軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16話 モブは仕掛ける

粟国勝利は、丘の上をゆっくりと歩きながら、爪をカリカリと噛んでいた。その顔は機嫌が良さそうにも見えるが、陰に焦りも見てとれた。

「ありがちじゃねぇか。なるほどな。俺以外にも転生者がいたのかよ」

ブツブツと呟きながら、後ろをチラリと振り向く。そこには帝城家の集団がおり、その中心に守られるように、闇夜が見えた。もう一人、見たこともないほど、可愛らしい娘も。

「おぼっちゃま! 勝手に行かれては困ります」

僕がいなくなったことに気付いて探し回っていた執事たちが、汗を滝のように流して、息を切らせながら駆け寄ってくる。

その阿呆ヅラを鼻で嗤い、横を通り過ぎていく。

ふん、ここの魔物程度に僕がやられるもんかよ。傷一つ負うわけないだろ。

それよりも確認することがある。

「おい、帝城闇夜は幼稚園の時に、 死霊(レイス) に襲われたんじゃないのかよ?」

そして、幼稚園児を殺戮し、分家に捨てられたはずだ。だが、あの様子を見るに、捨てられてはいない。ワカメのように不気味に広がる黒髪も、ファンデーションを塗っているかのような、真っ黒なパンダのような隈も、キヒヒと耳障りな口調もしていない。

ならば答えは一つだ。あいつは幼稚園の時に、幼稚園児を殺していないのだ。

「あぁ、 死霊(レイス) を退治した話は聞いております。あの隣にいる少女は聖属性の者でして、力を合わせて 死霊(レイス) を退治したとか」

執事は帝城家がばら撒いた欺瞞の噂話を耳にしており、それを真実だと思っていた。帝城家は闇夜を守るために、傷つけた娘がいる帝城家で美羽を保護できるように欺瞞の噂を流していたのだ。

美羽を傷つけたのに、帝城家は取り込もうとするつもりか、なんと恥知らずなと、鷹野伯爵家が噂を流そうとしたので、その噂を一掃するべく、真実とは近くて遠い噂を流したのである。

だが、勝利はその説明を聞いて確信した。小声で、誰にも聞こえないように呟く。

「なるほどな。本来はあの可愛らしい娘も殺していたのがストーリーだったのだろうな。だが、あいつはそれを防いだ」

確定だ。帝城闇夜は転生者だと、勝利は確信するのであった。

転生者のテンプレだ。デブに転生して、痩せて二枚目になったり、美しくなったり。元のキャラではありえない程の努力をして、皆から天才だと褒められるぐらいに有能になったり。

共通するのは、今までのキャラとはまったく違う人間になることだ。闇夜はその条件にピッタリと当て嵌まっていた。分かりやすい転生者だ。

丘の上にある公爵家の集団に合流すると、考えをまとめるために、執事たちを蹴り飛ばし近づくなと厳命して、ひょろりと生えている細い木の下に座り込む。

「あいつが俺の障害になる可能性はあるのか? ………だが、あいつはここが『魔導の夜』だと知らないみたいだな………」

その小説のストーリーを知らずに、転生するパターンがある。あのキョトンとした顔は勝利の顔を見たことがないという顔だった。恐らく嘘はついていないだろう。

稀にあるパターンだ。その場合、ストーリーを知っている主人公が助けて仲良くなる。もしくは恋人になるパターンが考えられる。

「だが、あいつの元は気持ち悪いからな。俺もさすがにパスだ」

いくら綺麗になっていても、勝利には闇夜のストーリーに現れた不気味な容姿と性格が頭に残っており、まったく食指が動かなかった。

「ハーレムの一員にするなら、あの灰色髪の少女だな」

ニヤニヤと笑い、あの灰色の少女を思い出す。銀色に似た艷やかな髪の毛を背中まで伸ばしており、アイスブルーの瞳は強烈な魅力を放っていた。可愛らしい花のような顔立ちに、小柄な身体。成長するとどうなるか楽しみだった。

きっと、ストーリーを知らないで品行方正に努力をしつつ暮らしていたら、本来は幼稚園児の殺戮イベントで殺す相手と仲良くなったに違いない。そして、ストーリーは変化して、 死霊(レイス) は他の人間に取り憑いたに違いない。

本来は殺されていたキャラなのだろうことは間違いない。その考えを後押しするのは、闇夜の処遇だった。

この世界に転生して痛感したのが、高位貴族は横暴が通るといったところだ。なにせ、軽く使用人を炙るつもりが、重傷を負わせても、もみ消すことができるのだ。闇夜だって、同じくもみ消すことができたはず。

できなかった理由はあの灰色の娘だろう。この世界で知ったのだが、灰色は聖属性に目覚めた証。回復魔法使いとして覚醒した証なのだそうだ。

そして、回復魔法使いは希少だ。20万人の魔法使いの中で、たった30人しかいないのである。さしもの侯爵家も、回復魔法使いを殺した娘の事件をもみ消すことができなかったのだろうと推測している。当たらずといえども遠からずといったところだろう。

自身の推測は恐らくは当たっている。なにせ、この世界の設定は全て頭にあるのだ。勝利はこの世界で神と同義なのだから。

勝利は、己が天才的だと自画自賛して、これからの対応を考える。

自分の障害になる可能性はたしかにある。闇夜がまともなことで、なんらかのストーリーの変化はあるだろう。少なくとも、闇夜が敵組織の一員になって学院に潜入するイベントは発生しない。

「だが、あいつのイベントは無くとも問題はなかった。アニメで全カットされても、まったくストーリーは破綻しなかったからな。それどころか、ストーカー不気味イベントが無くなってスッキリしたぐらいだ」

帝城家は、その後にチラチラと出てくる。たしか闇夜を保護した主人公が帝城家に文句を言いに行くイベントだ。帝城家は武士の家門。厳格な親父がいたはず。

色々とお涙ちょうだいのストーリーがあり、後に帝城王牙は反省して、魔物のスタンピード時に、一族の武士を連れて参加してくれる。たったそれだけのキャラであり、後はまったく出番はなかった。アニメでは援軍の部分は他の家門に変わっており、いなくても違和感すら無かった。

なので、闇夜を排除しても問題はない。問題はないが、注意は必要だ。闇夜がストーリーを知っていたら、迷わず殺すつもりだった。たとえ侯爵家の長女であり、殺すと色々とこちらもヤバくなる可能性は高くとも。それだけのリスクを負って殺す価値がある。

なぜならば、ストーリーを知っていれば、必ず絡んでくるからだ。モブ転生者とは、そうするものなのだ。いらない正義感などを口にして、主人公の助けに入るのである。

だが、小説の中の世界と知らず、ストーリーも知らないのだ。アニメで全カットされた存在のキャラ。その程度の相手だ。手を出す方が危険かもしれない。いや、こういう場合、藪をつついて蛇を出す結果になる可能性がある。

自称オタクの元フリーターは、今までの経験から悲惨な結果となった小説などを思い出す。しかし、ここで手を出さないで破滅、といった展開も考えられるので、爪をカリカリと噛んで、苛つく。

公爵家の集団は遠巻きに、動かない勝利を見て、黙り込む。こういう時に声をかけると酷い目にあうと理解しているからである。

勝利は現実と小説の世界が違うことをしっかりと考慮に入れて、情報を集めて、しっかりとすり合わせを行なっていた。

その中には貴族間の勢力などもあったのだ。小説ではまったく出てこなかった部分であり、看過すると破滅するだろう情報であった。

仕掛けるならば、今しかない。帝城侯爵家は武門の一族だ。アニメでは全カットされたが、その力は公爵家といえども侮れない。

今を逃せば、手を出すことが難しくなるかもしれない。焦りを覚える中で、勝利はとりあえずの解決策を用いることにした。

「おい、肉盾用の召喚石があったろう?」

立ち上がると埃を払いながら、横に息を潜めて立つ執事へと声をかける。

「はい。もしもの時のために、おぼっちゃまに言われたとおり、用意をしております」

「持ってこい」

「? なににお使いになられるので?」

「いいから持ってこいよ」

わかりましたと執事は頷くと、荷物置き場に向かい、1つのトランクケースを手にして戻ってくる。ガチャリと開けると、中には小さな純金製の小箱が衝撃吸収材に包まれて入っていた。

勝利は無造作に小箱を手にすると、鍵を取り出して開く。中には大粒の宝石が入っていた、ルビー、エメラルド、トパーズの3種類だ。何カラットあるのだろうか。その金額は軽く億を超えるだろう。

そして、ただの宝石でも億を超える価値があると思われるのに、その宝石の中には燃える炎や暴風、砂塵が内部で蠢いていた。魔法が宿っている証拠である。

勝利が万が一のために持ってきたアイテムである。勝利は自身が普通のモブ主人公だとは考えていなかった。ゲスな考えをしているために、もしかしたら酷い目にあう可能性を常に考慮していた。

そのため、非道なことも公爵家の力でもみ消せる程度のレベルに抑えて、努力もしている。そして、なによりよくあるパターン、唐突な問題、即ち、強力な魔物や多くの魔物に襲われて、死んだりする可能性を考慮していた。

用心深い男だと、勝利自身は自分をそう評価している。

なので、そのような時に逃れることができるように、肉盾となる召喚石を用意していたのだ。この中には持ち主に絶対服従の召喚獣が封印されている。

なにせ自分は人望がない。強力な魔物に襲われた際に、部下たちは自分を見捨てて逃げると信じている。それならば品行方正に、優しく付き合えば良いものを、そんなことをするくらいなら、金の力で解決しようと考えていた。

原作では、時折、魔物が封印されている宝石を敵が使うシーンがあった。色々な魔物がいて、主人公ですら苦戦する相手もいたのだ。

それを知っている勝利は、この宝石を買い求め用意した。莫大な金がかかったが、父親に頼み込んで買ったのである。敵が大量に使用して主人公を殺さない理由をその時初めて知った。数十億する宝石を気軽に使えるはずがない。

「炎は駄目だな。風と土か」

燃えるような輝きのルビーを横に置く。これは殺傷力が高すぎて、追及されたら誤魔化すことができない。

エメラルドの輝きを見ながら首肯する。そして、首を横に振るとルビーと同じく横に退けた。風の召喚獣は防御力が極めて弱い。魔物は混乱させることができても、知性ある人間たちは混乱させることはできまい。

そもそも殺すつもりはないと、アピールするためには風の召喚獣も少し火力が高すぎた。

とすると、残りはトパーズしかない。

動きが鈍く、されど耐久性と一撃の力は高い。正直、事故でしか死ぬことはあるまい。逃げることも可能だろう。

こちらも慌てるふりをして、遠巻きに見ていてもおかしくない。

「ストーンゴーレムよ、封印から解けよ」

『起動』

その言葉をコマンドワードとして、トパーズは煌めき、土色の魔法陣が宝石の上に浮く。トパーズの輝きが一層強くなり、皆が目を細めて腕で顔を覆う。

そして、光が収まったあとには、5メートルは背丈がある石で作られた人形、ストーンゴーレムが立っていた。柱のような手足に岩のような胴体の召喚獣はおとなしく立っていた。

勝利はその姿を確認すると、近づいて囁くように命令を下した。

『散歩に行ってこい。障害物は破壊してな』

そうして、勝利はゆっくりと口元に笑みを浮かべるのであった。