作品タイトル不明
359話 招待状 その3
空が真っ赤に燃えている。
黒い月からの侵略者とやらが 白の大賢者(モモ) と 紅蓮の魔女(ロザリー) さんにボコボコにされた残り火である。
「ひえぇぇええ!」
燃え続ける炎の中から、黒い小さな影が飛び出してきた。
「「 空間転移(テレポート) 」」
モモとロザリーさんが、その黒い影をあっさり捕まえる。
「た、タスケテ! もうこの星には来ませんから!!」
身体がすっかり小さくなった異界の神官だった。
元の大きさの10分の1ほど。
子猿くらいのサイズになってしまった。
「念のため滅ぼしておきますか」
「ヒエエエ!」
命乞いをスルーして止めをさそうとするモモ。
冷酷(クール) だ。
「ちょっと待った! あんたさー、人様の縄張りに攻め込んどいて只で許してもらおうっての?」
ロザリーさんが制した。
何か考えがあるんだろうか?
「た、ただ……?」
首根っこを掴まれた黒い神官がぷるぷる震えている。
ほんと、ただの子猿だな。
「ほらー? 誠意をみせなさい、誠意を」
ロザリーさんはヤクザだな。
「こ、これくらいしか……」
黒い神官が差し出したのは、小さな黒い鍵だった。
禍々しい瘴気を放っていることからおそらく呪いの魔導具だ。
「なにこれ?」
「黒い月へ渡るための門を開く魔法鍵です! これがあればいつでも我らが黒い月へ行くことが……」
「別に月なんていつでも行けるんですけど?」
「いやいやいや! ただの地上の民にとって黒い月に行くことは不可能……」
「でも、『赤い月』ならしょっちゅう行ってるわよ? つーか、あっちにも家があるし」
「………………え?」
黒い神官があんぐりと口を開く。
その会話を聞いて、俺とモモは顔を見合わせた。
「なぁ、モモ」
「なんですか? マコト様」
「赤い月ってそんな気軽に行けるの?」
「いえ……一定の周期で現れることはあっても、こっちからは気軽に行けないはずですけど……。一応、あっちも異世界ですからね」
「だよな……」
ロザリーさん自由人だなー。
というかこの人だけ、別次元で生きてない?
「まさか……赤い月に現れる長耳の魔法使い……。貴女様、もしや『炎帝』様の奥方ですか?」
「離婚したから『元』よ」
「ひぇええええ! 知らぬとはいえお許しを!!」
黒い神官が悲鳴を上げた。
なんか可哀想になってきた。
「ロザリーさん、そのへんでいいんじゃないですか?」
「えー、彼氏くん~、こいつ滅ぼせばそこそこ大きい魔石が手に入るかもしれないし」
「お、お助けを!! 私を殺しても魔石は手に入りません!! 私は『外なる神の王』の夢から生まれた矮小な存在。滅びれば何も残らず、虚無へと帰ります! 何卒! なにとぞ、ご容赦を!」
「もういいでしょ、紅蓮の。ほら、千年くらい反省してきなさい」
モモが小さくなった黒い神官の首根っこを掴まえて、黒い月のほうへ放り投げた。
そういえば、俺が魔法で浮かせている『魔物の巣』はどうしよう? と迷っていると。
ゆっくりと、魔物の巣が黒い月のほうへ落下していった。
「もう二度ときませんからー!!」
遠くからそんな声が聞こえた。
覚えてろー! とかじゃないんだ。
(まぁ、何にせよ無事に撃退できてよかった)
もっと苦戦するかと思ったけど、 紅蓮の魔女(ロザリー) さんと 白の大賢者(モモ) の二人なら魔王クラスでも問題なさそうだ。
「はぁ……」
ため息が聞こえた。
みるとロザリーさんが、さっき受け取った黒い鍵を見つめてながら浮かない顔をしている。
「どうかしましたか?」
「んー、ちょっとねー。」
俺が尋ねると、何か言うのを迷っているようだった。
「実はねー、今大きな魔石を探してて……さっきのやつを倒したら手に入るかと思ってたんだけどあてが外れたのよねー」
「何か事情があるんですか?」
「私の友達の子供が大きな病気でさー。その子の身体を治すのに『賢者の石』クラスの魔石が必要なのよね~、うーん。仕方ないから魔界にでも探しに行くか……」
「そんな事情が……」
思ったよりも深刻な話だった。
「紅蓮の……正気ですか? いくら貴女でも魔界は無茶でしょう」
モモが本気で心配している。
「でも、あんまり時間が無いし。ま、魔界の上層ならなんとかなるでしょ! じゃあ、私はこの辺で……」
「ちょっと待ってください!」
俺は慌ててロザリーさんを呼び止めた。
そして、手持ちの冒険者用の小さな鞄を漁る。
確か持ち歩いていたはず……。
「どうしたの、彼氏くん」
「これじゃダメですか?」
「「え?」」
俺はロザリーさんへ、一つの魔石を差し出した。
ロザリーさんとモモが大きく目を見開く。
「ま、マコト様! これって」
「賢者の石じゃん!」
「これでよければ差し上げますよ」
「マコト様!? この大きさの賢者の石なら売れば一生遊んで暮らせる金額になりますよ」
「どこで手に入れたの!? って、もしかしてそれ……」
「前に 木の国(スプリングローグ) の魔王の墓で手に入れたやつです」
ロザリーさんとはその時、魔王や魔王の幹部と戦った時に共闘をしたので覚えがあったのだろう。
「これなら病気の子が救えますか?」
「そ、そりゃ、その大きさなら大丈夫だけど……。本当に貰っていいの?」
「勿論」
使い道もなかったことだし。
今までお世話になったロザリーさんの知り合いのお子さんの病気が治せるなら喜んで使ってもらおう。
「不死の王を倒した時の魔石ですか……」
モモが少しだけ複雑な顔をしている。
大賢者様にとって、不死の王は吸血鬼としての親にあたる。
今となっては人間に戻ったので、関係はなくなっているが何やら思う所があるのかもしれない。
紅蓮の魔女さんは、しばらく俺の顔と賢者の石を見比べて、「ん~」と腕組みをしてしばらく悩んでいる様子だったが。
「えっと、じゃあ……ありがたく頂くわ」
最終的には受け取ってくれた。
そして、がしっと腕を掴まれる。
「ありがとう! 彼氏くん! やっぱり、貴方いい男ね! ルーシーは見る目があるわね!」
そのまま抱き寄せられて、抱きしめられた。
「喜んでいただけたようでなによりです」
相変わらずスキンシップが多い人だなぁ。
「ねーねー、ところで彼氏くんは年上は興味ないの? 愛人になってあげよっか?」
「ろ、ロザリーさん?!」
「おい、紅蓮の!! 何を言ってるんですか!?」
抱きしめられたまま、 恋人(ルーシー) の母親に口説かれた。
「ほら、私ってこー見えて経験豊富だから、色々教えてあげられるし? 母娘に手を出すのって男の夢じゃない?」
「あ、ありがたいお言葉ですけど……」
夢ではないです。
「そっかー、残念。気が変わったらいつでも声かけてね☆」
やっと抱擁から解放された。
「マコト様の気は変わりません! ……がるるるる」
モモが俺の腕をひっぱり、ロザリーさんを威嚇している。
「じゃ、私はもう行くから」
ロザリーさんが、天翼族の族長さんに手をふる。
「ロザリーさん! もうですか!? 月の魔物を追い払ってくださったお礼もまだなのに……」
「手に入った賢者の石を早く病気の子に使ってあげたいから」
「そうですか……」
事情が事情だけに、族長さんも無理には引き止めないようだ。
慌ただしい人だ。
その時だった。
「あっ! 彼氏くん! 賢者の石には及ばないけど、これあげるね!」
ロザリーさんがぽいっと何かをこっちに放り投げた。
「おっと」
落とさないようにそれをキャッチする。
それは先ほどの神官が渡した『黒い鍵』だった。
ふと、ここで俺も大事なことを思い出した。
「ロザリーさん! これを!」
上着の内ポケットに入れてあった、『結婚式の招待状』を手渡した。
「ん? なあにこれ?」
「えーとですね。結婚式の招待状です」
「へぇ! 貴方とルーシーの!? あれ? でも名前のところが……」
「相手は 水の国の王女様(ソフィア・ローゼス) です……」
もしかして、もしかしなくてもロザリーさんを招待するのは間違ってたか?
でもここまで来て何も言わないのものな……。
「ふーむ、そっかー。まあ、行けたらいくねー」
「はい、都合がつけばで大丈夫です」
これから病気の子供のところに行かないとだし、きっとしばらく忙しいだろう。
「じゃあ、またねー☆」
ロザリーさんは笑顔で空間転移をして消えていった。
「じゃあ、俺たちも行くか」
「そうですね」
「ええ! せめて大賢者様と水の国の英雄様はもう少しゆっくりしていかれては……?」
族長さんに引き止められた。
「他にもいかないといけない所が多いので」
とりあえず北の大陸にはさっさと行っておきたい。
白竜さんの予定が埋まってしまう前に。
「そうですか……残念です」
本当に残念そうだった。
「あ、じゃあ、族長さんもいらっしゃいます?」
俺は結婚式の招待状を手渡した。
「え?」
族長さんが目を丸くする。
「あの……マコト様? 普通、結婚式にその日会った人を呼ぶことはしませんよ?」
「これを受け取ってもよいのでしょうか……?」
モモと族長さんからつっこまれる。
(マコトってさぁ……)
(マコくん……地球でもそんな人いないでしょ?)
女神様たちからも呆れた声が聞こえた。
んー、その日会った人を呼ぶのはあれだったか?
「私が行ってもよろしいんでしょうか?」
「いえ、無理にというわけでは……」
俺がやんわり発言を撤回しようとすると。
「いえ! せっかくのご招待ですので、是非参加させていただきます!」
おや、別に来たくないわけではなさそう?
「じゃあ、お待ちしてますね」
「はい! それともしよろしければ浮遊大陸の他の一族にも声をかけてよろしいでしょうか? 世界樹を守ってくださった水の国の英雄様の結婚式となれば参加したい他の族長も多いと思いますので」
「いいですよー」
俺は答えた。
よしよし、これで新郎側の参加者がだいぶ稼げたな。
「じゃあ、これを何枚か」
「は、はい」
俺は追加の招待状を何枚か、手渡した。
「いいんですかね……、こんな気軽に参加者を増やして」
モモが隣でため息を吐いている。
まぁまぁ、いいじゃないか。
たくさん人が集まったほうが楽しいだろうし。
「じゃあ、行くか。モモ」
「はいはい、マコト様」
「ありがとうございました、白の大賢者様。水の国の英雄様」
ぺこりと天翼族の族長さんに頭を下げられた。
「精霊さん、精霊さん」
俺は時の精霊に声かける。
ぱっと精霊たちがこっちへ振り向いた。
空中に金色の魔法陣が浮かぶ。
うまく 空間転移(テレポート) が発動してくれた。
「ありがとうございましたー!」
族長さんに手を振られながら、俺とモモは光の中に包まれた。
◇
「おっと」
「わわっ」
俺とモモが跳んだ先は、見知らぬ場所……ではなかった。
「あれ? ここは……」
「マコト様、魔大陸じゃないですよね? ここ」
モモの言う通りだった。
そこは大きな広間だった。
多くの人がこっちを見ている。
その後の対応は早かった。
「何者だ!」
「捕らえろ!」
「こいつら空間転移で城内へ侵入だと!」
「月の王城に不法侵入とはよい度胸だ!」
「逃がすな!!」
あっと間に取り囲まれた。
「何やってるんですかー? マコト様」
「うーん、白竜さんを思い浮かべて空間転移したんだけどなー」
「そのお願い形式止めましょうよ……。ちゃんと座標指定してください」
「いや! 俺は運命の女神様に教わった空間転移を極めてみせる!」
「面倒なこだわりですねー」
俺とモモは焦らず雑談をしていた。
なんせ、この場所は知り合いが大勢いる。
「おい、無駄口をたたくな!」
「待て……この人の顔よくみると……」
「あれ? 水の国のマコト様では?」
「隣にいるのは……大賢者様に似てるな」
「だが黒髪だぞ」
「じゃあ、違うかー」
あってますよ。
どうやら俺たちの顔を知っている人もちらほら現れた。
さて、誰を呼んできてもらおうかと思っていると。
「どうかしたの? 騒がしいわね」
ざわついていた広間が、……シンと静まる。
美しく響く彼女の声には、魅了の魔法がかかっている。
その声を聞くだけで、人々は従ってしまう。
(呼びに行く手間が省けたな)
「あら? 私の騎士?」
「お邪魔してるよ、姫」
俺たちをきょとんとした顔で見下ろしているのは、月の国の女王、フリアエさんだった。