作品タイトル不明
377話 高月マコトは、北極大陸の調査をする その2
「魔物が多いね……」
隣にいる桜井くんがポツリと呟いた。
「うん、ただこっちに反応しないね」
現在、俺たちは100万体を超える魔物の群れの上空を通過している。
俺も桜井くんも魔力や闘気を抑えてはいるが、気配を殺しているわけじゃない。
気づいている魔物もいそうだが……こっちに襲ってくる様子はなかった。
(やっぱり北極大陸だけあって氷属性の魔物が多いな……)
白銀の雪原の上に蠢く白い魔物たち。
魔物同士で争うこともなく、綺麗に整列をしている。
もしもこれを率いているやつがいるなら、それは間違いなく魔王クラスだろう。
「しかし、これだけ魔物の数が多いと 統率者(リーダー) がどこにいるかわからないな……」
「確かに……」
桜井くんの言う通りだった。
整然としてはいるがあまりにも数が多い。
そもそも統率者は、離れた場所や隠れている可能性もある。
どうやって見つけたものか……。
俺と桜井くんが魔物の群れの上で、次のアクションに迷っている時。
――グルルル……ガァアッ!
――ギィィィ……チチチチッ!
――キャキャキャキャキャッ!
――ヒュゥゥゥ……クェェェェッ!
――フシャアアアアッ!
数十体の魔物に取り囲まれた。
一体一体が、ドラゴン級の巨大な魔物たちだ。
「お、あっちからお出迎えだ」
「高月くん、下がって! 僕が前衛だから」
「りょーかい」
事前の打ち合わせ通り、俺は後衛として後ろに下がった。
桜井くんが腰の剣を引き抜く。
「太陽魔法・ 太陽の剣(サンシャインソード) !!」
初めてみる魔法剣だ。
いつもの白い光ではなくオレンジの燃え上がるような光を発する魔法剣。
見るとうっすらとあった雲がすべて無くなっている。
周囲の気温が僅かに上昇したのは、気のせいではないはずだ。
(凄いな……発動するだけで天候を有利にしているのか)
俺が水魔法でわざわざ雲を操作する必要すらなかった。
桜井くんは、一人でもしっかりレベルアップしている。
――キョエエエエ!?
――ピェーーーン!?
――ニャ―――ン!!
桜井くんの魔法剣に驚いたのは俺だけではなかったようだ。
太陽のように輝き、周囲の気候すら変えてしまう魔法剣に魔物はビビってしまったようで。
我先にと逃げ出してしまった。
「…………あれ?」
かっこよく魔法剣を構えた桜井くんがぽかんとした。
「魔物、逃げちゃったね」
「……うん」
俺が言うと桜井くんが寂しそうに頷いた。
「ま、まぁ、やっぱりこの群れを率いているやつはいるっぽいね。さっきの魔物は指示された様子だったし」
「でも、すぐ逃げちゃったからね。情報は得られなかったね」
「いや、次のやつがきたみたいだよ。さっきのが中ボスならあいつは大ボスかな」
俺が真正面を指差すと、桜井くんが改めて魔法剣を構えた。
バサ……バサ……バサ……バサ……
と大きな羽ばたき音と。
ビュオオオオオオオオオオ、
という風の音が響く。
こちらにやってきたのは巨大な 古竜(エンシェントドラゴン) だった。
(嵐を……吹雪を従えている……?)
存在するだけで天候を変えてくる古竜。
古竜の周りには雪が結界のように舞っている。
みるみる空が曇っていく。
(これは良くないな)
桜井くんが本領を発揮できなくなる。
「 水の大精霊(ディーア) ! 天候を晴れに戻してくれ」
俺はディーアを呼び出し、お願いをした。
「お安いごようですよ、我が王」
ディーアが微笑むと、パチンと指を鳴らす。
仕草がちょっとノア様に似てきた。
あっという間に雲が消え去り、快晴になった。
桜井くんの魔法剣は直視できないほど輝いている。
大魔王相手でも、一刀両断できそうだ。
もしかすると古竜も逃げ出すかと心配したが、流石の古竜。
こちらへゆっくりと近づいてくる。
「高月くん、下がって」
「任せるよ」
俺は大人しく桜井くんを見守ることにした。
さぁ、ついに桜井くんの新・魔法剣の威力が見られるとワクワクしていたところ。
「おや、もしかしてと思いましたが貴方は竜王高月マコト様でしたか」
古竜に友好的に話しかけられた。
「え?」
「あれ?」
俺と桜井くんは顔を見合わせる。
なんか知り合いっぽい?
「会ったことありましたっけ?」
「これは失礼。私、北極大陸の半分を支配している極北の古竜・フォカロルと申します。北の大陸を支配するアシュタロトとは義兄弟でして、兄より高月様の話は聞いておりました」
「これはご丁寧に……。えっと、こちらは友達の桜井くんです」
「は、はじめまして桜井リョウスケです」
「おお! 貴方のことも知っておりますぞ。大魔王イヴリース様を打ち負かしたとか。義兄がいつか戦ってみたいものだと申しておりました。どうぞよろしくお願いします」
とても丁寧な口調で挨拶された。
紳士だ。
なんか戦う必要はなさそうかも。
ひとまず質問してみるか。
「あのー、ここにいる魔物の大群は 古竜(フォカロル) さんが率いてるんですか?」
「いえ、わたしではありませんよ。ここにいるのは氷の女王の部下たちですね」
「氷の女王?」
聞き慣れない単語に首をひねる。
いや、うっすら聞いたことがあるような……。
昔読んだ五大陸冒険記(著:ユーサー・メリクリウス・ペンドラゴン)に名前があった気がする……。
「高月くん、氷の女王っていうのは神話時代から北極大陸を支配すると言われている幻の古い魔王だよ。存在するのかすら確認できたものはいないって言われていたけど……」
桜井くんが教えてくれた。
そうだ!
幻の魔王って言われている存在。
どうやら実在するらしい。
が、疑問はまだある。
「どうして氷の女王は、こんな大群をここに集めたんです? どこかの大陸に戦争をしかける気ですか?」
俺が尋ねると桜井くんの表情も真剣なものになる。
100万を超える魔物の群れを、何の理由もなしに集めたとは思えない。
俺と桜井くんが静かに答えを待つと。
「ああ、それは今日が氷の女王の御息女が『魔王』を引き継ぐめでたい日だからですよ。北極大陸の住人総出で祝いをしているのですよ。高月様、桜井殿、せっかくですので氷の女王に会っていきますか? 歓迎されると思いますよ」
「「……」」
あまりに予想外の答えに、俺と桜井くんは返事ができなかった。
◇
「あれが氷の女王の居城『 白水晶城(ホワイトクリスタルパレス) 』ですな。部下たちが祝いの品を渡しているでしょう」
俺と桜井くんは、古竜さんの背中に乗せてもらって空中を移動している。
「ほんとだ」
「いっぱいモノがある」
太陽の光で美しく輝く白水晶城。
その正門に、なにやら大きな魚や果物や穀物、宝石や武器が山積みになっている。
あれらは新・氷の女王への祝いの品らしい。
魔物たちは行儀よく、順番待ちをしている。
まじで100万の魔物の群れは、新・氷の女王の即位を祝っているだけらしい。
とても平和な行事だった。
全然、 魔物の大暴走(スタンピード) じゃなかった。
「これって永遠に終わらないんじゃ……」
桜井くんが心配そうに言った。
確かにこの数が全員順番を待っていると、1年くらいかかりそうだ。
「はっはっは! 挨拶をしているのはそれぞれの族長でしょう。それでも1000を超える部族がありますので、時間がかかっておりますな」
古竜さんが笑って説明してくれた。
「えっと、俺たちはその順番を飛ばしていいんですか?」
気になって聞くと。
「これは妙なことを。高月マコト様は我が義兄アシュタロトに勝った御方。桜井殿は大魔王イヴリース様を倒した御方。貴方たちより優先される者はこの世界におりますまい」
そう言って一気に白水晶城の正門の中に降り立った。
俺と桜井くんは、古竜さんの背中から降りる。
それと同時に極北の古竜・フォカロルさんは人型に変化した。
髪の真っ白な長身のおじいさんだった。
アシュタロトの義弟というから、同じくらいかと思ったが見た目だけならフォカロルさんが年上に見える。
城の中庭には、多くの魔物がひしめいていたがどれも太陽の国でいう騎士団長クラスの強さを感じた。
これが古の魔王『氷の女王』の率いる魔王軍の族長たちか。
……下手したら、大魔王と張り合えるくらいの戦力がないか?
俺が密かに驚いていると。
――誰です? 名乗りなさい
聞いただけで従ってしまいそうな錯覚をする魅惑的な声だった。
声の主の方を見る。
二人の白髪、白いドレスの美女が立っている。
一人は二十代後半くらいの外見の美女。
もう一人は、十代中盤、つまり同い年くらいの美少女だった。
おそらく年上のほうが今の氷の女王。
若く見えるのが新しい氷の女王だろう。
「すまぬな、氷の女王。客人を連れてきた」
「フォカロル殿……今日は大事な日であるとお伝えしたはずですが」
年上の氷の女王が、苦言を述べた。
若いほうの氷の女王はこちらを……どうやら桜井くんをじっと見ている。
桜井くんも、若い方の氷の女王が気になるようでそちらを凝視している。
(こういう場合は年配のほうに挨拶すべきだよな)
ソフィアに習った拙い社交知識を働かせる。
「は、はじめまして氷の女王様。お、私は……高月マコトと言います」
俺が名乗ると、今代の氷の女王の表情が急変した。
「なっ! あのアシュタロトを打ち破った竜王様が……っ! くっ、やはり挨拶に伺わねばならなかったのか……。申し訳ありません、竜王様! ご挨拶が遅れたことを……」
という言葉を遮って。
「あなた、リョウスケくん!?」
「もしかして、井上ルカさん?」
若い氷の女王と桜井くんが声を上げた。
そして若い氷の女王が、桜井くんに駆け寄って、 抱(・) き(・) つ(・) い(・) た(・) 。
年配の氷の女王、そして古竜さんも突然の展開にぽかんとしている。
もちろん、俺もだ。
(井上……ルカ?)
桜井くんが呼んだ名前を頭の中で復唱する。
うっすらと記憶にあるような、ないような……。
「ねぇ、貴方、高月マコトくんでしょ! 貴方も久しぶりね!」
若い氷の女王さんに声をかけられた。
桜井くんに抱きついたまま。
これで流石に思い出した。
井上ルカさんの名前。
かつて同じクラスで授業を受けたクラスメイトだ。
どうやら、新・氷の女王は異世界転生仲間らしい。