軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

147話 祭りとエルフと自覚

壮年の男が話しかけてくるので、芳烈はにこやかに笑みを浮かべて頷く。

「えぇ、鷹野家の当主代行をしている鷹野芳烈です」

「鷹野家の期待のエース。鷹野美羽です!」

「どうも。 草野(くさの) 鎌足(かまたり) だ」

日焼けして、鍛えられている見事な体躯の巨漢の男は、ニカリと笑ってくる。エルフである笹のような耳が魔法使いであることを示している。私よりも背が高く190センチはあるだろう。

草野さんは、頭をポリポリとかきながら、少し躊躇うように口を開く。

「あ〜………。お偉いさんってのが来るのは聞いていたんだ」

「あはは……お偉いさんと言われると、とても恥ずかしいんですけどね。一応そうなりますか」

「やっぱりお偉いさんなのか、俺はこのドルイドの集落を率いていて長をしているもんだ」

「よろしくお願いします。皆さんのお陰で、『聖花』も順調に育っていますし、この幻想的な光景には感激しました」

『聖花』の花びら舞い散るこの地は、誰もが感動する光景だろう。この花畑を作った草野さんたちには、感謝の言葉しかない。

「いや……俺らも家やら何やらと用意してもらって助かってる」

「用意したのは私ではなく、中心になったのは――」

「鷹野家のご尽力により、この土地を用意できたのです。いやぁ、さすがは鷹野伯爵家ですね」

何か勘違いをしているようなので、正そうとすると、大声で常務が口を挟む。そうして常務が小声で「伯爵家の方が名前の通りがよろしいのです」と伝えてくるので、そういうことかと苦笑して頷く。

『ガルド農園』は平民の人たちが経営している企業だ。今や飛ぶ鳥を落とす勢いの企業のために、横槍を入れられないように後ろ盾が必要なのだと理解する。

なら、この話に投資している自分が矢面に立つぐらい簡単なことだ。

「多少のお手伝いをしただけですが、少しでもお力になれたのならば幸いです」

「いや、少しではない……。あんたは『お人好し』なのかい?」

「あはは……多少そうかもしれませんね」

『お人好し』とは、魔導省に在籍していた時に、時折言われていたので、笑って頷く。縁も縁もない人たちにお金を出すとは、『お人好し』だと思われているのだろうか。

そう思っていたら、草野さんは顔を嬉しそうに変えて、後ろを振り向き叫ぶ。

「おーい! やっぱりこの人が『お人好し』だってよ!」

「おー! 『お人好し』だったのか!」

「それじゃ予定通りだな!」

「皆に伝えてくる!」

「ええと?」

なぜか感激したように笑顔を浮かべて、皆が大騒ぎして、何やら慌てて走り出す。何が起こっているのか、さっぱりわからずにポカンと口を開けてしまう。みーちゃん、楽しそうだと一緒に走り回らなくていいんだよ?

「『お人好し』さんだったら、祭りってやつをやる予定だったんです。参加してくれよ!」

「はぁ、祭り?」

「あぁ、祭りをするなら、今日は『聖花』の出荷日と合わせましょう」

「は、はぁ、祭り?」

「では、祭りの準備に私も加わってきます。夕方には用意ができますので、それまではご家族でご観光ください。私もビンゴ大会でもしますか。賞品はアクセサリーセットにしましょう」

常務は部下と共に、朗らかな笑顔を浮かべて、楽しそうに去っていった。

祭りって何だろうと、首を傾げてしまうが、その答えは夕方になってわかるのであった。

その後、旅館に戻り合流した妻と一緒に、花畑を見て回って、夕方となった。みーちゃんがお祭りの準備を手伝うと、笑顔で走っていって、金剛さんたちが追いかけるといった一幕もあったが、楽しめた。

旅館から祭りだから、外でお食事をと促されて、広場に向かったところ、大テーブルが並び、大皿に料理が山と積んである。

ワイワイと大勢の人が集まっており、手に持つ小皿に料理を乗せていた。

「お祭りっていうか、宴会みたいだね」

「そうですね、貴方」

「私、料理をとってくるね!」

屋台やらが用意されているわけではなく、立食パーティーのような感じだ。草野さんが台を作っていたが、こちらに気づき手を振ってくる。

「あぁ、来ましたね。それじゃ、始めましょう。こちらにどうぞ」

「はぁ、『聖花』の出荷を祝う感じですか?」

どうもよくわからないが、私たちを待っていたらしい。投資者を待っていたとか、そんな感じだろうか。

「それもありますが、メインはそちらではないですよ」

マイクを手にして、草野さんは壇上に立つ。談笑していた人たちが話をやめて、こちらへと身体を向かせてくる。

皆の注目が集まったと確認した草野さんが、話し始める。

「今日は私たちを助けてくれた人が来てくれた。感謝の念をこめて、祭りを開こうと思う」

わぁっと、皆が喝采して拍手する。

「では、まずはこちらを見てくれ!」

草野さんが手を向けた先には、布で覆われた5メートル程の物があった。なんだろう?

「見てくれ! 急遽作ったが、よくできていると思う」

布がバサリと取り払われると、その中身は石像だった。白髭のお爺さんだ。皇帝陛下の謁見の際に見た老魔法使いにそっくりである。

まるで生きているように、精緻な作りで見事なものだ。

「私たちを助けてくれた人たちに感謝を示すために、像を作ってみた!」

「おぉ! 素晴らしい!」

「記念碑にしましょう」

「記念日にしましょう」

拍手喝采で皆は祝う。なるほど、ドルイドたちは老魔法使いに助けられたのだろう。ドルイド狩りをしていた傭兵を追い払ったらしいと聞いているから、そのお礼かな?

「魔物に襲われない土地がこれほどよいとは思わなかった。助けてくれた隠者様に感謝を。本当は槍を翳す姿にしたかったんだが、拾っておいた槍を倉庫にしまっておいたら無くなっていたので、残念ながらこのスタイルになった」

草野さんは感謝の言葉を口にして、石像を誇らしげにする。どうやら森林よりも遥かに過ごしやすいようで何よりだ。

だが、問題は一つある。

「それと『お人好し』たる鷹野芳烈さんの石像も作ったんだ、どうだろう?」

なぜ、私の石像も隣にあるのだろう?

「パパにそっくりだね!」

「……やっぱりそう見えるかな?」

美羽が無邪気に言ってくるが、やはりそうらしい。なんでなのだろう?

「命を助けてくれたのは隠者様だが、安心できる生活を用意してくれたのは、鷹野芳烈さんだ。記念碑としていつまでも置いておこう」

「いやいや、待ってくださいよ! なんで、私の石像が記念碑なんですか?」

口元を引きつらせて、草野さんに詰め寄るが、ポンポンと肩を叩いてくる。

「わかっています。わかっていますとも。ですが、私たちも感謝を示したかったのです」

「あの、これはやりすぎです!」

私は『ガルド農園』のプロジェクトに乗っただけだ。名前を使われるならばまだしも、石像なんて作られる程のことはしていない。大袈裟すぎる。

「もう作ったもので、諦めてください」

「諦められませんっ! 今日作ったのならば、すぐに撤去もできますよね?」

「皆が有難がっているんです。いいじゃないですか」

ワハハと笑う草野さん。周りも謙虚なのですねと、なぜか私を敬ってくる。

「パパ、かっこいい!」

「石像なんて、少し恥ずかしいのはわかるわ」

妻も娘も拍手をしていた。どうやら味方はいないらしいと、私はガックリと肩を落とすのであった。

夕闇が訪れて、ライトと『聖花』が夜を照らす中で、皆が宴会を楽しむのを私はぼんやりと見つめていた。

結局、石像は撤去されることなく、これからも広場に置かれるらしい。ハハと乾いた笑いしか漏れない。

「はぁ………なんだかなぁ」

代わる代わる飲み物を勧めてくる人たちを避けて隅っこでようやく一息つく。

広場ではビンゴ大会が行われており、常務がなぜか賞品を受け取っていた。

大テーブルに並ぶ唐揚げやらオニギリ、パスタやデザートのクッキーなど簡単な料理の品々が、いつも出席しているパーティーと違い、素朴な宴を思わせる。

全然祭りらしくないが、こちらの方が楽しいと私はコップに注がれたビールを飲む。

のんびりとしていると、声がかけられる。

「おい、おまえがおっとうとおっかあを助けてくれたんだガウ?」

「ん? あぁ、雇用のことかい? それは『聖花』を栽培してくれたお礼だよ」

見ると黄緑髪の勝ち気そうな少女だった。なんというか野生児っぽい。美羽と同じぐらいの歳かなと、笑いかける。

「違う。おっとうとおっかあを助けてくれた。集落が襲われた時に、ガウは逃げるように言われた。もしかしたらもうおっとうとおっかあに会えなくなると思って不安だったガウ」

「それは……私ではないね。森の隠者様じゃないかな?」

「ガウ? ……『お人好し』のお陰? 皆がそう言ってる!」

「いや、そうじゃないのだけど……」

「いい! これやるガウ!」

まったくこちらの話を聞くつもりはないらしい。少女は手に持っていたクッキーをむりやり押し付けてくる。

「これ、お礼! 友だちも皆帰ってきた! それは『砂糖』って言うんだぞ!」

「『砂糖』?」

これはクッキーだ。なぜ『砂糖』と言うのだろう?

「『砂糖』! ここに来て、初めてガウも食べた! とっても甘い! いつもとってくるアケビとかよりも甘い! 食べろ!」

「あぁ……そうか。ありがとうお嬢さん。でもこれはクッキーと言うんだよ」

そうかと気づく。ドルイドたちは東京に昔から住んでいた人たちだ。『砂糖』の存在をこの少女は知らなかったのだ。

「『砂糖』?」

「『クッキー』」

コテンと首を傾げて不思議そうな顔になる少女の頭を撫でて、優しく教えてあげる。

「ん〜? よくわからないガウ!」

「えーと、これからも『砂糖』を使った甘い物はたくさん食べられるよ」

「ほんとか? 甘い物たくさん?」

「うん、きっとね」

「甘い物たくさん!」

私の言葉に、ふんふんと鼻息荒く興奮して飛び跳ねる少女。

「クッキーありがとう。ほら早く料理を食べに行かないとなくなっちゃうぞ?」

「それ大変ガウ! それじゃあな、『お人好し』! ここに来て良かった! 魔物に襲われることない。ふかふかの寝床に美味しい食べ物たくさんありがとうガウ! ここの生活気に入った!」

笑顔でぶんぶんと手を振り、少女は広場に走っていき、途中で待っていた子供たちと合流すると、あっという間にその姿が見えなくなった。

「生活か………」

あの少女の素直なお礼を聞いて、心がほんわかと暖まる。

人々が平和に暮らす姿は眩しいぐらいだ。

「あれ? なんで手が震えているんだろう?」

だが、手に持つコップが震えていることに気づく。

……理由はわかっている。今の言葉に頭の片隅で不安感を持ったのだ。

「彼らの生活を守る、か……」

宴会を楽しむ人々を眺めて、自分の双肩には責任が重くのしかかっていると理解したのだ。

この地は一からやり直している土地だ。観光でも、花の販売でもうまく行くかの明暗は、鷹野家の力も大きくかかっている。

失敗したら、彼らの笑顔は消えてしまうのだ。

今までは、鷹野家が雇用している人々を数字でしか理解していなかった感じがする。

だが、こうして雇用している人々が楽しげに生活をしているのを見ると、改めて自覚してしまったのだ。

「これまで以上に頑張らないとな……」

花びら舞い散る幻想的な世界にて、芳烈は新たなる決意をすると、微かに微笑むのであった。