軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

68話 高月まことは、王都ホルンを探索する

「タッキー殿、佐々木殿、ルーシー殿。実はお話がありまして」

宿の食堂で、朝食をとっている時に、ふじやんが真剣な顔をして口を開いた。

「実は……この度、クリス殿とニナ殿のお二人と、婚約することになりました」

「「「え?」」」

ちょっと、何を言ってるのかわからない。

いや、違和感はあった。

ふじやんの右側にニナさんが寄り添っており、もう片方にクリスさんがぴったりくっついている。

そして、今までのようにギスギスした空気でなく、和気あいあいとしていた。

昨日までと変わり過ぎじゃない? と思ったけど、仲が悪いよりは仲良いほうがいいと思って声には出さなかったんだ。

「え、えーと、藤原くんは二人と結婚するってこと……?」

さーさんが、引き気味の顔で質問する。

「ええ……、この国では重婚は、一応認められてますから」

ふじやんは、答えづらそうだ。

別に悪いことはしてないはずなのに。

「へぇ……」

さーさんは、それ以上何も言わなくなった。

「えーと、おめでとうございます……ふじやんさん、ニナさん……」

何事にもハッキリものを言うルーシーの歯切れが悪い。

「ハイ!」

比べるとニナさんは、満面の笑みだ。

まあ、幸せそうでよかった。

そして、俺はというと……

(あれ? 昨日の酒場では、ハーレムなんて無謀な夢だよね。でも、いつか叶ったらいいね、って言ってたのに、翌日叶えてるの? 裏切ったの?)

――混乱していた。まあ、別に裏切りでもなんでもないんだが。

俺の心の声が聞こえたのか、ふじやんの顔が引きつっている。

「三人とも、お幸せに」

俺は、無難な回答しかできなかった。

ふじやんたちは、婚約の件を仕事の関係者に話してくると言って、出かけていった。

俺とルーシーとさーさんは、昨日できなかったホルンの街の探索だ。

「いやー、驚いたわね! まさか、二人と結婚するなんて!」

ルーシーが、ぶんぶん腕を振って驚きを伝えている。

異世界育ちのルーシーにとっては、そこまで珍しい話ではないのかな?

「エルフ族は、通常、一人の旦那さんに、一人の奥さんだけど……」

そうでもないみたいだ。

エルフは、日本人的な結婚観なのだろう。

「なんだかなぁ……奥さんが二人って想像つかないや」

日本生まれ、日本育ちのさーさんは首をひねっている。

「まあね。でも、桜井くんも奥さん候補がいっぱい居るらしいよ」

ふじやんに聞いた話だが。

救世主アベルと同じ『光の勇者』スキルを持つ桜井くんの子孫を作るのは、国家プロジェクトらしく大量の婚約者がいるのだとか。

横山さんもその一人らしいよ、と言うと「うへー」とさーさんは、嫌そうな顔をした。

「まことも、奥さんがいっぱいほしいの?」

ルーシーが、ボソッと聞いてくる。

「い、いや。俺はそういうのは興味ないよ」

「本当かなぁー」

さーさんが、顔を覗き込んでくる。

『明鏡止水』スキル99%、発動。

「今は女神様のお願いを叶えるのに集中してるからさ」

このセリフは、決まった。

仕事に真面目な男アピールで、好感度を下げずに話題を変える。

「「……」」

さーさんとルーシーは、白けた顔をしてた。

あ、あれー?

(なんで、その場面で 別の女(わたし) のことを言うのよ……)

ええー、駄目でしたか。

(女心を勉強しておきなさい)

ゲームの攻略BOOKには、載ってなかったんだよなぁ……。

「ねー、あや。あの服屋、可愛くない?」

「本当だ! 見よう見よう」

女性陣は、行ってしまった。

……荷物持ちでもするか。

「やぁ、おねーさんたち! サーカスを観ていかないかい?」

しばらくルーシーとさーさんのショッピングに付き合ったあと。

ランチを終えて、ぶらぶらしている時のことだった。

大きなテントがある広場の近くのベンチで、休憩をしていると、派手な服装にメイクをしている客引きの男に、声をかけられた。

何というか、見た目は『ピエロ』だ。

異世界にもピエロはいたのか。

「うーん、どうしようかな、まこと」

「高月くん、観たい?」

くっ、先に聞かれてしまった。

俺が決めないといけないのか。

俺はこういう時、人に任せるスタイルなのに。

「やあ、おにーさん! 水の国は、初めてかい! 『まもの使いのサーカス団』は、大陸一のサーカス団だ。土産話にぴったりだよ。一人1500Gのところ、3人で4000Gで、どうだい?」

客引きのピエロは俺を田舎者だと思ったのか、観たことないだろう? って言い方をしてくる。

実際、田舎からだけどさ。

日本じゃ、都会に住んでたんだからな! と何の対抗をしているのかわからないことを考えながら、結局入ってしまった。

テントの中は薄暗く、中央に円形のステージがスポットライトに照らされていた。

周りを囲むように、たくさんのテーブル席があり、客は酒を飲みながら観賞している。

なんか、日本のサーカスとはちょっと違うな。

俺たちは、手近な席に座ってドリンクを注文した。

「ねぇ、あれグリフォンよね?」

ルーシーが指差した先には、以前戦ったのより、小さめのグリフォンが火の輪を潜っている。

そこそこ盛り上がっているようだ。

「何か、魔物がボロボロだね」

さーさんの言う通り、グリフォンは派手な衣装は着ているが羽根や毛並みはくたびれている。

「あれは……エルフ?」

次に、耳の尖った美人のおねーさんが、際どい衣装で登場した。

首輪のようなものを、付けている。

「髪が黒いから、ハーフエルフね……私と同じ」

ルーシーが、教えてくれた。

同族のことが、気にならないんだろうか?

いや、気にしてるみたいだ。

何も言わないが、ルーシーの表情は、少し険しい。

しばらく見ていたが、中位クラスの魔物を使ったショーと、エルフのような亜人か、獣人族の女性が露出の多い姿で踊るショーが交互に続いていた。

魔物は芸をしたり、魔物同士で戦わされたり。

要は、暴力と血とエロの世界か。

あまり、好きにはなれなかったが、周りは結構盛り上がっている。

都会の人は、刺激が欲しいんだろうか。

ふと、昨日の酒場で匂った、あの甘い葉巻の匂いが僅かにした。

たしか『ウィード』だっけ? 麻薬の葉っぱ。

……長居は、やめておこう。

俺たちは小一時間ほどで、サーカスのテントをあとにした。

「おや、もうお帰りですか?」

さっきの客引きが、まだ居た。

「ええ、十分楽しんだので」と、答えておいた。

「そうですか、それは良かった。明日は、もっと大きな祭りの予定ですからね! 是非、観に来てください!」

ピエロの人は、にこやかに営業トークを続ける。

時間があれば行きますね、とだけ答えた。

「私は、もういいかな。出てくる女性は、亜人か獣人ばっかりってのが」とルーシー。

「うん、魔物がちょっと可哀想だったよ」とさーさん。

女性陣には不評だったみたいだ。

気になるポイントは、異なるみたいだけど。

俺? 女性のショーだけなら、よかったかな。

夜は、修行の時間だ。

といっても、精霊がほとんど居ないここじゃ、精霊魔法は使えない。

「変化スキル……難しいな……」

宿で、さーさんに、合間の時間教わっているんだけど、全然うまくいかない。

さーさんのように、もともと固有スキルとして持っている場合と違って、ゼロから覚えるにはなかなか難易度が高いみたいだ。

変化し易いのは、自分に近いもの。

性別を変えての変化は相当難しい。

なので、最初はふじやんに化けてみたのだが。

「うーん、違和感ありますネ」

ニナさんには、一発で見抜かれた。

ルーシーや、さーさんには化けることすらできなかった。

「え? 私に化けるって、それって身体まで私になるの?」

ルーシーが自分の身体を抱きしめながら、聞いてきた。

何ですか、人を変態みたいに。

「知り合いの女の子に化けるってちょっとデリカシーが無いよ? 高月くん」

さーさんまで!

そーなのかな……。

今日は女性陣のノリが悪いので、一人で夜の街をぶらぶらすることにした。

ホルンの街は、夜でも治安が良い。

水の国の騎士が、巡回をしているのだ。

例の元・守護騎士にもすれ違った。

目は合わせてくれなかったが。

しばらく歩くと、サーカス団のテントが見えてきた。

明かりは消えて、誰もいない。

「そうだ、ピエロに変化するのはどうだろう」

変化スキルは、大体似た姿になれるが細かい類似は、知り合いに見抜かれる。

ピエロの人くらい、特徴が明確ならいい感じかも。

木の陰で、『変化スキル』を使ってみる。

そして、その結果を見てみようとしたのだが。

「あ、鏡忘れた……」

確認が、できない。

はぁ、しまった。

宿に戻るか、と思っていたら。

「おい、そんなところで何をしている」

知らない男に話しかけられた。

やべ、ピエロの人の知り合いだ!

うまく、化けれたっぽいけど。

「あ、ああ。ちょっとな」

適当に、誤魔化そう。

「明日は、最後の仕上げだ。万全だろうな?」

何の話だろう?

たしか、明日はでかい祭りだ、みたいなことを言ってたような。

「ああ、問題ない」

何のことかわかってないけど……。

「よし、抜かるなよ。王都の人間の驚く顔が楽しみだ」

ニヤリとして。

随分悪い顔で笑うんだなと思ったが、男は去っていった。

(スイマセン、ピエロの人……)

何か重要な伝言とかならともかく、ただの確認だったっぽい。

大丈夫……のはず。

「早く帰ろ」

俺は変化スキルを解き、宿に戻った。

うかつに知らない人に化けるのは、止めておこう。