軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

189話 ホーンベアカウの正体だぞっと

目の前には親子連れの人たちがいた。父親が魔物の前に立っている。玉藻曰くあれがホーンベアカウらしい。

「さあっ、かかってこい、魔物よ! この日のために新品の魔導鎧を買った父の雄姿を見るが良い!」

少し太り過ぎのおっさんが棍棒を手にして、後ろでレジャーシートに座っている女性と幼女へと話しかけている。

「おとーさん、頑張ってなのじゃ〜」

幼女がぱちぱちと拍手をして応援すると、高笑いをして鼻息を荒くするおっさん。

「ふはは、任せろ!」

「あなた、頑張ってくださいね。お小遣い3年分前借りしたんですから」

「ええっ! それは報奨金で支払うという話だったろ?」

仲の良さそうな家族たちだ。娘だろう幼女が小さな手を振って、ワクワクと瞳を輝かせている。

簡易魔導鎧であるハーフプレートの胸装甲をドレスの上に着込んだ上品そうな女性が、オホホと扇で口を隠して応援していた。女性の隣にはメイドさんがいるので、貴族なのだろう。

おっさんは小遣いから引くのをやめてくれと、話が違うと叫んでいるが、気を取り直す。

「くっ、その話は後でにして、まずは父の雄姿を見せる時! かかってこい、歴史史上最悪と呼ばれた魔物ホーンベアカウよ! 英雄佐久間が命を懸けて貴様を倒すっ!」

「モ〜」

手に持つ岩の棍棒をオラオラと振りながら戦うおっさん。どこかで見たと思ったら、謁見式で見たことのある鉄蜘蛛戦車隊の大隊長だ。

のんびりとした牛の鳴き声を出す魔物を前に、決死の戦闘を見せるつもりらしい。

「ねぇ、闇夜ちゃん。あれがホーンベアカウ?」

「はい、あれがホーンベアカウです、みー様」

みーちゃんが魔物を指差すと、闇夜はニコリと微笑んで頷く。その顔からはからかっているようには見えない。本当にあれがホーンベアカウなのか。

「ミルクプリンだよ?」

佐久間のおっさんが対峙しているのは、1メートルぐらいのミルクプリンだった。台形で真っ白なミルク色の図体に天辺がカラメルがかかっているかのように黒い。プヨンプヨンと揺れ動いており、とっても柔らかそうだ。美味しそう。

「間違いないよ。あれがホーンベアカウだよ、エンちゃん」

「見ていればわかりますわ、みーちゃん」

玉藻と聖奈も同意してくるので、どうやらミルクプリンではないらしい。

見ていればわかるというので、とりあえず体育座りをして観戦することにする。

佐久間のおっさんは、ミルクプリンに棍棒を振り上げて叫ぶ。

「佐久間流剣術岩鉄斬!」

勢いよく振られた棍棒はミルクプリンに命中する。プニンとミルクプリンの身体が凹み、ぽよんぽよんと吹き飛ぶ。

「ぬぅ! 一撃で倒すことはできなかったか! さすがは史上最悪の魔物よ!」

たぶん娘に良いところを見せたいのだろうが、史上最悪は言い過ぎではないだろうか。だって、百メートルほど離れたところにも、他のミルクプリンがいるもん。

吹き飛ばされたミルクプリンは、敵だと判断したのだろう。ふわりと浮くと体をグニャグニャと変形させる。

「角になったよ!」

「間合いが離れていると、ホーンになるんです」

ミルクプリンが捻れた角に変身し、佐久間を狙って飛んでいく。

だが、佐久間は余裕の笑みで泰然としており、動くことはない。

「佐久間流岩鉄体!」

何もしていないように見えるが、なにか武技を使ったらしい。自信に満ちた表情で突進してくる角を胴体で受け止めた。

そして、なんと1メートルはある巨大な角を弾き返してしまう。

「ふはは、見たか! 一瞬のうちに無敵のボディに変える父の奥義を!」

高笑いする佐久間。弾き返された角は地面に転がり、グニャリと再び身体を変形させると、熊へと姿を変えた。

ただしぬいぐるみの熊である。つぶらな瞳と3等身のデフォルメされた身体が可愛らしい。

「熊さんになったよ!」

「みー様、近接戦闘の時は熊になるんです」

なるほど、遠近両方で変身は変えるらしい。

「モー」

牛の鳴き声を発すると同時に腕を振るい、佐久間を切り刻もうとする。

しかし、またしても佐久間は躱すことなく受け止める。

「無駄だっ! 史上最悪の魔獣王ホーンベアカウよ! 我が鉄壁の防御は決して破れぬ!」

高笑いをするおっさんに、ミルクプリンはめげずに腕を振るう。ペチペチと叩くが、佐久間はビクともしていなかった。

「ねぇ……。角もそうだけど、命中すると反対に身体が凹んでるよ?」

「プリンみたいな柔らかさなんです」

半眼になって問いかけると、あっさりと闇夜は答える。

そうなのだ。角モードの時は、命中したら反対に角の先端が凹んだ。今は熊さんの腕が凹んでいる。

「玉藻は去年狩ったんだけど、柔らかいんだ。もうプニプニ〜」

「あ、そうなんだ」

なるほど、おっさんが余裕の筈である。攻撃力皆無なのか。食物連鎖のピラミッドで最底辺にいる魔物らしい。

「ガラシャ、見ているか? 魔獣王最後の生き残りホーンベアカウでも、私の防御は破れ……あぁっ! こら、カバーシートを破るんじゃないっ!」

「モ〜」

余裕だったおっさんが焦って、ミルクプリンを引き剥がそうとするが、熊さんモードのミルクプリンは、魔導鎧を覆っていたビニールシートをちまちまと剥がし始めていた。

「新品なんだぞ、コラッ、破るんじゃないっ! このまま一年は被せたままだったはずなのに!」

わかるわかる。新品だからカバーシートを剥がさないで使おうとしていたらしい。

新品のカバーシートって、剥がすのが好きな人と、剥がさないでボロボロになるまで覆ったままにする人いるよね。佐久間は後者のようだ。

腕を掴んで振り払おうとするが、ミルクプリンの腕に手が沈んで止めることができない。柔らかいので掴みにくいのだ。

そうこうしているうちに、ビリビリとカバーシートを破っていくミルクプリン。焦るおっさん。

「くっ! こうなれば核を破壊してやる!」

ウォォォと叫んで、ポカポカと棍棒でミルクプリンを殴るおっさんと、殴られても気にせずに魔導鎧のカバーシートを破っていくミルクプリン。

泥仕合の激戦がそこにはあった。たぶんハルマゲドン級の戦闘だ。

「ぶわっはっはっ! 最高じゃ、おとーさん。おとーさんのかっこいい激闘、目に焼き付けておくのじゃ」

「あなた、ホーンベアカウは綺麗に倒してくださいまし。一頭での計算なんですから。核の横のお肉は潰さないでくださいね? ガラシャは食べたことがないんですから、美味しく食べてほしいんです」

「ムゥォォ、こいつめっ、こいつめっ!」

腹を抱えて、ゲラゲラと笑う幼女。母親の方は一頭計算なんですからと、注意をしていた。なんというか、釣り堀みたいなダンジョンなのね。

「中心にある丸い核を潰せば倒せます。お肉はその周りに漂う四角い胡桃のような殻の中にあるんですよ」

聖奈が丁寧に教えてくれる。なるほどねぇ。

「なんか食べられるために存在している魔物だね」

カニや牡蠣などと一緒だ。最初から食べられやすい身体をしているらしい。魔物でもそういう類のやつがいるということか。

「とったぞ〜!」

ミルクプリンでビシャビシャになりながら、佐久間はミルクプリンから取り出したトランクケースのような殻を手で持ち上げて、得意げに掲げる。

「おとーさんすごーい! ぶわっはっは、凄い姿なのじゃ」

ひーっ、ひーっと、涙目で笑い転げる幼女。たしかにおっさんの絵面が酷い。アニメなら放送事故レベルだよ、これ。

「少し潰れてませんか?」

おっさんの姿を気にせずに、肉を気にする奥さん。佐久間は殻を振って、自慢げに答える。

「大丈夫だっ! 少し潰れていても食べられる!」

ちょっと潰れてしまったらしい。それだけ殻も柔らかいのね。

ヤンヤヤンヤと家族たちが笑顔で会話をしている。仲の良い家族を前に、すっくと立ち上がると、闇夜たちに向き直る。

「グレーターはチョコプリン?」

ミルクプリンの上位だもんね。チョコプリンだろ!

「ふふっ、見てからのお楽しみですよ、みー様」

人差し指を口に当てて、闇夜が可愛らしく微笑むのであった。

あのおっさんたちが、みーちゃんたちに気づく前に移動しようかな。

家族連れをスルーして、てってこと先に向かう。皆が身体強化を使って走るが、みーちゃんは戦闘時以外には身体強化をできない。

ならばどうするかといえば………。

「ニムエ、任せたよ!」

「任されました、ご主人様!」

よじよじとニムエの背中に乗ると、ハイヨメイドーである。だって魔導鎧を稼働できないんだから仕方ない。

常に『戦う』モードにする解決方法はある。そこらにいる敵をターゲットにすれば良いだけだ。

でも、少し考えることができたから、おんぶしてもらってます。楽ちん楽ちん。

考えることというのは、ミルクプリンのことだ。いや、ミルクプリンではない。あの魔物には見覚えがあった。

あれはポヨポヨだ。たしかミルクポヨポヨという名前だった。倒すと『ポヨポヨの肉』を落とす魔物だ。

周りをよくよく確認してみれば、ポヨポヨばかりだ。ぽよんぽよんと飛び跳ねている。空のひよこもよく見れば、バードポヨポヨだ。ポヨポヨは一部を除いて、ノンアクティブなので、平穏そのものなんだ。

ポヨポヨ。有名ゲーム会社のスライムを捻って、プリンみたいな四角い体の魔物のことである。

ダンジョンで、ポヨポヨしか出てこない……。記憶にあるぞ。

ここ、『ポヨポヨの地』だ。魔物は多彩な種類のポヨポヨだけ。ポヨポヨゼリーとかポヨポヨ胡椒とか、ポーションや料理に使う素材用のボーナスダンジョンのことをいう。

ランダムに現れるダンジョンの中で、物凄くたまーに出現する美味しいダンジョンであった。

ゲームでは、単なる素材集めのボーナスダンジョンであり、原作では欠片も出てこない存在だったが、現実だと牧場や農場として使用されていたのか。

なるほどね。雑魚のポヨポヨたちしか出ないダンジョンならば、農場としてぴったりだ。ポヨポヨならば柵を作れば、後は柵の中に湧くポヨポヨしか倒す必要ないし、弱いしね。

以前、ミスリルアリクイの時も思ったけど、現実らしい金の稼ぎ方をするものだよ、まったく感心しちゃうね。

とするとだ。グレーターホーンベアカウも予想はつく。同じポヨポヨの上位種ならば、あいつしかいない。

ポヨポヨの肉って、人間が食べられるお肉だったのね。

闇夜たちは、みーちゃんが驚くことを期待しているから、驚くふりをしなくちゃね。

それよりもだ。ゲームではボーナスダンジョンという名前であったのは、理由があるのだ。

緊張でゴクリと喉が鳴る。

……もしかして、ダイヤモンドポヨポヨがダンジョンボスなんじゃないかなぁ……。

そうすると、欲しいアイテムが手に入るかもしれないね。

この世界に来て、初めての壮絶なる戦いが起こるかもしれない。

みーちゃんは小さな手を握りしめて、この先にいるであろう強敵を思うのであった。

どうにかして、狩ることができないかな。

管理ダンジョンだから、倒すのNGなんだよね。