軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

221話 未来への危機感

神たる粟国勝利は、すべての出来事を知っている。いや、知っていたはずだった。

だからこそ、現在危機感を抱いていた。

なぜならば、原作と大きく違う未来へと突入し始めていると思われるからだ。

まさかのシンが放逐されない世界線となっている。実は原作の世界ではなく、二次創作の世界なのではと、シンが放逐されないと聞いてから疑ったぐらいだ。

だが、なぜこんなことになったのか、想像はついている。

それ即ち、転生者である帝城闇夜のせいだ。全ては根暗ワカメのせいである。……今はハッとするほどの美人に変わっているのが、その証拠だ。

転生者が憑依して、元の性格から逸脱すると、チートな力を手に入れてこれまでとは違う人間となるのがテンプレである。

まぁ、それは良い。それよりも問題は、その行動により死ぬ予定だったキャラを助けてしまうパターンだ。

転生者である帝城闇夜は鷹野美羽を助けてしまった。一番まずい原作破壊パターンである。

この場合、たぶん死ぬ予定だった灰色髪ちゃんは原作者から、適当なチートステータスに設定されていたに違いない。

助けたモブキャラがチートでした。あるあるな展開だと言えよう。

そして、助けたチートなモブ少女は、その力を開花させて、原作に大きな影響を与えてきている。

そのことがシンが放逐されなかったことに繋がったのだと、僕は予想していた。たぶん間違いないだろう。

今、目の前でキャアキャアと騒ぐ女生徒たちの声援を背中に受けながら、平然とした顔でいるシンは、的へと手を翳してマナを練っている。

ここ最近の親父のスパルタ教育にて、僕は大人の武士でさえもあっさりと倒せるほどに強くなっており、シンのマナの集束時間の速さや構成の滑らかさから、かなりの腕前だと見抜けた。

シンは微かに微笑みを浮かべて、優雅に手を振るうと焔の鳥を生み出す。

『 火炎燕(フレイムスワロー) 』

魔法名が体を表すように、その翼は燕のように鋭角で、燃え盛る焔が羽ばたくと火の粉がハラハラと舞い散って美しい。

「さぁ、僕の敵を燃やしてくれ」

手首を返して軽く振るうと、的へと一直線に飛んでいく。地を這うように突き進み、火の粉を軌跡に残すと魔法金属製の的に命中し、その高熱で覆い尽くして、ドロリと簡単に溶かすのであった。

「きゃー、素敵ー!」

「華麗な魔法ですわ」

「さすがはお兄ちゃん」

「ジャーキーが食べたいですわ」

そのスカした表情と行動を見て、僕は顔を顰めて確信した。

やはりそうだ。今のムカつく程に決まっている行動、使用した中級魔法、人当たりの良さそうな爽やかで優しそうな笑み。

どれも見たことがある。

神である僕の目をすり抜けることはできないのだ。そんじょそこらの節穴のモブキャラたちとは違うのだ。

『神無シン……ではない! 奴は弟の方だ!』

ほとんど出番のなかった 神無(かんな) 太陽(たいよう) だ!

双子だからこその、古臭いトリック。神たる勝利でないと気づけまい。

神無太陽はシンの双子の弟で、神聖以外の魔法を使いこなす秀才だ。原作では本当にちらっとだけ出てくる。

学園では、『須佐之男』部隊に所属している生徒会のメンバーや、神無大和公爵、『ニーズヘッグ』、やられ役に勝利やその他大勢と敵がいたために、あっという間に影が薄くなったキャラだ。

本当はシンと絡めて、イベントなどを起こしたかったのだろうが、多くの魔法を使いこなすキャラでありながら、シンと言動や個性が似ているために消えたキャラである。

原作者もきっとこのキャラはシンとかぶるなと思って、出番を大幅に削ったに違いない。

たしか物語が終わった後日談でも、生存しているはずなのにその様子は語られなかった不遇のキャラである。

しかし、ここは現実だ。不遇のキャラだから存在が消えるというわけにはいかない。

キラリと僕の全知たる神の思考が冴え渡る。

名探偵粟国勝利の推理はこうだ。

太陽は事故死したとなっているが、本当は死亡していない。

人当たりの良い、人気の高いシン。今まで影になっていた人脈も人気もない太陽。

今さら太陽が神無公爵の嫡男となっても、シンの代わりを務めるのはかなり大変だろう。

シンを放逐する場合は仕方がない。シンのことを知っている人間がいる場合、シンになりすませば、後で放逐したシンと出会った人間が不審に思う。

しかし、放逐しなければ話は別だ。なりすましも問題はない。

殺しておくほうが簡単なはずなのに、放逐したのは恐らくは最後の神無公爵の良心だったのだ。

しかし、放逐はしなかった。それはなぜか?

事故死にして殺すからではない。原作の記憶から、その選択肢はとらないと知っている。

神無公爵はシンを飼い殺しにしているのだ。

なぜ魔法の使えないシンを放逐せずに、飼い殺し、たぶん屋敷に軟禁しているのかというと、その理由も簡単だ。

鷹野芳烈の存在がその理由である。彼は狡猾にして謀略を得意として『魔法の使えない魔法使い』として有名となった。

それに加えて、産まれないはずの魔法使い、しかも強力な回復魔法使いである鷹野美羽の父親だ。

シンも魔法を使えずとも優秀だし、万が一その子供が強力な魔法使いだと放逐するのはもったいない。

そのためシンは放逐を免れて軟禁されており、太陽がシンと入れ代わっている。

自分自身の推理が恐ろしい。その冴えは推理小説の世界に転生しても名探偵として名を馳せただろうと、勝利は自画自賛した。

だがそれでは困るのだ。シンには『虚空』に覚醒してもらわなければ、この世界が崩壊してしまう。

『魔神アシュタロト』を倒せるのは、シンしかいない。この世界を救うのは主人公であるシンしかいないのだ。

あそこで、なぜか新入生代表みたいな詠唱をしている灰色髪ちゃんも、転生者である帝城闇夜も、僕ですらチートな力を持っていても、『アシュタロト』には敵わない。

唯一無二の魔法属性『虚空』を持つシンでしか、魔神には勝てないのである。

ここで軟禁されて、魔女に出会うことなく、修行もせずに弱いままだと、人類全滅ルートになってしまうのだ。

仕方ねぇなぁとため息を吐くと、僕は指を的に向ける。

『 溶岩流(ラヴァーズ) 』

指先に小さな魔法陣が描かれると、的まで一直線に溶岩流が巻き起こる。地面がマグマへと変わり、爆発するようにマグマが吹き出すと、灼熱の地獄が的を、その後ろにある壁すらも一瞬でかき消して、その存在を焼却させた。

地面を煮えたぎる溶岩の川へと変えて、高熱が空気を歪めて蜃気楼のようにゆらゆらと揺らめかせる。熱気が風と共に吹き荒れて、皆の額に汗粒が浮かぶ。

「す、すげえ……」

「あれが炎の天才粟国勝利……」

「信じられない高熱だ」

「女帝の方が面白そうじゃないか?」

皆が驚愕の表情で恐れ慄き、僕の魔法の威力を見て騒然となる。その声は先程の偽シンよりも大きい。

僕はフッと髪をかきあげて、偽シン、いや太陽へと顔を向けるとニヤリと嘲笑う。

「なんだ、その威力の小さそうな薄っぺらい魔法は? そんなしょぼい力で公爵の跡取りとは笑っちまうぜ。同じ公爵家の嫡男とは思われたくないな。どうだ? 僕が真の力を見せてやるから決闘をしろ!」

そして、ピシリと指を突きつけてやった。

決闘をして、勝った暁にはシンを解放してもらう。小説ならではのナイスな考えと言えよう。

太陽もプライドは高いはずだし、ここで逃げたら次期公爵としての立場も悪くなるだろうから、受けるしかない。

そして粟国勝利はシンに決闘で負ける運命だが、それまでは無敗だったと設定集では書いてあったと記憶している。

即ち、太陽に負ける運命はないし、実力だって僕の方が上なのだ。負ける要素は皆無と言えよう。

僕って天才だなと、ふふふとほくそ笑み、きっと怒っているだろうと太陽の表情を窺う。

だが、太陽は困った表情で頬をポリポリかいていた。んん? なんで怒っていないんだ? 小説のパターンなら怒るはず……。

「えっと、なにか僕に勝って、欲しいものがあるのかな?」

「えぇっ! じゃねぇ。お前は今馬鹿にされたんだぞ? ここはノリノリで良いだろうとか言うところじゃないか?」

周りもそうだそうだとはやし立てると思っていたが、なぜか唖然としていた。

なんか僕やっちゃった?

「勝利さん、勝利さん。ちょっと無理がありますよ。急に決闘とか頭がどうかしたんですか?」

僕の裾を白魚のような指で摘んで引っ張り、聖奈さんが心配げな顔で見てきた。

ふふん、見たか太陽。聖奈さんが僕の心配をしてくれるほどに、好感度は上がっているんだぜと、鼻をプクッと膨らませて得意げになる。

「思念で話しますね」

「え? はい」

近接思念に変えて、聖奈さんへと僕の天才的推理と解決方法を伝える。闇夜たちのことは上手く隠して、芳烈の存在が影響を与えて、シンは覚醒していないが放逐されず、太陽が入れ替わったと。

そうして、きっと決闘の流れに行くと考えていたんだが、周りの人たちもポカンとしているので、小説の世界でも違和感が大きかったらしい。

『なるほど……。シンの偽物……そういう推理になったんですね。面白い推理で、たしかに情報を集めるとそういう解答になる可能性がありました』

ふむふむと聖奈さんは頷く。銀髪から銀の粒子が舞い散り、ますます煌めくように顔立ちが美しくなっている聖奈さんに、デヘヘと見惚れてしまう。

聖奈さんはコクリと頷くと、僕へとずいと顔を近づけてきた。近すぎてキスをしてしまう距離だ。

『わかりました、勝利さん。ここは私に交渉を任せてください』

『了解です。目を瞑っていればいいんですね』

『えぇ、目を瞑っていてください』

ここはキスかなと、僕はぎゅうと目を瞑る。

僕が目を瞑っている間に、聖奈はシンへとバッと振り向くと、薄っすらと微笑んでみせる。なぜわかったかと言うと、いつキスがくるかなと薄目を開けていたから。

「勝利さんは、ここで貴方との試合をしてみたいそうです。2年前の皇帝陛下の御前での、みーちゃんたちとの試合のように!」

『須佐之男』と『神聖武士団』とのお披露目会という名の、勢力争い。それに無様に負けた『須佐之男』部隊を揶揄すると、シンは眉をピクリと動かして可笑しそうに笑い始めた。

「……あはは、2年前か。それは面白いね。で、何を賭けるんだい?」

「そちらからどうぞ?」

聖奈の笑顔は変わらないが、挑発的な言葉にシンは笑うのを止めて、目を細める。

「なら、そうだね。勝利君を好きな娘がいるから、デートをしてもらえないかな?」

「良いでしょう。こちらはシンさんのお家にいつでも遊びに行ける権利でどうですか?」

間髪容れずに承諾する聖奈さん。そこに躊躇いも、嫉妬も何もない。ちょっと嫉妬をしてくれても良いんだけど……。

「よし、決まった。それじゃあ決闘は明日で良いかな? 万全を期したいんだ」

「そうですね。魔導鎧と武器以外の魔道具を使うのは禁止でお願いします!」

「了解だよ、聖奈さん」

あれよあれよと決闘が決まった。聖奈さんの交渉はうまいものだ。きっと夜中に訪問して、シンを探すつもりなのだろう。

対して、こちらは一回のデートだけ。負けても楽々である。

「きゃあ、順番にしましょう」

「媚薬を買わないと……」

「媚薬はまずいですわ。惚れ薬にしませんこと?」

僕の側にいる女子たちが騒ぎ始めていた。

あれぇ……太陽の条件って………僕を好きな娘って、もしかしたらたくさん?

えぇっ、本当かよ……。聖奈さん、僕たち嵌められてませんか?