軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

131話 勝っても敗北なんだぞっと

とりあえず、せっせと皆を回復し、途中MPが尽きたら妖精の舞を使い、怪我人がいなくなったのは、オレンジ色に空が変わり、薄闇が遠くから訪れる時であった。

燕楽のおっさんは他にも仕事があるとどこかに行ったので、美羽と苦労する護衛たちだけとなっている。金剛お姉さんたちも後から合流したんだ。

「ふぅ〜、疲れたよ」

マジに疲れたよ、クタクタだよ。身体が重い。小柄な身体にずっしりと重りをつけられたようだ。外せばパワーアップできそうなほどに重い。

仮設テントの隅っこで、美羽は小さい足を伸ばして、ぐったりと椅子によりかかっていた。ぷらぷらと足を振りながら、元気に走り回っている兵士たちをぼんやりと眺める。

まずい結果だ。真白を助けて、めでたしめでたし、次週は何事もなかったかのように、学園生活に戻る。

というのは、アニメや小説の中だけの話だ。

現実はそう簡単にはいかないよな。細っこい眉根を顰めて、腕を組み目を瞑り考え込む。

これから、権力闘争がある予感がする。

長政の裏切り。それによる武士団の被害。

勝ちはしたが、負けたのだ。目的は達成されず、損害だけが残ってしまった。

鷹野伯爵として、なにをどう動くのか、考えねばなるまい。真剣に考えないと。

すやぁ。

「みー様、大丈夫ですか?」

ゆさゆさと身体を揺らされて、目を開く。目の前には心配顔の闇夜がいた。

外は真っ暗になっており、毛布をかけられていた。あれぇ? 寝ちゃったらしい。

「おあよ〜、闇夜ちゃん」

フワァとあくびをして、闇夜へと答える。

「どれぐらい寝てたかな?」

「一時間といったところでしょうか。起きる様子がないので、金剛さんがどうするか私に声をかけてきたのです」

少し離れた所で立つ金剛お姉さんが肩をすくめる。ごめん、心配かけちゃったね。

身体はまだ疲れてはいるが、だいぶ楽になった。この身体は若いのだ。ちょっと寝れば回復する。

これからのことを考えていたけど……結論はでたね。

眠い時はちゃんと寝る。

そして、皇族の権威とか、貴族のこれからとかは、どうでも良いや。どうせ神無公爵がぶいぶい言う権力構造だろ。

鷹野家のことは、尊敬するパパに任せよう。パパならきっとうまく立ち回るだろう。

みーちゃんは、地道に回復魔法を使い、良い子アピールをすれば良いよね。

そう考えると元気でた。なんか皇帝は苦労をする未来しか見えないけど、きっとシンが国は救ってくれるよ。

く〜と、可愛らしいお腹の音がする。ペタペタとお腹をさすり、しょんぼりとした顔になってしまう。

「お腹空いちゃった。なにか食べることできるかなぁ」

「料理を配っている所があります。こっちですね」

闇夜が手を繋いできて、案内してくれる。仲良く歩きながら、ワイワイと武士たちがお喋りをして、地面に座り込み食事をしている風景を横目に奥に進む。

一つのテントに行列ができており、料理を乗せたトレイを貰っていた。

「私たちも並びましょう。みー様」

「うん、ならぼ〜」

二人で並ぼうと近寄ると、武士たちは美羽たちの姿に気づいて、恭しく退いてくれた。なんか、皆から見られている感じがするよ。

「あの、私たちも並びますよ?」

行列抜かしは重罪なんだ。並ぶのが嫌なら優待券を買うよと、ニッコリとみーちゃんスマイルを見せながら断る。

「いえ、どうぞ、鷹野伯爵。行列といってもすぐに自分の番は来ますのでご安心ください。それよりも、私たちの感謝の気持ちを表したいのです」

周りの武士たちも、声をかけてきた武士の言うとおりと一斉に頷く。

「そうそう。これぐらいしないと罰が当たるぜ」

「本当です。貴女のおかげで何人の命が助かったか」

「俺なんて、千切れた腕を治してもらったんだ」

感謝の言葉を雨あられと降らしてくる武士たちの姿に少し照れてしまう。たしかに回復魔法の大盤振る舞いだった。

「みー様。皆の感謝を受け取りましょう」

クスクスと笑いながら、優しい顔で闇夜が勧めてくるので、素直にコクンと頷く。

「ん〜……そうか、そうだよね。それじゃ遠慮なく」

これ以上断るのも悪いし、配給の順番を譲ってもらっただけだからな。ま、いっか。

料理を配っている人はみーちゃんを見ると、カレーを山盛りにしてくれた。カレーは海軍じゃないのかと戸惑ったが、そういや地上揚陸艦だったから、おかしくないのかな?

「ありがとうよ、ほら、大盛りだ! たくさん食べてくれよ。そのちっこい身体も大きくしなきゃな!」

「ありがとうございます、板長さん!」

板長? と、コック姿が僅かに驚くが、セクハラで訴えても良いんだぞ。

お皿に盛られたカレーをスプーンで掬う。ゴロゴロと野菜や肉がワイルドに入っており、スパイスの匂いが強めだ。香りから予想するに、辛そうなカレーである。

「いただきまーす」

「いただきます」

ルーはドロリとしている。小麦粉を炒ったのかとか、玉ねぎはペーストまで炒めるとか、よくわからない。前世では、市販のルーだけで作っていたからね。

少し辛いが食べられる。中辛かな? ご飯は炊きすぎているのか、ちょっとパサついているが、それがカレールーによく合っている。

パクパクと小さなお口にカレーを運んで食べる。みーちゃんとしては、少し辛くてお口がヒリヒリだ。

しかし、前世のちょっとした夢は叶ったな。海軍のカレーは一度食べてみたかった。非売品だった自衛隊の携帯糧食も食べてみたいが、とんと縁がなかった。

海軍ではないけど、同じようなもんだよねと、むしゃむしゃ食べていく。お代りして良いのかしらん。

「美味しいですね、みー様」

「うん、少し辛いかなぁ」

闇夜がみーちゃんの食べっぷりを見て、微笑ましそうに相好を崩す。水が欲しいところだよ。ラッシーでも良いんだけど、ないかなぁ。

「鷹野伯爵、こちらをどうぞ」

水を探していたら、コトリとテーブルに缶ジュースが置かれた。オレンジジュースだ、いただきまーす。

「ありがとうございます、古城てーとくっ!」

プシュと缶を開けて、両手で抱えてクピクピ飲む。甘み抑えめなのか、酸味が強いが美味しい。カレーの辛味が洗い流されていく中で、オレンジジュースをくれた人へとお礼を口にする。

「この程度でお礼を言われてしまうと、恐縮してしまいますな」

対面の椅子に座り、穏やかな笑みにて声をかけてきたのは老いても力を感じさせる古城提督であった。落ち着いた雰囲気を醸し出し、頭を下げてくる。

「我が隊の負傷者を全て癒やしてもらえるとは、感謝の言葉もありません」

「回復魔法使いとして、とーぜんのことですっ! それに回復魔法を使っただけですよ」

辻ヒールは良い気分なんだ。いいことしたなぁと、個人的満足が少しあるしね。だけども、たいしたことはしていない。みーちゃんは、たまたま回復魔法使いだったから、回復させただけだよ。

気軽にニパッと微笑んで答えるが、古城提督はゆっくりとかぶりを振ってきた。

「いえ、貴女のしたことは偉大なことなのです。どのような魔物を倒すよりも素晴らしいことなのです、鷹野伯爵」

その目つきが優しげながら、真剣な古城提督は、片手で周りを指し示す。

「武士たちも家庭があります。仲が良い友人もいます。彼らは彼らだけの体ではない。心配する大勢の者たちがいるのです」

その真剣な面持ちに、僅かに気圧されてしまう。どんな強敵よりも、その眼差しからは重圧を感じてしまう。

なんか居心地が悪いね。気軽にパパッと治しただけなんだけどな。

「家族たちは、絆創膏一つ貼って、夫や息子が帰ってきただけで、不安に襲われ、心配します」

「そのとおりです!」

「腕を失ったなんて、いぇねーぜ」

「包帯巻いただけで、大騒ぎですよ!」

周りにいる武士たちが、カレーの皿を掲げたり、スプーンを振ったりして、それぞれ提督の言葉を肯定してくる。

「周りの者たちの言うとおりです。貴女は偉大なことをした。それを理解してほしい」

「…………」

騒がしい武士たち。皆は眩しい笑顔で感謝をしてくる。

……なんというか……今までも嬉しかったけど、彼らは現実に生きているんだなぁと、強く感じた。

本人たちは、自分が回復されたことに喜んでいるが、それ以上に家族たちに心配をかけたくないとの気持ちを感じさせてくる。

そうか、家族かぁ。美羽と一緒だな。彼らにも家族があるんだよな。

胸がいっぱいになり、なんて反応をして良いのか困ってしまう。

そんなみーちゃんに、居住まいを正して、きりっとした表情で古城提督は頭を深々と下げてくる。

「鷹野伯爵。この度のご尽力感謝を。そして、これからは古城家は鷹野美羽伯爵の味方となると誓おう」

頭をあげると胸に手を当てて、老提督は誠実なる眼で告げてきた。まるで騎士の誓いのようだ。

「えっと、良いんですか? 私はまだ10歳ですよ?」

おちゃらけることなく、俺も真剣な表情で古城提督と目を合わせる。幼い少女の真剣な表情に、笑うことなく古城提督は強く首を縦に振る。

「年齢は関係ない。鷹野伯爵がここに訪れなかったら、我々は全滅していただろう。多くの人々の悲惨なる運命を君は変えたのだ。胸を張ってくれ、鷹野伯爵」

「わかりました。鷹野家当主として、古城家の好意、ありがたくお受けします。これからも貴方たちの好意に恥じないようにすると誓います」

紅葉のようにちっこい手と、シワの目立つゴツゴツした手は強く握手をして、周りの武士たちはその様子を感激の声をあげて、祝福してくれるのであった。

そうして、深夜となった。

ほとんどの人が寝静まり、静寂が闇夜を覆う中で、東京入口の森林前。見張りも、ここまでは配置されておらず、どこからか虫が鳴く音だけが聞こえてくる真夜中。

小柄なる体躯の少女は、静かに佇んでいた。

その顔はいつもの可愛らしさではなく、危険な匂いをさせている。

「分身は置いてきたのか?」

影から声がかけられても、驚くことはなく、俺は小さく頷き返す。

「あぁ、今はすやすやとベッドでアネモイの力で作り出した分身は寝ているよ。おじいちゃんの方は大丈夫なのか?」

真夜中でみーちゃんはお休み、今はプレイヤーモードの美羽だぜ。

「うむ。猿が煩かったが、問題ない。『姿隠し』にて抜け出してきた」

空間から溶け出すように現れる老人。頭に被る鍔広の帽子を手で直しつつ、隻眼の瞳を細めて聞いてくるのはオーディーンであった。

「そうか……」

「ん? なにかあったのか?」

神妙な面持ちの美羽の様子に違和感を覚えたのだろう。不思議そうな顔で尋ねてくる。

「ここは現実。俺は最近ゲーム気分でやっていたところもあったなぁと」

鷹野美羽は、武士たちを助ける意味を理解していなかったと思うんだ。助けてめでたしめでたし。回復すれば良いと考えていた。

その人の背景なんか気にしていなかった。家族のために喜んでいたとは思っていなかった。ゲームと同じく、その場でありがとうございますと、言うだけの人々だと考えていたのかもしれない。

彼らを救ったことにより、その先の多くの人々を助けたなんて考えもしなかったのだ。

なので、自分の行いに少し感動した。

「これからは現実に沿って行動をしようというのか?」

オーディーンが白髪を触りながら確認してくる。

……たぶん小説の主人公とかなら、強く頷いて、これからはもっと頑張ると決意するんだろうなぁ。

「いや、これまでどおりに行動をしようと決意したよ」

きっとあの感動に浸っては駄目なのだと、どこかで声が囁いている。

助けることと、感謝を求める心は似ているようで、似ていない。だから、さっきの感動は心の片隅にしまっておいて、半分はゲーム気分の心で行動をしていくつもりだ。

「ふむ?」

意外なセリフだったのだろう。眉根をぴくりとオーディーンは持ち上げる。

「この小さな手は強い力を持っている。だからこそ、神様のように気まぐれに助けていかないと駄目なんだ。常に人々のことを考えて行動をすれば、人類のためにとか、最終的にエゴの塊になりそうだしね」

人類のためにとか、片端から人々を助けまわることはしない。友だちや、大切な家族、ストーリーの都合で死ぬモブなど、手の届く所にいる人たちを助けていくだけなのだ。

人類救済は柄じゃない。シンだって、そんなことはしなかった。

貧富の差は消えないし、全人類の心を救済することもしない。

これからもゲーム仕様の身体で、プレイヤーの心でクエストをクリアしていく所存です。

逆に言えば、プレイヤーとしての心があるから、常に第三者目線になって、エゴイストになることを防いでいるんだ。

実にモブな主人公に相応しい行動原理だよな。

モブなプレイヤーは、サブストーリーをクリアしていくのがお似合いなのさ。

「神様らしいエゴね。それこそが神と言って良いのかしら?」

コツコツと靴音を立てて、闇からフリッグお姉さんが姿を見せる。

「なら、ゲルズは放置して良いのではないかしら?」

妖艶なる笑みを見せて、フリッグお姉さんはからかってくる。

「いや、殺しておく。原作の悲惨なる鬱展開程度は、おててを伸ばして防いでおくよ。ストーリーを盛り上げるために殺されるモブなんか現実では必要ない」

「ふむ。その程度の気持ちがちょうど良いだろうな」

「了解よ。それじゃクエスト開始といこうかしら?」

すうっと猛禽のように瞳を細めて、凶暴なる笑みを見せる美羽に、オーディーンは可笑しそうにクックと笑い、フリッグお姉さんは肩をすくめる。

「中ボス部屋までは攻略済みだ、行くぞ、オーディーン、フリッグ」

美羽の命令にオーディーンが転移を使い、僅かに暗闇が輝くと、三人は姿を消すのであった。

「ところで、フリッグお姉さん。その体中につけているアクセサリーは?」

「そこの角に落ちてた装甲車にあったの。たぶんいらないから捨てられていたのよ」