魔女にぶつかるに違いない。

なにしろ主人公だからな。きっと主人公補正が働くはず。

そして僕はシンの親友ポジションで、様々なイベントをシンと共に戦うかっこよい立場になる。

最後には聖奈さんと結婚をして幸せに暮らすのだ。シンは他にヒロインがたくさんいるから、メインヒロインがいなくても別に良いだろう。

なにしろ僕と聖奈さんはラブラブ。傍目から見てもお似合いですねと、噂されるレベルである。

モテモテになるのは……別にいいや。最近は訓練中に貰う女子からの差し入れのジュースもおちおち飲めないからな。

ペットボトルはお断り、缶ジュースの差し入れや、パックに入った店のお菓子しか差し入れは食べていない。モテモテって、怖いのだと最近知りました。

「それじゃあ、両者準備は良いかなぁ?」

「あぁ、大丈夫だ」

「僕も問題ありません」

のんびりとした優しい声が聞こえてくる。レフリーとして立ち会いをしてくれる少女だ。ちらりと顔を向けて頷く。

中央に立ち、ぽわぼわな笑みを浮かべているピンク髪の可愛らしい少女だ。モフッとしたボンボンのような猫耳と、短い尻尾を生やしている。この学院の生徒会長である 琥珀(こはく) 鈴(すず) である。

原作でも高等学校で生徒会長をしていた。苛烈な荒々しい性格で、力で学院を支配している『須佐之男』部隊の一人だった。

なにしろ琥珀家の経営している『猫の子猫』商会は、神無家と組んでいる瑪瑙家の経営している『犬の子犬』商会に圧されて、倒産寸前。がむしゃらに働き、家門を救おうと、内心にのんびりとした優しい性格を押し隠していた。

そこを神無シンは見抜いて、優しい言葉といくつかのテンプレイベントを過ごしてハーレムの一人となる。はずであったが……。

今の琥珀家は瑪瑙家を明らかに潰しにかかっている鷹野家に味方して、共同で魔道具を作って儲けているから、頑張る必要はない。

元々優秀な少女なので、生徒会長であるのは変わらないが、性格はのんびりとしたままであった。

シンのヒロインがまた一人減った予感がする。ニニーも真白の婚約者になったし、東京のドルイド野生児も鎌倉で平和に暮らしているはず。

聖奈さんは僕にベタぼれだし……あれぇ? もしかしてエリザベートと月以外のヒロインはいなくなるのか? いや、まだまだヒロインはいる。そんなことはないだろう……。

まぁ、ヒロインは少ないほうがよいと、今の勝利は思っている。原作でのエンディングではヒロインたちに埋もれていた皇帝となったシン。羨ましいと以前は思ったが、確実に血で血を洗う争いが後宮内に発生するだろうからな。

「えっとぉ〜、粟国君は本当に大丈夫? なんだか百面相のような不細工な顔になっているけどぉ」

「いやいや、僕は強者のオーラを纏っていますよね? ほら、凛々しい余裕ある笑顔とか」

「えぇ〜、不細工というか、キモい笑顔だったよ〜。うへへ〜とか、女の子なら身の危険を感じちゃう笑顔」

うへへ〜と、顔を歪める鈴だが、可愛らしい顔なので、特に気持ち悪くない。

「そんな馬鹿な! 聖奈さん、どう思います? キモいじゃなくて、エモいですよね?」

驚いて観覧席に座っている聖奈さんへと顔を向けると焦り顔で問いかける。まったく酷い少女だ。そういや、鈴は毒舌家設定だった。

原作では荒々しい軍人のような性格なので、毒舌も似合っていたが、優しそうなポワポワな性格のままなのに、毒舌は変わらないのか……。

「勝利さん、試合に集中してください。大丈夫ですよ、勝利さんの笑顔はいつも素敵ですから。たぶんマンティコアの笑顔よりも可愛らしいと思います!」

ぎゅうと手を組んで、瞳を潤ませて聖奈さんは必死な表情で応援をしてくれる。

「そうですよね! ほら、僕の笑顔は素敵なんだよ!」

「え、えぇ〜………。まぁ、君が良いならいいんだけどね」

誰がキモいだ。勝利の顔立ちは整っているんだぜ。キモいわけはないだろう。聖奈さんが太鼓判を押してくれるので間違いはない。

ちなみにマンティコアってどんな魔物だったっけ? 愛らしい猫の魔物だっけか? まぁ、それよりも素敵なんだから問題はないだろう。

心を熱くさせて、太陽へと振り向くと身構える。全身を包む真っ赤なフレイムアダマンタイト製の勝利専用機『イフリート』。炎を形づくった魔導鎧が紅き粒子を吹き出して、周囲を熱し始める。

「ふふっ、ここで戦うことになるとは思っていなかったけど、まぁ、良いや。皆とのデートを楽しんでね。きっと婚約者ができるはずだよ」

王者のような立派な意匠をされているプラチナオリハルコン製の魔導鎧『キング』を着込んでいる太陽が軽口を叩いてくるので、にやりと笑い返してやる。

「わかってねぇな! 僕と聖奈さんはラブラブなんだよ! 見てわからないか?」

「見てわかるから、君に皆は群がるんだけど……まぁ、良いよ」

「Aランクの炎の魔法使い。粟国勝利の力を見せつけてやるぜ!」

バッとマントを翻し嘲笑の表情となり、勝利はマナを体に巡らせる。血液とは違う強きエネルギーが身体を駆け巡り、細胞単位で強化をしていく。

「ハァァァッ!」

叫びとともに身体から紅き粒子が暴風となって吹き荒れて、赤髪が燃えるように靡き、勝利からは膨大なマナが威圧の力を持って、周囲へと展開された。

観覧している生徒たちは、その吹き荒れる勝利のマナを感じて、ゴクリと唾をのみ相対していないにもかかわらず、その力を感じ取り恐怖で身体を震わせる。

「………なるほどね。たしかに言うだけのことはあるね。今までとは違う強力極まりないマナを感じるよ」

しかし対峙している太陽は、その力を見ても余裕の笑みでそよ風のように、勝利の力を受け流して笑みを浮かべる。

「でも、君では僕に勝てないと思うんだけどね」

「ほざけっ! いくぜ!」

二人が睨み合う中で、鈴が手を振り上げる。

「試合開始でーす」

合図と共に僕は手を振り上げる。

『 溶岩流(ラヴァーズ) 』

容赦なく得意の魔法を放つ。牽制や相手の手を探る必要はない。十八番の魔法で圧倒的にあっさりと勝つ!

昨日、地面を溶岩流に変えて、魔法金属製の的どころか、結界の付与された壁すらも簡単に溶かして燃やし尽くした一撃だ。

吹き荒れる炎の猛威が太陽に迫る。しかし太陽は余裕の笑みを崩さずに、足を踏み込むと横に跳び回避した。

「まずは牽制かな?」

「そうじゃねぇよ!」

面白がる余裕の態度の太陽を気にすることなく、両手を交差させて、素早く次の魔法を発動させる。

『 溶岩手(マグマハンド) 』

燃え盛る溶岩流が、僕のマナに応えて形を変える。赤く煌々と燃え盛る溶けた石がぎゅるりと集まると細長い溶岩の腕へと変わった。

しかも溶岩流の中から次々と溶岩の手は生まれて、腕を触手のように伸ばすと太陽へと襲いかかる。

「やるね! 次の魔法のための準備だったのか」

『 氷蔦(アイシクルプラント) 』

太陽は対抗するために、両手を向けると宙に魔法陣を形成する。魔法陣から白き冷気が吹き出すと、氷の蔦が現れて、あっという間に茨の園のように周囲を覆っていく。

溶岩の手は氷の蔦にぶつかると相殺されて水蒸気を作り出して冷えていく。

超高熱の炎の塊と、全てを凍らせる氷の蔦がぶつかり合うことにより、もうもうと水蒸気が生み出されて、霧のようにリングを覆う。

視界が埋め尽くされて、一寸先も見えなくなったが、僕はまだまだ予想通りだと冷静に戦闘を分析する。

『 熱感知(サーモセンサー) 』

瞳にマナを込めると、相手がどこにいるか確認する。

水蒸気に覆われても敵の姿は丸見えだ。どこにいるかは正確にわかる。

太陽は次々と襲いかかるマグマで作られた腕を防ぐために氷のドームに閉じこもっていた。

「氷のドームに守られていやがるな。『 溶岩手(マグマハンド) 』の攻撃から身を守るにはそれが一番確実だよな」

せせら笑い、再び腕を複雑に振るとマナを込める。

「ハメ技って知ってるか?」

敵を必ず倒せる連携技を僕はずっと考えていた。そして、このコンボを思いついたのだ。

「これで終わりだぁっ!」

僕の動きに合わせて、マグマの腕が太陽の頭上で複雑に絡み合う。その形は大規模な儀式用魔法陣へと変わっていった。

リングを覆うかのような巨大な魔法陣は莫大なマナを宿して赤く輝く。

『 烈火光柱(フレアスタチュー) 』

魔法陣から白き炎が地上へと降り注ぐ。氷のドームすら一瞬で溶かすと、太陽をその炎で焼き尽くすのであった。

「ふははは! やったか!」

一瞬で決まっちまったなと、腕組みをして哄笑する勝利。世界で一番哄笑の似合う男である。

「ちょ、ちょっとやりすぎですよ〜、みぃちゃん、ヘルプミー」

「ヘルプみーちゃんとは、鈴ちゃんナイスジョーク! でも、平気そうだよ?」

慌てふためく鈴に、灰色髪ちゃんがポップコーンを片手に答える。

その言葉にギクリと顔を強張らせてしまう。少しだけやりすぎたかもと思っていたけど、平気?

炎に巻かれている太陽を見る。炎の余波で水蒸気の霧は消え失せて、炎の柱だけが太陽を覆っているが……平気?

「たしかに凄い威力だけど、粟国家の弱点でもあるよね」

聳え立つ炎の柱から涼しい声が聞こえてくると、太陽が歩いて出てきた。

「『炎無効』の付与をしてきたんだ。大変だったよ、秘蔵の魔道具を使ったからね」

ニコニコと笑みを崩さない太陽。その身体には焦げ一つない。

「さて『炎無効』があれば、粟国家は無力だ。そうだよね?」

「………それはどうかな。まだまだ手は隠し持っているんだぜ?」

やはりやったかの一言は余計だったかと、舌打ちし顔を顰めてバトルを続けることにしたのだった。