軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

56話 高月まことは大賢者と話す

どうしよう……?

女神様の助言に従うなら、入らないほうがいいのか。

でも、ここまで来て?

「大賢者様? いらっしゃいますか?」

桜井くんの呼びかけに、返事は無い。

「留守かしら?」

よし! なら帰ろう。

「え? 大賢者様。彼らだけで入ってもらうんですか? ……はい、はい、わかりました」

「……桜井くん、突然どうしたの?」

急に独り言を言い出した、桜井くんにびびる。

「大賢者様から『念話』が来たんだ。君たちだけで来いってさ」

「えぇ……」

ますます不安が増す。

まごまごしていると、桜井くんに中へ押しやられた。

「失礼しまーす……」

テントの中は薄暗く、ぽつんぽつんと魔法のランタンが宙に浮いている。

中は物で溢れかえっていて、奥に続く通路ができていた。

通路の先に、白いローブの小さな魔法使いが、巨大なソファーに座っていた。

そっちに行けばいいのだろうか?

「もっと、近くへ来い。話し辛いであろう」

イメージと違って、幼い女性の声だった。

言われたとおり数メートルの距離まで近づくと、白いフードに隠れた真っ白の髪が見えた。

確かに白い大賢者だ。

「魔法使い見習いの高月まことです。こちらが仲間のルーシー・J・ウォーカーと佐々木あやです」

「はじめまして」

「こんにちは」

「ふむ」

大賢者様はつかつかとこちらへ歩いてくると、俺たちをじろりと見渡した。

紅い目は、射抜くように眼力が強い。

美しい幼女のような顔だが、ぞくりとする凄みがある。

何歳だろう? 見た目通りでは、なさそうだが。

「おまえ、エルフと魔族のハーフか」ルーシーを見ながら言われた。

ぎょっとする。

ルーシーを見ると、固まっていた。

「そっちは、ラミア族か。しかも、災害指定されるレベルだな。面白い」

大賢者が、ニヤリと笑う。

やべぇ!

この人、鑑定スキル持ちだ!

さーさんを見ると、状況がわかってないのか、きょとんとしている。

くっ、まずい。

魔族や魔物は狩られてしまう!

女神様の忠告を聞いておけば!

「そんなに身構えるな。光の勇者の坊やを手伝ってくれたんだろう? 今時、精霊使いは珍しいからな。ちょっと会ってみたかったんだ。しかし、仲間も個性豊かだな」

大賢者はニヤニヤしている。

……魔族や魔物であることは、気にしないってことなんだろうか?

「驚かせたな。こっちへ座れ。茶くらいだそう」

年季の入った大きな丸いテーブルに、これまた年季の入った椅子が取り囲んでいる

アンティークだろうか。

「おまえはここだ」

なぜか大賢者の隣の席を指定された。

き、緊張する。

誰か召使でもいるのかと思ったら、ふわふわと紅茶のポットが飛んできて、これまたふわふわとティーカップが、目の前に置かれる。

カップに紅茶が注がれると、ふわりと柑橘系の良い匂いがした。

魔法で生活をしているのか?

魔力が余っている人はいいな。

「茶菓子は……、まあ、これでいいか」

様々な洋菓子が盛り付けられている大きな皿が、どすんと急に目の前に現われる。

いま、このお菓子どうやって出した……?

「 空間転移(テレポート) ですか?」

「ほう、よくわかったな」

む、無詠唱の 空間転移(テレポート) 魔法。

このひと、規格外だ……。

逆らっては駄目だ。

というか、逃げることすらできなさそう……。

「それで、私たちに何か用なんですか?」

さーさんが、さっそくお菓子をパクパク食べてる。

ちょっとは、遠慮して!

「さっき、言っただろう。興味があっただけだ。あの忌竜を王級魔法で引っ張りだした精霊使いと聞いてな。私の見立てだと、光の勇者の坊やは、1ヶ月はかかると踏んでたんだが」

「あなたが手伝えば、すぐ終わったと聞いてますよ?」

横山さんが言ってた台詞を思い出す。

「それじゃあ、修行にならんだろう。これから大魔王が復活するのに、光の勇者が忌竜2匹くらいで、手こずって貰っては困る」

なるほど。

わざと手伝わなかったってことか。

「ところで……そっちの赤毛の魔法使い」

「は、はい!」

ルーシーは緊張しているのか、口数が少ない。

「お前、自分の魔力で身体が焼かれているのは、気付いてるのか?」

「え?」

ルーシーは驚いた顔をして、俺もびっくりした。

「体質だと思っているのか? その体温は、魔力が暴走している結果だぞ」

「ど、どうすれば……?」

「これをやる。着けろ」

大賢者が、そのへんに転がっていた腕輪をルーシーに渡した。

「魔力の流れを穏やかにするアイテムだ。一応、家が買える位の値段のアイテムだからな。大事に使え」

「い、いいんですか?」

小心者な俺は、びびって聞いてしまう。

なんか、優しすぎないか? このひと。

あとで凄い金額の請求書とか来ない?

「今は、強い人材を探しているからな。優秀な魔法使いを眠らせておくわけにはいかん。おい、そっちの食べてばかりのラミア」

今度はさーさんのほうを向いた。

「ふぁい」

さーさん! せめて飲み込んでから返事して。

「お前の持っている『変化』スキルは、優秀だ。そんな肌の色が青い中途半端な人間ではなく、完璧な人間にも化けられる。それどころか、何にでも変化できるスキルだ。ドラゴンや魔族でもな」

「あれ? 私は姉様たちに『人化の魔法』として教わったのだけど」

「それはラミア族が持っているスキルだな。お前のスキルは、それより上だ」

「へぇ、そうなんだ……。ありがとうございます」

凄いな。

この人、役立つアイテムやアドバイスくれる。

お助けキャラじゃないか。

「で、問題は君だな。精霊使いくん」

「……俺はただの人間ですよ」

「ほう」

楽しそうに大賢者の目が笑い、俺の頭に手が置かれる。

なんか、この人もさーさんみたいに、指が冷たいな。

「ステータスを見させてもらおう。手に触れていたほうが、鑑定しやすくてな。……随分、偏ったステータスだ。軒並み低いのに、水の熟練度だけが飛びぬけている」

なんか、くすぐったい。

「む……、これはいかんな」

急に頭を、がしっと掴まれた。

「おまえ、邪神の使徒か」

時間が凍った。

「「……」」

ルーシーと俺は無言。

さーさんがお菓子を開ける音だけが響く。

「いえ、チガイマスヨ」

とりあえず、笑顔でごまかそう。

邪神信仰は、問答無用で重罪。

ふじやんとニナさんとルーシーの共通見解だった。

「邪神ノアの使徒か……。会うのは二人目だな」

大賢者は難しい顔をしている。

頭を小さな手で、掴まれたままだ。

「いえ……ですから、何かの間違いではないかと……」

「やつは確か、千年前……。大魔王が従える9人の魔将の一人、『禁忌の黒騎士』だったか」

「え? あの伝説の勇者殺しですか?」

ルーシーが口を挟む。

なにそれ?

「ルーシー、禁忌の黒騎士って?」

「救世主様の物語に出てくる人類の天敵よ。大魔王の片腕と言われて、千年前の光の勇者以外の勇者を皆殺しにした伝説の戦士よ。最後は救世主アベルに滅ぼされた……それが、邪神ノアの使徒なんですか……?」

言ってて、ルーシーも不安になったらしい。

え、ノア様何してんの?

そんな話聞いてないデスヨ?

「だが……我の知っている邪神の使徒はもっと狂っていたな。少なくとも会話もまともにできなかった」

どんなんだったんだろう、使徒のセンパイ。

「まるで見てきたみたいに、おっしゃるんですね」

「あぁ……我には千年前の記憶があるからな」

例の『継承』スキルってやつか。

「おまえ、邪神の使徒を続けるのか?」

大賢者様が聞いてくる。

こ、これはなんと答えれば。

「いえ、ですから……私は邪神の信者ではありませので……」

苦しいが、同じ言い訳を続ける。

「ふむ……、まあそういうことにしておこう」

手を離された。

最後に、髪をくしゃくしゃされる。

「おまえら、 太陽の国(ハイランド) に来た時には私のところに来い。修行をつけてやる」

あれ? 終わり?

「あ、あの……。良いんですか?」

魔族に魔物に邪神の使徒。

トリプル役満で重罪な気がするパーティーなんですが。

見逃してくれるのだろうか?

「さっきも言ったが、大魔王復活に向けて少しでも強い人材は確保したいからな。もし、敵に回れば責任を持って我が始末してやろう」

ニヤリとされる。怖い。

「僕らは大魔王と戦う気はないですよ?」

「え? そうなの。高月くん」

さーさん、そんな意外そうな顔されても。

俺は勇者じゃないし、強くもないんだ。

「大魔王が復活すれば、地上の民と魔族の戦争になる。戦争に負ければ、我々は全員、魔族の家畜だ」

「……」

逃げられないってことか。

「精霊使いくん。次までに邪神の使徒をやめておくことをお勧めするぞ。あの邪神に従っても不幸になるだけだ」

そう言うと、大賢者様はソファーに横になってしまった。

結局、助言やアイテムをくれる良い人だった。

最後の会話さえなければ、最高だったんだけど……。

もやもやとした気持ちを抱えて席に戻ると、宴席がそろそろ終盤だった。

酔いが醒めた。

食欲も失せてしまった。

ふわふわした頭で、ぼんやりとしていると。

「高月様。お客様が来てマス」ニナさんに、肩をつつかれた。

現われたのは、水の巫女、 水の国(ローゼス) の王女、ソフィア・ローゼスだった。