軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

360話 月の国

「え? 私に会いに来たんじゃないの?」

「あー、うん……そうかな」

俺とモモは 月の国の女王(フリアエ) さんの部屋へと案内された。

事情を説明したところの第一声が、これである。

「そうですよー、月の国の女王。マコト様の空間転移が適当なので、来ちゃっただけです」

「それと……貴女は太陽の国の大賢者様なのよね? ずいぶんと雰囲気が変わったけど」

「大賢者は引退したので、ただの一般人ですよ」

「そ、そう……」

黒髪で地味な服装になったモモに戸惑っているようだ。

俺は出された紅茶をゆっくりと味わう。

このお茶美味しいな。

「私の騎士。何をくつろいでるのよ」

コン、と頭をつつかれる。

確かに多忙な女王陛下にアポなしでおしかけて、用件なしは失礼か。

「じゃあ、そろそろ俺たちは失礼するよ」

くいっと紅茶を飲み干し、ソファーから立ち上がる。

「えっ!? も、もう行っちゃうの!?」

「お邪魔して悪かったよ。次からは事前に連絡してから来るようにするから。それじゃあ、モモ。手を握って。北の大陸に向かって空間転移を……」

「次は失敗しないでくださいよ、マコト様」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! そんなにすぐ帰らなくてもいいじゃない!」

がしっとフリアエさんに腕を掴まれる。

「お邪魔じゃない?」

「全然邪魔じゃないわ! ずっといなさい! それで結局私の騎士が色んなところに行ってる理由って……」

「今回の旅の目的は『 招待状(これ) 』を渡すための旅かな」

俺は結婚式の招待状を上着の内ポケットから取り出して、フリアエさんに見せた。

「あぁ、それね……」

フリアエさんが白けた表情になる。

「姫にはもう送ってるって聞いてるけど」

「ええ、来てるわ」

フリアエさんは招待済み一覧の中に名前があった。

だから特に月の国に来る理由はないはずなんだけど。

時の精霊任せの転移は、どうにも不安定だ。

それはそうと、姫が少し元気がない。

「姫? 大丈夫?」

「な、なによ! 顔が近いわね!」

俺が顔を覗き込むと、怒られた。

せっかくきてとんぼ返りというのもあれなので、俺とモモは月の国に一泊することとなった。

「ふわぁ……」

俺は月の国の王城の客間にある大きなベッドで大きく伸びをした。

モモは隣のベッドで寝ている。

なんだかんだ、黒い月からの侵略者との戦いの疲労が大きかったようで、ベッドに入った瞬間すぐに寝息が聞こえてきた。

さて、今日こそは北の大陸を目指そう。

……コンコン、とドアがノックされる。

「どうぞ」

という前に、ドアが開いた。

「よかったわ、私の騎士がまだいた」

そう言って入ってきたのは、月の国の女王フリアエさんだった。

昨日の女王のドレスとは違い、以前のようなワンピースを着ている。

「おはよう、姫」

「おはよう、私の騎士。これから北の大陸に行くんでしょ?」

「そのつもり」

「じゃあ、私も一緒に行くわ」

「え?」

その言葉の意味がわからず聞き返す。

「なによ? 私が一緒じゃダメだっていうの?」

「いや……、いいの? 姫って女王様だよね?」

我ながら意味のわからないことを口にしてしまったが、フリアエさんが月の国で一番偉いのは確かだ。

「申し訳ありません、マコト様。ご迷惑でなければ、フリアエ様を同行させていただきたく」

いつのまにか部屋に入って聞いたのは、月の国の重鎮にしてフリアエさんの側近のハヴェルくんだった。

「いいんですか? 連れて行って」

「いいのよ! どうせ女王の仕事なんて、あってないようなものなんだから!」

フリアエさんが、ふん! と胸をはる。

(勿論そんなわけないのですが、フリアエ様はここ最近多忙でしたので気分転換をしていただきたく……)

(なるほど、わかりました)

ハヴェルくんに耳打ちされ、俺は小さく頷いた。

そういうことなら、小旅行気分で一緒に来てもらおう。

「ふわぁ……、騒がしいですね」

モモが目を覚ました。

眠たそうな目のモモに事情を説明すると「仕方ないですねー」と若干、呆れ気味な回答だったが反対はされなかった。

同じように太陽の国で長く要職についていたモモは、気持ちがわかるようだ。

「じゃあ、行ってくるわ!」

「少しの間、姫をお預かりしますね」

簡単な旅支度をしたフリアエさんと、俺とモモは女王陛下との謁見の間で月の国の王城仕えの人々に見送られつつ出発した。

「マコト様。いいかげん、北の大陸に空間転移してくださいね」

「わかってる、わかってる」

モモの言葉を受け、俺は魔法を発動する。

光が俺達を包んだ。

光が晴れると、そこは騒がしい街中だった。

「迷宮産のいい商品が入ったよー」

「今日は魔法武器が全品1割り引きだ!」

「おい、知ってるか! 45階層に宝石トカゲの巣があったらしいぞ!」

「なに! すぐ向かおう!」

「70階層の階層主、はやく誰か倒してくれないかねー」

「お前が倒しにいけばいいだろ」

「 女王蜂(クイーン・ビー) はなぁ~、群れの数が多すぎて大規模破壊魔法でも使わなきゃやってられんよ」

そんな会話が聞こえてくる。

「ねぇ、私の騎士。ここって北の大陸なの?」

「いや……多分、違う気がする」

また空間転移は失敗したようです。

ただ、西の大陸の街はだいたい巡ったことがあるのだが、ここはどことも違っている気がする。

「なぁ、モモ。ここってどこかわかるか?」

俺が尋ねると。

「マコト様、 月の巫女(フーリ) 。後ろを見てください」

とモモが『ある場所』を指さした。

ちなみに、女王陛下の名前を人前で呼ぶわけにはいかないのでかつての偽名『フーリ』を使うことになっている。

俺とフリアエさんは、モモの言う通り後ろを振り向き。

「おお……」

「凄い……」

天を貫く巨大な塔を目撃した。

横幅は広すぎて視界にぎりぎり入るくらい。

巨大さでいえば、海底神殿のほうがさらに広大だったが、こちらは『高さ』が比較にならない。

なんせ塔の上部は雲を貫きどこまで伸びているのかわからない。

宇宙まで到達しているのではなかろうか。

少なくとも人間に作れる建築物には見えなかった。

「モモこれは……」

「 天頂の塔(バベル) 。 最終迷宮(ラストダンジョン) の一つですよ」

「えっ!? じゃあ、ここって南の大陸じゃない」

フリアエさんの言う通りだった。

南の大陸のほぼ中央に位置する巨大な塔が最終迷宮の一つ 天頂の塔(バベル) だ。

また、空間転移に失敗しちゃったかー。

「…………」

モモが半眼で俺を見ている。

もう失敗も飽きたのだろう。

仕方ない、次の空間転移はモモにお願いするか、と思っていると。

「おや、とんでもない魔法使いが街に侵入してきたと思ったら大賢者くんではないか」

突如、すぐ隣から見知らぬ人に声をかけられた。

さっきまでは誰もいなかったはず。

高い身長に、がっしりとした体格。

深緋のマントに金の刺繍の入った高価そうな服装から身分の高さを窺わせる。

なにより身にまとう魔力が、モモやロザリーさんに匹敵するほどな時点で只者ではなかった。

「久しぶり、というほどでもないですね。ユーサー王」

「「!?」」

モモの言葉に、俺だけでなく隣のフリアエさんもぎょっとした表情になった。

天頂の塔を囲うように発展している迷宮都市国家。

そこを治めるのがユーサー・メリクリウス・ペンドラゴン王。

かつて世界有数の冒険家として名を馳せ、俺が愛読していた『五大陸冒険記』の著者でもある。

――ということは最近知った。

百年以上前の書籍の作者が存命と思わなかったし、しかも見た目も若い。

本当に当人なのだろうか?

子孫とかではなく。

「大賢者くん……いや、その立場は引退したんだったね。そして、一緒にいるのは……月の国の……ふむ、なるほど。そして彼は…………ほう!! 君が噂の海底神殿を突破したという!」

「ちょ、ちょっと!」

大声でとんでもないことを言われた。

幸い、街の喧騒でその言葉は誰にも聞かれなかったようだ。

「実に興味深い。このあと時間があれば、じっくり話を聞きたいのだが」

この王様フレンドリーだな。

西の大陸のどの王族よりも。

「申し訳ないですが、ユーサー王。実は、私たちは北の大陸に行こうとして間違って、迷宮都市にきてしまったんですよ。用事があるので、それは次の機会に」

モモが事情を説明してくれた。

とはいえ、浮遊大陸では信じてもらえなかった話だ。

おそらく疑われると思っていたら。

「大陸を間違うほどの空間転移? 今の魔法術式ではありえん話……とすると古い魔法術。時の精霊を

使役しての空間転移か……」

あっさりと信じてもらえた。

というか時の精霊って、一般的には存在が知られていないんだけど……。

「時の精霊を知っているんですか?」

「勿論だとも、女神の使徒殿。そういえば貴方は『精霊使い』でしたな。しかし、さすがの使徒殿も時の精霊は使いこなせていないようですな」

「むっ! そんなことないわよ! ねぇ、私の騎士!」

フリアエさんが反論してくれるが。

「お恥ずかしい話、その通りでして」

まったくもって反論できなかった。

「時の精霊……というより精霊全般は、言葉を通じての意思疎通が難しいのでお願いをする時は『現物』を見せたほうがいいでしょうな。例えば北の大陸に行きたいのであれば、北の大陸にある石ころでもなんでも見せてそこへ行きたいとお願いをすれば成功確率が上がるはず」

「なるほど」

俺はユーサー王の言葉に納得した。

今まで付き合いが長く(千年以上)、以心伝心ができている『 水の大精霊(ディーア) 』を基準に考えていたが、熟練度の低い属性の精霊には言葉だけでは足りないのだろう。

俺はポケットから、『あるモノ』を取り出した。

「これを使って北の大陸を目指してみます。ありがとうございます、ユーサー王」

「……使徒殿。私の鑑定スキルが故障していなければ、その手に持っているのはこの世界の最強の魔王、『古竜の王の牙』とでていますが……」

「そうですよ、ユーサー王。マコト様はそれをポケットに入れてるんです。イカれているでしょう?」

「うーむ、最終迷宮を突破する御仁は、脳の回路が常人とは違う様子。やはりもっと話がしてみたい」

「ねぇ、私の騎士。なんか悪口言われてない?」

「き、気のせいだよきっと」

フリアエさんのツッコミをスルーする。

そんなにおかしいかなぁ。

ここでふと思い出す。

「ユーサー王、もしよろしければこちらいかがです?」

俺は結婚式の招待状を取り出し、ユーサー王に渡した。

「「「…………」」」

ユーサー王、モモ、フリアエさんが黙って俺のほうを凝視する。

あ、あれ?

なんか間違えた?

「ユーサー王、断っていいですよ。マコト様、いい加減世間の常識を覚えましょうか」

「私の騎士。一国の王に会った初日に結婚式に呼ぶバカがどこにいるのよ」

「いや、だってもっと話したいって……」

俺がしどろもどろ弁明すると。

「うーむ、是非参加させていただきたいところではあるが……」

「「えっ!?」」

ユーサー王の言葉に、モモとフリアエさんが驚きの声をあげる。

ほら、大丈夫じゃないか。

「実は、いま迷宮都市が色々と変革の時期で、私がここを離れるわけにはいかぬのだ。申し訳ないが、今回の招待は見送らせて頂く」

そう言ってとても残念そうに招待状を返された。

「そうですよね。今度、改めて迷宮都市にはお邪魔させてもらいます」

俺がそう言うと、ユーサー王は手のひらを上に向けて「ぽん!」と何かを出現させた。

それは一枚の手紙だった。

「この紹介状があれば、いつでも私に面会できるので使って欲しい。では、私は仕事に戻ろう。良き出会いに感謝を、諸君」

そう言って音もなく空間転移で去っていった。

最小の魔法陣に、詠唱から発動までの時間がゼロ。

今まで会った中で、もっとも無駄のない空間魔法だった。

「王様と思えないくらいの気安さだったわね」

フリアエさんがあっけにとられている。

俺も似たようなものだった。

「王としての立場は仮で、魔法研究者とか冒険家が本職と公言してますからね。それより、マコト様。そろそろいい加減に北の大陸に行きますよ」

「わ、わかってるよ」

俺はモモの言葉に、こくこく頷く。

右手には、かつて古竜の王にもらった牙――竜王の証。

これで北の大陸にいけるはず。

(精霊さん……お願い)

空間転移を発動する。

モモとフリアエさんは俺の腕につかまっている。

本日二度目。

俺達は光に包まれた。

空気中の魔力濃度が高い。

だけでなく、うっすらと瘴気が混じっている。

ゴツゴツとした岩肌が広がっている。

この景色は、なんとなく見覚えがある。

以前、ルーシーの空間転移で来た場所だ。

「ねぇ、私の騎士。ここが……?」

「久しぶりですね、マコト様」

「姫、北の大陸についたよ」

俺達は北の大陸――魔王が統治する『魔大陸』へとやってきた。