軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

146話 観光も資源である

旅館に到着して、畳敷きの部屋に案内される。広々とした部屋に寝室が隣に繋がっており、露天風呂も備え付けてある。最高ランクの部屋なのだろう。壁に掛けられている絵もセンスが良い。

窓からちょうど一面に広がる『聖花』の花畑が一望でき、短時間でよくここまでの物を建てたものだと、感心してしまう。

「わぁっ、畳だよ!」

早速美羽が嬉しそうな笑みで、部屋に入ると畳の上でコロンコロンとでんぐり返しをする。自分の部屋は絨毯なので、畳が珍しいのだろう。

喜び方が子犬のようで、とても愛らしい。

新しい畳の匂いがする中で、芳烈は妻と共に座椅子に座って、移動した疲れをとる。と言っても、ほとんど疲れていないが。

「お茶をお入れします」

侍女がお茶を入れてくれる横で、女将のマツさんが上品な所作で正座をすると、頭をゆっくりと下げる。

「本日は『はなはな亭』にようこそおいでになりました。鷹野美羽様と鷹野家の方々。『聖花』の舞う鎌倉の観光をお楽しみください」

お決まりの一通りの挨拶をすると、マツさんは去っていった。

その様子を妻が見ながら、不思議そうな顔になる。

「みーちゃんを当主と知っているからかしら?」

「あぁ、普通は私たちを挨拶の前に持ってくるからね。少し変な挨拶だったね」

確かにそのとおりだ。当主を優先するのはわかるけど、……この場合は微妙だな。

「私だと変なの?」

「普通は大人に挨拶をするものだからね。子供を前に持ってくるのは変なんだよ」

「ふーん」

そうなんだと、興味なさそうにまたコロンコロンと畳の上を転がる美羽。どうやら、畳がよほど嬉しいようだと、その無邪気な様子に相好を崩す。

「とりあえず、ママとみーちゃんは休んでいて。私は少し仕事があるから。すぐに終わる予定だから、その後に観光しよう」

「私も行く!」

ガバッと起き上がると、美羽はてててと走ってくるので、手を繋いで一緒に行くことにする。

「お花畑に行くの?」

「うん、鎌倉の3割は鷹野家が手に入れることができたからね。みーちゃんの花畑になっているんだよ」

皇帝陛下から下賜された土地、合わせて安価で土地を取得できた。他の大半はドルイドの老魔法使いが、資金を調達して買い占めた。

鎌倉から続く東京付近まで含めて買い占めたのだ。廃墟となって久しい土地のために所有権は国に帰属されており、タダ同然だったと聞く。

まぁ、ドルイドが住むための集落であろうと、ほとんどの者が気にしなかった。金になりそうな話は箱モノだけと決めつけて、資材や建設工事にからんでくるだけであったが、鷹野家だけは違った。

「どうも鷹野様。そろそろ涼しくなって過ごしやすくなってきましたなぁ」

「どうもお待たせしましたか?」

「いえいえ、では花畑にご案内しましょう」

待ち合わせをしていた『ガルド農園』の小太りの常務とその部下数人が、ニコニコと人の良さそうな笑みで挨拶をしてくるので、共に花畑に向かう。

「生育は順調そうですね」

「はい。出荷準備もできており、問題はありません。検証したところ、想定通りの効果を発揮することを確認しております」

「『聖花』ですか。通常の性能ではないのですよね?」

「通常の『聖花』とは残念ながら比べ物になりません。ですが最低限の効果を発揮することが判明しております」

「なるほど。この性能は確かなのですか?」

「えぇ、間違いありません。花びらに宿る仄かな光が証拠です」

『聖花』が咲き乱れている花畑に到着すると、資料を手渡されるので、既にここに来る前に読んだ内容だが、ざっと目を通す。

「わかりました。『聖花』ですか。この美しい光景は想像以上です。観光にも使えますよ」

「ですな。これは大キャンペーンをうちませんと。観光客が殺到するでしょう。守りも鎌倉は完璧ですしね」

「資材の運搬、定期バスや観光バス。約束通り、鷹野運搬で用意します」

私はそう告げてから、花畑へと目を向ける。仄かに光る幻想的な花畑。一般人ならば、絶対に見てみたい光景だろう。

『聖花』は本来は『神聖花』が正しい。危険なるダンジョンの奥地に咲いている水晶のような花だ。

花に聖なる力が宿っており、ほとんどの魔物が嫌う。常に聖なる光が『光花』のように辺りを照らしており、美しく高値で取引される花だ。

育成条件が不明な『神聖花』は、ダンジョン内でも、決まった場所にしか咲かない。ダンジョン畑を使っても、なぜか咲かないのだ。

「外で『ガルド農園』が用意する土壌と、ドルイドたちが使う『植物魔法』で育てることができるのですね」

「はい。それ以外では花は咲かず、腐ってしまいます。そして咲いた花は、本来の花より効果が劣り、極めて弱い魔物にしか通用しません」

「なので、『神聖花』ではなく、『聖花』と名付けました。見た目も違いますし、区別しやすいので良いアイデアですよ」

本来はドルイドたちが集落周りで育てていた花である。東京内は魔物が多数生息していることから、マナが宿っている土地がある。そこを村にして、周りに『聖花』を植えていたらしい。

「きゃー、セーブポイントの花みたい! きれー!」

満面の笑みで、嬉しそうに美羽が花畑を見て、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。セーブポイントとは、ゲームみたいなことを言う我が子だと笑みが自然と漏れる。

「『聖花』は12日で開花し、その後10日間咲いており、花が散って5日後に種が採れます。うまく植える時期をずらせば、常にこの地は花で埋まっていることでしょう」

ガルド農園の常務は、部下から渡された物を私に手渡す。『聖花』だが、瑞々しい感じがない。くるりと手の中で回して、常務へと顔を向ける。

「ドライフラワーですか」

「はい。効果は半年間続き、その間は淡く光っているので、いつ効果を失ったかもわかります。また、この花から抽出した液体を使用した『聖水』も完成していますよ」

「弱い魔物はこれで追い払えるとか。間違いないのですか?」

今度は噴霧型の小瓶を手渡してくるので、シュッと手のひらに出してみる。やはり仄かに光っており、手が清められた感じがした。

「はい。『 死霊(レイス) 』やポヨポヨなどは追い払えます」

「素晴らしいですね。これで子供たちの被害も少なくなるでしょう」

花畑で働いている人へと、はしゃぎながら話しかけている美羽を優しい目で見る。

魔法使いにとっては、雑魚である弱い魔物でも、一般人にとっては危険な場合が多い。特に『 死霊(レイス) 』などだ。

毎年多くの人々が街中を彷徨く弱い魔物に襲われて、怪我をしたり酷いときには命を落とす。

特に子供は怖いもの知らずのために、雑魚の魔物が生息している場所に入ったりして、死亡するニュースがテレビでしばしば報道されるものだ。

この花が各地に売りに出されれば、そういった被害は未然に防がれるだろう。危なそうな場所に『聖水』を撒き、保育園や学校にはドライフラワーを飾れば良い。もちろん家に置いておくのも良いだろう。

美羽がもしも普通の子ならば、『 死霊(レイス) 』に殺されていたのだ。他人の子でも、あり得る話であり、そんなことになってほしくはない。

「一輪千円で売り出す予定です。『聖水』は五千円から一万といったところでしょうか。莫大な利益が予想されます」

「皆が笑顔になると良いですね」

「ですな。それに合わせて『魔法花コスモ』もこの地で栽培する予定です。『聖花』と『魔法花コスモ』を合わせると、簡易的な弱い防毒結界の魔道具もドルイドは作れるらしいので、冒険者に売れるでしょう」

早くも利益がどれぐらいかを考えているこの人には、今の自分の言葉が勘違いされたと思われたようだと、苦笑をしてしまう。

だが、たしかに安価な防毒結界の魔道具が多数制作されれば、東京攻略を目指す冒険者が列を作るかもしれない。

調べたところによると、植物系統の魔物が東京を支配しているが、毒花粉をなんとかできるのならば、基本動かないで、攻撃も大したことのない植物系統魔物は、冒険者にとってカモらしい。

珍しい果物や野菜。木に隠れる大蜘蛛は、最高ランクの魔法糸を持っているし、聳え立つ大木は高級木材となる。

なにより、それにより東京の攻略が進めば新たなる土地が手に入る。長い時間はかかるだろうが、東京が奪還できるのは大きなことだ。

このプロジェクトが成功すれば、この地は大きく栄えるだろう。既に事態を悟った他の家門に横槍を入れられているのが、最近の頭痛の種である。

芳烈の部下は有能だが、魔法使いとしては二流であり、政務に長けている者たちが多い。

そのため、圧力をかければこちらが譲歩すると考える家門がちらほらいるのだ。今はなんとか対処しているが、これ以上の規模となると手が足りなくなるだろうことは、火を見るよりも明らかだった。

対応方法はあるにはあるが、その手段はできうるならば取りたくない。

「少なくとも、観光業だけでも、投資金額は取り戻せると思いますよ。ほら、あれを見てください」

かすかに顔を顰めた私の表情を見て、本当にうまくいくのか不安に思ったのではと勘違いした常務が、耕された畑を指差す。

『聖花』の収穫が終わった畑なのだろう。畝が並んで作られているだけで、何もない。

そこには5人の男女が手を繋いで、輪を作っていた。ドルイドの人たちだ。耳が笹のように長いのでひと目でわかる。

「『エルフ化』ですね。初めて見ました」

「私もです。『エルフ』はヨーロッパの家門だけしか知りませんでしたよ」

先天的に『魔法使いの素養』を持つのが『エルフ』だ。お伽噺のように、美しい顔立ちや、永遠の命などは持たないが、魔法使いとして素質を持っている。

古代に神器などを使い『エルフ化』した子孫がヨーロッパやインドにいると聞くが、日本にもいるとは思わなかった。

「『マナ』の覚醒が約束されているのが『エルフ』ですからな。羨ましい」

「そうですね……」

皮肉かと思ったが、特に悪意を持って言ったわけではないらしい。たしかに『マナ』に覚醒する切符を最初から持っている者たちだ。魔法使いの羨望の的であった。

自分も魔法使いとして、覚醒していたら、なにか変わったのだろうか。

「パパ、私も混ざりに行ってくるね!」

声をかけられて、ハッと気を取り戻す。くだらないことを考えてしまったと、苦笑いをしてしまう。

「駄目だよ、みーちゃん。彼らは今から儀式魔法を使うんだ」

「えー! 私も手を繋いで遊びたい!」

ヒョイと美羽の身体を持ち上げて抱っこする。この娘は駄目と言われても突進する娘だから、抑えておかないといけない。

頬をぷっくりと膨らませて、不満顔の美羽の頭を撫でて宥める。そうしている間にも、ドルイドたちは声を揃えて、歌を歌い始める。

『 妖精(フェアリー) の 輪(リング) 』

パアッとドルイドたちの輪が輝くと、周囲ヘと煌めくエメラルドのような粒子が周囲に広がっていく。

粒子の通った後から、ポコポコと芽が畝から出てくるのであった。

「すごーい!」

目をキラキラと輝かせて、美羽が興奮しながら、パチパチと拍手をする。

「『植物成長』の魔法です。3日に1回畑にかけて、『聖花』が咲くように維持をします。これは芽が出てくるところでしたが、蕾を花咲かせる時の光景は声を失う程の素晴らしい光景です」

「たしかに一斉に花咲く光景は、きっと大人気になるでしょうね」

花咲く光景はチケット制にしましょうと、提案してくるので、苦笑を浮かべていると

「あんたが鷹野家のお偉いさんかい?」

こちらに気づいたドルイドが話しかけてくるのだった。