軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17話 小説の初陣って、必ず予想外が起こるよなっと

もう夕方になる。ダンジョンは常に一定の光量を天井が放っているために、時間がわからないが、俺にはわかった。美少女シスター美羽ちゃんにはわかるのさ。

く〜。

「みー様、お腹が空きましたのね」

「うん、お腹空いちゃった。そろそろおうちに帰らない?」

美羽の可愛らしいお腹から聞こえてきた夕飯の合図に、微笑ましそうに闇夜は微笑み、周りの人たちも、その愛らしさに笑みが溢れる。

ちょっと恥ずかしいので、お腹を押さえて赤くなる。この身体のタイマーは正確なんだ。もう夕飯の時間だと思う。そろそろ帰る時間だよな。

俺は良い子だから、門限を守るんだ。母親から今日は18時まで許されている。気をつけるのよと言われているので、時間通りに帰って安心させたいんだ。家族仲大事。良い子は時間通りに帰宅して、ただいまと言うものなのさ。

「そうですわね。変な邪魔も入りましたし、もう帰りましょうか」

へんてこな奴、粟国キャップとかいう名前のガキのことか。確かに変な男の子だったな。特にあの歪んだ性格。9歳で、あれはねーよ。

「うん! 帰ろ〜」

満面の笑みで、美羽は片手をあげてぴょこんとジャンプする。皆がその無邪気な行動に癒やされる。

俺の行動は完璧なんだと、ふふふと内心でほくそ笑み、それじゃあおしまいだねと、片付けを始める。狩場の拠点としていた場所には、色々な荷物が広げられている。片付けを手伝うぜ。

ちょこちょこと歩いて、俺でも持てそうな物を運ぼうとしていた時であった。

ズシンズシンと音が響き、地面が揺れる。トランクの上に置いてあるペットボトルが震動で震えて、ことりと倒れて水が零れる。タープを支えていたピッケルが外れて、タープが地面に落ちていった。

「な、なんだろ?」

「なんでしょうか?」

俺と闇夜はキョロキョロと辺りを見渡す。地震ではなさそうだ。なにかやばい敵が来ているのか?

見渡すと丘向こうから、地響きをたてて何かが砂煙を纏いながら近づいてきていた。

「なんですの?」

闇夜が異常に気づき、声をあげる。冒険者の何人かが、魔法を使う。瞳が赤く輝き砂煙の正体を見ようとする。

『鷹の目』

数キロ先を見通すスキルだ。ベタベタだけど、便利そうだぜ。

ああいった魔法がゲームにはないんだよなぁと、思いながら俺も目を凝らす。エンカウント制だったからゲームでは周りを確認するスキルはなかったんだよ。隠れるスキルはあるんだけどな。

それにその隣のおっさんはメカニカルな双眼鏡を使っているしな。自動で、ターゲットとの距離測定や赤外線センサー、ナイトビジョンに切り替えられる『魔導の夜』の世界の最新型魔導双眼鏡だ。

………やっぱりあのスキルいらんかもしれない。これが現代ファンタジーの悲哀か。隣で双眼鏡使うなよ、スキル使ってる奴が可哀想だろ。まぁ、双眼鏡が無いときは使えるか。

俺は子供だから、双眼鏡の方を使ってみたい。浪漫だよな。ああいったかっこよい双眼鏡。

「す、ストーンゴーレムです! なんでこのダンジョンに?」

戸惑いの声と共に斥候が周りに注意を促す。護衛の冒険者たちは武器を構えて、迫るストーンゴーレムに対して身構える。

皆も戸惑いながら、それでも冷静に行動できる分、やはり侯爵家の御用達の冒険者といったところなのだと感心してしまう。

「闇夜お嬢様、美羽お嬢様。避難の準備をしてください」

執事が俺たちに真剣な表情で言ってくる。その様子は念の為という雰囲気ではない。ストーンゴーレムか、強いのか? レベルはゲームで高かったかなぁ。あまり強くなかった覚えはあるが。

「ストーンゴーレムは強いんですか?」

コテリと首を傾げて、執事に尋ねると、執事は深刻そうな顔で頷く。

「あれは物理攻撃がほとんど通用しないのです。しかも石の塊の腕はかなりの攻撃力を持ち、かつ巨体のためにリーチが長いのです。気をつけねば殺されてしまいます」

「それじゃあ、皆で逃げようよ!」

結構ヤバそうな魔物かよ。ならば、逃げるの一手だろ。……いや、違うのか。彼らは逃げられない。

俺はそのことにハッと気づく。執事は俺の予想通りの返事をして、首を横に振る。

「彼らは護衛です。こういう時に盾となり、美羽お嬢様たちが安全な場所まで逃げるまでの時間稼ぎをしなければいけません」

沈痛な表情で執事は告げてきた。だよなぁ。ここで俺達と一緒に逃げたら護衛の意味がない。

異世界ファンタジーなら、護衛が護衛対象を放置して逃げることもできるだろう。だが、この現代ファンタジーでは違う。しっかりと護衛たちは登録されているのだ。

護衛の冒険者は高額で雇われている。それはSPと同じだ。護衛対象の代わりに銃弾に晒される覚悟を持つSPと同じ覚悟を持たないと、信頼は失われて、もはや護衛の仕事は来ない。護衛の仕事をしている者は、誇りを持っているし、逃げ出すことはしない。

たとえ、自分たちでは敵わない想定外の強敵が現れてもだ。

見ると、意外や意外。ストーンゴーレムの足の速さは時速にして……よくわからん。トラックが暴走している感じだ。これは普通に逃げたら逃げ切れんな。

護衛の冒険者って、闇夜より少し強いくらいなんだよな。これは護衛が弱いのではなく、闇夜が強いのだ。武門の名門帝城侯爵家の長女ということだろう。

そんなそこそこの腕しか持てない冒険者に接敵すると、ストーンゴーレムは、石の腕を振り上げて、先頭の冒険者へと攻撃する。

「全員、回避を主体に対抗するんだ!」

『転換攻防』

先頭の冒険者が盾を翳して武技を使う。岩のような塊の拳をビームフィールドのような光を纏わせた盾で受けて、潰れるようにガクンと膝を落とそうとするが、ストーンゴーレムは押し潰す寸前で停止し弾かれたように後ろに下がった。

ズズと足元を擦らせて、ストーンゴーレムが後退る。5メートル程の巨人はかなりの重量を持っているにもかかわらず、後ろに押し下げられたのだ。

「おぉ、凄いよ! あれなら勝てるんじゃないかな?」

見たことのない技だ。物理攻撃を一度だけ防ぐ魔法がゲームにはあるけど、武技ではないからな。小説でも見たことが……。技名なんか覚えてねーや。

だって、原作では皆が違う技を使用していたからな。一族の技とか言って。規格を同じにしねーから、ゲームでは無理矢理纏められたんだよ。小説では敵との戦闘に見栄えを良くするために、必要だったんだろけど、小説の世界に生きることになると違和感しかねーな。

だが、あの技を使えば有利に戦闘は運べるはず。と、思っていたら執事は首を横に振る。あ、わかっちゃった。

「あれは彼の奥義です。敵の攻撃を自らの防御力に転換する奥義。マナを大きく消耗するのです」

「あ、そうですか」

なるほど、見てみるとかっこよく使った冒険者は

「くっ。すまない。マナが尽きてしまった」

と悔しそうに言いながら、『魔導鎧』の装甲を元に戻している。『マナ』が尽きたんだろう。だが、ストーンゴーレムの動きを止めるのが狙いだったのだろう。その隙を狙い、他の冒険者が動く。

「あとは任せろ!」

『疾風陣』

一人の冒険者が身体に風のオーラを纏わせると魔法を使う。ストーンゴーレムの足元に魔法陣が描かれると、竜巻が巻き起こりストーンゴーレムの足を止めて吹き飛ばそうとする。軋み音を立てて、ストーンゴーレムは動きを止める。そこに周りの冒険者たちが光の鎖を手に生み出すと、一斉に投擲した。

『光鎖捕縛』

「おぉっ! 今度こそ動きを止めたね、闇夜ちゃん」

俺は手を握りしめて、連携の取れた冒険者の動きに感動する。やはりオンリーワンの技より、こういった練度の取れた兵士たちの技の方がかっこよいよな。いぶし銀の戦いってやつだ。白い悪魔よりも、陸戦用雑魚の戦闘が好きなんだ。

「いえ、あれの発動中は、マナを恐ろしく消耗します。さぁ、今のうちにお逃げを!」

「私たちが残っていたら、あの人たちは逃げられないですわ」

執事の言葉に闇夜も声を揃える。よく見ると、ストーンゴーレムは鎖を引きちぎろうと腕に力を込めている。ぎりぎりと光の鎖が引っ張られて、冒険者たちは懸命に押さえているが辛そうだ。

光の鎖はマナを消耗することにより押さえている?

………最初に武技を使った奴はよろけて、もう一般人の動きしかできないようだ。疾風陣とかを使っている奴もそうだ。

これ、俺たちが安全な場所に逃げるまで耐えていたら、マナが尽きて動けないパターンだよな。

「早く逃げましょう。ここは私たちは素直に逃げるのがお仕事ですわ!」

俺の腕を掴み、険しい顔で闇夜は逃げましょうと勧めてくる。教官と執事、メイドは俺たちを守って逃げる準備をしている。………が、そうはいかねぇな。

「………闇夜、わりぃが、ここは逃げられない」

「みー様ではあのストーンゴーレムに傷もつけられないですわよ?」

真剣な顔の闇夜。俺は闇夜の掴む腕をそっと離す。

「教育に悪い」

「教育に悪い?」

ボソリと呟く俺の言葉に不思議そうに首を傾げる闇夜だが、教育に悪いんだよ。

「9歳で、護衛を死なせたとかトラウマになっちまうだろうがっ! わりぃが俺は健全で良い子なんでなっ!」

子供時代にそんなトラウマを作ると、将来に不安が残っちまう。両親が暗くなってしまった俺を見て、仲が悪くなったら、どうするんだよ。家族仲は大事にしないといけないんだぜ。

八重歯を牙のように剥き出し、俺は猛獣のように凶暴な笑みを浮かべる。闇夜たちは、俺の変わりように驚き、目を見張る。

「それに、今が唯一のチャンスだ」

「チャンスですの?」

なぜか闇夜は頬を赤らめて聞いてくるが、そのとおり。チャンスなんだ。

なぜならば、だ。

『調べる』

ストーンゴーレム レベル33

かなりの強さだ。こっそりと以前に教官を調べたら、レベル21だった。闇夜は18だ。これはゲーム基準で計算されているのだろうが、純粋な戦闘力を計算されているとすると、圧倒的な差だ。ゲームでも10レベル差は覆すのが難しかった。小説の世界ではわからんけどな。

そして、俺はレベル4。一撃死余裕である。

だが、しかし、だ。

『戦う』

『採掘』

『逃げる』

このコマンドはなんだろうな?

「『採掘』ってのは、面白そうだぜ」

ゲームであったな。この展開。もしも、いや、確実にその展開が適用されている。

「おら、ぶっ倒してやるよ! たっぷりと素材を落とせよっとな」

メイスを振り上げて、俺はストーンゴーレムに突撃する。

とてとてと走りながら、ストーンゴーレムに殴りかかりに行くのであった。

「待ってください、みー様!」

「美羽お嬢様、危険です!」

誰も俺を止められねーぜ。『魔導鎧』が『起動』できないから、9歳の身体能力だけどな。

俺を止めようとしたら、ギャン泣きしてやるよ?