軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

185話 高月マコトは、堪能する

目の前には顔を真っ赤にして、こちらを見つめるさーさんが居る。

中学一年の時、突然話しかけられて以来の友人。

俺の部屋で一緒にゲームをすることは多かったが、前の世界では二人っきりでも『そーいう』雰囲気になったことは無かった。

こっちの世界で再会して、色々あったが『一線』は超えていない。

主に俺がヘタレていたからだけど。

「高月くん……」

俺の身体に、さーさんの慎ましやかな胸がぴったりとくっつけられている。

さーさんの早鐘のような鼓動がこっちに伝わる。

きっと俺も似たような状況だろう。

「さーさん……」

ゴクリ、と喉が鳴った。

ここで手を出さないのは、漢じゃない。

何より、自身の気持ちも身体も高ぶっている。

俺はゆっくりと、さーさんの服のボタンに手を伸ばしそれを一つづつ外して……徐々に白い肌が露わになり……。

「修業中のところ失礼します! 勇者マコト様! オルト団長から一万の魔物を無力化する大魔法を使われたあとなので、本日はお休みいただくようご伝言をうけ……た……ま……えっ?」

「「え?」」

突然現れた乱入者に、俺とさーさんが振り向く。

オルト団長の部下らしき騎士さんが、ポカンとして立っていた。

その視線は、俺のはだけた服とさーさんの顔を見比べている。

俺の手は、さーさんの服の上から3番目のボタンにかかり、止まっている。

「「「……」」」

氷で作った家の中に、極寒の静寂が訪れた。

「し、失礼いたしました!」

オルトさんの伝言を持ってきた騎士さんは、もの凄いスピードで回れ右をすると走り去っていった。

「「……」」

そして、無言の二人が取り残される。

「……ねぇ、高月くん」

「……なに? さーさん」

「……この場所って、太陽の騎士団の人たちは知ってるの?」

「……勇者は常に準待機ってことだから、オルトさんには修行場所を伝えてあるよ」

「……そっか」

「……うん」

「……」

「……」

俺とさーさんは、しばらく無言で見つめ合った。

「か、帰ろっか」

俺が切り出すと。

「……うん」

さーさんはこくん、と頷いた。

俺とさーさんは手を繋ぎ、とぼとぼとテントまで帰った。

――テントに戻って布団に入ったはずが、気が付いたら広い空間に立っていた。

どうやら呼ばれたらしい。

「こんにちは、女神様」

「あらあら、据膳を食べ損ねたマコトじゃない」

「マコくんー、ソフィアちゃんが寂しがってるから構ってあげてよー」

目の前に居るのは、ニヤニヤしたノア様と困った顔のエイル様である。

が、いつもと様子が違った。

「……お二人は何をしてるんですか?」

俺の目の前には、コタツに入って鍋を囲むお二人の姿があった。

「見ればわかるでしょ? 鍋よ。マコトも突っ立ってないで、こっちに来て一緒に食べなさい」

「年末って色々食べ物が送られてくるんだけど、一人じゃ処理できなくってねー。良い鴨が手に入ったから、ノアに手伝ってもらってるの」

「今って年末じゃないですよ?」

「えっとね、神界の話だから。マコトの世界とは別ね」

「はぁ……」

神界にも年末があるらしい。

俺はピンとこないながらも、鍋から漂う美味しそうな匂いにつられ、いそいそとコタツに足を突っ込んだ。

ぐつぐつと音を立てる鍋の中を覗き込む。

白菜、春菊、人参、豆腐、シイタケや舞茸、水菜が醤油ベースのスープの中で踊っている。

鍋の隣には、艶やかな赤色の鴨肉が並んでいた。

「ほらマコくんのお箸はこれね。鴨肉は長く熱を通すと固くなっちゃうから、食べる直前にさっと熱を通すのよ。鴨肉だけでも美味しいけど、野菜と一緒に食べるのがおススメね」

エイル様が細かくレクチャーしてくれる。

水の女神様は、鍋のルールに厳格らしい。

「別にいいじゃない、鍋くらい好きに食べれば」

一方ノア様は、いつものように適当だ。

性格がでるなぁ。

「じゃあ、いただきますね」

一応、エイル様の言う通りに一枚だけ鴨肉をつかみ熱々のスープを潜らせた。

肉に火が通ったくらいで水菜を肉で巻き、口の中に放り込む。

(なっ!?)

口の中で肉汁が弾け、極上の味が広がる。

目の前を星が弾け、景色が虹色になった。

口の中に幸せが広がり、頭がぼんやりしてくる。

な、何だこれ!?

こ、こんなん食べたこと無いんだけど!?

「あら、マコトがそんな驚くなんて珍しいわね」

「一応、神界の黄金鴨の一級品だもの。キャッチコピーは『一口で昇天』ですって」

「……それ、人間が食べても大丈夫なの? エイル」

「マコくんなら大丈夫じゃない? マコくん、念のため『明鏡止水』しておいてね」

「……食べる前に言ってくださいよ、エイル様」

本当に天国に連れて行かれるかと思った。

今も俺の服を天使が引っ張ってるのが見えるんだけど。

その後、女神様お二人と鍋をつつくという不思議な光景が続いた。

「ところで今日は何の御用だったんですか?」

エイル様が、鍋の〆を作っているのを見ながら俺は質問した。

まさか、鍋の相手を呼んだわけではあるまい。

「んー、何だっけ? エイルが話があるって言ってたわよ」

ノア様は、ご飯の途中なのにバニラアイスをパクパク食べている。

「デザートは最後では?」と聞くと「私は食べたい時に食べる派なの!」だそうだ。

自由な女神様だ。

「そうよ! 大事な話があったの。 運命の女神(イラ) ちゃんのことなんだけどね!」

エイル様は大事な話という割りには、作業の手は止めない。

鍋の中には別で茹でられた蕎麦が、放り込まれていく。

蕎麦?

「ねぇ、エイル。鍋の〆って普通は雑炊じゃないの?」

「ちっちっち、わかってないわね。鴨鍋の〆は蕎麦が一番なのよ」

「へぇー、そうなんですね」

エイル様の説明に、俺とノア様は興味深そうに鍋を覗き込んだ。

鴨肉から出た出汁と醤油スープが混じって、美味しそうな匂いが漂ってくる。

その間に、各自の器に蕎麦が取り分けられ、その上に鮮やかな緑色の葱とキラキラ光る七味がパラパラと振りかけられる。

「はい、どうぞ」

「いただきます、エイル様」

「美味っ! これ美味しいじゃない、エイル」

俺は器の前で手を合わせ、ノア様はさっそく蕎麦を啜っている。

三人で至福の鴨蕎麦を楽しんだ。

はぁー、落ち着くなぁ。

(ん? 何かを忘れているような)

確かエイル様の話が途中だったような……。

「そうよ、 運命の女神(イラ) ちゃんが地上に降臨しっぱなしの件よ!」

「イラ様に話を聞けたんですか?」

俺もその話は聞き逃せないと、姿勢を正した。

「で、 運命の女神(イラ) は何でずっと巫女の中に居るのよ」

ノア様が話の続きを促す。

「それがね、千年前の地上の暗黒期を 運命の女神(イラ) ちゃんが防げなかったことをずっと悔やんでたみたい。だから、今度は未来を読み間違えないように地上から『未来視』してるんだって。確かに天界からだと細かい未来は視えないのよねー」

エイル様は、食べ終わった食器を片付けている。

「手伝いますよ、エイル様」

「いいから、いいから。マコくんは座ってていいよー」

いいんだろうか? 女神様に片付けさせて……。

というか、ここはノア様の部屋なのでノア様がやるべきでは?

信仰する女神様を見ると、二個目のアイスを食べていた。

「何よ?」

「いえ……」

楽しそうなのでそっとしておこう。

「でもねー、地上から未来をみると大局を見逃す可能性があるんだけど……」

「つーか、いいのかしらね。神界規定的にグレーじゃないの?」

エイル様の心配そうな声に、ノア様がつっこむ。

会話の中にたびたび登場する神界規定。

ざっくり言うと『神族は地上の民に直接干渉しちゃダメよ』と言うことらしい。

運命の女神(イラ) 様がやっていることは、割と危ない橋のようだ。

「できれば俺や姫にもう少し優しくしてほしいんですけどね」

運命の女神(イラ) 様が降臨している巫女エステルが、俺や姫には言葉がキツイ。

その言葉に、エイル様が反応した。

「大丈夫よ。マコくんたちに優しくするようイラちゃんに言っておいたから!」

ぐっ! と親指を立ててウインクするエイル様。

「ありがとうございます」

俺は頭を下げて御礼を言った。

確かに前回の会議では、全く絡まれなかった。

そっか、エイル様のおかげだったのか。

その時、むむむ……とノア様が難しい顔をしているのが目に入った。

「どうしました? ノア様」

「なんか、エイルがポイント稼いでない? マコトは改宗しちゃだめよ?」

「いくらなんでも、それくらいじゃ変えないでしょ」

エイル様が呆れたように言った。

が、ノア様は心配だったらしくこっちに近づいて来た。

「ほら、マコト。このアイスあげるわ、食べていいわよ」

「嫌ですよ、ノア様の食べかけじゃないですか」

ノア様がさっきまでパクパク食べていたアイスを、こっちに寄こしてきた。

「はぁー? 私が口にしたものを食べられないって言うの!? 生意気な信者ね。ほら、いいから食べなさい」

「ちょっと、無理やり口に押し込んでこな……むぐっ」

さっきまでノア様が使っていたスプーンで、食べかけのアイスを掬って俺の口にねじ込まれた。

口の中に冷たく甘い味が広がる。

確かに美味しい。

「ほらっ!美味しいでしょ!?」

「できれば食べかけじゃなくて、新品が良かったんですけどね」

「なんですって! もう一回食べなさい!」

「嫌ですよ!」

「あんたら、仲良いわねぇ」

俺とノア様がじゃれあっていると、エイル様に笑われた。

その時、ふっと景色がぼやけてきた。

タイムアップらしい。

「それでは、ノア様、エイル様。お話と鍋、ありがとうございました」

「じゃーねー、マコくん。戦争頑張ってね☆」

「マコト、油断しちゃダメよ」

二柱の女神様からの言葉に、俺は頷いた。

まだ、戦争は始まってすらいない。

気を引き締めないと、と思いながら意識が途絶えた。

目を覚ますと、朝だった。

何やら騒がしい。

――『聞き耳』スキル……

「アヤ! 吐きなさい! 昨夜はマコトと何をしたの!?」

「やだなぁ、るーちゃん。何にもしてないよー☆」

(げっ)

俺の話題だった。

「うそね、アヤからマコトの匂いがするわ。それに、アヤの服についてる髪の毛はマコトのでしょ。ネタは上がってるのよ!」

「はわわわわ」

ルーシーの論理的な詰めに、さーさんが押されている。

これは出ていくべきか、出て行かざるべきか……。

(よし、二度寝をしよう)

俺は決意した。

「あら、マコトが起きてるわね」

「高月くん、起きたね」

なんで、わかるの!?

テント内に仕切りがあるのに!

くそ、仕方ない。 かくなる上は……。

「あ、私の騎士が逃げ出そうとしてるわよ。未来が視えたわ。捕まえましょう」

「姫!?」

貴重な未来視を変なところで使わんといて!

……その後、とっ捕まって全部喋らされました。