軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

181話 狙われる二人

爆発音が響き渡り、爆煙が辺りを舞い視界を埋め尽くす。

雑居ビルの壁にヒビが入り、窓ガラスが割れて、ガラスの破片が地面に落ちていく。

雨のように降り注いだ雷の矢は、勝利たちを吹き飛ばしたかのように見えた。

「ゲホッ、ゲホッ、な、なんだこりゃ?」

だが、爆煙を腕を振ってかき消して、咳き込みながら勝利が姿を現す。

「敵襲です!」

「あぅ〜、な、なにが起こったの?!」

後ろから厳しい表情で聖奈が警告してくる。フラフラとよろけながら魅音が同様に姿を現す。

「『変身』が解けちまう!」

魔法攻撃を受けたのだ。その攻撃は直撃でなくとも、『変身』の繊細なる魔法構成を破壊して、勝利たちは元の子供の姿に戻ってしまった。

「すぐに移動をしましょう!」

「えぇ、りょ、了解」

爆煙で汚れているが、3人とも無傷だ。

なぜならば、勝利たちの頭上には、5個の紅いクリスタルを頂点にした魔法陣が描かれており、強力な魔法盾を形成していたからである。

紅き魔法盾が不意打ちで放たれた雷の矢を自動で防いだのだった。

『ロキ』に会いに行くのに、無用心にのこのこと訪れるわけがない。

勝利は臆病者なのだ。事前に 十八番(おはこ) の『 紅蓮水晶(プリズムクリムゾン) 』を使用しておいた。

奇襲を受けても、聖奈さんと自分を守れるようにセットしておいた『自動魔法盾』が、勝利の意識よりも早く行動を起こしたのである。本人よりも優秀な魔法であると言えよう。

「魅音、そのリュックサックを捨てろ!」

「え、えぇっ! でも、これは皆が苦労して作った………」

恐怖を露わにしながらも躊躇いを見せる魅音に、顔を険しくさせて怒鳴りつける。

「後で拾いに来れば良いだろ! 回収できなかったら、相場の10倍を払ってやるから!」

「わ、わかった」

担いでいたリュックを下ろす魅音。その間にも聖奈さんが頭上を警戒しており、鋭い声音で叫ぶ。

「来ます!」

「くそったれ!」

『 紅蓮水晶矢(プリズムクリムゾンアロー) 』

体の各所に隠しておいた紅蓮の水晶を全て解放すると、ビルの屋上から迫る敵を指差す。

水晶は猛火を発して、迫る敵へと高熱で空気を揺らめかせ、炎の帯を空間に残しながら、飛んでいく。

その様子を見ながら、眉を顰める。なんだありゃ?

「猿?」

刀や鎖分銅で武装して、体の各所を装甲で守る魔導鎧を身に着けていた黒い毛皮の巨猿が壁に張り付いて降りてきていた。魔物なのか?

合計3匹。殺意を剥き出しにしている猿たちだ。

戸惑う勝利だが、水晶の矢は一直線に猿たちへと向かっていく。歯を剥き出しに威嚇するように降りてきていた猿たちは、素早く反応した。

ダッと壁を踏み台にすると、反対側のビルの壁へと移動する。矢の軌道から逃れたと思ったら、またもや壁をバネのように蹴りながら、接近してきた。

だが、勝利はその様子を見ても、動揺はしなかった。

「僕の『 紅蓮水晶(プリズムクリムゾン) 』を甘く見るなよっ!」

勢いよく飛んでいた炎の水晶矢は、途上でピタリと停止すると、飛び交う猿達へと鋭角に軌道を変えて向かっていったのだ。

猿たちは目を剥いて驚き、回避をしようとするが遅かった。炎の水晶矢は猿たちに命中して、吹き飛ばす。

猿たちが勢いよく落ちてきて、地面にめり込むのを横目に、聖奈さんがぶかぶかのスカートをビリビリと破ると、手足につけた腕輪を起動する。

腕輪がブンと光ると、魔法障壁が生まれて、聖奈さんを包む。

簡易魔導鎧となる魔道具だ。同じように勝利も装備しているので、素早く起動する。

身体能力が強化されて、魔法障壁が自分の身体を包むと、安堵で息を吐く。良かった、念の為に魔道具を用意してきて。

「まだ生きているようです!」

「まともに食らったはずですが……ゲゲッ、本当だ!」

ワイルドな姿となって、目の毒な聖奈さんが地面に落ちた猿を指差す。紅蓮水晶矢が少なくとも3発は命中したはずなのにと目を疑うが、たしかによろけながらも立ち上がってきていた。

命中した箇所も多少の火傷で済んでいる。

なぜだと疑問に思ったが、すぐに理解して舌打ちを強く打つ。

「あの猿野郎っ! 『火炎耐性』を付与してやがる!」

猿、いや、魔猿たちの身体が僅かに赤く光っている。その光がなんなのか、勝利はこれまでの教育を受けてきて知っていた。

『火炎耐性』だ。粟国家の天敵の魔法である。

そして、それが意味することも悟る。

「聖奈さんっ! こいつら、僕たち狙いです!」

偶然で襲われた訳ではない。準備万端で奇襲してきたのだ。最初から狙いは僕たちなのだ。

「そのようですね! ここでは不利ですっ! 屋上に行きましょう!」

先に行きますと、聖奈さんが地面を蹴り飛翔する。そのままビル壁を蹴りながら、屋上へと向かっていった。

遅れるとまずいと勝利も、ブカブカのズボンの裾を器用に焼き切り、魅音へと声をかける。

「舌を噛むから、口を開くなよ!」

「えっと。うひゃっ」

魅音をヒョイとお姫様だっこで抱きかかえると、聖奈を追って飛翔する。高速での移動により、自身の顔を風が風圧となって撫でていき、恐怖の表情でキャーと叫んで魅音がしっかりとしがみつく。

頭上から雷の矢が、地上からは体勢を立て直した猿たちが、手裏剣を投擲してくる。

「う、ぬおぁぁ」

変な声をあげて、顔を引きつらせる勝利だが、紅蓮水晶は再び勝利の周りを舞うと魔法盾になり、全ての攻撃を防ぎ切る。

「ざ、ざまぁ!」

ホッと安堵して虚勢を張りながら、屋上へと辿り着くと、光の矢を生み出して、敵を聖奈さんが牽制していた。

屋上にいる敵は猿ではなく、忍者服を着込んだ敵だ。覆面を被っており、その顔はわからない。

雷の矢を純白の聖なる盾で防ぐと、素早く間合いを詰めて拳を叩き込み、蹴りを入れて攻撃をしていた。敵は素早く、腕も立つのだろうが、聖奈の的確なる鋭い攻撃を回避するのが精一杯のようだ。

「か、格闘得意なんですね」

鋭い動きで銀髪を翻し、その紅い瞳に戦意を宿し、踊るように戦う聖奈さんは美しかった。

でも、聖奈さんはこんなにも強かったっけ? 原作だと後衛で支援をしているだけだったから、わからなかったのか。

「勝利さんも魅音さんもご無事で良かったです」

額に汗をかいて、にっこりと優しい笑みを見せる聖奈さんへと頷くと周囲の敵を確認する。

包囲してくるのが5人、支援及び魔法攻撃をするだろう奴らが同じく5人。

「ウキーッ!」

屋上へと遅れて地上からやってきた魔猿3匹。全員凄腕だと肌で感じる。

「聖奈さん、下がって支援をお願いします!」

「わかりましたっ!」

トンとコンクリート床を蹴り、ひとっ飛びで聖奈さんは勝利の後ろへと移動する。

もしかしたら、前衛で戦ってもらった方が良かったかもと、ちらりと考えたが、かぶりを振ってすぐに気を取り直す。

聖女に戦わせて後ろで支援するとか、確実に駄目野郎である。少なくとも聖奈ルートは消えるだろう。

しがみついていた魅音を剥がすと、聖奈さんへと投げる。

「任せますっ!」

「わかりました!」

「あたしは荷物か〜!」

聖奈さんが受け取り、魅音が不満そうに叫ぶ。あれだけ元気なら大丈夫だろう。

『紅蓮水晶剣』

その手に宙を飛ぶ水晶を集めて剣へと変える。剣は紅蓮の焔を纏い燃え盛り、周囲の空気を熱して、勝利の身体を蜃気楼のように揺らめかせる。

「メインヒロインは守るもんなんだぁっ!」

原作ファンとして、そこは譲れないと叫びながら、敵の真っ只中へと勝利は突撃する。勝利の突撃に合わせて、残りの紅蓮水晶も護衛するように飛んでいく。

魔猿たちが勝利の突撃を迎え撃つために、前に出て武器を構えてきた。

先頭の魔猿が刀を振りかぶり、肉薄してくる。正直、殺意を持って歯を剥き出しに迫る化け物は怖いが、必死な表情で心を奮い立たせて、立ち向かう。

『唐竹割り』

魔猿が手に持つ刀にマナを集めると、勢いよく振り下ろしてくる。その鋭い刃は空気を切り、勝利へと迫ってきた。

「ぬぉぉぉ!」

勝利は雄叫びをあげて、脚にマナを集めて身体を高速で移動させる。刀が寸前を通り過ぎて、風圧が頬を撫でるのを感じながら、左足を強く踏み込み軸足として、両手に持った剣を横薙ぎに振るう。

だが、その攻撃は読まれており、魔猿は余裕の表情で素早く後ろに身体を反らして回避してしまう。

ニヤリと余裕の笑みを浮かべる魔猿だが、すぐにその笑みは凍りつく。

頭上から水晶矢が降ってきていたのだ。炎の軌跡を残し、魔猿はまともに喰らってしまう。強い衝撃が身体を襲い、体勢が大きく崩れる。

『魔法障壁』と『火炎耐性』。そして己の強靱なる毛皮で多少の火傷ですむが、その攻撃でよろけてしまった隙は致命的であった。

「うわぁぁっ!」

『紅蓮水晶剣』を焔から、単なるマナの剣へと変化させていた勝利が剣身を伸ばし、袈裟斬りに振り下ろしてきたのだ。

先程の勝利の攻撃は陽動だったのだと気づいたが、その時は既に遅く、身体を切り裂かれて鮮血を噴き出しながら倒れるのであった。

「キイッ!」

残り2匹の魔猿たちが、鎖分銅を投げつけてくる。砲弾のように勝利へと放たれた分銅であったが、水晶盾が再びその攻撃を阻み、防がれてしまう。

「とりゃぁぁ!」

勝利は身体を前傾姿勢にして、片方の魔猿に迫ると、剣を斜め下から振り上げる。勢いの乗った斬り上げにより、身体を斬られる魔猿。

魔法障壁が剣を阻むが、顔を真っ赤にして魔法障壁ごと勝利は切り払う。

最後の一匹が鎖分銅を捨てると、爪を伸ばして勝利へと斬りかかる。しかしまたもや水晶盾が形成されて、その爪を阻む。

「ウッキー!」

魔猿は盾を切り裂こうと力を込めて、弾かれることなく耐える。ジリジリと盾を切り裂いていき、盾を形成している水晶にヒビが入っていくがそこまでであった。

横合いから、水晶矢が飛来して、魔猿の頭を横から叩く。頭が揺れて意識を朦朧とする魔猿に剣を突き出し、その身体を貫く。

「ゴフッ」

口から血を噴き出して、魔猿は力なく崩れ落ちる。剣を抜いて、その身体を退かすと、剣を構え直し、紅蓮水晶を周囲に展開させる勝利。

「こいつ、子供のくせに強いぞ!」

残りの敵が勝利へと向き直り、唸るように声をあげると、勝利は剣をひと振りする。

「へ、へへっ、ぼ、ぼきゅを誰だと思っているんだ。粟国家のちゃくにゃん、天才炎使いの粟国勝利ちゃまだぞ!」

顔を引きつらせながら、噛み噛みではあるが、勝利は残りの敵へと告げるのであった。

それは原作で勝利がシンと出会った際に口にした言葉だが、それどころではない勝利は気づくことはなかったのであった。