軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

182話 襲撃者

震える身体を必死に抑えながら、勝利は残りの敵へと虚勢を張る。正直、ここまで殺意を向けられたのは初めてだし、護衛もいないパターンは初めてだ。

だが逃げるわけにはいかない。後ろにはメインヒロインの聖奈さんと、おまけの魅音がいるのだ。

絶対に守らなれけばならないと決意して、気合を入れて剣を持ち直し、ヒュウと息を吸い込む。

そして、大声で叫んだ。

「おまわりさーん! 誰か助けてーっ! 誰か武士団に連絡を〜っ! 犯罪者がここにいまーす!」

駄目だろうなぁと思いながらも、もしかしたら誰かが通報してくれるかもと、僅かな希望を持って、精一杯叫んだ。

こんな奴らと戦うよりも、官憲に助けてもらう方が良いと聖奈ルートを投げ捨てる勝利である。3人共に命が助かるのが最優先だ。

「駄目です、勝利さん。ここは既に『 雑音(ノイズ) 』の影響下にあります! 防音の結界魔法もかけてあるでしょう」

無論、そんなにうまくはいかなかった。

「ですよね〜」

肩を落として落胆する。真剣な面持ちで聖奈さんが教えてくれるが、わかってた。こんなことをする奴らが結界魔法を使っていない訳がない。

魅音が釣られて、助けを求めようと叫ぶのを聖奈さんが止めている。なんというか、パーティーでもそうだし、あいつ不幸の塊だよな。こんな偶然あるかぁ? 実は敵だったと告白しても驚かないぞ。

しかし、少なからず魅音との付き合いは長い。あの怯えたアホヅラは本当だ。演技ではない。それぐらいはわかる。

襲撃してきた敵は、多分『変身』していた僕らが本当にターゲットかわからなかったから、ずっと観察していたのだろう。

そこを魅音と出会ったことで確認されてしまったんだ。普通は、『変身』まで使用して姿を誤魔化しているのに、知り合いだからと声をかけることはしない。なので、魅音が通りかかっても、スルーして通り過ぎるのが当たり前だったのだ。

即ち、無用心である勝利たちが迂闊だったせいである。完全に油断していた。

魅音は『不幸』とか『死ぬモブ役』とかの固有スキルを持っていそうだなと苦笑しつつ、助けは諦めて敵と戦闘することを決める。

「さあ、かかってきな、雑魚め! この勝利様がサクッと倒してやるぞ!」

『 熱装甲(ヒートアーマー) 』

マナを魔法に変えると発動させて、焔を身体に纏わせて、ニヤリと泣きそうな顔で笑う。超高温の焔は術者である勝利には焦げ一つ作らずに、周囲を熱していく。

勝利の足元が纏う焔の熱で黒く焼け、煙が立ち昇る。

「おらっ、見たか! 熱いんだぞ? この焔はてめえらを簡単に焼き尽くす。触ったらアチーんだからな! そろそろ諦めて逃げても良いぞ?」

戦士である勝利は、まずは降伏勧告をする正々堂々とした態度をとる。『 熱装甲(ヒートアーマー) 』は身体能力を高めて、焔の装甲を身に纏う強化魔法だ。

触ったら、一般人は火傷ですまないのである。

魔法使いの場合は、軽い火傷程度ですむのである。

「追わねーからっ! 逃げろよ、オラッ!」

見た目のインパクトに勝負を賭ける勝利だが、武器を構えて、敵は沈黙で返してきた。まったくハッタリは効かない模様。

「駄目ですよ、勝利さん! その魔法はドラマとか劇で使われるぐらい有名すぎるハッタリ魔法だと皆知ってます!」

「知ってます。それでも賭けたかったんです!」

聖奈のツッコミに、叫び返して紅蓮剣を構える。有名とまで言わなくてもいいじゃねーかと、少し聖奈さんが嫌いになる勝利である。

「私は勝利さんを信じてます!」

真面目な表情でジッと勝利を見つめてくる聖奈さん。

「お任せくださいっ!」

僕は信頼されていると、フンスと鼻息荒く勝利はニカリと笑う。少し嫌いになって、大幅に聖奈さんへの好感度をあげた勝利である。やはり聖奈さんは俺に惚れている!

「やるしかねぇっ!」

自身の戦意を高めて突撃する。敵は包囲しているが、一人一人間隔が離れており、後衛は離れた他のビルに配置してもいた。なので、素早く間合いを詰めれば各個撃破可能だ。

ドンッとコンクリート床を蹴り、剣を構えて一番近い忍者へと接近する。敵は刀を横に構えて勝利へと同じく駆けてくる。

忍者走りというのだろうか、身体を傾いで向かってくる忍者に合わせて、勝利に向かって、両脇から手裏剣が飛んでくる。

『 自動紅蓮水晶盾(オートクリムゾンシールド) 』

宙を飛行する紅蓮水晶に意識を伝わせて、設定を変える。3つの水晶を起点にして、三角形の魔法盾が左右に現れて、手裏剣を受け止めてくれる。

目の前に先頭の忍者が迫りくるので、牽制を含めて軽く水晶剣を振るう。焔を纏った剣撃は高熱を宿し、敵を切り裂き燃やそうとする。

『 氷付与(エンチャントアイス) 』

しかし、命中する寸前で、敵は氷を刀に宿して冷気にて対抗する。

ガキィと金属音が響き、鍔迫り合いとなる。

『雷礫』

離れたビルに立つ後方の敵が雷の矢を一斉に撃ってくる。

「くそっ!」

力を抜いて、敵に押されるままに後ろへと飛び退り、片手を翳す。

『 火球(ファイアボール) 』

『氷礫』

大人ほどの大きさの火球が手のひらから生み出されて飛んでいくが、左に展開する忍者が氷の礫を放ち、撃ち落とす。

氷礫が命中した火球はその場で爆発して、火の粉を僅かに残して消えていく。

爆風が勝利の髪を靡かせて、熱気を伝えてくる。口を歪めて悔しがる勝利の目の端に、紅蓮の魔法盾が展開されて、死角から飛んできた手裏剣を防ぐ。

「こ、こいつら強いっ! れ、練度が半端ねぇっ!」

一糸乱れぬ連携に顔を引つらせて驚愕する。こういう雑魚敵はバラバラに攻撃をしてきて、隙だらけで主人公に簡単に倒されるんじゃねぇのかよ!

さらに前方の敵が刀を横に構えて迫ってくるので、慌てて剣を繰り出し、打ち合いをする。マナにより身体能力を高めて、高速で右左と剣撃を繰り出し、相手の刀を防ぎ火花を散らす。

その間にも、後衛が聖奈さんたちに、雷礫を放つ。

だが、聖奈さんは魅音をお姫様抱っこしながらも、マナを集中させて、落ち着いた表情で静かに桜色の唇から魔法を紡ぎ、その美しい銀髪にキラキラと輝く白銀の粒子を纏わせる。

『 聖殻(ホーリーコクーン) 』

聖なる純白のバリアが聖奈たちの周りに展開されて、さらに15個の紅蓮水晶を基点とした障壁がその身を守る。

無数の雷礫が命中するが、二重の障壁により、厚い城壁のように揺るがない。

守りは完璧だ。だが、あの障壁を展開している間は、外へと聖奈さんは攻撃できない。

自分が敵を倒すしかないと、心を奮い立たせて、思念を空間に散らす。

空中にキラリと紅い光が煌めくと、高速で忍者へと紅蓮水晶矢が襲いかかる。

「ガハッ!」

勝利と打ち合いをしていた忍者に数発が命中し、体勢を崩させる。その隙を見逃さずに勝利は剣を強く握りしめると間合いを詰めて振るう。

だが、左右の忍者たちが盾を回避して、回り込んで切りかかってきた。

迫る刀を前にあえて止まらずに目の前の忍者を斬る。忍者の魔法障壁がバチリと瞬き、魔法構成が揺らぐ。

剣撃は魔法障壁を破壊したが、忍者の魔導鎧に僅かにかすり傷を負わすだけで終わってしまう。

「良い魔導鎧じゃねーかよっ!」

こちらは簡易式魔導鎧なのに、敵はかなり高性能の魔導鎧を着ているようだと歯噛みして悔しがる勝利。その横で寸前まで迫っていた左右からの刀が素早く展開された水晶盾に阻まれた。

この至近距離で防がれるとは思わなかったのだろう。敵に僅かに動揺の気配を感じる。

キュッとコンクリート床を擦るように踏みながら、身体を回転させて、片手を天に翳す。

「もらったぁっ!」

『 炎嵐(ファイアストーム) 』

勝利を中心に逆巻く炎の竜巻が生み出されて、高熱の渦は至近距離にいた3人の忍者を巻き込んだ。

しかし、炎の渦から3人は抜け出してくる。その様子からはたいしたダメージを負っていないように見える。

「くそっくそっくそったれ!」

いつもの魔導鎧を着ていたならば、強化された魔法により倒していたはずだったが、この装備では圧倒的に不利だ。

まるでやられ役のように悔しがる勝利だが、敵は警戒心を高めたらしい。

「聖女の方は動けんっ! 全員でかかるのだ!」

固定発動型の『 聖殻(ホーリーコクーン) 』を使用している聖奈は魔法を維持してるだけで精一杯だ。原作でも見た事があるので間違いない。

原作では、学生を守るために使用していた。その間にシンが敵を倒すテンプレ展開だった。読んでいる時には、他の奴を護衛にして、回復魔法使いはシンと共に敵を倒しに行けばと思ったが。

敵もそれを知っているのだろう。よく研究している奴らだ。

10人全員が勝利へと向き直る。勝利を倒せば、残りはなんとかなると考えたようだ。

「舐めるなよぉっ!」

紅蓮水晶を矢として飛ばしながら、マナを身体に巡らせて、口元を引きつらせながら、突風を巻き起こし突進する。

猛然と斬りかかる勝利。その攻撃を躱そうとする忍者だが、回避した場所に水晶矢が飛来してダメージを与えようとする。

他の忍者が礫を撃ち、水晶矢を弾き飛ばし、斬りかかってくる。摩擦で煙が吹き出すほどに、足をコンクリート床に擦りつけ、身体を回転させながら剣を振るい、水晶矢を牽制として放つ。

後衛にいる忍者が魔法を放つが、再び水晶が盾へと変形し防ぎ弾く。

勝利は紅蓮水晶を操り、多数の敵と互角に渡り合っていた。激しい剣撃と、魔法の閃光、爆風によりコンクリート床にヒビが入り、周囲の雑居ビルの窓ガラスが震動でビリビリと震える。

「なんと厄介な! この水晶を先に破壊しろ!」

勝利の周囲を自在に変形して飛び交う紅蓮水晶を見て、忍者の隊長らしき男が指示を出す。

「盾化している時を狙えっ! オーバーフローを起こさせるのだ!」

「雑魚キャラが僕の魔法の弱点を見抜くんじゃねえよっ!」

たしかに盾化の時が、実は一番脆い。マナを放出して障壁を展開している分、硬度が下がっているのだ。

しかし、こういうのは苦戦する主人公が見抜くもんだろと抗議の声をあげる勝利だが、敵はそれもそうだねと、見て見ぬふりをしてくれなかった。

忍者たちが、一斉に遠距離攻撃を放ってくる。手裏剣が投擲され、氷や雷の礫が向かってくる。

勝利は慌てて後ろに下がるが、自動的に展開してしまう魔法盾が敵の攻撃を防いでしまう。後ろへと下がりながら焦る勝利を他所に攻撃を受け続ける魔法盾。

基点となる紅蓮水晶がその猛攻に耐え切れずヒビが入っていく。この忍者たちはかなりの腕だ。紅蓮水晶が破壊されてしまえば、勝利は対抗できずに確実に殺される。

更に後ろに下がる勝利へと、立ち止まり遠距離攻撃を繰り返す忍者たち。

遂に紅蓮水晶がパリンと割れてゆく。その様子を見て、敵は覆面の下で嗤う。

だが、勝利もそれまでの焦っていた顔から、余裕の笑みに変える。

「引っ掛かったな!」

片手を振るうと、勝利の背後から15個の紅蓮水晶が浮かぶ。聖奈たちを守っていたはずの水晶だ。

紅蓮水晶は複雑な幾何学模様の紅い魔法陣を形成する。その魔法陣により、勝利の力が増大されて、翳す手に光り輝く炎が生まれる。

聖奈さんの守りは『 聖殻(ホーリーコクーン) 』で、実は充分だった。原作でも生徒たちを完全に守りきった強固な結界魔法である。

だが、紅蓮水晶も展開させたのは、敵の意識外にさせて、隠し玉として使う予定だったからだ。

見事に敵は引っ掛かった。

『超火炎魔法強化』

儀式魔法陣に近い巨大な魔法陣から流れ込む魔法が、勝利の魔力を高めてマナを強化する。その身体が真っ赤に燃えるオーラを纏わせて暴風を巻き起こし、狂暴なる力となる。

「なにっ! しまった、攻撃せよっ!」

罠にかかったと気づいた敵が、魔法の発動を阻もうと走ってくる。だが、全く間に合わない。

「おせーよ、バーカバーカ」

敵の配置は巧みに移動して、必殺の魔法の範囲に誘導している。

次の魔法で終わりだと、得意げに勝利はチンピラのような下衆な笑みを浮かべて、剣を迫る敵へと突きつける。

「溶岩りゅ――」

『 溶岩流(ラヴァーフロー) 』を使用する予定であった。この魔法は溶岩流に敵を巻き込む。魔法障壁があっても、数千万度の魔法の溶岩が消えることなく身体に張り付いて燃やし尽くす。

必殺を確信し、剣先に紅き魔法陣が描がかれ、魔法を発動する瞬間であった。

ギクリと勝利は顔を歪ませた。

人がいる。

そこで勝利は雑居ビルの窓から覗く子供たちに気づいた。薄汚れた服を着た悪ガキたちに見える。

人気のない雑居ビルを秘密基地にしていたのだろうか。戦闘音を聞いて、興味を持ってしまったのだろう。

そして、子供たちのいる場所は『 溶岩流(ラヴァーフロー) 』の範囲内であった。強化された魔法は熱した空気を吸い込むだけで、一般人は肺が焼けて死ぬだろう。

『撃て』

『アニメとかでもよく見る展開だ』

『自分の命を優先しろよと、つっこんでいただろ』

勝利の心に前世の自分が囁いてくる。

自分を憎み、周りを憎み、ただ漫然と生きていた自分。

肉体にも精神にも贅肉をたっぷりとつけている自分。

不幸な者を探し、ドヤ顔で自宅警察を名乗り、身も知らぬ他人を馬鹿にしていた自分。

醜悪な笑顔で、他人など気にするなと囁いてきていた。

主人公たちが、同じようなシーンで躊躇いを見せるたびに、勝利はこのアホがと罵っていた。

ここで敵を倒せば、もっと大勢が助かるのだと、自分の命が優先だろうと。

能天気な主人公たちだからこそ、死なないとわかっているメインキャラだからこそできる選択肢だと、馬鹿にしていた。

だから当然、この場合は躊躇いなく魔法を放つべきだ。悪ガキたちは運が悪かったのだ。

そうするべきだ。

そう考えて、勝利は息を吐いた。

剣先に展開されていた魔法陣がかき消えて、放とうとしていた魔法の構成が消えていく。

前世の自分が馬鹿がと叫び、消えていった。

発動する寸前で打ち消したことにより、超強化された魔力が吹き荒れて、その反動により身体に激痛が走る。

「できるかっ! 僕は小心者なんだ!」

『 火球(ファイアボール) 』

新たに展開した魔法陣から『 火球(ファイアボール) 』が放たれる。

『氷礫』

しかし、素早く敵は氷の礫を放ち爆発させてしまう。爆風と爆炎の中から忍者が刀を振り上げて抜け出てきた。

「子供だなっ! 周りの被害を恐れたか!」

なぜ勝利が上級魔法を放つのを止めたのか気づいたのだろう。忍者が嘲りながら迫る。

『雷光斬り』

紫電を纏いし剣撃が、勝利の身体を袈裟斬りに斬るのであった。