軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

211話 お披露目会

鷹野宙哉は元は鷹野家の一族だ。しかも嫡男である嵐の息子だった。

激昂するのはわかるし、当主の座を奪われたと騒ぐのもわかる。

わからないのは、皇帝の前で騒ぐことだ。なんだよ、こいつ。恐れを知らないのか? 実は人間に変身した豚とかなのか?

粟国勝利は、ムンクの叫びのように頬を両手で挟んで、ヒョエーと恐れていた。

「だ、誰なの? 私は、子豚さんの知り合いなんか家門にいません!」

灰色髪ちゃんがコテリと首を傾げて不思議そうにする。

僕も子豚だとの意見に同意するぞ。

「プキー! 誰が子豚だ! 僕ちんは鷹野宙哉、鷹野家の伯爵になる男だっ」

子豚はプキーと怒鳴っているが、周りが静まり返っていることに気づかないだろうか。

「へー、私のおうち以外で、鷹野家ってあったんだね! 私は鷹野美羽、伯爵です!」

「僕ちんを覚えていないのか! 生意気なんだな!」

「私の鷹野家とは違う家門の人だとはわかりました!」

完全に宙哉を鷹野家の一員として認める様子のない鷹野美羽。天然なんだろうが酷えなと勝利は二人のやり取りをみて呆れてしまった。

「わかったよ! 瑪瑙ロビンさんのお友だちなんだよね! で、なんだっけ?」

「僕ちんの伯爵を返せっ! 決闘するんだよ! 決闘で僕ちんが勝てば、伯爵を返してもらうぞ!」

「けっと〜……。皇帝へーか、よろしいでしょーか?」

子豚星人の言葉を聞いて、鷹野美羽は灰色髪を靡かせて、皇帝へと向き直るとペコリと頭を下げる。

「なんだ、鷹野伯爵?」

灰色髪ちゃんは奇跡的に礼儀作法を覚えていたらしい。皇帝は面白そうに口元をニヤニヤと緩ませて頷く。

きっと無邪気で可愛らしい灰色髪ちゃんに、笑みを零したのだろう。僕から見ても可愛らしい少女だからな。

「えっと、けっとーはいけないと思うんです。なので、『須佐之男』部隊と『神聖武士団』のお披露目会にしたいと思います」

頑張って考えたんだよと、指を絡めて身体をもじもじとくねらせて、幼い少女はおずおずと口にする。

なるほど、お披露目会なら問題ないだろう。決闘よりも遥かにマシだ。

「決闘だって、僕ちんは言ってるだろ!」

「それじゃ、瑪瑙宙哉さんがお披露目会で勝ったら、1000億円払いますっ! 伯爵にならなくても、ぜーたくに楽々に暮らせるよ。私が勝ったら、お騒がせしてすみませんって、皆に謝ってもらうからね!」

「プキー! いっせん、1000億円! 乗った!」

神無公爵と瑪瑙ロビンが、見たら震え上がるような視線を向けているのに、全く気づかずに子豚星人はバタバタと足を踏んで喜ぶ。

1000億円って、灰色髪ちゃんは金の価値をわかってるのかねと、呆れてしまう。

「それじゃ、3対3の試合にしましょー。私は1000億円を賞金にするから、子豚さん以外の相手を決めて良いでしょーか?」

「クックック、良いだろう。何しろ1000億円だからな。それにお披露目会だ。但し、力の弱い奴を選ぶなよ?」

可笑しそうに笑いながら皇帝が頷くと、フンスと灰色髪ちゃんは興奮気味にこちらに細っこい人差し指を向けてくる。

「瑪瑙ロビンさん、子豚宙哉さん、粟国勝利さんでお願いします。こちらは私、聖奈ちゃん、闇夜ちゃん!」

へー、それがお披露目会の試合か。大変だな、瑪瑙ロビン………なんか僕の名前も入っていなかったか?

「それならば実力的にも問題はあるまい。『須佐之男』部隊の力も見たいところだ、良いな瑪瑙ロビン?」

「は? え、は、はい。子供相手に気が引けますが」

怒涛の流れについていけず、瑪瑙ロビンはパクパクと口を開け閉めしていたが、なんとか答える。

「私たちは、『ウルハラ』の魔導鎧『ウォータン』を着て戦います。皆でお揃いです!」

えっへんと嬉しそうに胸を張る灰色髪ちゃん。

戦力的には、転生者である帝城闇夜以外は相手にならないだろう。本当に戦うのかよと勝利は溜息を吐き肩を落とす。

「これは面白い余興だ。では3時間後に訓練場にて試合を行う!」

皇帝の一言で試合は決まってしまうのであった。

試合前の控室。

勝利は魔導鎧を着ながら、親父と対面していた。個室なので、親父である粟国燕楽と召使い数人しかいない。

「本当に試合をしなけれはならないのですか?」

赤毛の頭をかきながら、困り顔で親父へと尋ねる。

「この間の『ニーズヘッグ』、『ソロモン』連合との戦いでも、聖奈さんと灰色髪ちゃんは後ろで回復魔法を使ってたんですよね? 聖奈さんはそこそこ強いとは思いますが……」

ニュースで知った内容だと多数の敵に囲まれて、なんとか撃退したらしい。

死んだ後藤隊長たちを中心に、帝城闇夜や油気玉藻が魔法を駆使し、後衛で聖奈さんたちが回復したらしい。

戦闘中に支援に来た英雄佐久間が「解体を頑張りました」とコメントしていたから、英雄の力もあったのだろう。佐久間は原作にはいなかったけど、現実だから小説のキャラ以外にも凄腕がいるんだろうな。

以前に殺し屋に襲撃された際に、聖奈さんは戦えていたが、灰色髪ちゃんは明らかに後衛だ。あの小柄な華奢な身体と無邪気な笑顔。戦いには向いていない。

そこでダンジョンのことを思い出す。……いや、そこそこ強いかも。でも、あれから強くなった自分の相手ではない。

「ガハハ、そうだな。ここは相手に花をもたせた方が良い、わかってるじゃねーか」

「ですが、瑪瑙ロビンはやけに気合い入れてましたね?」

豪快に笑って、バンバンと肩が痛くなるほど強く叩いてくるので、顔を顰めて尋ね返す。

なぜか瑪瑙ロビンは、血走った目で必ず勝つようにと怒鳴っていた。

「あぁ、そりゃあ簡単だ。あっちが勝っちまうと魔導鎧『ウォータン』の良い宣伝になっちまう。最近発表された画期的な魔導鎧だからな。『犬の子犬』商会のシェアを奪われることを恐れてるんだ」

「なるほど、少女相手に負けると、『犬の子犬』製の魔導鎧の性能が疑われて瑪瑙家的には困るんですね。貴族たちも見てますしね……。それならば、僕も本気を出さないといけないのでは?」

「瑪瑙家は神無公爵の派閥だしな。それに近々『ウルハラ』商会は事業拡大のために、株を発行するらしいぞ。そして俺は偶然、さっき新株予約権を手に入れたんだ」

「あぁ……そういう……」

ケロリとした顔で、罪悪感ゼロで八百長をしろと言ってくる親父に呆れてしまう。もう話はついているわけか。

正々堂々という言葉はどこにいったのだろうか。

原作でも決闘イベントがあって、相手がヒロインを人質にしたり、決闘中に禁止されていた魔法を使ったりと卑怯なことをする。

だが、ここまでえげつない戦法はしてこなかった。ここで『ウォータン』とやらが活躍すれば、販売好調となって、『ウルハラ』商会の株も値上がりするだろう。

政治の世界だ、これ。

「そして、お前は皇女が照れながらタックルしてくるから、慌てて抱きしめる。それから二人で抱き合って場外に落ちて負けるんだ。二人の仲もアピールできて、お前の名前もあまり傷つかない」

「負け方まで決まってるんですね……。でも、わかりました!」

聖奈さんと抱き合って場外に落ちる。何それサイコーじゃん。しかも、二人の仲をアピールだってよ! 二人の仲を!

うへへと鼻の下を伸ばして、魔導鎧を脱ぎ始める。やはり抱きしめるなら、鎧は邪魔……。

「アホ! さすがに魔導鎧を着ていないのはまずい。着ていけ」

「もっと薄い装甲の鎧にすれば……。せめて篭手は外してもいいですかっ?」

ちくしょうと床を叩いて悔しがる。早くそういうことは言ってくれよ。もったいない!

戦いは始まる前から、勝敗は決まっていると聞いたことがあるが……。

悪辣といえば悪辣、狡猾といえば狡猾。なんと言っても、誰も罪悪感を持たないところが大きい。

人質をとって、こんなやり方で勝っても良いのだろうかと悩んだり、こんな札束で買収されて良いのだろうかと落ち込むこともない。

小説の悪役が「くくく、既に新株予約権で奴は買収済みだ」とか言っても、まったく緊張感がないこと甚だしい。

こんな決まり方で良いのだろうか?

聖奈さんと抱き合えるんだから、良いに決まってると、あっさり勝利は判断したのだった。

そして、試合が始まった。

皇城の訓練用試合場で、今回はスタンダードバトル。

中央に一辺100メートルの正方形の石畳のリングがあり、リング外に落ちたら、場外負けだ。

お互いに離れた場所からスタートだ。コロシアムのように、外側には結界が張られた観覧席が設置してある。

床は魔法石のために、そこそこの強度がある。

「では魔法障壁のエネルギーが3割を切ったら、負けとなる。あまりにも危険な魔法は禁止です」

拡声器でのレフリーの言葉に頷いて瑪瑙ロビンを中心に左右に散る。

瑪瑙ロビンは狼を意識したイメージの専用魔導鎧『ダイアウルフ』で、腰に2本の剣をさげている。

鷹野宙哉はローブタイプの魔導鎧『シルフ22式』で手に杖を持っている。

僕は専用魔導鎧『サラマンダー22式』だ。真っ赤な鎧で、片手剣を装備している。

「君たちっ! 楽勝で勝つんだ! 余裕を見せてだよ? よろしくお願いしますよ? フリではありませんからね」

瑪瑙侯爵に言われたのか、イケメンは顔を真っ赤にして必死な顔だ。

「天才魔法使いの僕ちんに任せるんだよ!」

プキープキーと鳴きながら、子豚星人が吠える。

なんかセリフが被っているなぁと、嫌そうな顔になって勝利も制汗剤を身体に吹きかけながら頷く。

「……君はなにをしているんだい?」

「汗臭いとヤバいからな。さっき急いで召使いに買ってこさせた」

何しろ聖奈さんと抱き合うのだ。うへへ。戦闘前に魔導鎧のパージはできないかな。

「まだ戦闘前なんだが……。制汗剤をかけすぎると反対に臭くなるよ」

「マジでっ! ちょっとシャワー浴びてきて良い?」

やべー、知らなかったよ。ちょっと試合棄権するわ。

「グッ……八百長の匂いがする……粟国めっ!」

悔しそうに歯噛みする瑪瑙ロビン。

どうやら買収されているのはバレているらしい。そりゃあ、皇帝派の粟国家だから、当然か。バレているなら、罪悪感を持たなくて良いよな。

「……だが、まぁ良いだろう。相手は子供だ、そして私にはこれがある! 一人で全員倒してやるぞ!」

瑪瑙ロビンは腰にさげた2本の剣をスラリと抜き放つ。

炎の剣と雷の剣だ。二刀流の剣士である瑪瑙ロビンは、原作でもアンデッドの数に押し負けたが、実力はかなりのものだった。

「それじゃ、僕も本気を出してやるよ」

バッチコーイと、両手を広げて勝利はフンフンと鼻息荒く試合に挑むのであった。