作品タイトル不明
368話 結婚式 その5
「……お前たちはいったい、何をしている?」
地の底から聞こえてくるような声。
怒りでその表情が歪もうと、なお美しい御顔は全宇宙の支配者、 太陽の女神(アルテナ) 様のご尊顔だ。
巨大な雲が渦を巻き、無数の雷が絶えず降り注いでいる。
アルテナ様の怒りがそのまま空模様に現れているかのようだった。
結婚式の参列者は皆、恐怖で押し黙っている。
アルテナ様の前では、すべての生物は塵芥に等しく、俺やソフィア王女、天使であるライラさんでさえも何も言えずに固唾をのんで見守っていた。
「あっはっはっはっ!」
「あははははっ!」
……変わらず騒いでいる 二柱の女神様(ノア様とナイア様) 以外は。
そちらへアルテナ様がつかつかと歩いていく。
「あら? アルテナじゃない。珍しいわね」
「おいおい、酔っ払ったのかい、ノアくん。こんな場所にアルテナくんが降臨するわけないだろう」
「んー、それもそうね。いつも小忙しいアルテナがこんなところにいるわけないわ」
「そうそう、アルテナくんは暇なしだからねー、ボクらと違って」
ノア様とナイア様は酔っ払って状況に気づいていない。
声をかけようかと迷っていると。
「バカ者共がーー!!!」
「きゃっ!」
「わっ!」
アルテナ様が一喝すると同時に、ノア様とナイア様の頭上に白い稲妻が直撃した。
ドン! という音と光が弾ける。
「 神罰(ゴッズラース) ……」
天使(ライラ) さんの震える声が聞こえた。
「ライラさん……、今なんて言いました?」
「天界にある最上神器『雷霆』と同等の威力を持つと言われれるアルテナ様の魔法の稲妻です。あれを落とされた者は塵も残らず消滅をします。絶対に近づいてはいけません」
どうやらさっきの白い稲妻は、とてつもない魔法であったらしい。
ただ……。
「ちょっとー、痛いんだけどー」
「うーん、ピリピリするね」
ノア様とナイア様は、特に変わった様子はない。
傷一つついていない。
「酔いは冷めたか? ノア、ナイア?」
ずいっと、アルテナ様が冷めた表情で二人を見下ろす。
「あれ? なんでアルテナが地上にいるの?」
「うーん、おかしいね。アルテナくんが直々に地上に降臨するはずないんだけど」
「それはお前たちを連れ戻しにきたに決まっているだろうが!!」
ゴン! ゴン! という痛そうな音を立ててアルテナ様の拳がノア様とナイア様の頭に刺さった。
「ちょっとー! 暴力反対ー!」
「横暴だよ、アルテナくん!」
「うるさい! 少しは反省しろ!」
アルテナ様がノア様とナイア様の首根っこをつかみ、ネコのように持ち上げている。
そして、太陽の女神様が俺の方に振り向いた。
さきほどまでとは全く違う、慈愛に満ちた笑顔をこちらに向けた。
「高月マコト、ソフィア王女。結婚おめでとう。君たちの末永い幸せと水の国の繁栄を願っているよ」
「ありがとうございます、アルテナ様」
「もったいないお言葉です! アルテナ様」
俺とソフィア王女は慌ててお礼を言う。
「本当はもっとゆっくり話をしたいのだが……」
「ええー、もう帰っちゃうのー?」
「もっとゆっくりして行き給えよ、アルテナくん」
アルテナ様に首根っこを掴まれたままのノア様とナイア様の言葉に、アルテナ様の美しい表情が歪む。
「お・ま・え・た・ちのせいで今の仕事を全部放りだしてここにきたんだ! 世界の危機に直面している所は他にも多々あるというのに、突如『 惑(・) 星(・) 崩(・) 壊(・) の(・) 危(・) 機(・) 』の 警告(ワーニング) が来た時は何事かと思ったぞ」
アルテナ様の言葉に、俺は近くにいた 天使(ライラ) さんに耳打ちした。
「惑星崩壊の危機ってどういうことですか?」
「ノア様とナイア様ほどの神格になると、軽い 奇跡(まほう) を使うだけで星が壊れますからね。しかも今回は最上位の神格2柱同時の地上降臨です。おそらく私の仲間である天使族の誰からが天界へ報告したのでしょう。私でも同じことをします」
えらい大事になってる。
ノア様とナイア様を結婚式に招待するのは、非常識だったか。
「では、私はこいつらを連れて帰る。残りの者は楽しんでくれ。邪魔をした」
そう言ってアルテナ様の周囲に光の魔法陣が浮かぶ。
もう去ってしまうらしい。
「ノア様、ナイア様、アルテナ様、今日はありがとうございました!」
俺は三柱の女神様を見送るため駆け寄った。
「じゃあね、マコト。しばらくは新婚生活を楽しみなさい」
「そんなこといって来なかったら寂しがるくせに……痛っ!」
ノア様がナイア様をぽかりと殴った。
「おい、暴れるな」
二柱を掴んでいるアルテナ様が困った表情で、俺の方に向かって口を開いた。
「では、さらばだ。水の国の民に幸多くあらんことを」
シュイン、と音を立てて三柱の女神様は消えてしまった。
(最後は慌ただしかったな……)
何にせよ、騒がしい女神様たちがいなくなって結婚式の場は落ち着きを取り戻した。
こうして、俺とソフィア王女の結婚式はつつがなく終えることができた。
このあと、ライラさんが呼んだ天使の皆さんが女神様たちの残滓が地上の生態系を壊さないようにしてくださったのは、別の話。