軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

210話 須佐之男部隊

帝都の中心、地上にある皇城の謁見の間に多くの貴族が集まっていた。

多くの人々がこれから始まる謁見の内容を噂で聞いており、壁際に立ち小声でヒソヒソと話をしている。

最近着慣れてきた七五三スーツを着込み、粟国勝利は壁際に緊張気味に立って、皇帝と謁見をしている人を眺めていた。

皇帝と対面しているのは、神無公爵だ。相変わらずの狡猾そうな狐目を細めて、奏上の言葉を口にしている。

大声でもないのに、その声は広い謁見の間に響き渡り、人々の耳に入ってくるので、どうやって声を出しているのかと、不思議に思う。

「陛下、此度の事件においては勝ちは得られましたが、後藤近衛隊長を始めとする精鋭の戦死がありました。これは軍、武士団の限界を示してしまったと思われます」

神無公爵は堂々とした態度で、今回の『ニーズヘッグ』、『ソロモン』が連合を組んで襲撃してきた事件を口にしている。

武士団だけではなく、自らが率いる軍も責めるような内容だ。なぜそのようなことを口にするのかは、次の言葉で理解できた。

「テロリストのような小さい敵との戦闘を念頭に組織されたわけではないことが、その理由です」

一呼吸の間をとると、皆が注目するのを確認し、僅かに口角を吊り上げる。

「そのため、以前から提案されていた『須佐之男』部隊の設立を提言致します!」

その言葉にざわつく貴族たち。とはいえ、根回しは終了しているので、そこまで驚きはない。

皇帝は王者の空気を纏わせて、神無公爵の提言に表情をピクリとも変えずに頷く。

「であるか。よろしい『須佐之男』部隊の設立を許可する」

「はっ! ありがたきお言葉。感謝の念に堪えません」

恭しく頭を下げる神無公爵だが、その俯いた顔はほくそ笑んでいるのだろうと、勝利は冷めた目で見ていた。

だが、他の者たちは一斉に拍手をして、喜びの表情を浮かべている。また新たな部署ができて、美味しい牌が貰えるかもしれないと考えているに違いない。

「では、『須佐之男』部隊の部隊司令官として、『瑪瑙ロビン』を推薦いたします」

「良いだろう。許可する」

続く言葉も根回しのとおりだ。瑪瑙侯爵の長男である『瑪瑙ロビン』。現在は22歳のはず。炎と雷を操る凄腕の魔法使い。

壁際に立つ貴族たちの中からビシッと決まった軍服を着込んだ青年が出てくる。

気取った歩き方で、神無公爵の隣に立つと、皇帝へと頭を下げて挨拶をしてくる。

「偉大なる皇帝陛下へ、瑪瑙ロビンがご挨拶致します」

「うむ。そなたの力を信じている。今後の『須佐之男』部隊の指揮を任せたぞ」

『瑪瑙ロビン』は武道大会で優勝経験があり、ダンジョンの攻略もした経験がある。実績としては充分であり、自信に繋がっているのだろう、余裕ある笑顔だ。キラリと歯が輝き爽やかなイケメンである。

周囲へと軽く手を振ると、キャァーと黄色い悲鳴があがる。

女たらしで、モテる男という噂があり、即ち勝利の嫌いなタイプだ。

「けっ、なにがキャァーだ。あいつは見掛けだけでたいしたことはない、アイテッ」

モテない前世を思い出して憎まれ口を叩くと親父に頭を叩かれた。

「周りに人がいる中で、余計なことを口にするな」

「はい、わかりました」

どうせ瑪瑙ロビンはシンの踏み台として倒される運命だと思いながら、頭を下げて謝る。

神である勝利は知っている。『須佐之男』部隊は最終的には、エーギルの不死の軍団に擦り潰される。

恐るべき『 魔骸(リッチ) 』の不死の軍団と戦い、瑪瑙ロビンは『須佐之男』部隊と共に殺されてしまう。

22巻、『クロウリーの箱』をエーギルが手に入れて大阪を支配する。そして死の都市に変貌するのだが、エーギルを倒しにいって、シンの部隊以外の殆どは死んでしまうのだ。

小説でよくあるパターンだ。主人公を目立たせるために、必要な踏み台である。

エーギルが使役する『 魔骸(リッチ) 』は一体一体が凄腕の魔法使いだ。それが数千体、しかも無限に召喚されるために、攻略に向かった神無公爵の虎の子である『須佐之男』部隊と軍の中で息のかかっていた部隊が全滅してしまう。

これで神無公爵の勢力は前巻のエンペラーアント戦の時の被害も重なり、ほとんど力を失う。

そして、次巻で『首都侵攻』の中で追い詰められた神無公爵とシンが戦闘をして、神無公爵の皇帝を狙う謀略は潰されて、長い戦いは終結を迎えるのだ。

まぁ、多くの人々が死ぬから、その前に対応できるように親父にさりげなく忠告しようとは思うが、まだまだずっと先のことだ。

だから、あいつがモテても気にしない。性格的に合わないとムカつくだけだ。

その時にシンと一緒に行動して、ドヤ顔で助けてやろう。ふへへ、泣いて跪き感謝をするが良い。

……少し気になることはあるが。

「では副司令官に、帝城真白を任命する」

皇帝がさらに言葉を口にすると、可愛らしい女の子にしか見えない顔立ちの帝城真白が前に出てくる。

「はい、皇帝陛下。粉骨砕身の思いで、副司令官の仕事をさせて頂きます」

「うむ、瑪瑙ロビンの補佐をしてやるが良い」

「ははっ! お任せください」

頭を下げて、皇帝陛下に敬意を見せる帝城真白。この男が問題だ。

帝城真白が生存していることにより、副司令官は神無公爵の息のかかったものではなくなった。

神無公爵の好きにさせないように、目付役として副司令になったのは間違いない。

原作との差異がある……。帝城真白が生存していることにより、ストーリーの流れに変化が生じている。

どのような影響がでるのか、よくわからない。

そして……。もっと変わったことがある。

「『須佐之男』部隊で経験を積ませ、将来的には部隊を率いることができるように、先行して選抜しておいたメンバーがございます」

瑪瑙ロビンが片手をあげて合図を出すと、ぞろぞろと人が前に出る。その中に勝利も加わっていた。

「まだまだ年若い子どもたちですが、それぞれ素晴らしい素質を持っている者たちです」

「神無シンと申します、皇帝陛下」

「粟国勝利と申します、皇帝陛下」

シンだ。主人公なのに敵である『須佐之男』部隊に入ることになっていた。こいつ『マナ』に目覚めてねーぞ?

勝利も入ることになった。親父が絶対に入るようにと、肩を掴んで威嚇してきたので、逃れる術はなかった。

原作では、学院に入学と同時に入ることが決まっており、そのことを自慢していたが、この歳で入隊となってしまった。

ふへへ……、これ、僕も死ぬんじゃないの?

「彼らの部下としては、忠実なる皇帝陛下の家臣たちを用意致しました」

瑪瑙ロビンの言葉に合わせるように、他の者たちも頭を下げる。

「孤児院の魔法使いでありますが、彼らそれぞれは一騎当千と魔法使いになる素質がございます」

「僕ちんたちが皇帝陛下の腕とかになって頑張ります、ブヒヒ」

見ている勝利たちが青ざめるほどの酷い挨拶をするのは、鷹野家から放逐された鷹野宙哉だ。礼儀作法は0点どころか、マイナスである。

前回見た時よりも太っており、鍛えているようには見えない。他の者たちはまともに挨拶をするので、宙哉はアホであることは間違いない。

「孤児院の魔法使いたちか……。役に立つのか?」

宙哉の酷さを見て、冷めた目で皇帝が尋ねるが、瑪瑙ロビンは大袈裟に手を振って自信ありげに頷く。

「大丈夫です。この者たちは魔力もありますし、鍛えてもあります。このデブ、コホン、宙哉君も魔法は優れております」

「であるか」

ブヒヒと笑う鷹野宙哉に、皇帝がもう一度視線を向けるが、冷ややかな視線を変えることなく頷く。

本来は聖奈のお願いで仲間にする予定であった。しかしながら、神無公爵に奪われてしまったのだ。

魔法使いの孤児たち、小説ではさっぱり描写がなかったので、神である勝利も知らなかったが、現場に行って驚いた。

彼らはそもそも魔法使い。何もせずとも金を稼げる者たちであり、強力な魔法使いの孤児は青田買いされるために、贅沢な暮らしをしていた。

宙哉(デブ) が太っているのも、それが理由だ。孤児になっても、ホテルのスイートルームのような部屋でゴロゴロしていた。

孤児ならば、美味い飯に大金を渡せば、泣いて感激して忠誠を誓うと思っていたので、予想が外れて困ってしまった。

公爵の嫡男である勝利を前にしても、だらだらとソファに寝そべり、敬う様子もなかった。

金持ちのバカ息子で、ニート暮らしをしていると言っても良い。

たぶん、聖奈も魔法使いの孤児院の実情を知らない。いや、魅音が住む孤児院を見ているので、同じような暮らしだと勘違いしているのは間違いない。

なので、上手くいっているか、見てみたいと言われて困ってしまったので、神無公爵に奪われて反対に助かった。

「きゃー、シン様〜!」

「勝利様〜!」

勝利たちへと同年代の女の子たちが、黄色い声をあげるので、そういや僕もモテるんだったと、口元を引きつらせて片手をあげる。

「勝利君、口元が引きつっているよ?」

「黙れ、シン」

「婚約者たちなんだから、もっと愛想良くしたら?」

「うるさい、黙れ」

隣でシンがクスクスと笑ってからかってくるので、ぶすっとして小声で答える。勝利の婚約者事件は記憶に新しい。噂にもなってしまったのだ、ちくしょう。

シンやロビンのように、上手くあしらうことなどできないのだ。よくサラッと流せるよな、僕には無理だ。神にもできることと、できないことがあるのである。

その女の子に対する不器用な態度に、見かけと違って可愛らしいわと、反対に惚れる女の子たちが多かったのだが、勝利はそのことを知らなかった。

押せば落ちると考えている肉食動物へと、笑顔を見せていると、皇帝が続けて告げてくる。

「それと『須佐之男』部隊のように大人数ではなく、儀礼用の部隊の設立も発表しよう」

その言葉に皆はざわつく。その話は誰も知らなかったからだ。

神無公爵も同様に眉を顰めて、微かに驚いている。

「では、皆へと紹介しよう。新たなる部隊『神聖武士団』だ」

皇帝陛下の言葉に、謁見の間の扉が開くと予想外の人たちが歩いてくる。先頭は清楚で美しいドレスを着込んだ聖奈さんだった。

「『神聖武士団』の団長、第一皇女の弦神聖奈だ」

「弦神聖奈と申します。これからは『神聖武士団』の団長として皆様よろしくお願い致します」

カーテシーをして、楚々とした笑みを浮かべる聖奈さんに、見惚れてしまう。でも『神聖武士団』ってなんだ? 原作ではなかったぞ。

「副団長は帝城闇夜と鷹野美羽伯爵に命じる」

「はい、矮小の身でありますが、必ずや成果を出したいと思います」

黒いドレスを着込んでいる転生者の帝城闇夜が、カーテシーを行う。

「へへー。鷹野美羽、御身の前に」

なぜか平伏する鷹野美羽。小柄な身体を丸めてコロリンと転がりそうだ。可愛らしいが相変わらずのアホっぷりだ。こいつ礼儀作法を勉強していないわけ?

「見ての通り、『神聖武士団』は女子ばかりの部隊だ。これからは儀礼があるたびに、参加することになる」

聖奈さん率いる人たちは、たしかに皆が少女であった。

なんだ聖奈さんの箔付けかと、勝利は納得した。儀礼にしか使われないのならば、小説で出てこなくてもおかしくない。

たぶん原作開始前に、解散するんだろう。後で色々な話もしたかったし、聖奈さんとおしゃべりをしよう。

気楽に思う勝利だが……。

「あーっ! 僕ちんの爵位を盗んだゴミ!」

宙哉(デブ) が美羽を指差すと怒鳴る。

「僕ちんの贅沢な暮らしがなくなったのも、ゴミ女のせいだ! おい、さっさと返せ! 決闘だ、決闘で返すんだ!」

皇帝陛下の前での狼藉に、悲鳴をあげたい勝利であった。そういやこいつは孤児院で会った時も話が通じない宇宙人だった。